ルカ元帥の密偵が突然現れ耳打ちすると

 

その密偵に支持をしてから

 

溜息をつきながら彼は空を見上げる

 

ふと遠い過去の出来事が脳裏に浮かんだ

 

「そう言えば、昔から私はこうなるようだ、まったくつまらない」

 

遠い昔の記憶がより一層鮮明に彼を包み込み誘(いざな)う

 

「ルカルド、あなたは貴族としての威厳が足りない」

 

「ルカルド、どうしてあなたはそうなの」

 

母親と名乗っているこの女は私をいつも貶めることしか言わない

 

心配して?

 

嫌この女は自分のことしか考えていない

 

物心ついたころからこの女の考えていることは伝わってきている

 

王族として生まれたが、私は王族たちの腹の中が腐っていることをいつも感じて

 

醜い異臭のするこの世界が嫌いだった

 

私の父と名乗る男は人の目を気にして

 

私を部屋へ閉じ込めた

 

とは言え学校まで辞めさせることはできなかった

 

なんせ私は常に主席をキープしていたからな

 

頭の出来が悪くないことは誰もが認めていた

 

ただ王族としての型に嵌った礼儀が嫌いなだけだ

 

ルゥーデンという同じ王族の血筋の奴は常に私の味方のフリをしていた

 

もちろん奴の下心はミエミエだ

 

私の足を如何に引っ張るかしか考えていない

 

ただ表面上常に私の味方のフリをして

 

時には助けたりもしていた

 

「お前の薄っぺらい演技では私を騙すことはできない」

 

そう心の中で呟いた時

 

「そうか」私は学校の廊下の窓の外に死線を移し空を見上げた

 

私は自分を騙して欲しかったのか

 

頭が良いというのは

 

幸せな人生を手に入れることができる

 

幸運の切符を手に入れたようなものだが

 

頭が良すぎるというのは、話が違ってくる

 

世の中の裏の裏まで見抜いてしまうからだ

 

例えば気づきたくもない自分自身の心の状態まで明確に見えて来る

 

まるで他人事のように自分を分析してしまうため

 

情けない自分の姿も見えて来る

 

そして今の世界の有様が個人ではどうにも変えられないと気づく

 

後は絶望しかない

 

この世界は本当に

 

「つまらない」

 

王族の学業成績優秀者には期待をかけられ

 

国の重責を担った王宮の住人になれるチャンスも得られる

 

場合によっては王の側近にまで上り詰めることもできる

 

しかし王族でありながら、現実はその子の親の権力がものを言う

 

どんなに成績優秀でも貧乏貴族や没落状態ならその道は絶望的だ

 

そんな奴でも軍隊に入れば、無理やりにでも将軍となる

 

実力さえあれば元帥になることも可能だ

 

「実につまらないシステムだ」

 

私は王族直径の父を持ち成績優秀だから

 

王宮の住人になることは約束されたようなものだが

 

私は異臭のキツイ王宮が大嫌いだった

 

だから、わざと素行の悪い生き方をしてきた

 

ルゥーデンの馬鹿の口車にわざと乗り問題児扱いされた

 

結果的に父と言われる男も私を軍隊に入れる道を選択する

 

実のところ軍隊にも興味は無かったが

 

王宮の住人になるより遥かにマシだと考えた

 

王族の場合、上将からの出発だが

 

学校で常に主席の私はいきなり将軍として抜擢された

 

有難迷惑な話だ

 

王族で将軍となればいわばお飾り同然の扱いだ

 

前線に出ることは殆どない

 

我が国には英雄がいたケネス元帥である

 

私は奴に興味を持ち奴の戦跡を研究した

 

理にかなった戦術とはとても言い難いが

 

合理的で徹底的に計算されつくされている

 

緻密なまでの心理戦が組み込まれていることを

 

貴族共はどれほど気が付いているだろうか

 

そのうち、私が敵ならケネス将軍をどう打ち破るかを考えるようになった

 

面白いくらい愉快な戦術が次々に浮かぶ

 

「そうか、私はこう言うことが好きなのだ」

 

次第に私はケネス元帥に対して熱い思いが込み上げて来るようになった

 

「私ならこいつを倒すことができる」

 

私しかこいつを倒せないだろう

 

ところが、同じ国にいては、ケネス元帥と戦うことなどできない

 

私は思案に暮れた

 

そして妙案が浮かぶ

 

敵国へ亡命すれば良いのだ

 

その国で出世して軍隊を率いて、ケネス将軍を倒す

 

チャンスは直ぐに訪れた

 

