マルカスト元帥の戦術の傾向

 

異空間に閉じ込められた三体の魔王を一体どうやって倒すのか

 

ここから先はマルカスト元帥の戦術ではあるが

 

「一対一でしか戦わない魔王戦では誰が戦うのかは重要だが、少しばかり意地の悪い対戦を思いついた」

 

マルカスト元帥は意地悪そうに笑う

 

この劣勢でも彼は諦めることなく勝利を手にしようとしている

 

人間の世界では常に彼が戦う段階では既に勝っている状況になっていた

 

本来戦術は戦略を実行する手段に過ぎないものだが

 

マルカスト元帥は戦略を戦術で勝つために活用してきた

 

これは前代未聞なことである

 

何故なら戦に勝つ目的は戦略を実現することだからだ

 

マルカスト元帥のこれはその目的の実現より今目の前の戦の勝利を優先させることになる

 

彼の戦に勝つことへの執着は半端なものではない

 

時に目的すら犠牲にすることも厭わない

 

本末転倒をやらかしてしまうのだから

 

これにはマルチ能力の高いデュカルト王ですら苦笑することが多かった

 

「戦には勝ったが、これでは意味がないではないか」

 

「意味などどうでも良い、いやどうとでもなるものだ」

 

こんな会話を生前のデュカルト王としたこともある

 

だがマルカスト元帥の天才性はその後も生きて来る

 

一度崩壊した戦略の目的を別のカタチで実現して見せたのだ

 

デュカルト王ですら思いつかない発想で別ルートで実現する

 

「戦略は潰してしまったが、要は目的さえ実現してしまえば良いのだろう」

 

戦略は目的を実現するための手段に過ぎないとすれば

 

目的さえ実現できれば戦略の実現などそれほどの意味もないとも捉えることができる

 

「君はまるで猫が毛玉を転がすように戦をするんだな」

 

デュカルト王もマルカスト元帥の異常性と能力を讃えた

 

戦術は戦略を実現するための手段に過ぎないけれど

 

マルカスト元帥の場合これでは戦略すら戦術のように手段に過ぎないものに変えてしまう

 

この時デュカルト王は「マルカスト元帥だけは敵にしたくないものだ」と呟いた

 

それほどまでに彼を恐れた

 

ゴッドウィンドウ国戦役において

 

マルカスト元帥が寝返った時点でデュカルト王は敗北は必至だと自覚していたかもしれない

 

つまりマルカスト元帥はデュカルト王の天敵とも呼べるだろう

 

それはそのまま限りなくデュカルト王に近いランドにとっても同じ相性といえる

 

ランドにとってもマルカスト元帥は天敵となるだろう

 

そのマルカスト元帥の天才性は魔王界でも有効だとその後証明されることになる

 

その一つが異空間の魔王対戦の選出である

 

「たとえ魔物や魔王ですら心理戦は有効だということか証明されるだろう」

 

マルカスト元帥がいつもの高笑いをすると

 

その戦術を知ったシーランが彼に耳打ちする

 

「お前にとっても辛い戦になるではないかぇ、まさかお前はあれか、自分を痛めつけて喜ぶナニなのか?」

 

「違うぞこれは戦術だ、リスクは大きいがこの劣勢を挽回するにはこれくらいしなきゃならないからな」

 

小さい体で顔を真っ赤にして弁明するマルカスト元帥を見て

 

シーランとレムイリアは可愛すぎて笑いが溢れて来た

 

「お前ら一体何を笑っているんだ」

 

こうなればマルカスト元帥が怒りを示せば示すほど二人は笑い転げてしまう構図だ

 

「笑っていられるのも今のうちだ、この戦術が魔王に有効であればそのまま魔物たちにも有効な手段となるだろう」

 

二人があまりにも笑うので怒ることがバカらしくなったマルカスト元帥は冷静になり

 

この作戦を開始した

 

異空間に閉じ込められた魔王テトの前にマルカスト元帥とレムイリアが現れた

 

「なんだお前は、亜魔王種なのか、何故亜魔王種が人間とつるんでいる」

 

魔王テトは驚き自分の今置かれている状況より

 

亜魔王種の匂いが強いが人間の匂いもする不思議な存在に対する好奇心が強く働いている

 

しかも人間とつるんでこの魔王界のしかも異空間に入り込んできたのだ

 

