本来貴族に対しては正当な裁判を行い

 

その上で判決を下すものだが

 

今回は裁判も行わず斬首せよと命を下した

 

勿論他の貴族たちは反対したが

 

ドッド王の意志は堅く有無を言わさず強行することにしたようだ

 

「先手を打たれた」

 

アルフォード第一王子との密会と策略を見抜かれたのか

 

この事を知っているのはスゥオールと魔断のヤーレン、密偵の生徒二人だけだ

 

スゥオールとヤーレンは考えられないとすれば

 

密偵の生徒二人のうち一人がドット王の密偵である可能性もある

 

或いは二人とも密偵ということも考えられる

 

龍炎はアルフォード第一王子のもとへ急いだ

 

寝室に忍び込むと既にいない

 

知らせを知って王宮へ向かったようだ

 

「まさか直訴するつもりだろうか」

 

そんなことをすれば間違いなく

 

アルフォード第一王子を処刑する口実を与えることになる

 

龍炎は理屈ではなく感覚的に

 

ドッド王は前々からアルフォード第一王子の命を狙っていると感じていた

 

これもシルバレッド王子の能力の一つだろうか

 

理論的に考えてもあり得ないことだ

 

最もこの国で有益な後継者を自分の手で消し去ろうとする王などいるのか

 

「世襲制度を崩壊させるつもりだろうか」

 

龍炎は首を強く横に振る

 

彼自身は可能性が低いと否定的なのだが

 

シルバレッド王子の感受性は強くドッド王の危険性を突き付けて来る

 

実の父の死をこのシルバレッド王子が願うとは思えない

 

「一体どんなカラクリがあるのだろう」

 

龍炎は不謹慎にも愉快な気持ちになって来た

 

彼は元の世界で子供の頃から理解不能な出来事に遭遇した時

 

愉快な気持ちになって解き明かしたくなる悪癖を持っていた

 

俗に言う好奇心が強い性質だ

 

合理主義の龍炎家に入ってからは極力抑えて来たが

 

この世界に召喚されてまた肉体も変わったことから

 

元の世界とのしがらみから解放され

 

抑え込まれていた好奇心が動き出したのだろうか

 

しかし急がなければならない

 

シルバレッド王子の身体が示しているドッド王が真実だとすれば

 

アルフォード第一王子も貴族たちと共に処刑されてしまう

 

王宮では

 

アルフォード第一王子がドッド王に直訴していた

 

「王よどうかご再考をお願いします」

 

ドッド王は鋭い眼光で彼を見る

 

それは最愛の後継者を見る眼差しではない

 

憎い仇を見るようにも見えた

 

昔からドッド王はアルフォード第一王子に対して冷淡に接していた

 

勿論、次期国王として厳しくしているのだと誰もが思っていたが

 

ここへ来て、そうでは無い可能性が見え隠れしている

 

一体ドッド王とアルフォード第一王子の間に何があったのだろうか

 

アルフォード第一王子はドッド王を慕っている様子だから

 

これはドッド王の心の問題のように見えるが

 

その真意を知る者は恐らくドッド王以外に居ない

 

「これ以上の無礼を続けるなら、お前も奴等と繋がっていると判断するが、それで良いのか」

 

「そのような事はありません、ただ貴族として正当な裁判をすべきです、さもなくば貴族も国民の心も離れて行きかねません」

 

「誰ぞ、この反逆者を捕らえよ」

 

ドッド王の言葉でも流石に兵士たちは戸惑った

 

アルフォード第一王子をリスペクトする者は多い

 

しかしドッド王の強さは共に戦で戦った者であれば身に染みている

 

この地域の戦は数年前まで続いていた

 

つまり全ての貴族や兵士たちはドッド王と共に戦い

 

その強さを知らない者はいない

 

「お前達は王命が聞けぬのか、この者を捕らえなければ反逆罪として処刑するぞ」

 

威圧的な声の重圧に押しきられる形で兵士たちはアルフォード第一王子を取り押さえた

 

「この者もまた、売国奴と結託している」

 

「ドッド王、どうかご再考を」

 

「他の事なら温情もやぶさかでは無いが、売国行為だけは許さない」

 

「彼らはただ利用されただけです」

 

「お前には見えないのか、売国奴や敵の間者に利用された者がこの国を滅ぼすということを」

 

ドッド王の見解は決して間違いでは無い

 

今回の事はドッド王自身にも跳ね返って来ている

 

なにより召喚術に没頭するあまり

 

神官たちを中心に他国の工作員を入り込ませ好き放題させてしまった

 

