テアは心の中でリーザとテーシー女王の無事を祈るしかなかった

 

「リーザ頼んだわよ」

 

恐らく原初のホムンクルスと同等の力を手に入れたネオホムンクルスと戦えば

 

リーザに勝ち目はない

 

それは恐らくリーザも思い知ることになるだろう

 

だから、彼女は間違いなくテーシー女王助けるために自分を犠牲にする

 

その間出来るだけテーシー女王が逃げることができれば助かる道もあるだろう

 

「リーザ」

 

折角心を許せる友となれたのに

 

自分の頭脳は彼女の犠牲を期待してしまっている

 

全てはテーシー女王を守るためだ

 

今のネオホムンクルスを倒せるヒントはルカ元帥から与えられている

 

今の自分がテーシー女王のもとへ駆けつければ

 

或いはリーザもテーシー女王と共に助けられるかもしれない

 

しかしルカ元帥が言った通り

 

それでは筋が通らない

 

トリメキア国の住人は誰一人納得しないだろう

 

この世界に戦を無くす

 

テーシー女王のその意志は何が何でも実現させなければならない

 

「私も心からそれを願っている、これは綺麗ごとではなく実現可能なのだから」

 

テアは決して夢想家でも理想主義者でもない

 

どちらかと言うと現実直視傾向が強い

 

そんな彼女が実現可能に思えるのはこのトリメキア国とテーシー女王の存在

 

そしてデラシーズ国という奇跡的な国が存在していたこと

 

西の三国も魔物に匹敵する戦闘力を持った種族がいる

 

魔法と魔術の国も生まれた、この国は未だ未知数だけれど

 

今のところトリメキア国とは友好関係を成立させている

 

そしてゴッドウィンドウ国が世界侵略などという悪行をすることによって

 

世界の均衡が崩れ、世界中の国々がカタチを変えるチャンスを迎えた

 

あらゆる事象が奇跡的に人間の世界を変革させようとしているように起こっている

 

これは絶好の好機なのだ

 

テアの聡明な頭脳からは、戦のない世界の構想がはっきりと見えていた

 

恐らくテーシー女王にも見えているに違いない

 

「この私の実行力とテーシー女王の女王としての資質を持ってすれば」

 

世界に戦をしなくて良いシステムを組み込むことができる筈だ

 

今彼女はテーシー女王を失うわけには行かない

 

ルカ元帥は自分がテーシー女王の意志を継承できるとみているようだが

 

現実直視タイプのテアには自分に決定的に足りないものがあることを認識している

 

「私は駆け抜けるだけ、世界を統率する中心軸になれる性質は持ち合わせていない」

 

もし世界に変革を成し遂げ平和な世界を築くことが出来たなら

 

「私はきっとそれをつまらないと思い壊してしまいたくなる」

 

少なくともテーシー女王の臆病なまでの慎重さは

 

この国の住人の幸せを願うが故のものだ

 

彼女の女王気質は生まれながらなのか

 

王族として育てられたものなのかはわからない

 

或いはその両方が奇跡的に融合して彼女の様な奇跡的な女王が生まれた

 

愛おしい、彼女の猜疑心も世界を平和にするためには必要不可欠だ

 

そして、臆病なまでに慎重な気質も元々は攻撃性の強い性質であることを考えれば

 

一心にこの国と世界の平和を願うが故に発生した機能に違いない

 

「私にはそこまでこの国を世界を愛することなどできない」

 

今目の前に戦の無い世界が手の届く所まで近くに見えているのに

 

テアは天を仰ぎ見て左手を天に掲げた

 

「天よどうか、私からテーシー女王を取り上げないで」

 

今や人間の世界は、このトリメキア国とテーシー女王を中心に変革しつつある

 

その軸となっているテーシー女王を失えば、再び乱世へ引き摺り戻されてしまう

 

テアは掲げた手を握り締めて、それを胸の所まで持って行く

 

「今はトリメキア国の住人を助けることに専念しよう」

 

合理的で切り替えの早いテアの頭脳はすぐさま

 

ネオホムンクルス攻略の戦術を導き出した

 

テアは養子となる時、テアという名前は俗的なイメージが強いため

 

リアという名前に改名させられていたが

 

「その時が来るまで、この貴き名前を名乗ることを差し控え致します」

 

そう宣言していた

 

だからテーシー女王も敢えて旧名のテアと呼んでいて

 

殆どの貴族もトリメキア国の住人たちも彼女をリアとは呼ばずテアと呼んでいる

 

「これは私がこの国に相応しい人間になれた時恐らくトリメキアの住人たちがリアと呼ぶでしょう、それまではテアと名乗ります」

 

未だにトリメキアの住人たちは彼女をリアとは呼ばない

 

彼女は女王によってではなく、領民たちによって自分の呼び名を委ねたようだ

 

それは国や地域領に対する愛情が抱けない性質を補うためでもある

 

そんな彼女がネオホムンクルスに襲撃を受けているバーハス地域領へ辿り着き

 

