ドット王の関心がシルバレッド王子へ向けられた

 

当然である

 

龍炎はスゥオールに連れて行かれ行方不明ということになっている

 

見ればドッド王が怪訝な顔をしている

 

「なんだドッド王は気が付いていないのか」

 

龍炎は心の中で呟く

 

ドッド王は龍炎やアルフォード第一王子の動きを察知して

 

貴族たちの処刑を急いだのではないのだろうか

 

「近頃アルフォードが不穏な動きをしていたようだが、シルバレッドお前も一枚噛んでいるのか」

 

鋭い眼光を龍炎へ向けた

 

その時聡明な龍炎は密偵候補の生徒がドッド王のスパイではなく

 

ドッド王は独自のルートでアルフォード王子を監視していた可能性を見つけた

 

「事の顛末をお話しする前に一つお伺いしてもよろしいでしょうか」

 

ドッド王はほんの少し考えてから

 

「礼儀知らずなことを、だがお前は身を挺して私を守ろうとしてくれた、それに免じて許そう」

 

「ありがとうございます、王は何故アルフォード兄上を警戒されておられるのですか?」

 

この場にはスゥオールもアルフォード第一王子も居ない

 

スゥオールは当然だがアルフォード第一王子を呼ばないで

 

第三王子であるシルバレッドだけが呼ばれているのは不自然だ

 

第二王子はこの件にノータッチだった

 

恐らく貴族を処刑した王の乱心に乗じて王位を狙う算段をしていたのだろうが

 

今回のハプニングで当てが外れたようだ

 

嘸(さぞ)かし悔しがっている事だろう

 

この世界の、少なくともこの大陸の王族にとっての親子の絆は希薄だ

 

子育てを守役に任せっきりで会うのも年に数度程

 

守役から教育されたとしても人間の感情はそう簡単に動かない

 

物心つく前から徹底的に王族の教育をされるシステムだから

 

親子の情をは育む時間が無い

 

だからこの国の国王は自分の子供ですら信頼していないのだろうか

 

「お前には真実を伝えておこう」

 

意を決した様子でドッド王は龍炎へ向き直って言った

 

「私は席を外しましょうか」

 

セリーアは立ち上がる

 

「セリーア殿詳細はまた後程話し合いましょう」

 

ドッド王も立ち上がったので龍炎も立ち上がり一礼した

 

セリーアは龍炎をちらりと見て微笑を残して立ち去る

 

どうやらシルバレッド王子のことを気に入った様子だ

 

その場に居た貴族たちも護衛兵士も部屋から出た

 

二人きりになりドッド王と対峙する

 

シルバレッド王子にとっては何度かあったことだろうが

 

龍炎にとっては初めて面と向かって話すことになる

 

二人きりになると途端にドッド王は父親の顔になり優しい眼差しを向けて来た

 

「これは一体どういうことだ?」

 

龍炎からみればドッド王は家族には冷淡な人間のように見える

 

元の世界でも会社では部下に慕われ会社からも頼られた人格者のような社員が

 

自宅では家族に冷淡でDVやモラハラ訴訟を起こされる事が多かった

 

人間の心は一面だけで判断するには複雑な構造をしているようだ

 

その時の龍炎は人間の心が欠落していた為そのように分析したのだろう

 

今まさにドッド王の違う側面が見えた気がした

 

「父上何故その眼差しをアルフォード兄上に向けられないのですか?」

 

シルバレッド王子である

 

龍炎は彼の衝動に突き動かされてその言葉を投げかけた

 

「あいつはアルフォードではない、アルフォードを殺して入れ替わった魔人だ」

 

「私にはそんな風に見えません」

 

「公開処刑場に現れた魔人をお前も見たであろう」

 

「はい」

 

「我が国は海に面していてセイレスの森に直接触れない立地をしている、なのに何故魔人が我が国の領地の森に存在しているか不思議に思わないのか」

 

考えてみれば確かにこの国に魔人が居るのは不自然だが

 

それはシルバレッド王子が転生者でありチートのバカでかい魔力保持者だから

 

魔人たちが異物と断定してセイレスの森から降りて来た可能性がある

 