国の存亡に関わる状態にまで陥っていた

 

だから彼は誰よりも自分を許せない

 

人は自分を許せないという思いに取り付かれてしまうと

 

他者も許せなくなる性質がある

 

自分を許せない心が歪むと他者を責める裁きの心に流れ込む場合が多いのだ

 

彼の場合王としての責任から

 

この国の憂いを少しでも断とうという考えも付加されて

 

即日処刑という暴挙へ導いたのかも知れない

 

少なくとも冷静な判断が出来ていない事を彼自身気が付いていない

 

龍炎らが駆けつける間もなく処刑は行われようとしていた

 

その時突然ドッド王へ槍が飛んで来た

 

辛うじて逸れて頭上に突き刺さる

 

公開処刑上に現れたのは黒ずくめの女で雷撃の魔法がドッド王の頭上に刺さった

 

槍へ流れ込んだが

 

ドッド王はその雷撃魔法を弾いた

 

「もう来てしまったのか」

 

微かにつぶやいて立ち上がる

 

黒ずくめの女は叫ぶように

 

「貴様我らが奥義を盗み我が妹の命を奪った間違いないな」

 

「意図したわけではないし我々が手を下したわけでは無い、彼女は既に瀕死だった」

 

「この世界に掛けられた巨大な呪詛を解き明かすために勇者召喚は必要だ、その事実を知っているか」

 

「彼女から死の間際に聞いた、だから勇者召喚を試みている」

 

「信じられぬ」

 

「しかし、勇者召喚はこの地でしか成立しないのであろう」

 

「だから命懸けで使者として妹を送った」

 

「彼女は気の毒だったが最早手の施しようが無かった、無茶が過ぎたのだ」

 

「黙れ、妹を殺して召喚術を奪い取った貴様の言う言葉など信じるものか」

 

「我々は共にこの呪詛を解き明かさなければならない、争っている場合ではない」

 

「何故天はこんな地に勇者召喚唯一の門を築かれたのだ」

 

彼女は剣を抜きドッド王へ切っ先を向けた

 

「使者を無残に殺して召喚術の術を奪い取った王が支配する国など滅びるが良い」

 

剣が光ると雷撃がドット王へ放たれる

 

凄まじい威力にドッド王は吹き飛ばされた

 

その時漸く龍炎とスゥオールらが辿り着く

 

異常事態にスゥオールは戸惑ったが龍炎は冷静に分析を始める

 

吹き飛ばされたドッド王を見て黒ずくめの女が魔法攻撃をしたのだと辿り着く

 

「ドッド王でも吹き飛ばされたということか、恐るべき魔力だ」

 

心の中で呟くと黒ずくめの女を見つめる

 

「師匠まずはアルフォード王子と貴族たちを解放しましょう」

 

龍炎の言葉にヤーレンが

 

「それは私が何とかしましょう」

 

彼が剣を一振りすると

 

貴族たちを拘束している魔力呪縛が一瞬で消えた

 

龍炎の助言でヤーレンが編み出した新技のようだ

 

魔断の力を剣に込めて解き放つという異例の発想だが

 

見事ヤーレンは身に着けられたようだ

 

「兄上まずは貴族たちを脱出を」

 

しかしアルフォード第一王子は首を横に振る

 

貴族たちも顔を見合わせてから

 

「シルバレッドこの国を頼んだぞ」

 

そう言うとドッド王のもとへ飛んで行く

 

貴族たちもまたドッド王のもとへ駆けつけて防波堤になった

 

「ドッド王」アルフォード第一王子は振り返る

 

「父上お逃げください、ここは我々で食い止めます」

 

「お前たち」

 

「王よ我らが盾になりますお逃げください」

 

「我らは売国奴共に利用されてしまいましたが、あなたへの忠義の心までは売り渡していません」

 

「この国を守る気持ちは未だこの胸にあります」

 

貴族たちは誰一人欠けることなく黒ずくめの女の前に立ちはだかる

 

「見る限り彼女に太刀打ちは出来ませんが時間稼ぎは出来るでしょう」

 

アルフォード第一王子は剣を構える

 

ところが黒ずくめの女は躊躇いを見せた

 

「命懸けでその王を守ろうとするのか、見ればお前たちを処刑しようとしていたのだぞ」

 

「我が王は気性は荒いが誰よりも正義を貴ばれる」

 

「我らは売国奴に利用されたそれが本意ではないが処刑されても仕方が無い、どの道命を落とすなら処刑されるより王を守って討ち死にを選ぶ」

 

