ジンガイらによる情報と

 

宮廷内で調べた情報を合わせてこの世界の状況を理解することに

 

龍炎は自分の能力を鍛える傍らで実行していた

 

この世界は元々25の国が勢力争いをしていた

 

戦争は国を喰らいながら8つの大国がこの世界に残った

 

八つの大国の中央の北側に人間が踏み込めない森があり

 

領地拡大の戦争はこの森に阻まれて沈静化している

 

戦争が沈静化した理由は他にもある

 

大国は領地を広げ過ぎた

 

その為地方自治権を認めざるを得ない

 

地方自治を認めてしまえば国を取り戻し独立するため

 

元王族や貴族が立ち上がり内乱が絶えない

 

八つの国は内乱の対処に追われて他国侵略にまで行きついていない

 

地方の貴族はもとその地域の国の王族や貴族たちで

 

内乱を沈静化するために彼らに辺境伯の地位を与えた

 

ヨーロッパでの辺境伯の地位は伯爵より上位に位置するが

 

この世界では侯爵と同列で公爵より下の位置のようだ

 

辺境伯という地位を設けることによって彼らの自尊心は満たされ

 

またその地域の者たちの侵略された憎しみを緩和する効果も生み出された

 

世代を超えると憎しみは薄れて行く

 

辺境伯の地位の高さが誇りへと変わる頃

 

漸く憎しみの連鎖による内乱は沈静化した

 

とは言え大国として国を維持するには更なる期間が必要である

 

その最中、この世界の中心に位置する森にも異変が起こった

 

独自の生態系を維持して単独で存在していた聖地のような巨大な森

 

人々はセイレス(神聖)の森と呼んでいる

 

神聖と呼ばれているが、実のところ魔物が跋扈(ばっこ)している

 

言わば魔物の森だが不思議と魔物はこの森を出ようとしない

 

従って人間がこの森に侵入しない限り魔物たちが人間の世界を襲う事はない

 

またこの森に足を踏み入れた人間は二度と戻らない為

 

この森がどうなっているのか人間たちにはわからない

 

人間は古来よりわからないものを恐怖し同時に畏敬の念も抱くようになる

 

魔物たちの住む森だがセイレス(神聖)の森と呼ばれ世界中に広まった

 

そんな森に突如として魔王が誕生したのだ

 

誕生したのは魔王だけでは無い

 

魔王に仕える魔族も同時に生まれている

 

魔族の上位種たちは限りなく人間の姿に似ていて

 

魔人と呼ばれるようになった

 

当然魔王は更に人間の姿に近い

 

魔王は魔人に地位を与え魔族を配下にした

 

魔族たちは魔物を捕食或いは使役するようになった

 

人間の国の様なカタチを作り出し魔人による魔族の軍隊を組織した

 

人間たちにとって脅威なのは

 

魔王のいるこの森は世界の中央の北側に位置するから

 

魔王軍からはどこからでも人間の国を侵攻することが出来るところだ

 

一方人間はこの森へ進軍することは極めて難しい

 

今までこの森へ足を踏み入れた人間が戻って来たことは無い

 

この森の情報が何一つないのだ

 

何度も調査隊を組織してそれぞれの国で調査をするも

 

何れも消息を絶っている

 

恐らく魔物や魔族に全滅させられたに違いない

 

これでは圧倒的に人間側が不利である

 

龍炎はここまでの話に違和感を覚えた

 

「森への調査隊はいずれも全滅させられて一人も戻ってこなかったとすれば、一体何処から魔王が誕生した情報を入手出来たのだろうか、まして魔族や魔人の存在についても、人間の国へ進軍でもしているなら理解できるが、そのような記述や情報をどこの国からも得られなかった」

 

魔王誕生なんて本当に起きているのだろうか

 

どこかの国が意図的に他の国へ吹聴して拡散させた可能性もある

 

「しかしその目的はなんだ」

 

平和的に考えれば

 

人間たちが戦争をさせない為に

 

この嘘を拡散しているという考えが浮かんだ

 

