『未来いそっぷ』

1982（昭和57）／8／　　星新一

この本は、昭和46（1971）年４月に発行された本の文庫版となります。

「いそっぷ村の繁栄」

秋の終わりのある日、アリたちが冬ごもりの準備をしているとらそこへバイオリンをかかえたキリギリスがやってきて――

北風と太陽が議論した。それぞれ、おれほうが強力だとの主張を――

あるキツネ、退屈しのぎにひとつのアイデアを思いつき、つるを招待した――

――と一般的なイソップ物語と同じ様に始まる、星新一版イソップ物語。

合わせて７編。

うん、星先生らしいな……と感じさせてくれる。

“いそっぷ”とカタカナじゃなくてひらがなで表記しているところに、あくまでもコレは星新一版です。というこだわりを感じる（勝手な個人解釈）

「シンデレラ王女の幸福な人生」

シンデレラは最後に、大団円。ハッピーエンドを迎え王子様と結婚し……しばらくのあいだは幸福だった。

しかし、しばらくすると色々と問題が出てくる――成り上がりの女王ということで、民衆からの嫉妬、夫である王様の浮気、息子である王子の結婚相手探し……その他色々、それらをなんとか解決しシンデレラはホッと一息、そして……

妙に覚えてた話。昔話のその先を考えるなんて思いもしなかったので衝撃を受けたんだと思う。『こち亀』でもシンデレラと昔話に言及していた回があってその話も妙に覚えてる。

『かぼちゃの馬車』でも一寸法師のその後の話が載っていて、こっちの方の話とはまた違った感じで比較してみるとおもしろいかも。（「ご要望」）

「余暇の芸術」

社会は技術革新がめざましく進み、労働時間が短縮し、週に３日が休日な上、会社勤めも午前中で終わる……そんな時代。

人々は多すぎる余暇を持て余し、絵を描く、映像を撮る…等々、芸術の方へと向けていた。そんな中、エス氏は取引先の人が開催した、絵画の個展へと向かう……

殆どの会社員が羨ましがるような話。

確かに技術革新が進んだけど、労働時間が短くなるなんてことはなく人員削減されてるよ！

コロナ禍によって、世間一般では自宅待機でゲームが売れた、部屋を片付けした……等々の話をテレビやSNSで結構聞いたな……と思い出した。

あと最近話題の『なぜ働いているとホンが読めなくなるのか』もコレに関連してるよね？

芸術の方に向かうなんて凄い人たちだな……と、いうよりは趣味が特になかったおっさんたちがそば打ちにハマる……と同じように、やることが無いのでとりあえず当たり障りのない芸術の方に手を出してみる……というのを感じる。

私も昔、会社を辞めて時間があった時、約半年間……だっけ？色々とやろうと心の中で計画はしていたけど、結局ゲームでほぼ時間を溶かしてしまったのよね……なんてあったことを思い出してしまった。

「おカバさま」

社会の運営をコンピューターに任せる時代となって、様々な問題と混乱がおさまった世の中……コンピューターが〈カバを大切にせよ――〉とう言う指示を出す。これにより、人々ははカバを大切にし、カバが堂々と歩き回っていても邪魔をしてはいけない……むしろ怪我をさせたら逮捕されてしまう……等々。さらにカバと呼び捨てしてはいけない…“おカバさま”と呼ばなければならない。人はビクビクしながら毎日を過ごし……これはおかしいんじゃないか？そんなことをみなが思い始めた頃―――

生類憐れみの令のカバ版……と私が思うまでもなく作中でちゃんと突っ込んでいる、さすが。

しかし、絵本とかで見るイメージと全く違って、動物ファンの間では陸上生物最強と言われているらしい、カバによる事故で死者も毎年出ている……そんな、カバが大量に我が物顔で歩いていると考えているとゾッとする。

オチは、詐欺師がよくやる常套手段だな……と思いました。

ちょっと違うけど、昨日起こったWindowsによる世界規模の障害により、銀行、電車、空港……その他色々と使えなくなっていることに……関係ある人は大変だったろうけど「星新一の世界みたいだ」と思ってしまった。

