まさに「生理だろ!?」の言葉が相応しかった。
僕には彼女の怒っている理由が全く分からなかった。
そう、怒られる理由など全くない。
むしろ今日の僕程彼女に献身的な人間なんて世界中探してもいやしない。

地方で生まれ育った僕には、女性の為に弁当を作っていく事なんて考えられない事だった。

「男は台所に入るな」なんて言われて育った訳ではないが、台所に立つ事なんて家を出るまで一度もなかった。
そんな僕が、大学に入り、生活の為にやり始めた居酒屋のバイトで料理を憶え、弁当の一つ作る事など、なんの苦労も厭わない物事の一つになっていた。

それでも、二人きりの花見の弁当を僕が作るなんて考えもしなかった。

「お弁当作ってきてくれるんでしょ?
愛情が一杯詰まったやつ」と彼女に尋ねたら。

「え~嫌だ・・・
コンビニの弁当詰めてきちゃいそうだもん。」
「そうだ渡邊君、料理上手じゃない!?、お弁当作ってきてよ。」
「私ね唐揚げと、卵焼きと、後イチゴが食べたい!!作ってきてくれたら、
お口にア~ンしてあげるよ」

あ~もう駄目だ、彼女の願いを断る術など僕はなにも知らない、抵抗する術などなにもないのだ。

彼女のあの肩をすくめて微笑む笑顔に昔の小さな価値観など、ことごとく壊されていく。

もう僕は彼女に夢中だった。

なのに、この仕打ち。

まさに生理だ。
それしか考えられない。

約束の口に「ア~ン」すら忘れていやがる。

ああ、それでも彼女に夢中だ。



木枯らしが吹き始めた頃、
彼女はマフラーをギュッと首に巻きつけ、「私 冬の女になりたいの」と言い始めた。

僕は意味も分からず「えっ」っと聞き返すと、「だって!」っと一人勝手に話し始める。
いつもだ、ちっともこっちの話しなんて聞いちゃいやしない。
そして、こういう時は必ず話した事さえ憶えていない。
何日かして、あの時あんな事言ってたよね?と言うと、
「何それ?どの女と間違えてるの?いやね~」

もう決まり文句だった。

「だってね、冬の女って凄くか弱そうじゃない、それにそんなんじゃ抱きしめて温めてあげたくなるでしょ。ギュッて」

彼女の何気ない一言に僕は戸惑った。
なんの意味もない一言なのに、僕は彼女の言葉のとおりギュッと抱きしめたくなったし、抱きしめていいものだとさえ思った。

でも、できやしなかった。
ただ臆病だったから。
どうしていいかも分からなかったから。

「でもね、ギュッって抱きしめたら、雪のように溶けてどっかいちゃうの」

それでも抱きしめるべきだったのか。
今なら抱きしめられるのか。