14.試合の価値を高める必要がある | プロ野球の視聴率を語るblog

14.試合の価値を高める必要がある

プレーオフ/チャンピオンシップが邪道であると主張してきました。今回はその背景にある思想について説明します。



まず、リーグ戦の正しい姿とは何でしょうか。いくつかのチームの中での最強を決めるために「公平な条件で一定数試合をして、一番多く勝った者が優勝」という制度をとったのがリーグ戦の本来の姿です。短期決戦では測れない、真のチームの実力を競うための制度なのです。


サッカーの世界でもリーグ戦とトーナメントによるカップ戦とがありますが、『チャンピオン』はあくまでリーグ優勝に与えられる称号であり、カップ戦の優勝はカップ『ウィナー』と呼ばれます(後藤健生の本あたりを参考にしています)。ちなみに欧州サッカーは最近、チャンピオンズリーグ(という名のトーナメント)が重視されすぎて歪んできています。



そこで、真の最強チームを決めるのにプレーオフが適当であるのか、という疑問が出てくるわけです。短期決戦で勝った方が一番、と言われても、クイズ番組で「最後の問題は得点が3倍!」みたいで…。ちょっと違うかな、と思ってしまいます。そういった疑問を持ってしまうと、普段のリーグ戦や『優勝』の価値が下がってしまいます。




次に、リーグシステムのわかりやすさ、という問題もあります。野球に興味のない人にとっては、プレーオフ制度はわかりにくいです。しかも今後はただでさえテレビでの露出が減り、一般にルールが浸透しにくくなるでしょうから、出来るだけシンプルな『一番多く勝ったところが優勝』といった制度を取らなければ世間の関心を得にくくなってしまうでしょう。(すでに僕も、プレーオフ制度の詳細を知るために検索を必要としていたりして…)




通常のリーグ戦を犠牲にしても、プレーオフで盛り上がれるんだからいいじゃないか…と言われるかも知れませんが、ちょっと試合数を考えてみてください。


プレーオフはたったの8試合。この局地的な盛り上がりのために、普段のリーグ戦何百試合の価値を下げてしまってよいのでしょうか?業界全体の利益を考えた時、普段の何百試合の方にちょっとずつお客さんが増えることの方が大事でしょう。


プレーオフを完全否定するわけではありません。前回も述べたように去年の日本ハムや発足初期のJリーグにとっては、リーグを代表するイベントを組むことによって広く認知度を得ることが出来たと思います。しかしあくまでそれは『劇薬』、通常のリーグ戦を犠牲にした『先行投資』なのです。特に現在は、地上波テレビを使ったビジネスモデルが成立しにくくなっていることもありますし、プレーオフで得た関心を通常の試合の集客につなげていけなければ先行きが苦しくなってしまうことでしょう。


世間の関心の『瞬間値』ではなくて、一年間を通した興味の『積分値』を高めなければ、この世界の発展はありません。運営側はそういった哲学に基づいてリーグの舵取りをする必要があるでしょう。(偶然かもしれませんが、Jリーグはその辺非常にうまくいったと思います。浦和レッズが2ndステージ優勝したことでチャンピオンシップ制度が役割を終えた・・・偶然ですが)




日本シリーズについてはちょっと微妙です。セリーグ、パリーグに大きな格差がなければ、それぞれのリーグチャンピオンを決め、お祭り的な日本シリーズ、というのもいいのかもしれません。しかし現実にはいびつな収益構造の格差がありますし、「交流戦面白いなあ」と言っている人がいるように、わざわざ2リーグに分ける必要はないのかもしれません。ファンは松坂vs松井の対決を見たかったかもしれませんし、例えばオリックスのファンが、年間順位で巨人とオリックスのどちらが上に行くか…ということに興味を持つのも自然なことだと思います。それを「日本シリーズまでおあずけ」というのでは、ファンの需要に応えられていない、機会損失ということになります。



ところで、昨年の近鉄・オリックス合併騒動の時に

「野球ファンは2リーグの維持を望んでいる、1リーグ反対!」

的な論調が多く見られました。チーム数の削減に反対するのは(実現性はともかく)理解できますが、そこから「2リーグ維持」につながるのが、最初は理解できませんでした。近鉄球団の存続を望むなら、1リーグにして巨人戦の放映権料にすがるのが最も現実的(それでも無理だろうけど)ではないか、なぜに2リーグ維持という意見が多いのか…。



この主張の裏に、「野球ファン」の正体があるのではないかと思います。