その惨憺たる有様を目の当たりにした

 

建物の崩落だけではなく

 

無数の領民の亡骸を足蹴にそのネオホムンクルスは立っていた

 

無残にも無差別に領民たちを殺して行く

 

その恐るべきは剣を一振りする度に剣に合わせて電撃が発せられ

 

あらゆる建物が斬り壊されて行く

 

これは本当に一体でこの国を亡ぼすことができるかもしれない

 

この地域領を守護している将軍も兵士も既に壊滅させられていた

 

テアは震えて立ち竦んでいる子供たちを庇うように立って

 

ネオホムンクルスと対峙した

 

「随分と好き放題してくれたものね」

 

「なんだ貴様は」

 

「私はテア、あなたをこの世界から葬り去るために来たわ」

 

テアの言い草にネオホムンクルスは大声で笑った

 

「この私を倒せるつもりか」

 

その言葉を聞くとテアはにやりとした

 

「あなたに勇気があるなら、私の軍隊と勝負する気があるかしら、臆病風に吹かれたなら仕方がないけれど」

 

「面白い乗ってやる、どんな罠を仕掛けたところでこの私には通用しないと思い知らせてやるまでだ」

 

「ならばついて来なさい」

 

テアは子供たちに顔を近づけ

 

「私が来たからにはもう心配無いわ、あなたたちは無事な大人の人にケガ人の治療と街の立て直しという私の命を伝えて、そして私がこのネオホムンクルスを倒すことも伝えてね」

 

そう言うと彼女の家紋が入った扇子をその子に渡した

 

利発そうなその子は頷き扇子を受け取ると走って行く

 

ネオホムンクルスは腕を組みその子供たちを見逃した

 

「へぇあなたって意外と勇敢なのね」

 

「当たり前だ、私はそこら辺のネオホムンクルスと思うな」

 

「あらネオホムンクルスにも個体差があるということね」

 

テアは心の中で言うと後ろを向き舌を出した

 

「あなたが勇敢であることは認識したわ、それなら黙ってついて来て、戦場はこちらで用意してあるから」

 

テアはテーシー女王からみれば無鉄砲な性質があり

 

時折それが顔を出す

 

今回も兵士たちが止めるのも聞かず

 

自分が先陣きってパーハス地域領へ行った

 

「私がネオホムンクルスを連れて来るからあなたたちは罠の仕掛けを点検して待っていなさい」

 

たった一人で護衛もつけず行こうとするので

 

兵士たちが止めるのは無理もないが

 

「死力を尽くして戦うのはこれからだわ力は温存しておくに越したことは無いわ」

 

それでも止める兵士に

 

「相手もたった一人よ、私が大勢を引き連れて行けば交渉は不利になるもの」

 

「あなたはネオホムンクルスに交渉するつもりですか」

 

「あらそれは私の先輩特許じゃない、商人気質はドルトエルン国(トリメキア国の旧名)だけじゃなくってよ」

 

テアはたった一人でパーハス地域領へ足を踏み入れ

 

見事ネオホムンクルスを誘き出すことに成功させた

 

「確かランドの父であるブラスト将軍がかつてカムイ元帥率いるネオホムンクルス部隊を壊滅させた地域領だったわね、この地域領はネオホムンクルスと余程縁が深いようね」

 

テアは9000の兵士を待ち構えさせている

 

レムン地域領へそのネオホムンクルスを連れて行く

 

レムン地域領とパーハス地域領の境界線には既にルカ元帥と共に

 

ネオホムンクルス対策の罠が仕掛けられていた

 

「ルカ元帥の言った通りね、強大な力を持つ者はその力を過信してしまうリスクを背負う」

 

テアは心の中で呟く

 

そしてそれは権力や名声も同じだと思えた

 

「私はどんなに力を手に入れてもそれを過信することはしなきゃね」

 

また心でつぶやくとテーシー女王の顔が浮かんだ

 

彼女はどんな時もその権力に溺れることは無い

 

元々王族で気位の高い気質はあるけれど、それでも彼女はその権力に溺れない

 

「私なら」

 

言いかけて止めた

 

その後はきっと、権力を握れば過信してしまうかもしれない

 

この時まだテアは

 

テーシー女王にはリリカの存在が大きく影響していることを知らない

 

彼女の気位の高さを否定しても余りあるほど彼女に多大な影響を与えた存在だ

 

「王族貴族とは領民の為に存在して初めて存在意義がある」

 

テーシーは綺麗ごとだと最初は思ったことだろう

 

しかし、リリカは貴族として彼女の理想を最期まで貫き通した

 

領民を庇い討ち死にしたのだ

 

今もテーシー女王は彼女の命を落としてまで示した生き様を心に焼き付けている

 

今のテアには彼女の心の根幹に影響を与える程の出会いはない

 

テーシー女王は彼女にとって慕わしい愛おしい存在であったとしても

 

彼女の心の根幹にまで影響を及ぼしてはいないからだ

 

テアが戦場に選んだこの場所は

 

かつてブラスト将軍がネオホムンクルス対策として

 

