この世界はセイレスの森を中心に8つの大国で成り立っている

 

人間の世界は戦に明け暮れ

 

8つの国になったと言った方が近いだろう

 

龍炎が召喚されたのはルーフェンベルク国

 

東南にある直接セイレスの森に接していない二つの国のうちの一つだ

 

セイレスの森と接していないもう一つの国はザードバイズ国

 

ルーフェンベルク国の西側に隣接している国だが

 

辺境伯によるクーデターにより国の統治が変わり

 

内政を確立するため他国へ攻め込むことはないだろうと言われている

 

ルーフェンベルク国にとって警戒すべきは

 

北西に隣接しているサウローン国と北北西に隣接しているヴァルギア国だ

 

しかしこの両国の関係もあまり順調でないため

 

ルーフェンベルク国は世界の辺境地域のように戦火から遠ざけられている

 

かと言って戦と無縁だったわけではない

 

この国は戦闘種族が集まった地域のように

 

戦に明け暮れた歴史を持っている

 

その為戦闘力に特化した魔法技術や武術が繁栄している

 

特に戦術や戦略が特化していて戦略、戦術に関しての書物が多い

 

王侯貴族たちは辺境伯の元王族達も魔力が強く進化している

 

武術においても武器、武具も目覚ましく進化していた

 

北から東、南にかけて海に囲まれている為

 

世界に進出するには有利な位置に立っている

 

背後から攻められる憂いがないのだ

 

海を支配している海王族という魔物達は近隣の海での漁業を人間達に許してはいるが

 

ある一定の海域を超えると途端に攻撃して全滅させられる

 

その為人間達は海から国を攻めることは出来ない

 

戦に明け暮れた国はルーフェンベルク国だけではない

 

8つの大国全てが戦によって巨大化しているのだ

 

つまり、この世界は数年前まで戦国乱世状態だった

 

8つの大国に肥大化して力の均衡が保たれた状態では

 

戦は起こりにくい龍炎も元の世界で戦争について自分なりに研究した

 

勿論経済的側面での研究だ

 

先進国に影響する国が戦争を起こせば

 

場合によっては世界的な恐慌を引き起こしかねない

 

当然世界的に触手を伸ばしていた龍炎にとって

 

戦争は無視できないハプニングである

 

「経済と地政学、経営戦略から見れば戦争が起こる前の前兆は見えてくる」

 

これは龍炎独自の捉え方だが

 

彼は戦争の原因はイデオロギーによるものだけではないと見ている

 

世界征服などという野望だけで戦争を引き起こしているのではなく

 

もっと現実的な利権が絡んでいる可能性が高い

 

戦争前の経済や利権の動きを徹底的に調べ上げれば

 

戦争を起こす事によって利益を生んでいる存在に辿り着く

 

その昔死の商人と呼ばれた連中だ

 

今では陰謀論という都合の良い言葉でかき消されてはいるが

 

実際に戦争で大儲けした者達は少なからず存在している

 

奴らはその後、経済界の裏側で暗躍する

 

龍炎が対峙していた組織もその中の一つだった

 

この世界へ召喚されなければ確実に殺されていただろう

 

また元の世界では事故死として片付けられているに違いない

 

「さて、この世界でもそういう組織が存在するのだろうか」

 

もし彼が召喚された使命がその組織を叩き潰すものであるなら

 

彼にとっても本望と言えるかもしれない

 

「その組織を炙り出すためには、この世界中の国の実情を知る必要がある」

 

この世界は元の世界に比べれば情報入手の技術は発達していない

 

監視カメラも無ければネットやデジタルも存在していない

 

しかし、それに変わる魔法技術は存在している

 

遠隔で会話できる魔力持ちも存在しているが

 

絶対的に数が少ないようだ

 

魔力の種類とその%をはっきりと調査することは難しい

 

人伝(ひとづて)の曖昧な調査内容で換算された結果によれば

 

希少な魔力持ちと言うものがあるらしい

 

雷撃の魔法もその一つだ

 

魔力属性と言うのは適性の有無と言うより体質に近い

 

才能と言う捉え方もできるが

 

特定の属性を強く持つと他の属性がほとんど使えない

 

その理由についてはまだ解明されていない

 

ごく稀に複数の魔力属性を持つ者も生まれるが

 

