「あのひと(父)と会うこと以外なら、なんでも協力するから」
と言い切ったわたし。
でも、そんな宣言をするまでもなく、ことは進み、会わないまま、父はいま、グループホームにいる。
体調を崩したら、病院へ。
しばらく入院して体調が良くなったら、またグループホームヘ戻る。
そういう感じ。
コロナ禍のおかげで、というと語弊があるが、面会なども基本的に“不可”なので、会わずに済んでいる。
さて、父がグループホームヘ入ったので、母は実質、ひとり暮らしとなった。
ちなみに、母まだアタマもカラダもそれなりにしっかりしている。
わたし、母も苦手だったな。
だって、父から守ってくれなかったもん。
父と一緒になって、わたしを拒絶したもん。
という思いが強い。
でも、ま、この際だから、いろいろ話をしてみるのもいいかと、思い切って実家を訪れた。
母とふたり、向かい合って話をする。
父の経過報告から始まったのだけれど、
「もうホント、おとうさんの言葉が辛くて、消えてしまいたくなった」
そう打ち明ける母に、
「あのね、わたし、この家にいるとき、ずっと『消えたい』って思ってたんだよ」
と、わたしがいままで感じてきたことを口にすることができた。
「でも、病気のせいだからね」
「ううん、そうじゃない。わたしにとっては、認知症になる前のあのひとも同じだった。病気になる前から、ずっとそうだった」
母を責めるつもりもなかったし、いまさら言っても仕方のないことと思っていたから、ゆっくり淡々と話しているのに、涙がポロポロこぼれた。
母は、
そうだったのね。
辛い思いをさせてしまったね。
といいつつも、
でもね、わたしにとってはいい旦那さんだったのよ。
束縛もしないし、自由にさせてくれたし。
文句も言われたことないしね。
大きな喧嘩もなかったのよ。
それにほら、おとうさん、背が高くてカッコイイじゃない。
初めて会ったとき、素敵なひとだなあって思ったのよ。
じゃなきゃ結婚なんてしてないわ。
そして、子宝にも恵まれて、わたしは幸せな人生よ。
そう、ぬけぬけと言い放ったのだ。
唖然!!!
え!?
おかあさん、幸せだったの?
あのひとのこと好きだったの?
無理やり結婚されられたんじゃないの?
なんかね、わたしの肩の荷が下りた。
あー、そうですか。
好きだったんですね、っていうか、いまも好きなのね。
そっか、幸せだったんだ。
わたしが心配する必要、なかったんだね。
うん。
よかった。
ま、あのひと(父)には会いたいとも思わないし、会わないけれど。
母とは、ふつうにしゃべれるようになったと思う。