バーハス地域領とレムン地域領の境界線を巨大な岩で封鎖した場所だ

 

今はもう復旧していて痕跡すら伺えない

 

テアはネオホムンクルスがレムン地域領を背にするように立たせると

 

「ここで戦いましょう」

 

そう言うと剣を抜いた

 

「貴様が私と戦うつもりか、軍隊はどうした」

 

「いるわよ」

 

テアは剣を振り上げ振り下ろすと

 

無数の矢がネオホムンクルスを貫いた

 

ところがすぐさま再生する

 

不気味な笑い声が響く

 

次の瞬間巨大な岩が落石してネオホムンクルスを潰した

 

ところがその岩が爆発して飛び散り

 

そのネオホムンクルスは再び再生して立っている

 

「まさかこんなこと位で倒せると思っているのではないよな」

 

「当たり前よ」

 

今度は火をつけた矢が無数に彼をめがけて放たれる

 

途端に爆発を起きて燃え上がる

 

もちろんネオホムンクルスは再生を始める

 

そこへ樽に仕込んだ爆薬が投下され

 

ネオホムンクルスの身体はバラバラになった

 

それでも再生しようとする

 

バラバラになった体を引き離して兵士たちが連で細分化するまで叩き潰す

 

再生してもまた叩き潰す

 

テアはネオホムンクルスの首を持って来させ

 

石油が三分の一程入れてあるい直径1mくらいある鍋に頬り投げ火をつける

 

燃え尽きようとする状態から再生しようとすれば

 

石油を投げ入れ再び燃やす

 

これを繰り返すうちに、遂に青い炎となり燃え尽きた

 

「どんな再生能力も限界はあるものね」

 

しかし一体でこれほどの時間がかかるなら

 

とても一万体を相手に戦って勝てる気がしない

 

テアは南の方へ目を向ける

 

「リーザ、テーシー女王無事でいて」

 

二人とも無事なんて虫の良い話だと思うけれど

 

そう願うのは人情というものだろう

 

しかし、テアは被害に遭ったバーハス地域領を離れるわけには行かない

 

被害状況を把握して、ケガ人を助け行方不明の捜索

 

被害規模を特定して再建する費用の見積もりなど後処理をすませなければならない

 

気持ちは駆けつけて助けたいのだけれど

 

もちろん数人の兵士に事の次第を報告に行かせたが

 

間に合うかどうかわからない

 

仮に間に合ったとしても対処できることは限られている

 

「今は領民たちを助けることに専念しましょう」

 

テアは手際よく領民たちを助けた

 

九千人の兵士たちも全力で復興に人力した

 

瓦礫の下敷きになった領民も幾人も助けることに成功する

 

バーハス地域領領民たちは心からテアに感謝して

 

「リア様」と呼んだ

 

これはバーハス地域領の領民たちが

 

テアをトリメキア国の貴族であることを認めたことに他ならない

 

もちろんこれは一地域領が認めただけで

 

トリメキア国の全ての地域領が認めた訳ではない

 

彼女は未だ他国からの訪問者というイメージが消えてはいないのだ

 

「ルカ元帥、約束は守ってもらうわよ」

 

未だ事後処理に追われテーシー女王を助けに行けない彼女は

 

心の中でつぶやいた

 

 

つづく

 

人間たちの落日 落日の兆し もくじ

 

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あとがき

 

この物語の始まりはこのバーハス地域領でした

 

ドルトエルン国はトリメキア国となり

 

今や人間の世界の中心的な国になっています

 

ブラスト将軍を慕う一人の王族の令嬢が女王となり彼の意志を継ぐ

 

そして、人間の世界はこの国を軸に戦のない世界になろうとしている

 

この変革を成就するか失敗して再び乱世を引き摺り戻すかの戦いは続きます

 

またこの地域領はネオホムンクルスとの因縁の地とも言える場所です

 

同時にこの物語の出発の地点であり

 

そう言う意味でも因縁のある地域領ということになりますねΣ(@@;)

 

さて、いよいよ次回は、場面をテーシー女王へ移します

 

時系列を少し戻して

 

ネオホムンクルスは首を刎ねられたら絶命ましたが

 

強化されたネオホムンクルスは首を刎ねられただけでは死なない

 

身体をバラバラにされても再生してしまう(((゜д゜;)))

 

再生を百回以上繰り返さなければ限界に達しない

 

とんでもないバケモノになっていますね Σ(¯Д¯;)

 

とはいえ、限界値はあるようです

 

強化された魔力にも無理があるようで

 

ある一定のダメージを受ければ従来のネオホムンクルス同様に

 

青い炎となり燃え尽きてしまうようですΣ(@@;)

 

原初のホムンクルスはどうだったのでしょうか (((((・_・;)

 

それを知る者は亜魔王種か今の魔王たちくらいでしょうね∑(-x-;)

 

まる☆

 

追伸

 

謹んで安倍晋三元総理のご冥福をお祈り申し上げます

 

悲しすぎて言葉が出てきません