魔王サーマイオスの裏切りの可能性について

 

早速魔王会議が行われた

 

恐らく魔王テチカの城で魔王会議が行われたのは初めてではないだろうか

 

彼女は魔王界では孤立していた

 

また問題を起こしても自力で解決して魔王界に影響がないように対処していた

 

彼女から他の魔王を頼ることは今まで無い

 

例え魔王界全体の問題が起きても主体的に解決しようとすることも無かった

 

魔王テトのように事が起きれば率先して自分の犠牲も厭わず歩き出すほど

 

魔王界のことを第一に考えてはいない

 

さりとて、魔王界が傾くようなことがあれば、無関心を気取り続けるほど

 

魔王界のことを蔑(ないがし)ろにもしていない

 

付かず離れず、呼ばれれば参加しないことは一度もない

 

魔王テトからすれば中途半端な生き方に思えてならないが

 

何事もバランスが大切だと考えている魔王テチカはそれほど深く魔王界に関わらない

 

人間を含めた殆どの生物は、未知なるものに対する好奇心と体験から来る恐怖心で

 

得体の知れないものを無視することはできない

 

そして思考する能力が発達した生物は、恐怖心が肥大化してしまい

 

結局その得体の知れないものを排除する考えに走ってしまう

 

ところが、魔王テチカは剣帝と呼ばれるほど強く誰も彼女を倒すことが出来ず

 

魔王大戦、ホムンクルスの暴走という事件で魔王が十二体まで減ってしまってからは

 

これ以上魔王がいなくなれば魔王界を維持することも難しくなるため

 

他の魔王たちが魔王テチカを倒そうとすることは無くなったが

 

魔王テチカへの恐怖と嫌悪は消えてはいないため嫌煙されて来た

 

彼女もそのことを熟知していたため自分の城を提供して魔王会議を行うことは無かった

 

しかし、今は緊急事態である

 

そんな魔王テチカの呼びかけに他の魔王たちも応じざるを得ない

 

とは言え彼女に対する嫌悪感が消えたわけではない

 

イメージや印象は真実のカタチすら歪んで見せてしまう性質があるようだ

 

実際魔王テチカによって魔王界が救われたことが幾度もあった

 

彼女が魔王界に貢献してきた功績は誰でも認識している筈なのに

 

彼女に対する評価は低い

 

誇り高い魔王たちを彼女が見下しているように見えるからだろうか

 

彼女は決して見下したことは一度もない

 

魔王大戦の時不参加を掲げたにもかかわらず

 

彼女に戦いを挑んだ多くの魔王たちの首を岩に晒して見せしめにした印象が

 

他の魔王たちに焼き付いて離れないのかも知れない

 

魔王大戦が如何に愚かなことかを彼女は示したかったのだが

 

他の魔王たちはそのようには受け取らなかった

 

魔王テチカは他の魔王たちを見下している

 

殆どの魔王たちは彼女の非道な仕打ちに腹を立てた

 

生き残った他の十一魔王たちも例外ではない

 

剣技において魔王界最強である剣帝の称号を魔王たちから与えられ

 

幾多の魔王界の危機を彼女は何度も救ってきた

 

それでも魔王界最低の評価しか獲得くしていない

 

それだけ、印象やイメージの影響は大きいのだ

 

そんな魔王テチカに不幸な事故が起きて何とか蘇生は出来たものの

 

身体は辛うじて少女の姿を保つまでしか回復していない

 

それほどダメージは大きいのだと他の魔王たちは勘違いしている

 

その状態で、犬猿の仲だった魔王テトが

 

まるで少女と化した魔王テチカを助ける立場に自ら志願しているのだ

 

この光景を見て、驚かない魔王は居ない

 

このことにより、魔王テチカは姿カタチだけでなく心も変わったのだという印象が生まれた

 

彼女は何一つ変わってはいない、変わったのは容姿と魔力が強化されたくらいだ

 

魔物たちが認めることで再び魔王と成ることも出来ている

 

これもまたマーリアの策略であることは魔王テチカも認識していた

 