「魔王テト私はマルカスト人間界では元帥をしていた、わけあって魔王界を裏切る魔王に組し、お前に引導を渡しに来た」

 

「面白いことを言う、お前が人間だという根拠はどこにある、そこの女は正真正銘の人間だと認めるが、お前は亜魔王種としてしか認識できないぞ」

 

そう言うと笑う

 

マルカスト元帥も負けじと高笑いをしてから

 

「お前の見解などどうでも良い、私が自分を人間だと思っている以上私は人間なのだ」

 

そう言うとまた高笑いをする

 

「面白いそう言う考え方は嫌いではないぞ、この異空間に入って来たからには狙いは私の首だろうな」

 

「その通りだ魔王テト覚悟しろ」

 

両者は剣を抜き構える

 

一方魔王ロドリアスが閉じ込められている異空間に入り込んだのは

 

魔王デスカラードだった

 

「魔王デスカラード貴様もこの異空間に閉じ込められたのか」

 

魔王ロドリアスは微塵も魔王デスカラードを疑ってはいない

 

「我々の捜索にきたのであろう、とんだとばっちりをさせてしまった」

 

両者は既に心のわだかまりも無く打ち解け信頼し合える仲になっているようだ

 

「そうではないのだ魔王ロドリアス、何も聞かず私と決闘してくれ」

 

そう言うと魔王デスカラードは剣を抜き構える

 

「決闘とあらば断わるつもりもないが、何故私と貴様が決闘する必要があるのだ、昔のことは共に水に流し心を通わせた仲になれたと思ったがそうではないのか」

 

「もちろんだ、貴様には何一つ遺恨はない、これは尋常な勝負だ」

 

魔王ロドリアスは暫く考えていたが

 

魔王デスカラードは決死の覚悟だと彼は感じ取ったが

 

余程のことがあるのだろうがそれを追求するような質ではない

魔王ロドリアスも剣を抜き構えた

 

そして、魔王グラードが閉じ込められている異空間に現れたのは

 

魔王サーマイオスだった

 

魔王サーマイオスと魔王グラードは接点が無く

 

どちらかと言うとあまり関わり合いを持たない間柄だ

 

特別仲が良いわけではないが

 

取り立てて嫌悪も感じない相手というのが双方の共通認識だろうか

 

しかし双子の魔王を匿っている可能性は高く

 

魔王界を魔王サーマイオスが裏切っている可能性も低くはない

 

腕を組み魔王グラードは冷静に尋ねた

 

「貴様は魔王界を裏切ったのか」

 

「魔王界を裏切ったのではない、ただ亜魔王種を絶滅させることに反対しているのだ」

 

「まさか亜魔王種に同情しているわけではあるまいな、奴らは狡猾で心の隙を突いて来る、貴様は騙されているのではないのか」

 

「そうではない私は亜魔王種の実態を知り、そして真実に辿り着いてしまったのだ」

 

すると魔王グラードは笑い出した

 

「私が知る限り魔王界で最も純粋でまっすぐな気性の貴様はどの魔王より亜魔王種に謀(たばか)られやすい、目を覚ませ魔王サーマイオス」

 

「では一つ尋ねるが、純粋とそうでない者の物事の見る目ではどちらが真実に近いと思われる」

 

魔王グラードは暫く考えてから笑った

 

「貴様はまだ若い、物事を判断するには経験が必要だ」

 

「では純粋とそうでない者が経験をする場合それを生かし自分の成長と他者への貢献に生かせる者は何れか」

 

「貴様はあくまで自分が正しいと言い張るのか」

 

「そうでなければ同じ魔王に刃を向けることはしない」

 

「しかしなぁ魔王界の掟を破ることそれ自体正しい道を歩いているとは言えないぞ」

 

「確かにその一点において私は道を踏み外している、だがそれでも通さなければならない筋道はあるのだ」

 

「魔王の掟を蔑(ないがし)ろにしても通すべき筋道などあるものか」

 

「ではその剣で私の真偽を謀ってみろ、魔王界の掟に背く以外では、私は一点の曇りもなく今ここに立っている」

 

「その魔王界の掟こそ我々が厳守すべき道ではないか」

 

「魔王界の掟の有効期限が今過ぎようとしている」

 

「時代が変わると言うのか」

 