この世界の中央の北側に魔王が居て人間の国を狙っているとすれば

 

人間たちは魔王を警戒して人間同士の戦争を起こす余裕がなくなる

 

「しかし、全てが何処かの国が拡散させたフェイクニュースで魔王や魔族軍なんて存在しないとすれば話は違ってくる、他の国は魔王軍へのみ警戒に集中することになる」

 

この一連の嘘の情報を拡散させた国は軍事力を整え世界征服に乗り出す可能性は高い

 

「いや、もっと簡単な方法がある、それぞれの国へ工作員を送り込み偽情報を拡散することで国を撹乱(かくらん)させる、或いはその国の実権を握らせ祖国が進軍を開始すれば、その国を明け渡す手筈を整えさせる、軍事侵攻する前にその国は既に敵国の手の中に陥っていることになる」

 

龍炎はそこまで考えると

 

突如国の実験を握った「神官」たちに行き着いた

 

「何処の国かわからないが、相当の策士がいるようだ」

 

この論理にも盲点はある

 

「問題になるのは、ずっとシルバレッド王子を付け狙っていた魔女がもし魔人だとすれば、魔王の誕生も誰かが拡散したフェイクニュースとは言い難い」

 

とは言え

 

突然現れて国や軍隊を起こせるものだろうか

 

元々その世界に存在していたと考える方が自然ではないか

 

しかし人間の世界には不干渉だ

 

魔王は世界を征服するつもりは無い

 

或いは、世界征服できないなんらかの事情を抱えている

 

それを見越してのフェイクニュースだとも考えられる

 

神官についてジンガイたちにも調べさせたが

 

他国と通じている証拠は中々見つからない

 

外からの監視では難しい

 

神官たちが他国の工作員である証拠が見つかれば

 

この説の可能性は格段に上がるのだが

 

一番最悪な説を挙げれば

 

魔王や魔人たちは違う世界から突然この世界へ来たことだ

 

そうなれば世界征服の準備をしているとも考えられる

 

「もっと最悪なことを考えれば、魔王を始め魔人たちは何者かによって召喚された場合だ」

 

ただその場合神官たちのような工作員を使って国を内部から崩すような

 

コスパの悪い策略などせずに

 

魔王軍によって国を攻めさせて弱っている所を侵略するだろう

 

召喚された者は召喚したものには逆らえない呪詛が植え付けられている筈だから

 

魔王と魔人たちを自在に操る事も可能な筈だ

 

従って召喚説の可能性は極めて低い

 

彼女はたまたま魔族の上位種として生まれた魔人だとすれば

 

魔王の存在も怪しくなる

 

「しかし、あんな化け物じみた魔力持ちが軍隊となれば我々人間に勝ち目などない」

 

龍炎ですら彼女が油断したから辛うじて勝てたようなものだ

 

彼女と同等かそれ以上の魔人が進軍して来た場合

 

太刀打ちする術など思いつかない

 

そこまで考えて彼は首を大きく横に振った

 

「今は工作員の可能性が濃厚な神官たちの力を弱める事に専念すべきだ」

 

大事にばかり目を向けて小事を怠れば、結局大事も成し遂げられない

 

「大事は結局小事達成の積み重ねによって成立することが多い」

 

ビジネスで培った彼の知恵が果たしてこの世界で生かせるのかは今はまだ未知数である

 

それが転生者の可能性が高いシルバレッド王子より自分が選ばれた理由であるなら

 

龍炎の最大の武器はその知恵にあるのかも知れない

 

この世界の神々は転生者であるシルバレッド王子を犠牲にしてまで

 

龍炎をこの世界へ召喚させた

 

だとすれば彼にしか出来ない使命が存在すると見て間違い無いだろう

 

龍炎はシルバレッド王子として王都学院へ復学した

 

驚いたことに絶大な人気だった

 

3人の王子の中で一番美しい

 

しかし剣技でも勉学でも二人の王子に劣っている

 

王としての資質に欠ける筈なのだが

 

何故か男子生徒にも慕われているのだ

 