思えばマーリアは魔王テチカにとって幸運しか齎(もたら)していない

 

今までマーリアの助言で間違いは無かったことも今の魔王テチカは認識している

 

彼女は遠い先行きを見通せる知性があるが

 

今目の前にいる者の心理状態まで気が回らない

 

彼女自身は繊細だが、感受性が他の魔王たちとはかなり違うため

 

他の魔王たちの気持ちを理解できないのだ

 

慎重な彼女がマーリアの忠告を直ぐに受け入れる筈もない

 

そのことを知っているマーリアは常に結果を持って彼女に示してきた

 

こうして少しずつマーリアは魔王テチカの信頼を獲得して行った

 

彼女は冷徹なまでに物事を冷静に判断する

 

自分の感情すら軽視して状況の分析と把握、対処と対応を優先させる性質が強いが

 

それでも、今ではマーリアに対して絶対的な信頼を置くようになっている

 

そんな自分の心理状態すら俯瞰で捉えて分析している所もある

 

「あの狡賢いマーリアのことだ、私の俯瞰的視野まで理解しているのだろうな」

 

そんなマーリアですら間違いは犯すと彼女は認識している

 

亜魔王種のことである、マーリアは当初亜魔王種の救いを考えていた

 

亜魔王種は救われて感謝する様な生易しい存在ではない

 

嘗(かつ)て、彼女が初めて友だと認めた今のマーリアではない

 

彼女と同じ名前の人間の勇者は亜魔王種によって殺されている

 

そして今のマーリアもまた亜魔王種によって殺されたのだが

 

今のマーリアは死後の世界から這い出て蘇って来た

 

そして、亜魔王種は根っから腐った存在だと認識している

 

感情的な考えや行動を嫌う魔王テチカのように

 

マーリアは、復讐心に身を焦がして動くほど感情的にはなれない性質ではないが

 

彼女の冷静で変幻自在な頭脳は今度こそ徹底的に亜魔王種撲滅を企んでいるに違いない

 

緻密で冷酷なまでに冷静な亜魔王種を絶滅させる算段はしているだろう

 

魔王テチカですらマーリアの戦略を完全には見抜けないようだ

 

今まで彼女を敵対視していた魔王テトが彼女をサポートしている姿を見て

 

魔王グラードは敢えて魔王テチカを責めるような態度で発言してみた

 

すると、魔王テトが彼女を庇うように反論する

 

「貴様が魔王テチカの味方をするのか」

 

魔王グラードのことが嫌いだからではないことを魔王グラードも感じ取れる

 

何故なら魔王テトは自分の感情に正直でわかりやすい

 

あれは明らかに魔王テチカを庇おうとしている言葉だ

 

「知らなかったのか、魔王テチカは私の幼馴染なのだ、私が味方して何が悪い、言っておくが今後魔王テチカを責める奴がいるなら、この私が相手をする」

 

当然魔王テチカは呆れた顔になっている

 

この両者は永遠にわかり合えない程性質が真逆なのだ

 

それでも、今の魔王テトは本気で魔王テチカを守るつもりなのだ自分の命を賭けて

 

これは善悪より心を重視する彼の生き様そのものである
 

何故かその姿を見て、魔王グラードは救われた気持ちになった

 

魔王グラードにしてみれば複雑な気持ちだろうけれど

 

守ってやれなかった幼馴染の無念な気持ちを、まるで魔王テトが晴らしてくれているような

 

「貴様がその生き方を貫く限り、今後私の剣の穂先は貴様に向くことが無いだろう、また貴様に仇成すものが現れたなら、この剣がその者を打ち砕いて見せよう」

 

同じく犬猿の仲だった魔王テトに対しての魔王グラードの突然の心変わりに

 

他の魔王たちも驚いたが

 

当の魔王テトも目を丸くしている

 

少しずつ、魔王たちに絡み合っていた感情の縺(もつ)れは解(ほぐ)れて行く

 

魔王テチカの城で行われている魔王会議は不思議な空気に包まれて始まった

 

