森の中のTOM 1 | ただのゴッホ

森の中のTOM 1



TOMの家は森の中にあった
TOMと家族は 丸太を組み上げた小さくて頑丈な家に住んでいた
家の前に 大きな切り株、
少し離れて 小さな家畜小屋があり
家と小屋の間には 井戸と小さな畑があった
そのほかには とくに何もない

TOMの父は木こりだった
TOMの祖父も木こりだった
祖父は 曾祖父に憧れて木こりになったという

祖父は TOMに 森の知恵を教えてくれた
枝ぶりを見て 木の性格を見分ける方法
疲れない斜面の降りかた
食べてはいけないきのこについて

木の皮を食べて冬を越す 動物と虫たちについて
森羅万象のありがたさと怖さについて



父は 木こりが嫌いだった
だが 祖父と同じ木こりになった

父は TOMに「木こりはつまらない」とよくこぼした
「この森は広い わたしは毎日 木を樵る
 森の外からトラックがやってきて どこかへ木を運んでゆく
 あのトラックは どこへ行くんだ?

 この森は広い わたしがどんなにがんばっても
 森の木をすべて樵り倒して 外の世界を見わたすことはできない」



父もまた 森に精通し
多くのことを TOMに教えた
あらゆる木の性質と その用途
森での危険予測と 回避について

またTOMにはよくわからないことについても話した
「春はどこからやってくるか」
「秋に森が眠りはじめるのはなぜか」
「今日と明日はなにが違うか」


TOMは家の前の切り株で薪を割りながら考えた
「今日と明日 なにがちがうんだろう」
TOMにわかるのは きょうは薪割りの日で
あしたは水を汲みに行く日だということだけだった






byまる