初陣の時が来たのだ

 

王族の将軍が前線に出るときは確実に勝てる戦に限られる

 

我が軍3万に対して敵国は僅か一万にも満たない

 

踏みつぶすような戦だ、勝利を約束されている

 

「実につまらない」

 

だがこれが逆の立場ならどうだろうか

 

敵は三万、味方は一万足らずの寄せ集め軍で迎え撃つ

 

考えただけでワクワクしてくる

 

父と名乗る男が優秀な軍師に着けた

 

勝ちを更に強固にするつもりなのだろう

 

指揮も副将軍が全権を握っている

 

文字通り私はお飾りの王族の将軍なのだが

 

これは実に理想的だった、私がいなくてもこの軍隊は機能する

 

私は副将軍に全権をゆだね、優秀な軍師には

 

「敵には恐るべき戦術の天才がいる、油断すると寝首を書かれる」と忠告した

 

油断している相手を倒すほど面白くない者は無いからな

 

幸い真面目な男で、私の言葉を真に受けて戦術強化とあらゆる可能性を想定した

 

私は奴がどんな対策を練るのか敢えて目を瞑り

 

そのまま軍隊を抜けて、敵中へ逃亡した
 

もちろん根回しは済んでいる軍隊が襲ってくる情報を土産に亡命をするのだ

 

まさか敵の将軍が寝返り自分の軍隊を倒すなどあり得ない話だから

 

最初は信用されなかったが、敵軍を倒す戦術を話すと驚かれ

 

私はその日から自分を勝たせるために組織された軍隊を倒す算段に明け暮れた

 

愉快だ、実に愉快だった

 

地域領を要塞化して、あちこちに罠を仕掛け

 

辛うじて逃げ延びた兵士たちが城へ雪崩れ込むと

 

そこは人の気配すらない

 

そして最後の一人が入り込むのを確認すると

 

あらかじめ仕込んでいた岩を落石させて逃げ道を塞いでから

 

これもあらかじめ石油を要所に配置して火を放つ

 

爆発的に火が燃え移り爆発音と連鎖爆発が続き城は陥落状態だが

 

敵軍の生き残りはいないだろう

 

国では右往左往の大騒ぎだったらしい

 

初陣の私が敵の罠にはまり軍は全滅そして討ち死にしたのだ

 

「これで心置きなくケネス将軍と戦える」

 

そう思えたのもつかの間だった

 

当のケネス将軍は王とケンカして馬のクソをかけて出奔してしまった

 

「なんてことだ、これでは国に残ってケネス将軍討伐に回った方が良かった」

 

いやそれでは面白くない

 

そうか、私は対等な立場でケネス将軍を叩き潰したいのだ

 

私はまた空を見上げた

 

それからは傭兵となりゴッドウィンドウ国に流れ着き

 

サーティーン・キル軍の将軍に抜擢された

 

デュカルト王は実につまらない男だった

 

頭は確かに切れるが、綺麗ごとが心の中に蠢いていて

 

それも濁りに濁り切っている、本人は気が付いてないのだろうな

 

その時マルカスト元帥というチビっこい奴に出会った

 

同じ王族の癖に、ざっくばらんで気持のよい男だ

 

しかし、この私でも奴の腹の底までは読めなかった

 

こんなことは今までない

 

私は事あるごとに奴に絡んで戦を仕掛けたが

 

一度も負けはしなかった、だが勝てもしなかったのだ

 

面白い、奴との絡みは戦だけでなく

 

まるで風穴が空いた心を満たされるような気持になれる

 

こいつには私が欠落したものを持っているのだろうか

 

そんな楽しい時間もそう長くは続かなかった

 

ゴッドウィンドウ国が負けたのだ

 

デュカルト王が亡くなりサーティーン・キル軍も散り散りになった

 

そしてマルカスト元帥の死の知らせがあり愕然とする

 

「あいつは殺されても死ぬような奴ではない」

 

私は信じなかった

 

その私の考えは的中した、奴は生きていたのだ

 

私は小躍りでもしたい心境になった

 

再び奴に会おうと探し回るが行方不明になった

 

「世の中は思った通りにはならないようだ」

 

剣如聖人が連れて行ったと噂される

 

そんな仙人みたいな奴に連れ去られて魔物の森に行った可能性までは調べたが

 

そこから先はわからない

 

「どうかしたのルカ元帥」

 

女の声がルカ元帥を現実へと引き戻した

 

「世の中は思い通りにはならないように出来ているようだ」

 

「一体何のことかしら」

 