これは偶然のいたずらか天の計らいだろうか

 

それともこれもまたマーリアの計略に入っているのだろうか

 

不思議なくらい魔王たちの心が繋がって一つになって行く

 

しかし、そこには双子の魔王と魔王サーマイオスはいない

 

呼んで問いただすつもりだったがボイコットするということは

 

双子の魔王を匿っている可能性が濃厚になった

 

魔王デスカラードと魔王ミューヤもいるが腕を組み考え込むふりをしたままだ

 

12魔王も魔王ザッドが暗殺され、その犯人である双子の魔王が抜けて

 

9体の魔王になってしまった

 

その上魔王サーマイオスまで裏切ったとなれば

 

いよいよ魔王は8体となってしまう

 

ふと魔王テトが「これは魔王が滅ぶ兆しではないのか」と呟くと

 

「不吉なことを言う出ない」

 

魔王テチカに諫められた

 

とは言え、8体の魔王で果たして広大な魔王の領地を再分配して統治できるのだろうか

 

今でも実際ギリギリの統治である、これ以上領地と魔物が増えれば

 

とても管理統治はできないかもしれない

 

それに魔王を失った魔物たちは一体どうなるのだろう

 

昔の魔物たちならすぐに他の魔王のもとへ着くこともしただろうけれど

 

何万年もかけて魔王も魔物たちも変わり絆が深くなっている

 

自決して果ててしまうのではないだろうか、そんな魔物たちを果たして救えるのだろうか

 

情の深い魔王テトは魔物たちのことを思うと胸が痛い

 

何とか救ってやりたいと思うのは彼にとって自然な心の発露だ

 

「魔王サーマイオスは話の分かる奴だ、いっちょう私が行って話をつけてやろう」

 

「やめておけ、貴様が言って話が改善された試しがない、蒸し返すつもりはないがホムンクルスの暴走ももっと違ったカタチで解決する道があっただろうに、貴様が全面的に討伐するように先導してしまった、それだけではない、貴様が関わることで争いにならなかったことは何一つないぞ」

 

「なんだと、昔のことはもう終わったことだ、これからの話をしようではないか」

 

「私は今とこれからのことを話しているのだが、貴様は違う認識なのか」

 

魔王テチカと魔王テトは昔からこんな言い争いをしてきた

 

他の魔王たちはもう慣れていて、「いつものあれが始まった」と思っている

 

いつも魔王テトがやり込められて剣を抜き決闘にまで発展するが

 

今の魔王テトは剣を抜かない、それどころかそれほど怒っている様子もないのだ

 

「しかしなぁ、私と魔王サーマイオスはそりが合う、話し合えばわかり合えると思うぞ」

 

確かに、他の魔王たちとケンカばかりしていた魔王テトだが

 

魔王サーマイオスとだけは一度もケンカしたことが無いと他の魔王たちも思い当たる

 

他の魔王たちの後押しで、結局魔王テトが魔王サーマイオスの城へ行くことになった

 

万が一本当に魔王サーマイオスが双子の魔王同様に裏切り者だった場合でも

 

剣技では魔王テトの方が上なので危険は少ない

 

ただ魔王サーマイオスは不死身に近い程再生能力が発達しているため

 

魔王テトの魔力で斬り伏せたとしても

 

何度も再生された場合、最終的に魔王テトに勝ち目はない

 

「その時は退散するさ、今回は魔王サーマイオスを討伐する目的ではないからな」

 

魔王サーマイオスが本当に裏切ったのかを確認するのが目的なのだから

 

退散しても誇りが傷つくことはない

 

「一旦戦いとなれば、引くか貴様が」

 

また魔王テチカが口を挟む

 

「いくら私でもその点は弁えている、心配するな」

 

これほど当てにならない言葉は無いだろう

 

魔王のうちその言葉を信頼した者はいない

 

「今貴様を失うわけには行かぬ」

 

それは魔王テトのことを本気で心配しているのだと、情の深い魔王テトは感じ取った

 