「一体シルバレッド王子はこの学院で何をしていたのだろう」

 

記憶を失くしているということで生徒たちにシルバレッド王子の事を聞いて回った

 

するとほとんどの生徒が二人の兄のために

 

わざと実力を隠していることを知っていた

 

そして龍炎は次第に彼が何をしようとしているのか見えてきた

 

「シルバレッド王子はこの学院で信頼できる配下の選出をして育てようとしていた」

 

一体どこまで計算ずくで動いているのだろうか

 

頭脳すら龍炎に引けを取らないとなれば

 

ますます自分ではなくシルバレッドこそこの世界に必要な人物ではないか

 

そう思えてならない

 

そしてもし自分が彼なら、密かに信頼できる配下を育て裏で実権を握る

 

そして密偵紛いのことを生徒にさせていたかも知れない

 

すると二人の生徒が近づいてきて

 

「記憶を失くされているとの事ですが」

 

「何か私に?」

 

「実は王子が休まれる前に任されていた神官たちの動きについての報告をしたいのですが」

 

シルバレッド王子はすでに密偵候補も育てていたようだ

 

「神官について私はなんと言っていた」

 

「神官は工作員である可能性があると王子は私たちに探らせていました」

 

全く同じ見解をしていたようだ

 

「それで動きはあったのか」

 

「はい、やはり他の国と繋がっているようです」

 

彼の報告によれば、行商人を通じて他国との連絡をとっているらしい

 

あまりにも良くある手段だがこの世界では有効かも知れない

 

監視カメラは存在しないし、神官たちの魔力によって撹乱され

 

認識阻害もあるようだ

 

勿論密偵紛いの事をさせている生徒には認識阻害の魔力は効かない

 

そういう人材を選んでいるのだろうか

 

「ありがとう」

 

すると二人の頬から涙がこぼれ落ちた

 

「どうかしたのか」

 

「いえ、1日も早く記憶が戻られん事を願っています」

 

どうやら彼らにも強く慕われているようだ

 

「どうしてそこまで私に?」

 

「私たちは没落貴族を親にもつ身で将来の希望もありませんでした、辛うじて学院へ入学を許されているのですが金も続かず学院を去ろうとしたところをシルバレッド王子に声をかけられ、最初は学費目当てでしたが、シルバレッド王子はこの国のために懸命に働かれていると知り心打たれました、私たちは自分の生い立ちの不幸ばかりに目が向いていましたが、目が覚めました」

 

「私たちはシルバレッド王子の為ならなんだってします」

 

「他の生徒も同じ気持ちだと思います」

 

龍炎は強い心の痛みを覚えた

 

「ありがとう君たちの心は例え記憶を無くしても私の心に刻みつけておく」

 

偽善者だと自分でも理解しているが

 

今シルバレッド王子は彼らの心の支えになっているようだ

 

本当の事を打ち明ければきっと心の均衡を保てなくなるだろう

 

「これは借りだ、奴(シルバレッド王子)には返すことが出来ない程の借りがある、これを返す方法はただ一つしかない」

 

それは生前彼が成そうとしていた事を彼に変わって成し遂げてやることだ

 

幸い思考パターンが自分と類似しているから

 

彼が何を目指していたのかも手に取るように理解できる

 

神官たちの悪事を暴き勢力を弱め、再び王の権威を復活させる

 

また侵略軍に備えて国力を強め軍事力も強化する

 

第一王子を支えて陰で彼のサポートを知られずにする

 

勇者として召喚された目的以外にもこれだけは果たしてやろうと決めた

 

龍炎が学院で生徒たちを調べると、ほとんどの生徒は彼の支持者であり

 

ほぼ忠誠を誓っている

 

一人一人の抱えている問題を解決したり相談に乗り

 

またこの国のために働くことに喜びを感じるように仕向けている

 

これは洗脳に近いが

 

自分の感情の流れを感じ取り分析すれば

 

間近いなくシルバレッド王子はこの学院の生徒たちを心から愛している

 

そういう答えに辿り着く

 