この国を一つに束ねる為共に戦った貴族たちの結束は固い

 

流石のドッド王から一滴頬を伝い流れ落ちる

 

ともに命懸けで戦ったもの達である

 

彼らとの戦場での記憶が蘇り脳裏に浮かんだ

 

「私は愚かだった、お前たちの心を見失っていた」

 

突然黒ずくめの女は笑いだす

 

「とんだ茶番だ」そう言うと雷撃を放つが

 

ヤーレンが立ちはだかる

 

魔断の剣が雷撃をはじき返すかに見えたが

 

彼女の魔力が勝っていたのか吹き飛ばされたのはヤーレンの方だった

 

「ほう私の雷撃魔法を止めるとは」

 

「何というすさまじい魔力だ」そう言うとヤーレンは気を失う

 

龍炎とスゥオールが彼女の前に立った

 

龍炎はヤーレンが気を失っているだけだと知り少し安堵した顔を見せる

 

「お姉さんはこの有様を見てもまだこのドッド王がそんな卑劣なことをしたと思われるのですか」

 

龍炎は子供の顔で彼女を見つめる

 

「貴様は何者だ」

 

「あなたが殺そうとしているドッド王の第三王子シルバレッドです」

 

「貴様から邪気を感じない、無垢な子供の出る幕ではないどきなさい」

 

その言葉で龍炎は彼女の本質を感じ取る

 

「あなたは本当に強い、きっと私たちが力を合わせても勝てないでしょう」

 

「それがわかるならどきなさい」

 

「ですがきっと私たちは誰一人逃げ出すことはない、あなたはここにいる全員を皆殺しにしなければドッド王に辿り着けない」

 

龍炎の言葉に彼女はまた躊躇いを見せる

 

「私も決して退きませんよあなたの雷撃で黒焦げになったとしてもね」

 

黒ずくめの女は考え込んだ

 

「ドッド王は決してそんな卑劣なことはしない」

 

「しかし妹は私と同等の魔力を持っている簡単に死ぬようなことは無い」

 

「それなら恐らく魔人の仕業でしょう」

 

「魔人だと、この大陸にも魔人は存在するのか」

 

大陸という言葉の響きに龍炎は驚いた

 

それはつまりこの世界は海の向こうにも別の大陸が存在している事を響かせている

 

「他の大陸から来られたのですか」

 

黒ずくめの女はそれには答えない

 

「魔人が居るとなれば呪詛を守護している可能性が高い」

 

「呪詛とは何ですか」

 

「この世界は九つの呪詛によって崩壊しようとしている、一刻も早く勇者召喚してその呪詛を解き明かし阻止しなければならないのだが、その呪詛を魔王が守っている」

 

「世界の崩壊の呪詛ですよね、魔王達は自分たちが滅ぶ呪詛を守るでしょうか」

 

「理由はわからないが魔王たちは他の大陸にも居て呪詛を守っているのだ」

 

「それで勇者召喚すれば、召喚された勇者がその呪詛を解き明かすことが出来るというのですか」

 

「我が大陸の古の予言書に記されている、召喚された勇者は呪詛を解き明かすと」

 

「ところがこの大陸でしか勇者召喚は出来ない」

 

少なくともこの世界だと思っていた大陸が他に八つも存在することが判明した

 

召喚された勇者だけが、その呪詛を解き明かし破棄することが出来るようだ

 

「海を渡られたのですね」

 

海には海を守護する海王魔人たちが存在している

 

「海王魔人は抵抗したでしょう」

 

「生き残ったのは私だけだ」

 

「魔人が異物として判断してあなたの妹君を攻撃された可能性はあると思いますよ」

 

彼女が龍炎の言葉に反応すると突然

 

樹木が公開処刑場のあちこちから床を打ち破って飛び出して行く

 

そして彼女と龍炎を攻撃する

 

黒ずくめの女は雷撃を放ち樹木を燃やすと

 

巨大な樹木が床を突き破り出てくると人の姿に変わった

 

「貴様は何者だ」

 

樹木が女の姿に変わると人間の言葉を話した

 

ここにいる殆どの者が身動きできない

 

「まず貴様が名乗れ」

 

「私はこの大陸の管理者にお仕えする者だ、異物を排除する役割を持っている」

 

どうやら龍炎はシルバレッド王子の時から

 

強大な魔力から異物と判断されたのだろうか

 

或いは異世界転生者も異物として判断される可能性もある

 

「妹を殺したのはお前だな」

 

樹木の魔人は少し考えてから

 