その光景を見て心打たれた魔王グラードが名乗りを上げた

 

他の魔王たちは魔王サーマイオスの城へ辿り着く前に斬り合いになると言い出した

 

「魔王テト、今までのこと水に流せるか」

 

魔王グラードは魔王テトに問う

 

「もちろんだ、昔のことをいつまでもネチネチ言う魔王テチカとは違う、魔王テトの名に賭けて誓う、魔王グラードに対する今までのことは水に流す」

 

魔王テトはそういう魔王である、彼は直ぐに激怒するがいつまでも相手を恨んではいない

 

魔王テチカに何度打ちのめされても、次の日にはあっけらかんとして再戦の為剣技を磨く

 

だが一度も過去のことで誰かを咎めたことはない

 

彼自身過ちを犯しながら、間違いながら成長してきた

 

「私は嬉しいぞ魔王グラード、まさかこんなカタチで貴様と共に歩ける日が来るとはな」

 

屈託のない笑顔、まるで子供のように相手を信頼して心を開く

 

実に気持ちの良い生き方だろう

 

どんなに揉め事を作り迷惑をかけても、魔王テトが憎めない所以だろうか

 

魔王グラードも色眼鏡を外してみれば

 

目の前に本当に信頼に足る友がそこにいた

 

「友情を育んでいる所をすまぬが、万が一魔王サーマイオスが裏切ったのであれば、双子の魔王と共に待ち構えている可能性がある、双子の魔王は一対一で戦う魔王の誇りを捨てた、その魔王と組するのであれば、魔王サーマイオスもその誇りを捨てている可能性も否めない、となれば魔王テトと魔王グラードは三体の魔王と戦うことになろう」

 

一対一で戦うことは魔王と魔物たちの誇りである

 

しかしこの誇りすら捨ててしまった魔王と戦うとなれば

 

今度は一対一の誇りが仇となり不利な立場に立たされる

 

「それならあたしがついて行くことにするわ」

 

魔王ミューヤが手を上げた

 

「魔王サーマイオスと貴様は相性が悪い先のことで学習したと思うが」

 

魔王テチカは常に正論で相手を責めてしまう

 

本人としては責めているつもりはない、ただ本当のことをそのまま伝えたまでだが

 

相手にしてみれば責められたような気持になるようだ

 

魔王ミューヤはムスッとしている

 

この時魔王ミューヤが同行していたなら

 

魔王テトの命は無かっただろう

 

未だに魔王ミューヤと魔王デスカラードの裏切りを知らない魔王テチカによって

 

魔王テト暗殺の計画は阻止されたことになる

 

これは魔王テトに運が働いたのだろうか

 

魔王テチカは暫く考えてから

 

「魔王テトの同行だが、魔王ロドリアスにも頼みたいがどうだろうか」

 

魔王ロドリアスは頷いて承諾した

 

先の争いで魔王ロドリアスと魔王グラードの心は深い絆で結ばれている

 

このまま魔王テト、魔王グラード、そして魔王ロドリアスが心ひとつになればと

 

魔王テチカは判断したのだろうか

 

それとも、戦略に長けた魔王グラードと

 

独断先行、閃きで行動する魔王テトという相反するタイプだけでは摩擦しか生まれない

 

そこで

 

その両方を兼備している魔王ロドリアスを付加させ中和することを目論んだのだろうか

 

この時点で、マルカスト元帥の戦術は崩れたため

 

別の策略へ変更することにした

 

連絡は魔王ミューヤと双子の魔王、そしてマルカスト元帥へ

 

テレパシーのような魔力を使い意思を伝達している

 

待ち伏せしていた双子の魔王と魔王サーマイオスは彼の城から離れたため

 

魔王テトたちが辿り着いた頃には蛻(もぬけ)の殻だった

 

しかし、魔王テト、魔王グラード、そして魔王ロドリアスの絆を深めるという点では

 

強(あなが)ち無駄足ではなかったかもしれない

 

状況が不思議なくらいマルカスト元帥の戦術を崩して行く

 