それは元の世界で龍炎が辿り着くも出来なかったことだ

 

結局人間は理屈ではなく感情で動く生き物だということ

 

だから理屈で人を動かそうとするより

 

愛情で接すれば勝手にみんなが自分のために動くようになる

 

人間の心を持ち合わせて生まれてこなかった龍炎にはできない事だった

 

その理論を楓が彼に変わって実験して実証することが出来ている

 

それでも裏切り者は後を絶たない

 

しかし命懸けで守ろうとしてくれる人も多く生まれる

 

シルバレッド王子はそれをこの学院で実証して見せたのだ

 

これならもしかするとこの国を建て直すことができるかも知れない

 

龍炎は優秀な生徒を集めて神官たちの悪事を暴く計画を練った

 

その矢先にとんでもない事件が起きた

 

それは祭司による祭りと神官たちによる祭事が重なった日のことだ

 

勿論この国の住人のほとんどは神官たちの祭事に集まった

 

王もまた神官たちの祭事に参列せざるをえない

 

そこへ元最高祭司長であり、この国随一の魔法使いである

 

スゥオール・ガーデニッツが現れた

 

彼の家族が処刑されて自分も処刑される所を逃げ出した

 

恐らく復讐の機会を狙っていたのだろう

 

彼もまた全ての属性を持った特異な魔法使いである

 

神官が国を掌握するとき最も邪魔になるのは最高祭司長であるこの男だった

 

勿論神官たちが仕組んだ冤罪である

 

これを機に祭司たちは力を失い

 

スゥオール・ガ―デニッツが冤罪を訴えても殆どの貴族は神官たちに懐柔されていて

 

彼もまた処刑場に送られたが

 

神官たちの魔力をもってしても完全に拘束することは出来ず

 

彼の逃亡を許した

 

王侯貴族たちの殆どが参列している神官たちの祭事に彼は乱入し

 

まず最初に神官長の首を刎ねた

 

数十人の神官たちが力を合わせて拘束魔法を彼に掛けたが

 

一瞬でそれを解いてしまった

 

あらゆる魔法に精通した彼の魔法技術に対抗できる魔法使いは

 

恐らくこの国にはいない

 

雷撃魔法が次々に神官たちの命を奪い

 

王に神官長の首を投げつけた

 

「王よ次はお前の番だ」

 

こうなってはもう誰にも止められない

 

「あいつの魔力は底なしか」

 

勇敢な兵士たちまで怯むほどの圧倒的な魔力と魔法技術は

 

この十数年間戦闘に特化するように鍛えたに違いない

 

今王を殺されれば国は荒れる

 

神官たちを始末してくれたお陰で敵国は困惑するだろうけれど

 

国が荒れれば神官を送り込んだ国が攻め込んで来る可能性は高い

 

その場合厳しい戦いを強いられることになるだろう

 

仕方なく龍炎が彼の前に立ちはだかる

 

「なんだ小童、私に挑むつもりなのか」

 

「第三王子シルバレッドです、あなたとは戦いたくありません」

 

「貴様は王の子供と知れば生かしておくわけには行かない」

 

「今王が討たれれば国が荒れます、この神官たちという工作員を送り込んだ国が雪崩れ込んでこの国は滅びます」

 

彼が合図すると学院の生徒たちが次々に神官たちが他国へ通じている証拠を見せる

 

「私はずっと神官たちを調べてきました、これらの証拠をみれば奴らが他国の工作員であることは明白になる筈です」

 

「それがどうしたというのだ、こんな国滅べば良い」

 

「それではあなたの敵討ちは成立しません」

 

「なんだとぉ」

 

「考えてみてください、あなたに事実無根の罪を着せてあなたの家族を処刑へ追い込んだのはこの神官たちです、つまり神官たちを背後で操っている国こそがあなたの本当の仇です」

 

スゥオールは暫く考え込んだが

 

「しかし、そのことは王も知っていたのではないのか、つまり奴も同罪だ」

 