ドッド王はシルバレッド王子が転生者だと気が付いていないのだろうか

 

そこまで考えて龍炎はまた別の可能性にも気が付いた

 

そこでその可能性を確かめるためにドッド王に聞いてみる事にした

 

「魔人は私が生まれる前からこの国の森に居たのですか?」

 

「魔人は私の子供の頃からこの地域の森に居た」

 

こうなればシルバレッド王子を異物として排除するために

 

セイレスの森から降りて来たという説は崩れ去った

 

「でも何故魔人がこの地域へ潜伏する必要があるのでしょうか」

 

「この場所だけが勇者召喚することが出来る門になっているからだ」

 

「セリーアが言っていた呪詛を解き明かし消し去る話ですか」

 

「その通りだ、魔王は勇者召喚を警戒して魔人を送り込んでいる」

 

ドッド王の話によると

 

この大陸のこの地域のみが勇者召喚の門として存在している

 

「魔王はここから勇者召喚されては困るのだ、万が一の時の為に魔人を送り込んだに違いない」

 

この地域は特に激戦区であり戦争が絶えなかった

 

ドッド王の父は立派な人で何より国民を大切に争いを好まず優しい王だったらしい

 

だから他国に付け込まれ今回のように工作員によって内部から崩壊されそうになり

 

何度訴えても「自分の臣下を疑うのはよしなさい」と諭されるばかりだった

 

このままではこの国は滅んでしまう

 

そこで心を鬼にして謀反を起こし王位を簒奪して工作員を全て斬首させた

 

当初は極悪人扱いされたが次第に自分たちの国がどれだけ危険に晒されていたか

 

国民も貴族たちも気が付き始め

 

父王や兄弟たちを殺させた国を徹底的に滅ぼした

 

王侯貴族は一人残らず皆殺しにしたことも話した

 

「アルフォード、あれは自慢の息子だった」

 

この国から戦を無くすをスローガンに戦い遂に統一して統治系列の為

 

奔走している最中にセリーアの妹がこの地に現れた

 

既に虫の息で自分がこの国の王だと名乗れば

 

呪詛の事や勇者召喚の話、そしてこの地しか勇者召喚の門は無い事を知った

 

一通り話すと息絶えた

 

勇者召喚の秘術を託された為

 

「この世界を守りたい一心で他の国政を疎かにしてしまった」

 

それには理由があった

 

後日魔人が現れて彼女の遺体を八つ裂きにしたらしい

 

徹底的に危険な存在を叩き潰すつもりだったようだ

 

その場を守っていた護衛も皆殺しに遭い

 

たまたまその場にいたアルフォード王子も巻き込まれた

 

その時異変を察知したドッド王がいち早くその場に辿り着くと

 

魔人がアルフォード王子を殺して王子の中に入り込んでいる所を目撃したそうだ

 

「恐らくあの魔人はアルフォードの記憶を取り込んで自分の存在を完全に消して我々を監視しているのだ、勇者召喚の秘術を手に入れた可能性を知ったのだろう」

 

アルフォード第一王子は既に殺されていて魔人がその亡骸に寄生しているらしい

 

しかも本人は記憶を完全に吸収することで

 

自分がアルフォードであると信じ込んでいる

 

アルフォードの頭脳と能力を奪い取り込んだ魔人と言うことになる

 

ドッド王は気が付かないふりをしながら

 

魔人の力が最も弱る数年に一度の赤いビッグムーンの時にだけ

 

勇者召喚を試みていたようだ

 

「だからアルフォード第一王子を皇太子にしなかったのだな」

 

心の中で言った龍炎はある可能性を見ていた

 

アルフォード王子の頭脳と魔力が何らかの作用を起こして

 

魔人を封印している可能性だ

 

「父上、アルフォード兄上はまだ死んでいないかも知れません」

 

「お前は何を言っている、私はこの目でアルフォードが殺された瞬間を目の当たりにしたのだ」

 

「ですが兄上の方が魔人を取り込んで魔人の力で復活した可能性もあります」

 

「アルフォードが魔人を」

 