相殺関係の魔力属性を持ってしまうと不安定になり

 

何らかの原因でバランスを崩すと心身にダメージを受けて

 

最悪の場合生命が維持できなくなる可能性もある

 

アルフォード第一王子のようにバランス感覚が優れた者は千人に一人と言われている

 

しかし彼が何故相殺する魔力属性を保持したままバランスを崩さないのかすら

 

今の魔力学会でもわかっていない

 

魔力について未だはっきりとわかってはいないようだ

 

「つまり、魔法は開拓する余地があると言える」

 

スゥオールやシルバレッド王子のような全ての魔力属性を持つ存在も生まれていて

 

シルバレッド王子のような不死身体質の場合は例外としても

 

スゥオールは常に安定している

 

魔法の可能性についてはスゥオール自身も感じていて

 

総魔力量は生まれ持ったまま変化しないという定説がある

 

スゥオールは自分の魔力量が子供の頃と比べて増えていることから

 

この定説に疑問を抱き祭司たちで実験をしたが

 

一人も魔力量を増やせた者は居なかった

 

しかしスゥオールは「理論的には可能なはずだ」と諦めていない様子だ

 

可能性は彼のような人間が生み出すものだと龍炎は考えている

 

「可能性は作ることができる、実に愉快だ」

 

スゥオールは元祭司長という崇高なる存在だったにも関わらず

 

その性質は俗人に近い臍曲(へそま)がりで捻(ひね)くれ者だ

 

冤罪(えんざい)で家族を処刑されたのだからそうなっても仕方が無い

 

当初はそう思っていたが、昔の彼を知る者達から彼についての情報を入手する度に

 

彼の変人ぶりが浮き彫りになって行く

 

祭司長時代から彼は変わり者と呼ばれていたらしい

 

これは持って生まれた彼の個性なのだろうか

 

「何れにせよ、私には善人ぶった人間より小気味よい」

 

元の世界の龍炎にとってこのような感情も持ち合わせていなかった

 

ただ手駒として利用できるかどうかの判別しかして来なかったから

 

これはシルバレッド王子の感性と龍炎が融合して生まれた感情だろうか

 

「まずはこの世界のことをもっと知る事だ」

 

話を戻そう

 

海に面している国は

 

ヴァルギア国、ルーフェンベルク国、ザードバイズ国その南西に位置するデボアス国

 

デボアス国の北側には西の最果ての国であるゴーライル国存在していた

 

ただゴーライル国は東にセイレスの森がありこの森へ侵入することすら出来ない

 

南側にデボアス国が隣接していて行手を遮っている

 

大国ながら孤立状態で貿易もデボアス国を通してしか出来ない

 

その為デボアス国へは進軍するより貿易を中心に国交を結んでいるようだ

 

従ってゴーライル国は世界へ進出することが難しい

 

海に面していない国では、世界の中心に位置しているザーダイン国がある

 

この国は商業が盛んで

 

戦ではなく流通によって国を維持している

 

北側にセイレスの森があり西側にデボアス国が、東側にザーダイン国が隣接する

 

南側にはザードバイス国が存在していた

 

「敵国に取り囲まれたカタチで存在しているとも見えるな」

 

他の大国に手を組まれたらひとたまりもない

 

「こんな場所に召喚でもされたらたまったものではないな」と龍炎は思った

 

「しかし、この国は絶対的に不利な立地条件を絶対的有利に活用している」

 

龍炎は鳥肌を立てた「面白い」

 

今では流通、貿易においてザーダイン国以外考えられないと

 

他の国にも刷り込んでいる

 

何よりこの国は特に特産物が無い

 

売りがない絶対的な不利な立場を逸早く貿易流通を牛耳る事で

 

様々な国の特産物を売り買いする一つのルートを作り出し他国の追随を許さない勢いだ

 

海に面していない海産物は、保存系の魔法保持者が多いため

 

それぞれの海域でしか取れない海産物を流通販売している

 

これは保存系の魔力属性持ちの魔法使いが多いから出来ることだ

 

保存系の魔力属性持ちは極めて少なく、恐らくザーダイン国でのみ生まれている

 

他の国でも居ない事はないがジンガイが調べた限りでは

 

その全てがザーダイン国地域出身だった

 