「それでは、神官たちを我が国へ送り込んだ目的を遂行することになります、今王を殺すことは、あなたの家族を無実の罪で処刑に追い込んだ国の思う通りにあなたは動かされている事と同じです」

 

スゥオールは怒りのあまり雷撃をシルバレッド王子に放つ

 

しかしその雷撃は小さく分断されて四散して行く

 

「お前雷撃持ちなのか」

 

龍炎は首を横に振るが

 

「同じ属性持ち以外こんなことはできないぞ」

 

そう言うと水球を作りシルバレッド王子をスッポリ包み込んだ

 

数分もすれば窒息死してしまう

 

次の瞬間水球は爆発するように弾けた

 

雨のように水滴が降っては辺りを水が打ち付けた

 

「面白い、気が変わった、王よお前の息子を連れて行くぞ」

 

そう言うと突然現れた鉄の鎖にシルバレッド王子は拘束された

 

「魔力の強さは互角だがこの技術は複雑過ぎて解けない」

 

スゥオールはシルバレッド王子を鎖ごと抱え込んで森の中へ消えて行く

 

「とりあえず、王は無事だ第一王子もいる、神官たちの正体も暴露できたし、この男が殆どの神官を殺した、後は神官に懐柔された貴族を突き止めれば工作員は力を失うだろう、他国の侵略は阻止できた」

 

龍炎は心の中で呟きながら考えた

 

この男から魔法の技術を学べば強くなれる

 

「どうやら私を殺す気はないようだ」

 

もしスゥオールが彼を殺すつもりならその場でやっていた

 

それだけの技術を持っている

 

龍炎は上には上があることを思い知らされた

 

本気で戦えば勝てる気がしない

 

「スゥオール・ガ―デニッツ祭司長」

 

「私はもう祭司長ではない」

 

「私を弟子にする気はありませんか」

 

「なんだと、貴様は毎回私を驚かすな」

 

「私を弟子にすればあなたにとって有益以外はありませんよ」

 

「お前は頭が回る、私がその口車に乗るとでも思うのか」

 

「私は自分の弱さを思い知っています、ですがあなたから魔法の技術を教えてもらえればもっと強くなれる」

 

「お前が強くなったところで私になんの益があるというのだ」

 

「あなたの本当の敵討ちの手助けができます」

 

「まだそんな事を言っているのか」

 

「嘘ではありません、奴ら神官たちはその国が我が国を餌食にするために送り込んだ工作員です、その国こそあなたの家族の真の仇です」

 

スゥオールは森の大樹の枝に鎖を結んでシルバレッド王子を吊るした

 

腕を組んで彼を睨みつける

 

「今この場でお前を殺すことも出来るぞ」

 

「それはない、いつでも私を殺すことは出来たはずですがあなたはしなかった」

 

「神官共は本当に敵国の工作員なのか」

 

「間違いありません」

 

「しかしお前の父は、そのことを知りつつも処刑の許可をした、奴も同罪だ」

 

「だからこそ、私を弟子にするのです」

 

「お前は何を言っているのだ」

 

「私は今まで自分の実力を隠して生きてきました」

 

「ますますわからないぞ」

 

「隠しながら信頼できる配下を集め育て準備しています、私には二人兄がいて私が王位につくのは難しい」

 

「お前の実力は大したものだそれを示せば可能性はあるだろう」

 

「その場合毒殺される可能性が高くなります、どんなに魔力が強くても毒体制でもない限り簡単に殺されます、或いはあなたのように陥れられて処刑される可能性もある、私はまだ十歳の子供ですから」

 

「その十歳の子供が王位を狙っていたと」

 

「この世界では珍しいことではありません」

 

「お前はとんだ食わせ物だな、下手に食えば腹を壊す」

 

「否定はしませんが、私の真意は我が国を守りたいその為なら手段を択ばない」

 

「その為なら私の恨みすら利用するつもりだろう」

 

「その通りです」

 

スゥオールは拳を握り締め、歯を食いしばりながら怒りを露わにした

 

「ですがあなたは仇が何者かもわからず本当の敵討ちもできない、このままで良いのですか」

 