「魔王種から魔王が生まれ、魔王が統治する魔物の世界が確立する時代、多くの魔王種たちは命を絶った、それでも魔王たちは鮮血の歴史を繰り返し魔王大戦が勃発した、その当時から今の魔王界の掟は存在していない、つまり魔王界の掟は魔王たちの経験をもとに作られたもので完全無欠のものではない、自然界の法則には遠く及ばない、それは魔王グラード貴様はもう何万年も前から感じて来たことではないのか」

 

魔王グラードは溜息をもらす

 

「確かに貴様の言う通りだ、魔王界の掟もまだまだ改善すべきところは多い、それでも有効期限が過ぎる程今の時代にそぐわないものではないぞ、そもそも魔王大戦後生き残った魔王たちが二度と同じ過ちを繰り返さないと誓いを立て築き上げた掟だ、憎むべきホムンクルスの事件以来我々は紛いなりにも掟を守り戦を起こさずに来られたのもこの掟が一役を担ってきたのだ」

 

「魔王グラード貴様も感じているのではないのか、今こそ魔王界は変わらなければならないことを、双子の魔王が裏切ったのは偶然ではない必然だということを」

 

魔王ザッドもまた魔王界を裏切ろうとしていたことは

 

戦略に精通している魔王グラードは調査済みである

 

「しかしその魔王ザッドもすっかり魔王界を裏切る気が失せていた、それは貴様の言う時代の移り変わりに逆行しているのではないのか」

 

「否、魔王ザッドが魔王界を裏切ろうとしていたこと自体がそれを証明している、一時的な気の迷いでそれを取り止めたとしてもだ」

 

「魔王ザッドが踏みとどまったことが気の迷いというか、それは聞き捨てならない言葉だ」

 

「ならばその剣で己の信念を全うされよ」

 

明らかに魔王サーマイオスが挑発している

 

魔王グラードは何故彼がそれほどまでに戦いを望んでいるのか不思議でならなかった

 

剣技の才には恵まれなかった魔王グラードでは魔王サーマイオスには剣技では勝てない

 

しかし、戦術を組み合わせた戦い方なら或いは勝ち取れるだろうけれど

 

異空間に閉じ込められた状態ではそれも難しい

 

まして魔王サーマイオスは不死身に近い体質をしている

 

仮に斬り伏せても再生されてしまう可能性は低くはないのだ

 

対話しながら隙を伺ったが魔王サーマイオスの生真面目な性質は付け入る隙も見せない

 

「ここが私の墓場になるようだ、魔王ロドリアスとの戦のおり捨てた命だ惜しいとは思わないが、このようなカタチで斬られるのは納得が行かない」

 

魔王グラードは死を覚悟しながらも、命を賭ける戦いに何かが足りないと感じていた

 

「魔王サーマイオス貴様はどこを見ているのだ」

 

「亜魔王種は絶滅させるべき種族ではない」

 

「亜魔王種こそ絶滅すべき種族だ」

 

「これが貴様と私のそれぞれの道で辿り着くところはまるっきり真逆だと認識したか魔王グラード」

 

「なるほど、貴様は最初から決裂しかないと知っていたのだな」

 

「この一点において我々は相いれない、そうだろう」

 

「貴様は融通の利かない堅物だな魔王サーマイオス」

 

「それは自覚しているが、自分でもどうにもならない」

 

「だが貴様のその気性は嫌いではない、私も同じだ」

 

その時魔王グラードは覚悟を決めたようで剣を抜き構えた

 

「この真っ直ぐな魔王に斬られるなら望むところだ」

 

魔王グラードは心の中で言うと斬りかかる

 

もちろんフェイントだ魔王サーマイオスが交わすと同時に剣を投げつける

 

剣で投げられた剣を叩き落すと

 

目の前に魔王グラードがいて小刀でクビを斬られ倒れ込む

 

そのまま叩き落された剣を拾い魔王サーマイオスを上段から剣を振り下ろして斬る

 

ところが見る間に魔王サーマイオスは再生して復活して行く

 

間髪入れず魔王グラードは斬りかかるが剣で交わされた

 

再生しながらも魔王サーマイオスは戦えるようだ

 

これは恐らく魔王ミューヤに散々叩き伏せられたため再生能力が強化されたためだろう

 

魔王ミューヤの魔力があまりにも強大だったため再生しながらも戦わなければならなかった

 

それを繰り返して行くうちに再生能力も進化してしまったようだ

 

魔王サーマイオスは下段から振り上げて魔王グラードの剣を弾き

 