「恐らく融合したのでしょう、しかし理由はわかりませんがアクシデントが起こり魔人は兄上に取り込まれてしまったのかも知れません」

 

そしてアルフォード第一王子は魔人の力を使い再生を果たした

 

「父上兄上と二人だけで会う機会を与えて頂けますか、確かめたいことがあります」

 

「アルフォードを助けらるのか」

 

「わかりません、それは兄上次第でしょう」

 

「わかった対談を許そう」

 

「ありがとうございます父上」

 

「アルフォードを頼んだぞシルバレッド、しかし無理はするなお前まで失いたくはない」

 

胸が熱くなった

 

これはシルバレッド王子の感受性だ

 

龍炎はその感受性に導かれるままゆっくりと頷いた

 

そしてアルフォード第一王子の寝室へいつものように入り込んだ

 

途端に剣の切っ先が龍炎に向けられる

 

「お前は油断する悪癖があるぞ、どんなに強大な魔力を保持していたとしても油断が致命傷に繋がることもある」

 

そう言うとアルフォード第一王子は剣を鞘に納めた

 

「兄上剣を鞘に納めるのが早すぎますよ」

 

アルフォード第一王子はそれには答えず目を瞑った

 

龍炎にも漸くアルフォード第一王子がいつも弟の事を考え想い苦言を呈している事に

 

気が付いて来た

 

途端に兄への慕わしい気持ちが溢れて来た

 

これはシルバレッド王子の感受性だ

 

龍炎はまだ冷静に観察している

 

彼の仮説が正しければ場合によってはこのアルフォード第一王子とは

 

今生の別れになる可能性は否めない

 

魔人は依然としてアルフォード第一王子の中に存在している

 

それを追い出すことが出来るか

 

或いは魔人に取り込まれるかは一種の賭けとも言える

 

勝算は無くも無いが確率は決して高くはない

 

龍炎はドッド王から聞いた経緯をアルフォード第一王子に話した

 

少し驚いた様子だったが

 

彼もまたドッド王と共に戦火の中を生き抜いて来た

 

覚悟を決めた様だ

 

「それで私が助かる確率はどれほどだ」

 

「4割です」

 

「そうか、4割もあれば充分だ」

 

恐らく4割より低い勝算で勝ち抜いて来たに違いないと龍炎は直感した

 

「実の所確証はありません、仮説に過ぎない本来ならもっと実験して検証する必要がありますが相手が魔人だけに実験は厳しいとなればぶっつけ本番で戦うしかありません」

 

「何を言っているシルバレッド、戦場では実験も検証も出来ない実践あるのみだった、勝てる見込みのない場合もあり逃げ出すにも命懸けの状況を乗り越えて来た、しかし4割も勝てる可能性があるのだ」

 

きっとアルフォード王子にはわかっている

 

勝算というのはあくまでシミュレーション上のもので

 

実際に実践してみれば予想もつかない事態が起きる事を

 

龍炎は彼の覚悟をひしひしと感じ取った

 

龍炎にはこの世界の戦場を未だ体験していないが

 

元の世界で食うか食われるかの争いをしたことがある

 

世界には怪物級の人物がいるもので

 

龍炎が世界進出を果たし始めた頃には相当苦戦を強いられた

 

勿論彼もそんなビジネスの戦場を勝ち抜いて来たのだ

 

とは言えこれは龍炎の仮説に過ぎない

 

想定外なことが起こる可能性は低くはない

 

ここは龍炎が元に居た世界ではなく異世界であるから

 

元の世界とは違う法則性で存在しているとすれば

 

龍炎には及びもつかない法則が存在しているかも知れない

 

魔法や魔力もその一つだが

 

それは書物で理論や法則性を学んだ

 

とは言え人間たちが知り得ている魔力や魔法の理論は不完全で

 

魔力法則のまだ概要を掴んだ程度かも知れない

 

人間たちが未だ踏み入っていない魔法領域があると可能性は否めない

 

魔王や魔人たちがその領域に達している可能性は極めて高い

 

龍炎の勝算を覆す法則を相手が利用するとも限らない

 