人為的な攻撃とかでなく、パソコンによるシステム障害というのが余計。

普段あまり気にしてないけど、コンピューターにほぼ全てを任せている社会になってるんだなーと改めて実感しました。

こうなると本当に一般人はどうしようもなくなるな。

「利口なオウム」

ある日、来客を告げるブザーが鳴り。ドアをあけるとあまり利口そうには見えない顔をしたセールスマンが立っていた。

そして、男の肩にはオウムがとまっていた。

男は全くしゃべる様子はなく、代わりにオウムが、しゃべりだす、

「ワタシハ、リコウナオウムデス、オカイドクデスヨ……」

どうやらそのオウムが商品のようで―――

タイトルと挿絵を見て……肩に載せたオウムロボが人のぞんざいな言葉を丁寧な言葉で話す話かな？……と思ったけど違った。

たしかそんな話が星新一作品であった。

似たような感じで（肩に載ったオウムが色々としゃべる）全く違う話になってました。

ところで海賊といいなんでオウムを肩に載せてるん？素敵な肩幅を持たない限り邪魔じゃない？

「いい上司」

あこがれていた会社に入社することができた。

配属された部門は、上司もよさそうな人で、同僚も同じく活気があふれてる……いや、この部門だけでなく会社全体がそうだった。

何日かたった時、係長に飲みに連れて行かれ、その帰りガラの悪い男にからまれた係長をかばって男を殴ると……男は倒れ、息をしていないようで―――

これはあれだな、最近良く聞く……というか、昔からよくある、定期的にニュースになる企業の不正…商品の情報改竄のニュースって言っちゃえばこの話みたいなものだよね……っていうのは最後のまとめみたいなところで言及しているけど。

「やさしい人柄」

刑務所があった。普通の刑務所とは少しだけ違っていて、ここには死刑囚の官房が付属していた……つまり、普通の囚人とともに、死刑が確定した囚人もここに送られてくるのだ。

そのため、ここの所長は死刑囚に対し残された日々を心のこもった世話をしていた、偽善ではない……本当に所長はいい人で、その人柄はみなから慕われていた。

ある時、一人の死刑執行の命令書が届き所長は辛い気持ちでそれを告げる。

死刑囚は震えながら所長のに別れの言葉を告げ……

「あなたとお別れしたくない。またお会いしたい――」

死刑囚は悲しげな表情でかすかに笑う。そして―――

よく見る転生モノ……より恐ろしい話。

そっちはダメだった人生をよりよく生きるためが多いけど、こっちは死ぬためだもんな。

サイコパス診断でよく見るような話……

「夫の葬儀中、そこに来た夫の同僚に一目ぼれをした未亡人。その夜に息子を殺害した。その理由とは？」……みたいな？

しかし……２人で終わったか、記憶では後１、２人続いたような気がしたけど、思ってたより短かった。

私なら「いやいや、んなわけ……気のせいかもしれないし……」と、あと一人ぐらい様子みそうなのに、即時に決断実行するとはさすは所長。もうこういった犠牲者を出さないためにという、まさにタイトル通りのお人。

「オフィスの妖精」

会社の机の上には万能事務装置が乗っている。男がスイッチが入ると、

「あなたとお会い出来て嬉しいわ。――」

魅惑的な声で向かえ、コーヒーを出してくれる上、電話に出たり、コピーをとったり、アドバイスをしたりと…仕事の手伝いをしてくれる。

それだけではなく男が喜ぶ言葉をしゃべり、装置に触れるとプラスチックのはずなのに柔らかく弾力があり、ほのかにあたたかい……

なぜこのような装置が導入されるようになったのかというと――

え…AI彼女？？

星新一の描く未来は、ちょっと古臭いけど羨ましいかぎりのです！……となることが多いよな。特に会社関連のさっきの「余暇の芸術」とか、『ひとにぎりの未来ひとにぎりの未来』に収録されている「遠距離通勤時代」とか……なんでそっちに行ってくれなかったんだ！と羨ましいと思ってしまう。