保存系魔力属性とはゲームなどではアイテムBOXのような魔法だが

 

この世界ではアイテムBOXのような魔具は存在していない

 

そこで異空間を作り鞄などにリンクする事によって

 

様々なものを異空間に入れることで時間が止まる

 

厳密には時間が止まっているのではなく異空間とは時間の流れ方が違うから

 

腐敗するのに何年も掛かる

 

実際何年も異空間に入れる事はないから時間が止まっているように感じて

 

そのように伝わっているようだ

 

異空間の大きさは魔力量に比例する

 

実際は具現化系の魔法なのだが

 

ほとんどの場合海産物など生物の商業に使われていたことから

 

保存系の魔法と呼ばれている

 

商業に使われる魔法は意外に多い

 

転移魔法の保持者も極めて少ないが

 

ザーダイン国の商人達が片っ端から雇い仕切っている

 

異空間に転移魔法を組み合わせることで流通経路も発達して行く

 

それだけでなくザーダイン国は道路整備開拓に力を入れていて

 

どこの国とも商いが出来るように動き始めている

 

8大国になってまだ数年しか経っていない

 

それぞれの国は自国の維持のために奔走している時期だ

 

その点ザーダイン国はいち早く商業に力を入れたのは

 

辺境伯が王だった頃から商業が盛んだったから

 

それを統括して大国として世界的に展開するように素早く動いている

 

ここに至る経緯の中には、レセルティア第四皇女が活躍していたらしい

 

ジンガイの話によればシルバレッド王子より2歳年下の8歳で国政を任され

 

10歳の今ではこの国の国政は殆ど彼女に任されるようになった

 

彼女の知略はザーダイン国中に知れ渡っている

 

実際彼女の手腕によって、いち早く商業的に他国を席巻(せっけん)している

 

一方情報網も蜘蛛の巣のように張り巡らせていて

 

密かに軍事力も強化していると噂されているが、ジンガイでも調べられなかった

 

それだけセキュリティを強化しているのだろうか

 

「まるで楓そっくりだこの抜け目のなさは」

 

龍炎はその話を聞いて自然に笑みが漏れた

 

「転生者なのだろうか、元の世界で相当の実力を発揮した者だと考えれば腑に落ちる」

 

その一方でザーダイン国は警戒すべき国であると彼は考えた

 

「もしその商業の技術を軍事転用したり他国を侵略する戦略へ用いた場合」

 

神官たちに工作員を忍び込まれた可能性は非常に高い

 

「もしかするとレセルティア皇女は、相当腹黒い策士かも知れない」

 

表向きは商業を中心に平和的に世界に君臨するように見せかけて

 

実際は戦略的に国を荒らして弱めて世界征服を目論んでいる可能性はある

 

たった10歳の子供だが、彼女が転生者なら考えられない事はない

 

「やれやれ一つのゲームに転生者は一人で主人公である可能性は高いのだがこの世界は違うのかも知れない」

 

まだシルバレッド王子のような転生者と出会っていないが

 

この世界に転生者がいるとしても

 

それで共闘できるとは限らない

 

「これは単なる興味だ、この世界にどれだけの転生者が生まれているのか、そして会ってみたくなった」

 

今回貴族たちを助けられたなら

 

龍炎は世界中を旅して自分の目で見て判断しようと考えた

 

見聞を広める目的なら第一王子も許してくれるだろう

 

世界地図を頭に描いただけで彼の好奇心は強く彼を駆り立てる

 

龍炎は頭を強く横へ振った

 

「今はまず貴族たちを救うことが先決だ、その為にはアルフォード第一王子と計画を詰めて行かなければならないな」

 

つづく

 

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あとがき

 

この物語の世界観を描いていなかったので

 

地図を描くのは得意ではありませんが大雑把に描いてみました

 

主人公の国は極東に位置していますね

 

第二章では龍炎が世界を旅する話にしようかと考えています

 

その中で他の国の事も詳細に描いて行こうかと思います

 

8つの大国もそれぞれ問題を抱えていることや

 

一体どこの国が神官たちの中に工作員を送り込んだのか

 

それを探る旅でもあります

 

少し寄り道をしましたが

 

次回は話を戻して少しは進めようと思います

 

まる☆