しかしアルフォード第一王子の体内に入り込んでいる魔人を追い出すには

 

封じ込められている魔人を一旦目覚めさせる必要がある

 

その時こそアルフォード王子と魔人の戦いとなるだろう

 

アルフォード第一王子の身体の争奪戦である

 

と言うのも龍炎の仮説では既に魔人も彼に同化しているから

 

分離して抜け出すことは出来ない

 

魔人にとっても命懸けの戦いとなるだろう

 

これはアルフォード第一王子に入り込んだ魔人の魂を消滅させる戦いでもある

 

しかし魔人が勝てばアルフォード王子の魂の方が消滅する

 

完全に身体を乗っ取られてしまうだろう

 

困ったことにシルバレッド王子の感受性が躊躇して

 

龍炎が魔力を発動させるのを阻害しているようだ

 

「遠からず魔人は自力で覚醒する、その時は不意を突かれたカタチになる、今ならそれより少しはマシな戦いができる、そろそろ覚悟を決めろシルバレッド王子」

 

自分に言い聞かせるように言ってみた

 

まるで魔法の呪縛が解けたように龍炎は魔法を発動させることが出来た

 

このようなことがこの先幾度もある可能性は高い

 

「まったく面倒なことだ」

 

未だ心が育っていない龍炎の正直な感想だ

 

言った途端にシルバレッド王子の感受性は自己嫌悪を強いて来る

 

龍炎は舌打ちすると魔法が完成させた魔人が目覚めた

 

その霊体がアルフォード第一王子と同化している魔人自身の魔力と癒着して

 

魔人本来のカタチを疑似的に作って彼の前に対峙した

 

「貴様は危険だアルフォード第一王子、そしてシルバレッド王子お前もな」

 

「瀕死状態で不意を突かれたあの時は後れを取ったが、お前如きは私の敵ではない」

 

「なんだと貴様」

 

「根拠はある、私が瀕死状態である事に付け込んでしかも不意を突いた、つまりまともに戦えばお前に勝ち目はないと悟ったからだろう」

 

「馬鹿なことを人間如きにそのような策を弄するものか」

 

「しかし事実が物語っている口では何とでも言えるからな」

 

「ではお前の魂を喰らい私の方が格上であることを証明してやるとしよう」

 

「無理をして正々堂々と戦う必要はないぞ、また卑怯な手を使えお前は弱いのだから」

 

「馬鹿なことを」

 

「その証拠に私の身体を乗っ取ろうとしたが私の魔力に押されて封じ込められたではないか」

 

アルフォード第一王子の挑発に魔人は怒りを露わにした

 

龍炎は「見事だ」と心の中で呟いた

 

心理誘導によって魔人は卑怯な手を使えなくさせられた

 

これでは正々堂々と戦うしかなくなる

 

魔人にも魔人なりの誇りがあるのだと龍炎は学習した

 

それにしてもそのことを瞬時に見抜いたアルフォード第一王子の聡明さは

 

龍炎でも感動を禁じ得ない

 

「人間如きが我ら魔人族の足元にも及ばない事を思い知るが良い」

 

「無理はするものではないぞ、不意打ち魔人よ」

 

「我が名はルーだ」

 

遂に魔人は名乗りを上げた

 

龍炎にはこの対話が無意味に思えた

 

しかしアルフォード第一王子が無意味な会話をする筈はない

 

どうやら何か考えがあるようだ

 

本来人間の魔法に名前を縛る呪詛は無い

 

魔人も名乗りを上げたところで人間には何もできないと高を括っている

 

龍炎は面白いと感じ始めた

 

次の瞬間アルフォード第一王子が呪文を唱えると魔人は動けなくなった

 

「お前一体何をした」

 

「油断したな、ルーよお前は考えなかったのか私とお前は同化している事を」

 

ルーと言う魔物の頬から冷や汗が一滴流れ落ちた

 

「理論的に考えれば理解できるだろう今はお前も私なのだ、当然魔力も共有している」

 

「しかし私の存在を知ったのは先程だ、こんな短期間に呪詛を身に着けられるものか」

 

