ユーラゼレード国へテーシー女王が到着した時

 

お供の若者が35万人にも膨れ上がっていた

 

城の周りには無数の人で溢れかえることになる

 

「しかし、集まったものだなぁしかも世界中の国の若者ばかり」

 

ソールト元帥が楽しそうに言う

 

ランドとシラスター王もこれには驚いて暫く立ち尽くしていた

 

「無下に追い返す気にはなれないわ、みんな心ある者たちばかりだもの」

 

「しかし、こいつらみんなトリメキア国へ押し寄せて来たらどうするつもりだ」

 

イタズラっぽくソールト元帥はテーシー女王に問うと

 

「その心配はないと思いますよ」

 

ランドが冷静に答える

 

「何故そんなことが言えるのだ」

 

「いろんな国の暗殺者や野盗に扮した連中が襲撃してきたとき彼らは献身的に戦ってくれたけれどそのあと涙に暮れている姿を何度もみました、結局彼らは自分の国を愛している、だからこそその国の代表としてテーシー女王を守っているとみた方が良いでしょう」

 

それはつまりこの世代がそれぞれの国を担って立った時には

 

テーシー女王に対する作られた悪評の効力は失われるということであり

 

ランドにはそれがマーリアが仕組んだことだということも見抜いていた

 

「ここまで周到に練られた策略である以上、少しばかりマーリアの狙いを見直す必要がありそうです」

 

「ランドそれはどういう意味だ」

 

思わずシラスター王が尋ねた

 

「恐らくですが、このユーラゼレード国も一枚岩ではない、何か問題があるのでしょう」

 

「それで私を利用して解決しようとしている訳ね」

 

「出来なければ、テーシー女王を殺しトリメキア国を滅ぼす段取りは付いているとは思いますが、マーリアの期待に応えれば友好国になれる可能性がある」

 

「気に入らないわね」

 

何から何までマーリアの掌の上で転がされていると思うと

 

ブライドの高いテーシー女王は気分が悪くなるのも当然である

 

「しかし、ここはその謎掛けを解いて解決することが一番最短で事態を収束させることになるでしょう」

 

シラスター王ですらそう考えてしまうのは

 

相手がマーリアだからだ

 

ところがランドは違った

 

「まったく気分の良いものではありませんね、テーシー女王」

 

テーシー女王はちらりとランドを見る

 

「珍しいわね、あなたがイラつくなんて」

 

「どうでしょうテーシー女王、ここはトリメキア国のことも世界のことも忘れて、思うまま振舞って判断されてみては」

 

「そんなことをすれば、人間の世界は滅んでしまうかも知れないわよ」

 

「それでも良いではありませんか、相手の作った道を歩くよりは混沌の中で迷っても自分が選んだ道を歩いた方が正しい判断をすることができますから」

 

テーシー女王は何かを守ろうとすると途端に保守的な考えに走りやすい

 

ランドは思い切って彼女本来の性質を開放してみようと試みた

 

マーリアは彼女のそんな弱点を突いて来ることは間違いない

 

彼女と対等に戦うには、テーシー女王本来の性質でなければならない

 

ランドには僅かながらの勝算があった

 

もちろんマーリアに勝つという意味ではない

 

マーリアに勝とうとすれば、間違いなく落とし穴に嵌まり込んでしまう

 

ただ彼女にも弱点と呼べるものはあるとランドは見抜いている

 

マーリアをワクワクさせることができる素質の片鱗が現れたのだろうか

 

「面白いわね、相手に全てを握られている商談ほど面白くないものは無いわ、でもそれをひっか繰り返せば新しい道も開けて来る」

 

「そうです、彼女が作った道を歩く必要はない」

 

「私にそれが出来ると思うのランド」

 

「そうでなければこんな助言はしませんよ」

 

テーシー女王は城の門に視線を移してから

 

「わかった、あなたを信じるわ」

 

その言葉に何故かランドは胸が熱くなった

 

これが人間の信頼関係なのだろうか

 

彼には未だに認識はおろか理解すら出来ていないが

 

心はすでに感じ取っているようだ

 

城の出窓からこの様子を見たマーリアが笑い転げたことは言うまでも無い

 

そしてこの様子を見て顔色を変えている七大長老たちを見て

 

イタズラっぽく笑った

 

「彼女が世界の各国に支持されていないという所で攻めるのは無理になったわね」

 

「あなたはどちらの味方なのですか」

 

「言ったでしょ、私は約束を守った、あなたたちに国を用意してこの世界で生きて行く道を与えたわよ、ここまで世界を震撼させればあなたたちを利用する奴らが擦り寄って来る、そういう奴らは臆病だから中々尻尾を掴ませてはくれないからね、そんな奴らがいなくなれば、あなたたちも安心でしょ」

 

「確かにあなたは我々の為にあらゆる手を尽くしてくれていることは理解できます、ですが、リュエラを女王に据えることだけは承諾できません」

 