そのまま振り下ろす

 

魔王グラードは何とか交わすものの体勢を崩し片膝をついた

 

そこへ再び下段から斬りかかられ交わすも右腕を斬られた

 

更に上段から振り下ろす

 

最早交わすことすら出来ない

 

その時異空間を斬り飛び込んで来たアーシアが魔王サーマイオスの剣を止めた

 

ジャンギルソードは魔王サーマイオスの剣を弾いた

 

 

新たなる人間の勇者

 

 

「何者だ」

 

「人間の勇者だと言えばわかるか」

 

「人間の勇者が何故我々の神聖な決闘の邪魔をする」

 

「これは神聖な決闘とは呼べないだろう、何故ならお前は魔王界の掟を破った裏切り者だ、そんな魔王に決闘をする資格などあるものか」

 

「たとえそうだとしても、お前に言われる筋合いはない」

 

「それもそうとは言えない、何故なら人間の勇者と魔王との不可侵条約にもし魔王界に災いが起きれば必ず助けるとという条項が刻まれているからだ」

 

確かに魔王と人間の勇者が取り交わした契約にその条項があった

 

「これは魔王が窮地に陥れば必ず助けるという意味も含まれる、だから魔王グラードを私は何が何でも助ける、人間の勇者の意志は必ず継承者に受け継がれるからだ、そしてお前は魔王界の掟を破り魔王界を裏切った時点で最早魔王としての資格を失った、従ってお前を斬り殺しても不可侵条約を破ったことにはならない」

 

次の瞬間魔王サーマイオスの剣が宙を舞い大地に突き刺さる

 

更にジャンギルソードの切っ先が魔王サーマイオスに向けられた

 

剣技の差は歴然だった

 

魔王テチカに鍛えられたアーシアの剣技は魔王サーマイオスを遥かに超えている

 

ところがそのジャンギルソードを弾く剣が現れる

 

ここに居る誰もその存在に気が付かなかった

 

「なんだお前は」

 

アーシアが叫ぶように言うとその剣の持ち主が口を開いた

 

「私はデラシーズ国の王シラスターだ」

 

アーシアもシラスター王とは初対面だった

 

若いことは知っていたが、16歳の若き王は実年齢より下に見えた

 

「何故デラシーズ国の王が邪魔をする、これでは魔王界を敵に回すことになるぞ」

 

「デラシーズ国は私の意志を信じてくれた、私は決めたのだ魔王界においてどの魔王も死なせないと」

 

「一体何を言っているのだ、魔王界は裏切り者討伐に乗り出しているのだぞ」

 

「裏切り者という見解を私はしていない、これは単なる見解の相違なのだ」

 

「お前がどのように解釈しようと、この魔王は魔王界を裏切ったこれは事実だ」

 

アーシアはジャンギルソードの切っ先を魔王サーマイオスへ向ける

 

「魔王界に裏切り者などいない、強いて言えば双子の魔王だけだ」

 

「その双子の魔王に組する者は裏切り者と同義だ」

 

「双子の魔王が裏切り者なのは魔王ザッドを斬り殺したからだ、しかし魔王サーマイオスが魔王グラードを斬り殺さない限りこれは裏切りに当たらない」

 

「しかしなぁこいつは先ほどまで魔王グラードを斬り殺そうとしていたのだぞ」

 

「斬り殺そうとしていたとしても斬り殺してはいない」

 

「それは私が阻止したからだ」

 

「それは人間の勇者としての責務を全うした結果だ、先ほどお前はそう言ったではないか」

 

「それはそうだが、もし私が助けなければ確実に魔王グラードはこいつに斬り殺されていた」

 

「事実は間に合った、それ以外の事実はないから語る必要もない」

 

「いやいやお前は頭がいかれているのか」

 

「よく言われるが、私は私が思う通りに生きているだけだ」

 

どう考えてもシラスター王の言い分は詭弁だとアーシアは認識しているのに

 

何故かそれを論破する気にはなれない

 

それは恐らく歴代の人間の勇者たちの意志が働いているからだろう

 

「どうしても納得が行かなければその勇者の剣で私を斬り殺せばよいだろう」

 

「面白いならばそのようにしてやる」

 

アーシアは何の躊躇いもなくシラスター王に斬りかかる

 

ところが次の瞬間ジャンギルソードが宙を舞った

 