マルカスト元帥が最も苦心しているのは

 

魔王と魔物は一対一でしか戦わないスタイルだ

 

これは人間では考えられない

 

複数で少数を袋叩きにするのが一番効率が良い

 

人間は相手が敵だと認識すれば、何の躊躇いもなく複数で少数を叩くことができる

 

それなら戦術の幅も大きく広がるのだが

 

一対一が基本では戦術の幅はかなり狭く規制されてしまう

 

条件は相手も同じだが、この場合相手の強さが勝っている分不利なのは自分たちだ

 

この劣勢を覆す戦術は、複数で相手を叩くならいくらでもあるのだが

 

一対一でしか戦わない兵士に将軍では使い物にならない

 

幸い複数で戦うことに抵抗のない双子の魔王がいる

 

またその魔王から学んだテレパシーのような魔力の使い方も身に着けることができたため

 

情報伝達では相手を上回っている

 

この魔力は相手が同じ魔力の使い方ができなくても有効で

 

思念で心を読み取り、信念で自分の意志を伝えることも出来る

 

ただ一つ困ったことがあるとすれば、全ての相手に有効ではないことだ

 

実はマルカスト元帥にはシーラン師匠の心が読めない

 

それどころか、この魔力で意思を伝えることすらできないのだ

 

これは双子の魔王や魔王ミューヤも同じだった

 

シーランの何がそれを阻害するのかわからないが一種の特異体質なのだろうか

 

過去の体験から恐らくシラスター王も同じ体質に違いない

 

従ってシーラン師匠には意思の疎通が難しい

 

そこで、レムイリアを経由してシーラン師匠とコンタクトをとることにした

 

レムいレアを当てにしていたためこれも兵力が損なわれることになる

 

シーランの他の弟子をとも考えたがシーランはそれに難色を示したため

 

止む無くレムイリアはシーランと常に行動を共にすることになる

 

情報戦に関しては情報の正確さを認識する能力と伝える能力が問われるため

 

魔物たちではレムイリアの変わりは務まらない

 

魔物たちの精神構造は単純明快に出来ていて本能と本心のまま生きている感じだ

 

人間は思考する能力が肥大化しているため

 

物事や状況を冷静に分析して理解する能力を獲得した

 

その反面自分の本心や本能とのコンタクトが上手くできなくなった

 

人間がしばしば自分の本心を見失ってしまう原因の一つである

 

更に嘘をつくことが身につき、騙す騙されるを繰り返すと自分の本心を隠すようになる

 

こうして本心を隠しながら生きて行けば、いつの間にか本心を見失うことになるだろう

 

これもまた人間が自分の気持ちを見失う原因の一つになっている

 

悪いことばかりではない、思考する能力は物事を分析することに長けている

 

幾重にも張り巡らせられたトラップを掻(か)い潜(くぐ)って真実に辿り着く能力も獲得できた

 

特に戦術における情報伝達は

 

一瞬で理解できる凝縮(ぎょうしゅく)された言葉である必要性と同時に

 

敵に察知された場合直ぐに解読できないように暗号化する必要もある

 

当然一瞬では理解できない

 

それでは使い物にならないため、キーワードという仕組みを人間は作り出した

 

どんなに難解な暗号でもキーワードさえあればすぐに理解できる仕組みだ

 

それでも根が単純明快に出来ている魔物には難しい

 

テレパシーのような魔力が敵の魔王に使えるとは思えないが

 

敵の背後には魔導師と化したマーリアがいる

 

彼女ならこの魔術を使いこなすことも可能だろう

 

必然的に暗号化して伝達するしかない

 

もちろん暗号になれている者でなければ難しいが

 

幸いレムイリアは元々戦士だったから暗号解読の経験も多少はあるようだ

 

魔王サーマイオスは手こずったが

 

魔王ミューヤは面白がり直ぐに呑み込んでしまった

 

双子の魔王も非常に頭が良いため直ぐに理解できた

 

問題は魔王デスカラードである

 