現実の世の中だと仕事なのに余計な機能は付けるな。効率重視…と言われて終わりそう。

やってることは、事務処理に特化した「ヘイ！Siri！」なんだけどね。

「健康な犬」

エヌ氏が気持ちよく寝ていると、朝早くから犬が吠え散歩をせがむ。

エヌ氏が無視してそのまま眠ろうとすれば、犬は吠え続けエヌ氏の上にあがって、顔をなめたりとび跳ねたりするので、眠ってなどいられず散歩へと出かける。

エヌ氏は会社の帰り、にペット店に――

最近よく聞く、アルツハイマーの予防に犬を飼うと効果的……という話を思い出した。

こっちの話は訓練されたワンコだけど……でも、いい子だろうと犬一匹世話するだけでも大変だからね。散歩とか……

でも、可愛いから言うこと聞いちゃう。

のせられてまた購入するエヌ氏はいいカモ……いい客だよな。

「ある夜の物語」

クリスマス・イブ。

1人の青年がせまい部屋のなかにいた。友人もいなく、恋人もいないので、イブを1人で過ごしていた。

青年はハッとして顔をあげると、そばにサンタクロースが立ってた。

彼は年に一度奇跡を…誰かの望みを叶えるためにやってきたのだという。

「その幸運な一回に、ことしはぼくが選ばれたというわけですか」

青年のあたまのなかに、さまざまな望みがあらわれ消えていく……美しい恋人か、会社の昇進か、それとも……

「ぼくがいま、なぜこんな気まぐれを思いついたのかわかない―――

キレイな話。

星新一版『賢者の贈り物』と言っていい。

星新一といえば、毒がある内容。オチが全滅エンドは当たり前……なんだけど、たまにこんなキレイないい話があってもいいよね。

系統的には「鍵」と同じかな？あれもキレイな話。

「不在の日」

ある穏やかな午後の日ざしがさしこんでくる部屋の中、男がひとり、椅子にかけていた。

ノックの音がしたり、電話がなったりするたび男は緊張しながら出るが、とくになにも起こらず平穏な午後が過ぎていく。

なにも起こらないことに「おかしい？」と男は思いはじめる――実は、男は小説の中の登場人物だったのだ。それなのに事件がなにも怒らないことに疑問を持つ、

「部屋のなかにじっとしていては、だめなのかもしれないな」

男は建物の外に出る――

はたして、男に待ち受けているのは、殺人事件か、記憶喪失か、それとも宇宙人か―――

タイトルで作者は大体こんな感じなんだろうなーーというのはわかる！……わかるがぐだぐだと長い上になんのとりとめもなく進んでいく……星新一作品でこんなこと思うことあるんだ！とびっくりするぐらい読むのがキツかった作品。

たまにあったりする、キャラによる楽屋裏話みたいなもの……と考えるとなんとなくわかる。アレも読んでてキツかったり、はずかしくなったりする時がある。特に思い入れのないキャラだし……なんの話かもわからないので余計？

ページをめくりながら頼む！早よ終わってくれ！と思ってた。

それでもって終わり方も消化不良……

星先生が不在ですか？

「奇病」

医者はやってきた患者を診察して、新しく発生した病気で、まだ治療法がみつかっていないことを告げると、患者は、

「うふふ」

「不在の日」の直後の作品で、２ページで終わったのでホッとしてしまった作品。ようわからなくても、２ページならまぁ……全てがベスト作なんて無理だろうからね……

ダールだって本当に面白いのは４つ……って星新一先生も言ってたし。……で済ませられる。

「ふしぎなネコ」

深夜の、ビルの地下室で盗賊団が集い悪事の相談をしていた。

その時、ドアの外で声がした。

……だが、ドアの外にいたのは猫一匹だけで……

「みなさん、大勢お集まりのようですのね」

さっきと同じ声。その声のした方角を見ると、そこにいたのは……いまのネコで―――

うまくハマった話。（二重の意味で）

「たそがれ」

男は目が覚めると、いつもとようすのちがっていることを感じた。

まず、自分のベットのやわらかさが、なくなっているようだった。そして、灯りをつけるとうすぐらい光、テレビの画面も出たのか出ないかのような画面。

しかし、それは男の周りだけではなく、世界中で……物だけでなく、動物や植物も疲れたよつにぐったりしていて、元気なのは人間だけなようで―――

ラストの続きを想像すると、とても恐ろしい……ベット、机……と続いたら、次はビルで、最終的には地きゅ……

存在することに疲れたということは、自殺？

ショートショートで良かった。

「おーい、ででこーい」と同じで、先を考えると不穏しかない。

いよっ！これぞ星新一！！と言いたくなる。大好き系統の話。

１、いそっぷ村の繁栄

　　　アリとキリギリス

　　　北風と太陽

　　　キツネとツル

　　　ウサギとカメ

　　　オオカミがきた

　　　ライオンとネズミ

２、シンデレラ王妃と幸福な人生

３、表と裏

４、頭の大きなロボット

５、底なしの沼

６、ある商品

７、無罪の薬

８、新しがりや

９、余暇の芸術

10、おカバさま

11、利口なオウム

12、新しい症状

13、いい上役

14、電話連絡

15、やさしい人柄

16、つなわたり

17、オフィスの妖精

18、健康な犬

19、熱中

20、別れの夢

21、少年と両親

22、ねらった金庫

23、価値検査器

24、企業の聖人

25、夢の時代

26、ある夜の物語

27、旅行の準備

28、どっちにしても

29、不在の日

30、奇病

31、ふしぎなネコ

32、やはり

33、たそがれ

『未来いそつぷ』