アーシアは飛んでそのジャンギルソードを掴むと空中からシラスター王に斬りかかる

 

一瞬シラスター王を見失い次の瞬間大地に叩き伏せられていた

 

「一体何をした」

 

アーシアには自分に何が起こったのかすら認識できなかった

 

ただシラスター王の剣が自分へ向けられていることだけは理解できる

 

「私は一瞬で負けたのか」

 

「そう言うことだ」

 

「畜生さぁこのまま私を斬り殺せ」

 

アーシアは悔しさのあまり叫ぶように言うと大の字になった

 

傍目に見れば子供が腹を立てて怒っているようにしか見えない

 

「私はデラシーズ国の民を斬る剣を持っていない」

 

「私は最早デラシーズ国の民ではない人間の勇者だ」

 

「たとえ人間の勇者でも元はデラシーズ国の民だ」

 

「それでは良い事を教えてやる、私は荒くれ者を支配してデラシーズ国を荒らしまわったガゼリアルバーンの息子だ」

 

「それがどうした」

 

「犯罪者集団から生まれたのだぞ」

 

「しかしそのガゼリアルバーンもまたデラシーズ国の民だ私にとってそれは変わらない」

 

「お前は馬鹿か自国を荒らしまわった犯罪者だぞ、お前はそんな犯罪者であるガゼリアルバーンすら助けると言うのか」

 

「たとえガゼリアルバーンでもデラシーズ国の民である限り私は助ける」

 

「助けられて感謝する輩ではない、助けられた後後ろからお前を斬り殺すような奴だ」

 

「たとえそうだったとしても私は決して自分の民を見捨てはしない」

 

アーシアは呆れ返った

 

バカ王だとは思っていたがこれほどまでに馬鹿な王など考えられない

 

ハラハラと手に雫が落ちて来る

 

一体何事かと思うとそれは自分の目から頬を伝い落ちた涙だと気が付く

 

「何故この私が泣く必要があるのだ」

 

しかし涙が溢れて来て止まらない

 

そのままシラスター王を見ると、その姿はザフト将軍と重なって見えた

 

「アーシアどうせ大人になるなら世のため人の為に生きることのできる大人になれ」

 

何かと口うるさかったザフト将軍だけは

 

自分がガゼリアルバーンの息子であることを知っても少しも変わることなく付き合ってくれた

 

それは最期まで変わらず自分を助けるためにガゼリアルバーンに斬り殺される瞬間まで

 

ザフト将軍だけは自分を人間扱いしてくれた

 

途端に歴代の人間の勇者たちの思いが流れ込んできた

 

それはまだ人間の勇者ではなかった歴代の中で弱小だった審判者のルールの思い

 

亜魔王種に操られた魔物たちに斬り殺されようとしているとき

 

デラシーズ国の民が命懸けで守っていた

 

「私が死んでも新しい審判者が生まれるだけだ、お前たちが命を賭ける必要はない」

 

「お前は勘違いしている、我々は審判者を助けているのではない、お前だルール、確かに審判者の変わりはいくらでもいるだろう、だがなルールお前の変わりは誰にもなれない、俺たちはお前が好きだだから命懸けでお前を守る、たとえ死んでも悔いはないぞ」

 

ルールのこの思いは一番最初に流れ込む

 

この時から人間の勇者は誕生した、歴代の審判者はいつもデラシーズ国の民に助けられた

 

だから審判者もデラシーズ国の民を守り続けた

 

「そうか歴代の審判者が何故人間の勇者と名乗って来たのか今理解した、デラシーズ国の民を守りたかったのだ」

 

何世代もの審判者が人間の勇者としてデラシーズ国の民を守って来たが

 

デラシーズ国の民も命懸けで人間の勇者を守り続けた

 

ルールは強く心に刻んだ、強くなりたい、そしてデラシーズ国の民を守りたいと

 

そして、歴代の審判者はその遺志を受け継ぎ、それだけでなく自分たちの思いも積み重ねて

 

これはもう何世代も審判者は人間の勇者としてデラシーズ国の民を守り守られて来たのだ

 

「なぁシラスター王、お前は父王を慕っているのは血かそれとも心か」

 