彼は真っ直ぐな性質が強いため歪曲した情報の分析は苦手のようだ

 

魔王らしいと言えば彼ほど魔王らしい存在は無いかもしれない

 

そこで魔王ミューヤと行動を共にさせることにした

 

「ちぇっ結局二人三脚でしか戦えないじゃないか」

 

不利な状況は未だに克服できていない

 

こうなれば、相手も二体以上では組ませないようにするしかないだろう

 

例え一体一が基本で戦って勝てたとしても次から次へ魔王と戦えば力尽きてしまう

 

不利な状況を克服して少しでも有利な状況へにする算段は出来ているが

 

状況の変化は著しいため

 

また不利な状況へと戻される

 

マルカスト元帥にとって唯一幸運だったことは

 

魔王会議にランドの姿は無かったこと位だろう

 

魔王ザッドに託された以上彼の名代(みょうだい)としてランドには資格はある

 

問題はランドがネオホムンクルスであることだ

 

魔物ですらランドがネオホムンクルスであることを直ぐに嗅ぎ分けた

 

まして魔王がランドの正体を見抜けない筈はない

 

ホムンクルスを敵対視している魔王たちはランドを認めることに難色を示したからだ

 

直ちにランドの名代としての権利を剥奪して処刑されないだけマシではあるが

 

魔王たちがその提案をした時、魔王テチカがランドを執成(とりな)した

 

そして魔王テトもそれに賛同したため他の魔王は黙認することにしたが

 

ランドを認めたわけではない

 

魔王グラードと魔王ロドリアス、そして魔王パルフェに魔王テレメッドまで

 

ネオホムンクルスの存在を否定的に見ている

 

魔王ザッドの名代として魔物の森を守ることは黙認しても魔王ではないランドが

 

魔王会議に参加することだけは他の魔王たちも納得しなかった

 

結局ランドはこの会議に呼ばれなかったわけだ

 

マルカスト元帥は意志が強いが情が深いためどんなにランドと戦うと決めても

 

全力で叩き潰すにはいささか絆を深め過ぎている

 

冷静な判断が阻害される恐れは高いのだ

 

とは言え不利な状況を改善しようとすれば直ぐに相殺されてしまう

 

それが何度も重なれば次第に偶然そうなっているのではない可能性が見えて来る

 

何者かによって状況をコントロールされている可能性だ

 

「まさか、この状況をマーリアとやらがコントロールしているなら」

 

という考えがマルカスト元帥の脳裏を過ったが、首を横に振る

 

「いくら何でもあり得ない、たまたま偶然に不利な状況へ転んでいるだけだ」

 

とは言え、言い知れない感覚が彼を掴んで離さない

 

「しかし万が一そんなことが出来るとすれば、マーリアは想像以上のバケモノだ」

 

マルカスト元帥は生まれれて初めて、戦慄を覚えた

 

シーラン師匠は敵にすれば厄介な相手ではあるが負ける気はしない

 

彼女は確かに頭は良いし何を考えているのかわからないところも認めよう

 

だがこと戦となればずぶの素人同然だ

 

しかし、そこにずば抜けた戦略と戦術の能力が付加されたとすれば

 

彼でも勝てるかどうかわからない

 

彼の持って生まれた戦術的センスと戦略的能力を積み重ね育んできた勘が

 

戦うべきではない危険な相手だと警報を鳴らしている

 

「こんなに心がざわついたのは生まれ始めてだ」

 

上には上がいるものだろうか

 

一度も会ったことのない魔王たちの性質すら見抜いて戦略を練ることで

 

常に状況を自分にとって有利な状態へコントロールできるなんて本来ならあり得ないことだ

 

しかし状況を分析すればするほど、その可能性を消すことは出来なくなる

 

そして

 

彼の本能的な感覚と養われた勘が自分とは桁違いのバケモノだとマーリアを示している

 

マルカスト元帥ですら、マーリアと戦った場合勝算を見つけられないようだ

 

もちろん、負けない算段なら出来ると彼はいつもの高笑いをする

 