「それはお前の見解に過ぎない、私にとっては充分な時間だ」

 

アルフォード第一王子は眉ひとつ動かさない

 

一方魔人は目を見開き驚きを隠せていない

 

「お前は一体何者だ、本当に人間なのか」

 

「お前と同化している私が人間と呼べるものか、認識を改めた方が良いぞ不意打ち魔人」

 

何処までも冷静に話しているが

 

この事実を受け止めるにも相当の覚悟が必要である

 

魔人と融合した時点で最早人間とは呼べない存在になってしまった

 

普通の人間なら相当の精神的ダメージを受ける筈だ

 

龍炎は「これが胆力というものか」と心の中で呟いた

 

元の世界での龍炎は心が欠落していた為「胆力」など必要なかった

 

覚悟も胆力も必要なくただ淡々と自分の成すべきことを果たして来た

 

どんな窮地に立っても、命の危機ですら恐怖も感じない

 

恐怖を感じない人間にとって危険に立ち向かう時に勇気や胆力など必要ない

 

どんな時も冷静に判断して常に実力を発揮できる

 

しかしアルフォード第一王子は違う人間としての心を持っている

 

クールな性質は否めないが

 

少なくとも父親であるドッド王やシルバレッド王子という弟に対する愛情は本物だ

 

つまり人間の心を持っている

 

当然恐怖心も人並みに感じている筈だが

 

子供の頃から戦場を駆け巡り幾多の戦いを重ねるうちに胆力を身に付けたのだろうか

 

元々恐怖心に耐性のある性質をもっていたのかも知れないが

 

彼の心は乱れ難い

 

更に明晰な頭脳の持ち主で龍炎の話からすべてを察知して

 

自分の置かれている状態を理解した上でこの窮地を脱する最適解を導き出した

 

魔人が覚醒した瞬間に魔人の魔力の性質から構造を感じ取り言語化することで

 

人間が使える魔法として変換を果たした

 

これだけでも神業と言えるだろう

 

何より驚異なのは、ぶっつけ本番で確実に魔人の呪詛を成功させた事だ

 

「ルーよお前の敗因は、この私の身体を奪い我が国へ潜入しようとしたことだ」

 

「私を取り込むつもりか、お前は最早人間とは呼べない存在になるぞ」

 

「私が私として認識できるのであれば問題無い」

 

そう言うと彼は詠唱を始めた

 

「その呪詛はまさか」

 

それが魔人の最期の言葉になった

 

次の瞬間黒い光がルーと名乗った魔人を囲み大地へ引っ張り込んで行く

 

そのままアルフォード第一王子から引き千切られるカタチで魔人ルーの魂は消滅した

 

すると漆黒の光が煙のようにアルフォード第一王子を包み込んだ

 

場合によっては闇に呑み込まれる可能性もある

 

龍炎は表情一つ変えず静観している

 

暫くすると黄金の光が一点内側から放たれると二点、三点と次々に放たれ

 

漆黒の闇の光が破られ黄金の光に吸収されて行き

 

それはアルフォード第一王子の姿になった

 

「兄上ですか」

 

龍炎は冷静に聞いた

 

「その答えを私は知らないが、少なくとも私は自分の意志でここに居る」

 

「完全に魔人を取り込まれたのですね」

 

彼は頷く

 

「融合したようだ、取り込んだと言えるかはわからない」

 

「魔人の呪詛は解けているでしょうか」

 

「何故そう思うのだ」

 

「恐らく魔人は魔王によって縛られているように感じました」

 

「そうか、融合した際解けたのか呪詛らしきものは存在しない」

 

「それは何よりです」

 

「それで王は私をずっと魔人だと思われていたのだな」

 

「そうです、ずっと兄上を殺した魔人が入れ替わっていると思い込まれていました」

 

「父上は私を再び信じてくれるだろうか」

 

「自慢の息子だと言われていました、だから信じて貰える可能性は高いと思います」

 

「そうか」

 

冷静な声だが

 

顔は窓の外へ向けられていて表情が見えない

 

捉え方を変えれば、ドッド王の親としての愛情を利用することになる

 