「今しがた、侵入してきたネオホムンクルスたちが仲違いして三方へ分かれたのだ」

 

「一体どうやってそんな情報を入手したの」

 

「簡単だ奴らのルートを予測して密偵を配置すると連絡網を作ることで逐一情報が入って来る」

 

「恐るべき情報網ね」

 

「さて、困ったことになったぞ」

 

「あなたでも三方に分かれたネオホムンクルスを倒せないのかしら」

 

「そうだな、貴殿は選択をすることになるだろう」

 

「どういうことかしら」

 

「三体ともテーシー女王を狙っていれば手が無くも無かったが、そのうち一体はどうやらこの国を滅亡させるつもりだ」

 

テアは暫く考えてから顔色を変えた

 

「テーシー女王か領民、どちらを助けるか私に選択しろというの」

 

「察しが良いな、9千人の軍隊はお前にやる、どちらかを選択して戦えネオホムンクルスを倒すヒントは既に与えているからできるだろう」

 

「実に不愉快で酷い選択肢ね」

 

「だがお前は選択するさ、テーシー女王より領民の方をな」

 

「あなたは私を試しているのね」

 

「お前だけではない、もしテーシー女王がこれくらいで殺されるようなら私が手を貸してやる値打ちなどないということだ」

 

「そして私が領民を見捨ててテーシー女王を助けるようなら、私も観限る訳ね」

 

「その通りだ、考えてもみろ、もしお前が領民を見捨てテーシー女王を助けた場合この国は不信感で満ちて行くだろう、結局テーシー女王も他の国の王と変わらないとな、ここは正義面した方が得策だ、万が一テーシー女王がネオホムンクルスに殺されたとしてもこの国にはお前がいるではないか、お前にとってもこれはチャンスだ、テーシー女王の意志を継承できるのは名実ともにお前しかいないだろう、しかも領民を命懸けで助けたとなれば、お前を支持しないこの国の住人は殆どいなくなる」

 

「悪魔のように誘惑ね、でもあなたにはわからないわ、私は今断腸の思いだということをね」

 

ルカ元帥は首を傾げた

 

「一つ聞いてよいかしら」

 

「内容によっては応えないぞ」

 

「あなたは人の心が読める能力がある、違うかしら」

 

「そうだが、それがどうした」

 

「それで合点が行くわ、なら私が今どんな気持ちか理解できるわよね」

 

ルカ元帥は首を傾げた

 

「お前がテーシー女王に執着していることはわかるが、異常な思い入れとしか思えない、そんな感情は邪魔になるだけだ捨てることを勧める」

 

テアは溜息をついた

 

「あなたは人の心が読めるのに人の心は理解できないようね」

 

「それはよく言われるだが、そんなものは無用の長物だ」

 

「まぁ良いわ、あなたに乗ってあげる、もし期待通りならネオホムンクルスを倒すまでの間は私に手を貸すと誓えるかしら」

 

「良いだろう、お前にその価値があると判断したら、それまでの間はお前に手を貸してやる」

 

決断すると駿足のテアはルカ元帥の密偵からネオホムンクルス足取りを聞くと

 

そのまま九千の軍隊を率いて行った

 

そのままルカ元帥は残り800の兵士たちに準備をさせた

 

二体の巨大な鎌のような武器と、巨大な鉄球を釣り鐘のように吊るした建物

 

その前に立ち、ある練習をさせると数時間後

 

ネオホムンクルスが現れた

 

「なんだ貴様待ち伏せしていたのか」

 

言うとそのネオホムンクルスはルカ元帥を見る

 

「貴様を血祭に上げるために待ち伏せしていた」

 

「人間の分際でネオホムンクルスである私に勝てるとでも思っているのか」

 

ネオホムンクルスは凄みを利かせた

 

「高々ネオホムンクルスの分際で私に勝てるとでも思っているのか笑わす」

 

ルカ元帥はふてぶてしく言い返した

 

「面白いまず貴様から血祭りにあげてやる」

 

「だからそれは私が先に言ったセリフだ、作り物の模造品が」

 

次の瞬間ネオホムンクルスの首が刎ねられ胴体も腰から分断された

 

鎌の様な武器が恐るべき勢いで斬りつけたのだ

 

すぐさま再生しようとするネオホムンクルスの頭の毛を掴むと

 

顔を近づけた

 

「流石にこれでは機能を停止しないようだ」

 

「貴様何をするつもりだ」

 

「知れたこと、実験だ」

 

そう言うとその頭を鉄球の吊り下げられた建物の下に放り投げる

 