この時初めて彼にも、シーラン師匠の見解が正しかったのだと認識できた

 

バケモノ級に状況をコントロールできる相手には如何なる戦術も通用しない

 

全てを逆手に取られてしまうか、覆されて機能しない状態へ追い込まれてしまう

 

「結局、乱戦しか選択肢が無かった訳だ」

 

マルカスト元帥は舌打ちして、天を睨んだ

 

自分の手の届かないところまで見据えている存在を感じ取ってしまったからだ

 

戦にはずぶの素人であるシーランですら、そこに辿り着いている

 

「まぁ良い、私には未だ伸びしろがあるということだからなぁ」

 

彼はまた高笑いをする

 

強がりではない、彼はこうして自分の可能性を飛躍的に伸ばしてきたのだ

 

人間はこういう時自分の限界を知ったと、その先へ行くことを諦めてしまい易い

 

だが事実は違う

 

先が見えるということはつまり、そこへ辿り着ける可能性があるということだ

 

もしその人の限界であれば、決してその光景すら見つけられないだろう

 

だが、雲の上の存在でもその雲の上が見えている以上

 

そこへ辿り着ける可能性は皆無ではないのだ

 

マルカスト元帥ですら最初からずば抜けていたわけではない

 

何度もこんな状態に陥っては、それを乗り越えて来たのだ

 

彼の恐ろしい所は、僅かな可能性でもある限り決して諦めないところだ

 

そして、その可能性を実現するために、弛(たゆ)まぬ努力も惜しまない

 

出来る確証もないほんの僅かな可能性の為に全力で挑むことのできる人間はそうはいない

 

しかし、遂にその突破口を彼は見つけ、またその一瞬のチャンスを逃さないのは

 

常に諦めることなく戦う姿勢を崩さないからだろうか

 

まるで運の方が観念して彼に幸運の手を差し伸べてくれるように

 

彼の行く手に立ちはだかる壁の方から崩れて行くような場面を何度も体験してきた

 

天は恐らく自分の可能性を信じて弛まぬ努力を続ける生き方が好きなのかもしれない

 

だから、そういう人には救いの手を差し伸べてしまう

 

もちろんそうでない人もこの世界にいるものだ

 

そうなる人とそうでない人の違いは、その人が何処を見て努力をしているのかが大きい

 

自分の為か、それともより公の為か、或いはその両方をバランスよくしているのか

 

バランスは中途半端のように思われがちだが決してそうではない

 

自己犠牲で公の為に働く人でも

 

日頃自分を蔑(ないがし)ろにする人であれば手を貸せない可能性は高い

 

日常で自分を大切にしている人が、それでも公の為に同じように自己犠牲的に働けば

 

天はその人に力を貸してしまうのかもしれない

 

これは天に願って天から力を貸して貰うのとはわけが違う

 

そこには天の喜びが溢れているのだ

 

天はそんなマルカスト元帥を愛してやまないのは

 

彼は自分も含めて大切な人の為に全力で生きて

 

たとえ僅(わず)かな可能性であっても諦めず自分の可能性を信じて弛まぬ努力を続けている

 

その目的はみんなの幸福のために一肌脱いでいる感じだ

 

そんなマルカスト元帥に心打たれた彼を乗っ取ろうとした亜魔王種が逆に彼の一部になった

 

それでも年を取らず子供の姿のままこの先何万年生きるかわからない状態にされた

 

彼にとって亜魔王種は憎んでも憎みきれない相手である

 

そんな亜魔王種を助けるために戦っているのだから

 

天が彼の味方をしない筈はない

 

では何故そんなマルカスト元帥ですら不利な状況に陥るのだろうか

 

それはサイコパス濃度の濃いマーリアも彼と同じように生きている可能性が高い

 

彼と違う点はマーリアはサイコパス濃度が非常に高い所だ

 

それとは真逆の情の深さを極端に兼備している

 

家族も大切な人も亜魔王種に殺されて来たマーリアは当然亜魔王種には恨み骨髄である

 