「お前のような黒尽くめの女なら、強大な魔力を持っていたから異物として排除した」

 

「ならば仇を討つ」

 

そう言うと黒ずくめの女は剣を振り上げ振り下ろすと

 

光った剣から雷撃が魔人を真っ二つにした

 

断末魔を上げて樹木は燃えて灰となり消えた

 

スゥオールでも手も足も出なかった圧倒的な魔人が

 

たった一振りで倒したのだ

 

黒ずくめの女は片膝をつく

 

「ドッド王よ非礼を詫びる」

 

「良いのだ、そなたのお陰で私は大切なものを失わずに済んだ」

 

そう言うと貴族たちの肩を叩く

 

貴族たちは片膝をつく

 

「王よ」

 

「お前たちの心しかと見た、この心に焼き付き生涯忘れない」

 

激戦区だったこの地域を一つとして戦を無くす為に共に戦った者たちだ

 

「寧ろそなたには感謝している」

 

「ではこの非礼を許していただけるのか」

 

「許す、共にこの世界を守ろうではないか」

 

「その言葉で亡くなった妹も安堵した事でしょう」

 

彼女からも一滴流れ落ちる

 

龍炎は彼女の傍らに片膝をついた

 

これはシルバレッド王子の衝動のようだ

 

涙が溢れている

 

「シルバレッドと申したな、そなたは妹の為に涙してくれるのか」

 

シルバレッド王子の衝動はゆっくりと龍炎を頷かせる

 

「そなたは優しいなシルバレッド王子」

 

「それはあなたも同じです、私を殺そうと思えば簡単に出来たのに命を助けようとしてくれていましたね」

 

「私は大変な過ちを犯すところだった」

 

「人は間違いながら成長して行くものでしょ」

 

そう言うと龍炎はスゥオールへ視線を移す

 

彼は舌打ちして後ろを向いた

 

あくまでドッド王を許さないつもりのようだ

 

後片付けを済ませると

 

落ち着いて別室で黒づくめの女と対談をする場を設けた

 

「私はルーシェルア大陸国の第三皇女セリーア・ディ・クリイアールと申します」

 

どうやら大陸丸ごと一つの国家になっているようだ

 

聞けば殆どの大陸は一つの国へ統一されている

 

セリーアはこの大陸が八つの国で成り立っている事に驚いた様子だ

 

この世界は

 

龍炎が召喚されたこの国の大陸を含めた九つの大陸で成り立っていることが判明した

 

その事実を知らない貴族達は

 

戦国武将で最初に世界を意識した織田信長や

 

初めて黒船を見た日本人のような感覚では無いだろうか

 

龍炎は少し意地悪く貴族たちを見回した

 

自分がこの世界に召喚された人間たちの目的は明確になった

 

この世界に掛けられた九つの呪詛を解き明かすことだろう

 

呪詛を崩壊させて世界を守ることが使命だった

 

何故過去形なのかと言えば

 

神が龍炎をシルバレッド王子を犠牲にしてまで召喚させた目的は

 

必ずしも人間たちの目的とイコールではない

 

とは言え神々がこの世界を崩壊させようとしているとは思えない

 

「まずこの世界を救うことから始める必要がありそうだ」

 

龍炎は冷静に分析している

 

気になるのは何者が何故世界を崩壊させようと呪詛を掛けたのか

 

呪詛を解き明かし解放するヒントがあるかも知れない

 

「ところでシルバレッド、何故お前はここに居るのだ」

 

ドッド王の関心は龍炎へ向けられた

 

当然である表向きはスゥオールに連れ去られたことになっている

 

そのスゥオールと共に現れたのだ

 

つづく

 

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あとがき

 

先日弟に

 

「どうしたまる、人間たちの落日に比べるとペラペラの内容になっているぞ」

 

と言われてしまいました(=◇=;)あせる

 

奴の指摘にドキッとしたのは

 

今回はリハビリ目的で何も考えず書いているからです(=◇=;)

 

つまり物語の設定を探りながら話を進めている感じです

 

そこでもう一捻りしてみましたが

 

また自分で自分の首を絞めているような気がしますチーンちーん

 

ただ書き始めてはっきりと認識したのは

 

どうやら私は異世界召喚や転生のような物語を描くのは苦手のようです

 

向き不向きはあるものですね(=◇=;)

 

早々に切り上げて人間達の落日の続きを再開しようと思います

 

しかし、9つの大陸って Σ(¯Д¯;)

 

途方もなく長くなるような( °д°)

 

まる☆