【登場人物】
・俊也…30代。IT企業からUターンした新米農家。
・父…ベテラン農家。「勘と経験」派。
・コシヒカリAI…田んぼ一面に張り巡らされたセンサーとスピーカーの声。
【場面】
近未来の新潟。
俊也が導入した「スマート田んぼシステム」によって、
コシヒカリが“しゃべるようになった”田んぼ。
俊也「父ちゃん、今日からこの田んぼ、全部“話すコシヒカリ”だから」
父「米は“実るほど頭を垂れる”もんで、しゃべりはせんて」
コシヒカリAI「初めまして〜。本日から担当させていただく、コシヒカリです〜」
父「しゃべった!? 丁寧語!?」
俊也「この子が、温度とか水量とか、全部しゃべって教えてくれるんだ」
コシヒカリAI「本日のコンディション、やや日差し強め〜。できれば、“水、あと2センチください”」
父「センチで言うな、センチで」
田んぼに入ろうと、長靴で一歩。
コシヒカリAI「あっ、そこちょっと、土が柔らかいので……
“そぉーっと”お願いします〜」
父「米に足運び注意される時代が来るとはな」
俊也「でも便利でしょ?」
コシヒカリAI「それと俊也さん、昨日スマホ見ながら歩きましたよね?
“ながら田んぼ”は事故のもとです〜」
俊也「見てたの全部バレてる……」
機械で代かきを始める父。
コシヒカリAI「あっあっあっ、ちょっとスピード速めです〜!
“ふわっと混ぜ”でお願いします〜!」
父「ラーメンの注文か!」
俊也「父ちゃん、これが“繊細な味の秘訣”なんだって」
コシヒカリAI「そうそう、“雑”と“ワイルド”は違います〜」
父「説教までしてきおる……」
夕方。作業が終わりかけ。
俊也「どう? 今日の出来は」
コシヒカリAI「本日もお疲れさまでした〜。踏み方、昨日より“優しさレベル+2”です〜。成長を感じます〜」
父「優しさレベルってなんだ……」
コシヒカリAI「ただ、ひとつだけ……」
俊也「なに?」
コシヒカリAI「作業中の鼻歌、“音程レベル−5”です〜。稲としては、もう少しだけ……」
父「歌にまでダメ出しすんな!」
俊也「すみません、ボーカル機能はオフにできません」
帰り際、田んぼを振り返る父。
父「……まあでも、ようしゃべる分、米の顔が見える気もするな」
コシヒカリAI「ありがとうございます〜。
秋には、“ふっくらレベルMAX”目指してがんばります〜」
俊也「じゃあ俺たちも、“優しさレベルMAX”で育てないとな」
父「わしら、人間側のアップデートが一番大変だて」
(夕日に照らされたスマート田んぼには、
今日もどこかから小さな声が響いている)
コシヒカリAI「明日は“長靴の泥、少なめ”でお願いしま〜す」