アルフォード第一王子はちらりと龍炎を見る

 

優しい眼差しである

 

「記憶を無くしているから知らないだろうが、お前は昔から私の寝室に潜り込んでいた」

 

突然の言葉に龍炎は戸惑った

 

「何度叱りつけても来るから諦めた、相当私に懐いていたのだろう、しかし記憶を無くした事故の後のお前はまるで別人で、ただ記憶を無くしているだけでなくその冷たい視線は別の人格がシルバレッドの身体を乗っ取ったのではないかとさえ思った」

 

それで始めて寝室へ忍び込んだ時中々切っ先を外さなかったのか

 

龍炎は腑に落ちた

 

希薄な兄弟関係とは言えあの警戒は尋常では無かったからだ

 

「それで私を警戒されていたのですね」

 

「だがお前の聡明さはこの国にとって有益だと判断した、例えあの魔人のように何者かがシルバレッドの身体を乗っ取っていたとしても、貴族たちを助けようとしているところから悪意はないと判断した、そして手を組むことにしたのだが、時々シルバレッドの面影が見え隠れする」

 

アルフォード第一王子の頬から涙か零れ落ちる

 

「公開処刑場でのお前の行動仕草はまさにシルバレッドそのものだった、本当に記憶を無くしているだけなのだなぁと感じた、これは理屈ではない」

 

アルフォード第一王子の脳裏にシルバレッド王子との記憶が蘇る

 

「お前は何度言えば理解する、誰かに気取られたら王位候補の道が閉ざされるぞ」

 

「構いません、私は王位継承など興味は無いのです、ただ兄上とお話したいのです、それに兄上が王になればこの国は安泰です、私は陰ながら兄上を支えます」

 

シルバレッド王子は何度もアルフォード第一王子のもとへ来ては話をした

 

「兄上」自分を慕っているシルバレッド王子の声が幻聴のように響く

 

そしてそれは目の前のシルバレッドの姿になる

 

「お前は記憶を無くして覚えていないだろうが、私が覚えている例え魔人を取り込んで人間とは呼べない存在になったとしても、私はお前のことを忘れない、お前は自慢の弟だ」

 

これまでに無い優しい眼差しを龍炎に向けた

 

途端に龍炎から涙が溢れて止まらなくなる

 

これはシルバレッド王子の感受性だろう

 

「記憶が戻ったのか」

 

アルフォード第一王子の呼びかけに首を横に振る

 

「ですが涙がとまりません、きっと身体が覚えているのでしょう、私は相当兄上を慕っていたようです」

 

「そうか」

 

いつものクールな響きだ

 

しかし、龍炎の頭を撫でるアルフォード第一王子の手は温かく感じた

 

また何処か懐かしい感じがしたが

 

恐らく身体がその感覚を覚えているのだろう

 

つづく

 

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あとがき

 

少しペースを速めました(,,꒪꒫꒪,,)

 

というか本来の私のペースに戻した感じです

 

私は基本的にいらち(せっかち)です

 

物語を進めるのも出来る限り早く圧縮的に描こうとします

 

漫画家を目指していた頃は、三話分の内容を一話で描けないかと研究していました

 

お陰で急ぎすぎとか慌てず、もっと小出しにしないと誰もついて来れないなど

 

かなり批判されましたが

 

それでもわかりやすく駆け足で物語を描くことはできないかの研究を

 

続けて来たのです(,,꒪꒫꒪,,)

 

なので13話は気持ちの良いペースでした

 

今回は少しペースダウンですが(=◇=;)

 

漸く私らしい作品になって来た感触があります\(*´▽`*)/

 

気づかれた方もいると思いますが

 

腹の中が真っ黒い人程、最もらしい事を言って人を誑かします

 

この手の輩は常識すら利用するのですが

 

龍炎はこの悪辣な手口を利用しています

 

毒を持って毒を制すというやり方ですが、これは西洋医学の薬の考え方です

 

少しワクワクしてきましたヾ(@^(∞)^@)ノ

 

とは言え早めに切り上げて

 

人間たちの落日の続きを再開始しようと思います

 

まる☆