今から、数十年ほど前に見た夢のお話です。 「夢」と言うと「希望」を連想しますが、お話は眠っている間に勝手に脳が想い描くただ夢のお話です。
治療院を始めた頃、自分の技術が拙かった。 訪れる患者さんは「難治性のひどい症状」ばかりと思える毎日でした。
治らない五十肩、治ってもすぐに痛むヘルニア性腰痛、マッサージも針でも軽癒しない顔面神経痛、安定しない自律神経失調や心臓神経症や婦人科の化膿疾患、治らない慢性の下痢、肝硬変等です。
治療を行う日々苦しみ、その内に私も自律神経を傷つけて神経性胃潰瘍になり、毎日仕事が終わる頃には動悸がします。 そんなある夜、ふしぎな火の夢を見ました。
昔の事です。 種子島の南端に宝満神社という名の霊験あらたかな神社があります。 池は海を砂浜で隔てた周囲が二キロ程の真水を湛えた御神池です。その御神池に罰当たりの私は弟と釣りに行きました。
この池には一メートルを超える鯉が住んでおり「誰にも釣る事が叶わない」と言われていました。そんな御神池の主を釣りに出かけました。七日程通い、小さな鯉を数匹釣りました。やがて五月五日の子供の日がやってまいりました。
その日の朝の事です、我が家の鯉のぼりの吹流しが三つ編みのおさげ髪のようになっていました。私と弟の家だけに、この怪現象はおきました。それから騒ぎになり、神様にお詫びに参りをして、鯉釣りは止めました。
夢のお話はここからです。鯉釣りの後、五年程の月日が過ぎた頃、鍼灸治療院を開院し、日々難しい治療に悩まされていました。
ある晩の夢です、私は宝満神社の社殿の池を挟み対岸に立っています。 朱塗り社殿には小さな灯りが点いています。 その折り、風が吹き、手にしていた灯りすべてが消えてしまいました。 その時私の身体は池の面の上かすめて、滑るように社殿の中に導かれました。
瞬間、鯉釣りの記憶が戻りました。心の底に、すまない気持ちが残っていたからでしょう。何度も何度も、わびな
がら、涙ながら顔を上げますと、静かな笑みを浮かべた巫女装束の女神様が立って居られました。

女神様は社殿の奥の灯明を取り上げて、私の手の上で傾けます。その灯明りは優しくしずくとなり、私の掌の上に
落ちて燃えます。燃える火は熱く無く、ふしぎに胸の中に染込んでくる暖かささです。
そして女神様は「この炎灯りを頼りに」と促されました。手の掌に点いた炎灯りを頼りに真っ暗な参道に出ます
神殿から参道に降りると、足に冷たい砂の感覚を感じ、松風のざわめきがふっと消え、振り返ると社殿に、小さな灯明だけが点いていました。
夢を見た、次の日の事、妙に手の掌が暖かい、あのふしぎな火が、今も手の中で燃えているように感じます。
それから後は難治性の治療で悩む事が少なくなり、 胃の不快な痛みも治まりました。
あの夢に見たふしぎな炎灯りの火が掌、胸の中で燃えているのでしょうか。今でも繰り返し思い出される夢のお話でした。この夢の話は「ふしぎな火の治療」には書けませんでした。前回発刊の本は治療本として真に科学的証明用に書いたものだからです。

でも、本にサインをする時には「自灯明」と添えます