途端に鉄球が落ちて顔が潰れた

 

胴体も再生しようとしている所を十人掛りで斧で体をバラバラに切り刻む

 

再生しては斬り刻むを繰り返す

 

腰から下も同じようにした

 

これを交代で間髪入れず続ける

 

鉄球が持ち上がると途端にネオホムンクルスの頭は再生を始める

 

「一体何回で絶命するかな」

 

「貴様止めろっ」

 

「そう言われて止める馬鹿が何処にいる」

 

再び鉄球が落とされた

 

そのたびに断末魔の叫び声が響く

 

鉄球の引き上げも交代制で何度も行われる

 

「お前の敗因を教えてやる、これは強者が良く陥ることだが己の強さを過信し過ぎる傾向だ、特に魔王すら倒せる実力を手にいたのだから仕方がないが、非力な人間に何ができる、己の再生能力を過信し初手を譲った結果がこれだ」

 

「貴様最初から計算ずくで」

 

「お前は攻撃を交わせば良かったのだ、自分の再生能力を誇示しようとしたのが間違いのもとだった」

 

繰り返し鉄球に潰されながら再生すれば

 

ルカ元帥によって精神的に攻撃される

 

次第にそのネオホムンクルスは精神的に追い詰められ悪態もつかなくなって行く
 

こんなことを100回以上繰り返しただろうか

 

遂にネオホムンクルスは青い炎となり消えた

 

「これでは時間がかかり過ぎるな、もっと効率よくネオホムンクルスを潰す方法を考えなければ」

 

ルカ元帥は楽しそうにつぶやくと

 

そこにいた兵士たちの背筋は凍りつく

 

「さて、テーシー女王は生き残れるかな、そしてテアは私の期待に応えることができるか高みの見物と洒落込むか」

 

ルカ元帥の不気味な笑い声が響く

 

つづく

 

人間たちの落日 落日の兆し もくじ

 

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あとがき

 

ルカ元帥はマルカスト元帥と同じのように人の心が読めるようですΣ(@@;)

 

しかもお互いに相手の心が読めない状態のようです

 

こうなると純粋に戦術合戦をすることができる

 

マルカスト元帥はルカ元帥にとって本当に愉快な相手でしょう


またとても残忍な一面を持っていて

 

無邪気に子供が虫を殺すように

 

ネオホムンクルスを実験体として殺しました(((゜д゜;)))

 

血も涙もない一面と時折顔を出す人間的な側面が行ったり来たり

 

捉えどころがなくて、少しばかり見失っていました

 

ルカ元帥が

 

トリメキア国を滅ぼそうとしているネオホムンクルスを倒す選択肢もありましたが

 

結局テアはどちらか一体のネオホムンクルスを倒すことしかできない

 

ルカ元帥としてもテーシー女王が殺された場合

 

テアが次期女王となった方が利用価値があると判断して

 

彼女に領民を襲うネオホムンクルスを倒す道を選択させたようです

 

一役彼女は英雄となるでしょう

 

ここで、ひとつ疑問が残ります

 

テアが領民を襲うネオホムンクルスを倒している間に

 

ルカ元帥が二体のネオホムンクルスを同時に倒すこともできたのではないかとね

 

それはテアの言葉にヒントがありました

 

「私を試しているのね」

 

そしてルカ元帥は応えます、お前だけではないと

 

つまり、テーシー女王も試しているということです

 

だから敢えて一体だけ倒すことにしたのでしょう

 

テアはそのことを理解したから

 

ルカ元帥は決して二体同士に倒すことはしないと判断して

 

断腸の思いで領民たちを助ける道を歩き出した

 

それにしても、テーシー女王は再び窮地に立たされますねΣ(@@;)

 

またリーザにとっても死力を尽くした戦いをすることになる

 

テアにとっても相手は原初のホムンクルスと同等の戦闘力を持つ

 

ネオホムンクルスだから勝てるかどうか

 

彼女は戦略が得意でも戦術はどうでしょうか

 

ルカ元帥はあっけない程簡単にネオホムンクルスを倒してしまいましたが

 

テアはそう言うわけには行かないでしょうね∑(-x-;)

 

そう考えると

 

そんなネオホムンクルス一万体と戦うなんて人間にできるのだろうか

 

魔王たちですら半数を減らした原初のホムンクルスと同等の戦闘力です

 

(((゜д゜;)))

 

カムイ元帥と同類のルカ元帥の手腕に任せましょうヽ(;´ω`)ノあせる

 

他力本願キャラ任せのまる☆