そんな亜魔王種の悲しみを誰よりも早く感じ取り一肌脱ごうとした

 

真剣に亜魔王種の救いの道を模索して生きて来た

 

天はそんなマーリアの生き様を忘れることができないのではないだろうか

 

もうすっかり亜魔王種にたいする気持ちが変わってしまったけれど

 

それでも、彼女は人間の世界に戦を無くす為、自分の全てを賭けて働き続けている

 

決して自分の為ではないのだ

 

自己犠牲を鼻で笑うマーリアの知られざる一面だろう

 

そんなマーリアとマルカスト元帥が戦うことになった

 

天はどんな気持ちでこの両者の戦いを見つめておられるのだろうか

 

シーランだけが扇子から目を出して、そんな天の苦悩を見つめている

 

大切な双子の姉リンネを手にかけなければならなかった

 

大切に育んできた弟子たちを無残にも殺された

 

それでも仇であるネオホムンクルスの苦悩を知り助けようとする

 

全ての禍の元凶となっている亜魔王種の悲しみに触れると助けようとしてしまう

 

シーランだけが神様の違う側面を感じ取って生きているのだ

 

そしてシーランは自分の不幸や悲しみを嘆くことより今を大切に生きている

 

扇子の向こう側の天を仰ぎながら

 

「天よそんなに悲しむことなかれ、私が何とかするゆえなぁ」

 

恐らくこの世界のどこにも、天を慰めようとする人は居ないだろう

 

ただシーランだけが天の苦悩を感じ取り、天が笑って暮らせるような世界を作ろうとしている

 

シーランは悲しみの果てに考えた

 

悲しいのは私だけではないと、天もその悲しみを味わっているのではないだろうか

 

どんな時も弟子たちを笑わせようと気遣うシーランの性質は

 

そのまま天へ向けられていた

 

どうしたら天が笑える世界を築いて行けるのだろうか

 

その答えは奇しくもマーリアが目指している所と同じである

 

この世界が笑いに満ちることだ

 

人々が笑って暮らせるなら、その笑いを天も味わっているに違いない

 

何たる皮肉なことだろうか

 

マーリアはこの世界の生き物全てを思い、シーランは天を思って働き続けている

 

この両者は同じ目的で生きていながら

 

互いに相手を敵として、戦っているのだ

 

つづく
 

人間たちの落日 落日の兆し もくじ

 

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あとがき

 

いつのころからだうか

 

私は初詣や、神社へ参拝する時、願い事を祈願しなくなったのは

 

神様が聞きたいのはそんなことではないのではないかと思うようになりました

 

だから、私は初詣の時には、出来るだけ日常にあった笑える話をすることにしました

 

一人ぐらい笑える話をする人がいても良いよねぇヾ(@^(∞)^@)ノ

 

そのうち、神様が腹を抱えて笑っている姿がみたいなぁと思うようになりました

 

こんな話を友人たちにすると、友人たちの方が笑い転げやがりましたヾ(。`Д´。)ノむかっ

 

Σ( ̄□ ̄;)何の話やあせる

 

話の進展が遅いですよね(=◇=;)

 

なんか描きながら切なくなってしまいました(--。。

 

着目する角度を変えてフォーカスしてみれば

 

その都度主人公と悪役が入れ替わるように感じられる

 

誰が主人公で、誰が悪役かわからない物語をずっと描いてみたかったのですが

 

少しずつ描けているようなΣ(@@;)

 

今にも空中分解しそうな(((゜д゜;)))

 

綱渡りのようになってきている (((((・_・;)

 

果たしてこの戦に決着がつけられるのだろうかΣ(@@。。

 

答えも結論も見えているのに、そこへ辿り着ける気がしない(((゜д゜;)))

 

なんせキャラたちが好き放題動き出していますからねぇ

 

∑(-x-;)

 

ここまで来れば、頑張るしかないε=ε=ε=ε=ε=(o゜―゜)o!!←心境

 

っていうか、キャラたちに付き合うしかない( ̄‥ ̄)=3 フン

 

まる☆