昔、このブログのこのテーマ枠で、ニューシネマ元年(日本でいう映倫に相当するヘイズ・コード撤廃の年)の1967年からタランティーノ監督デビューの1992年までの25年のアメリカ映画を「From American New Cinema Until Tarantino's debut」の頭文字を取ってFANCUT(ファンカット。淀川さんや小森のオバちゃまみたいな熱狂的な映画愛好者つまりファンとは一線を画するクールな観客のための映画、というようなニュアンスを重ねたはず。なぜSinceじゃなくてFromなのかも説明した気がする)などと総称したことがあった が、同じことを表すための、もっと良い名前を思いついた。
その25年はほぼ冷戦後期の四半世紀だから、メルトウォーター(meltwatar 雪解け水)をもじってメルトクォーター(meltーquarter)というのはどうか。冷戦終焉は1990年とされることも多いがソ連という国が正式に終わったのは1991年だし、1990年以後の2年はまあ余韻みたいなものと考えようw。1968年革命と呼ばれるムーヴメントの有効期限も大体この区切りと同じだろう(最初の一年を除けば、柄谷行人と中上健次の出会いと別れの時期とも重なる。柄谷は、中上の死んだ1992年を、小説中心主義的な近代文学の終わりと見なした。ついでに言うと、ダリウス・ジェームズが『ニグロフォビア』を発表したのも1992年)。「ファンカット」とやらよりこっちのほうが世相との連動を見出しやすい、つまり社会性があるネーミングだろう。
実際、最後の年1992年に公開された『ラブ・フィールド』(ミシェル・ファイファー主演、ジョナサン・カプラン監督、ドン・ルース脚本)には、ボーダレスなどと言われた時代ならではの表現がごく自然に出てくる。東西だけではなく様々なボーダー(境界)が溶解したような気分があの頃あった。アメリカ国内には人種ボーダーの問題があり、1970年代製作の映画だったら、いや1980年代製作であっても、この手の映画のラストは白人女性と黒人男性の別れのシーンで終わっていたと思う(ケネディ暗殺があった1960年代を描いた作品だから)。ところがここでは白人女性は戻ってくる。これは、まさに「雪解けの四半世紀」の最後を飾るエンディングでもある。あのラストシーンは、あそこだけ時間の設定がどこかに飛んでしまって、ファイファーが冷戦終焉の吉報をカー・ラジオで聴いて戻ってきた、という風にも見えるのだ。
このブログは文芸を話題の中心に置いたブログだというのが当初(12年前。とうとう干支が一周した!)から目指していた方向性だったので、映画の話題を連発するのは抑えてきたつもりだったが、ここ数年はそのコダワリも消えてきた。でも、テーマ別の記事数を見ても「レーゼシナリオ>映画」になってるだろうし、他の文芸テーマも合わせて2ちゃんねる(今は5ちゃんねるか?)風に言えば「文芸>>>映画」程度か。「(超えられない壁)」とまでは全く言えないがw。
上記の理由から「好きな映画ベストテン」というようなアリガチな話題も控えてきたが、ここらで解禁しよう。オザケンとスチャダラパーのブギーバック風に言えば、「心のベストテンはこんな映画たちだ・・・」。前世紀末頃からそれは不動不変であり、それらの映画の公開年はここで定義した「メルトクォーター」に密集している。それも特に後期(1979~1992)にだ。次点の『ファントム・オブ・パラダイス』以外は全部その域内だ。
一位 モダーンズ (1988)
二位 ブロードキャスト・ニュース (1987)
三位 キング・オブ・コメディ (1983)
四位 ブルースが聞こえる (1988)
五位 ラブ・フィールド (1992)
六位 ヘザース (1989)
七位 クライム・オブ・パッション (1984)
八位 アルタード・ステーツ (1980。1979とする説あり)
九位 ホテル・ニューハンプシャー (1984)
十位 ガープの世界 (1982)
次点 愛と追憶の日々、ファントム・オブ・パラダイス
このベストテンはその後映画を観るときのモノサシになってきた。実は、その後観た作品の中に、この十本を超えた作品もあるのだ。しかし、超えられても、このベストテンは絶対に変動しない。メートル原器が変形しないのと同様に。
超えた映画は、洋画で言えば、つい最近観た『女神の見えざる手』、古風なメロドラマに現代性を吹き込んだ『エデンより彼方に』、ジェフ・ブリッジス出演の『クレイジー・ハート』と『シー・ビスケット』(いずれもアメリカ作品)、邦画だと『愛のむきだし』『桐島、部活やめるってよ』『リンダリンダリンダ』『リアリズムの宿』あたりか。上記の「心のベストテン」が一種の原器となって、これらの映画が1より大きな数字で表される。個々の作品についての具体的な数字は言いません。上記のベストテンの「感銘」の平均値をメルQから取った「melq」という単位にして、『愛のむきだし』は例えば1.7melqという風に数値化するのもよい。1melq以上の作品に今後何本出会えるだろうか。
(追記)https://melq.jp/about.html こんなのあった。こことは無関係。