「私は物心ついたころには父の背中を見て育っている、父は魔物によって命を落とすその瞬間までデラシーズ国の民の為に戦った、それだけではない自分を殺した魔物たちとの共存の道を諦めなかったつまり魔物たちを恨まなかった、私が父を慕うのは父の生き方が慕わしいからだ、私は未だに父のようになれてはいないが今でも目標としている、これは決して血によるものではない、何故ならもし父がそのような生き方をしていなければ私は決して父を認めなかっただろう」

 

「そうか」

 

その時アーシアは父を思い浮かべたとき脳裏に浮かんだのは

 

残虐なガゼリアルバーンではなくザフト将軍だった

 

「ならば私の父はあのクソ虫のようなガゼリアルバーンではなく、ザフト将軍だ」

 

ザフト将軍にとっては良い迷惑かも知れないが

 

自分はザフト将軍を父だと決めた

 

そしてそのザフト将軍の生き様は歴代の人間の勇者たちが見せたデラシーズ国の民の姿で

 

今目の前にいるシラスター王の姿とも重なって見えた

 

「シラスター王お前がその生き方を貫く限り私は人間の勇者と成ろう」

 

「そうか、私は父王のように死ぬ瞬間までこの生き方を違えたりはしない」

 

「ならば今から私は人間の勇者としてお前と共に戦うと決めた」

 

これは奇跡の王の開眼といえる出来事だった

 

アーシアの心をすっかり変えてしまったのだから

 

また歴代の審判者の思いがアーシアに雪崩れ込んだのを

 

魔王グラードと魔王サーマイオスも感じ取り垣間見てしまった

 

両魔王の頬から涙が流れ落ちた

 

この時シラスター王は魔王とは本当に情の深い種族だと感じ取った

 

情の深さは魔王テトだけではなかったのだ

 

「こんなものを見せられては、私はデラシーズ国を敵には出来ない」

 

魔王サーマイオスの声だ

 

「元々魔物たちがしでかしたことだ我々魔王には人間の勇者とデラシーズ国には借りがあるということだな」

 

魔王グラードもデラシーズ国の民の生き様に心打たれたようだ

 

何故デラシーズ国から審判者が生まれるのか

 

それは歴代の審判者の意志でもあるが

 

恐らくその一部始終を見ておられる天がそうせざるを得なかったのかもしれない

 

そしてシラスター王が魔王グラードに亜魔王種の真実を伝える

 

もしこんな出来事が無ければ魔王グラードも素直に聞くことは無かっただろう

 

しかし、それが事実なら魔王同士が戦う必要はないことも彼は理解した

 

魔王グラートと魔王サーマイオスもデラシーズ国と同盟を結んだことは言うまでもない

 

つづく
 

人間たちの落日 落日の兆し もくじ

 

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あとがき


かなり長くなりましたが

 

漸くシラスター王は奇跡の王として開眼したと言えるでしょう

 

あのアーシアの心を変えてしまっただけでなく

 

魔王グラードと魔王サーマイオスの心も鷲掴みにしてしまった

 

偶然性が強い出来事ですが、その偶然も彼が引き寄せた可能性は否めない

 

そしてこれはシラスター王が決めた生き方でもあります

 

マーリアとシーランの戦いを仲裁する道を歩き出した

 

その第一歩はこれ以上魔王を死なせないと決めたようです

 

しかしシラスター王が選ぶ道はいつも険しくて厳しい道ですよねΣ(@@;)

 

でも私は体験的に安楽な道を選んだ人より

 

困難でも遣り甲斐のある道を選んだ人の方が有意義な人生を送っていると学んでいます

 

やはり自分の行くべき道を選ぶとき優先すべきは可能性以上に

 

自分の心の声に従う方が納得と満足のゆく人生を送れると思っています

 

それがたとえ困難で険しい道であっても、胸を張って生きられる

 

本当に本心から満足できる道は心(本心)が知っている

 

特にシラスター王は自分の心の声(本心の願い)を感じ取って真っ直ぐそれを選択している

 

そんな人には奇跡の方からやって来るのではないかと思えます

 

さてシラスター王はマーリアとシーランに匹敵する影響力を持った

 

第三の勢力として魔王界の問題に参戦したから

 

いよいよ先が読めなくなりました(((゜д゜;)))

 

キャラたちの自由意志のお陰で物語先行の私は毎回前人未踏になります

 

はてさてどうしたものかΣ(@@;)

 

ここまでくるとそのキャラたちがそれぞれ何とかする様な気がしてきました¢( ・・)ノ゜ポイ

 

まる☆