「しかしお前にもどこの国の工作員かわからないのだろう」

 

「はい今のところは、ですが必ず突き止めます」

 

「私の魔法技術を今まで会得したものはいない、私は教えるのが下手だ」

 

「それは問題ありません、あなたは自分の技術を誰かから学びましたか」

 

「それは先輩たちの技術を盗んで自分なりにアレンジしてきた」

 

「私にもそれが出来ないとは限りません」

 

「つまり私から技術を盗み取るというのか」

 

「そして自分なりにアレンジします」

 

人を知るは智なり、自らを知る者は明であると老子は言ったが

 

人から技術を盗み、自分のものにして更にアレンジを加えることも

 

これに属すると龍炎は自分の著書に書いたことがある

 

ここで一番重要なことは自らを知る明にある

 

自分の個性を知らなければその技術を身に付けても生かせない

 

その相手の技術がどんなに素晴らしいものであっても

 

自分の個性に合わなければ害にしかならない場合もあるから

 

今目の前にいるこの男は間違いなく龍炎と同じタイプの魔力体質である

 

彼から学ぶことは必ず自分のプラスになると確信した

 

数少ない全ての属性持ちであり技術も自分より遥か高みに辿り着いている

 

今まともに戦えば確実に負けるだろう

 

龍炎はこのチャンスを逃さない

 

自分より遥か上に到達している者を発見出来たなら

 

希望に胸が膨らんで楽しくて仕方がない

 

「つまり私はまだまだ強くなれるということだ」

 

この考え方だからこそ、彼は元の世界でビジネスを成功させ続けてきたのだろうか

 

「もし私が我が国の王になれたなら、必ずあなたの汚名を返上します」

 

「今更そんなことをして何になる、私の大切なものはもう何もない」

 

「この国の王の師の家族の墓を蔑ろにはしない、国を挙げて国葬して慰霊碑を立てましょう」

 

「そんなことをしてあいつらが喜ぶとでも思うのか」

 

「あなただ、あなたがこのまま不幸のまま消えて行くことこそあなたの家族の望むところではないでしょう」

 

「わかったような口を利くな、私の家族のことを何も知らないくせに」

 

「私の父がもし今のあなたのようになってしまったら無念で仕方がありません、それは自分の死よりも辛い」

 

「セリュードはそんな風に思うだろうか」

 

「あなたの汚名を返上することはあなたの為ではない、あなたの家族の為です」

 

そこまで言うと龍炎は自分が涙を流していることに気が付いた

 

こんな感情は元の世界では感じたことが無い

 

「私は本気でこの男の為にそうしたいと思っている」

 

冤罪で家族を処刑され仇を討つために自分の処刑時に逃げ出し

 

仇を討つためだけに生きて来た男は目の前で涙を見せた

 

「お前の心を受け取った、お前には私の全てを叩きこんでやる」

 

「ありがとうございます師匠」

 

シルバレッド王子のフィードバックは日増しに強く自分に影響して行く

 

まるで自分の魂と同化して行く感じだ

 

龍炎は感覚的にそれを感じ取った

 

「人間の感情とはこれ程までに影響力が強いのだな」

 

やはり人間は理屈よりも心で動く生き物だということが明確になった

 

つづく

 

 

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あとがき

 

私という奴は、どうしてこう話をややこしくするのが好きなのでしょう(=◇=;)

 

自分で自分の首を絞めている感じですヽ(;´ω`)ノあせる

 

フリーレンがミミックに頭から飲まれる気持ちが良く分かるあせる

 

アイデアに走ってしまう悪癖は治りそうもありません(--。。

 

ちょっとばかり面白くなってきましたヾ(@^(∞)^@)ノ

 

これではどう転ぶがわからない

 

話が空中分解と背中合わせになってきています(((゜д゜;)))

 

こういう危うい状態ってワクワクしてきます:.゜ヽ(*´∀`)ノ゜:。+゜

 

しかし、どうしようヽ(;´ω`)ノあせる

 

まる☆