「ここにきて断るなんて、少しばかり卑怯ではなくって」

 

「あなたには感謝していますが、魔導師を女王にすることなどできないのです、魔導師は我々を滅ぼすと予言の書に記されていますから」

 

七大長老を代表してナルシードがマーリアと話し合っている

 

ナルシードは七大長老の中で最も柔軟な思考をすることができるが

 

それでも、魔導書の中の予言の書を否定する勇気はないようだ

 

魔導書は魔導師たちが書き記した新しい魔術が認められている

 

中には予言まがいのことも書かれていて

 

魔術師たちはこの魔導書をバイブルのように思っている

 

またその予言通りのことが悉く起こっているため

 

魔法使いたちですら魔導書の中の予言の書は信じざるを得ないのだ

 

更に絶望的な予言の書もあるため、悲観して混乱することを避けるために

 

長老たちはその魔導師たちの予言の書を禁書として隠し持ってきた

 

その予言の書には「魔導師がこの世界を滅ぼす」と記されていた

予言の書を絶対的に信じている魔術師たちは絶望してパニックを起こすかもしれない

 

またその予言の書を信じているのは魔術師だけでなく魔法使いたちの中にも相当いる

 

この予言がまっとうされないように

 

魔導師となる可能性のある子供が生まれた場合、監視を続け

 

魔導師となる可能性が濃厚と見た子供は12歳までに殺してきた

 

魔導師として覚醒するのが大体12歳から16歳の間で

 

16歳以上の魔術師が魔導師になった記述はどこにもない

 

つまり覚醒には時期があり、16歳を過ぎればどんなに素質があっても覚醒はしない

 

と言うのが定説になった

 

魔導師の素質がある子は魔術では殺せない、けれど覚醒して間もない子なら

 

毒殺は有効だと長老たちも学習した

 

だから歴代の魔術師となる可能性のある子は12歳になれば毒殺されて病死扱いされた

 

ナタルもその一人である

 

彼女は毒に対する抗体を持っていた為生き残ることができた

 

リュエラだけは覚醒しないと思われていたが

 

すでに覚醒していて強大な魔力でシールドされていた為

 

七大長老の誰一人彼女が魔導師として覚醒したことを認識できなかった

 

結局ラスとの死闘を密偵が見ていたらしく

 

次第に長老たちも彼女が魔導師である可能性を見つめるようになった

それが確信に変わるや、彼女に無実の罪を着せて

 

魔術師及び魔法使いたちに殺させようとした

 

魔導師が心優しく、誰も殺すことが出来ないことを七大長老たちは知っていた

 

結局魔術師たちを人質のような扱いをすることで彼女を無抵抗にさせ殺す算段までしたのだ

 

彼女が七大長老たちや魔術師と魔法使いを憎まない筈はない

 

リュエラを女王に据えれば、間違いなく予言の書に記された予言が実現してしまうだろう

 

七大長老たちはそう考えても不思議ではない

 

さて、問題はその予言の書である

 

魔導師となる者は一人残らず心優しい性質を持っている

 

滅ぼそうと思えばいつでもこの世界を滅ぼすことのできる力を持っているにも拘わらず

 

いままで滅ぼされかけたことすらないのである

 

となれば、その予言の書は怪しい

 

恐らく亜魔王種が何らかの方法で似非予言の書を紛れ込ませたに違いない

 

亜魔王種にとっても魔導師たちは脅威の存在だから

 

一人でも多く始末するに越したことは無い

 

つまり魔導師を間引きするために、偽装した予言の書を紛れ込ませたことになる

 

しかし証拠はどこにもない

 

長老たちは何世代にも渡りその予言の書を信じて実行してきたのだ

 

これは最早彼らにとって信仰といっても過言ではない

 

何世代にも渡り信じられ信望し続けて来た考えをそう簡単に変えることは出来ない

 

しかし、世界に出て国として成立させるには

 

他の国との関りをせずには成り立たない

 

今までのように戦をメインにした世界なら或いは自給自足でも成り立っただろうけれど

 

これから戦を無くし、世界合同会議のように各国が話し合いによって共存する世界では

 

自主独立は出来ても、他国との関りなしでは国として立ち行かなくなるだろう

 

マーリアは戦略的に七大長老を中心としたこの世界の根本的カタチを変革して

 

国と言うカタチへ作り変えようとしている

 

リュエラを女王に据えることは最初からその条件に組み込んでいたが

 

七大長老たちはその時は承諾したが

 

いざ国として成り立つ目処が立つと途端にリュエラを拒絶した

 

亜魔王種が植え付けたデマを彼らは未だに信じているのだ

 

そこでマーリアが白羽の矢を立てたのはテーシー女王だった

 

ゴッドウィンドウ国戦役での彼女の戦略はデュカルト王に勝るとも劣らない

 

終戦後もいち早く動き、戦のない世界を彼女なりに模索して懸命に実行していた

 

ただ彼女は優秀過ぎた

 

カリスマ性で言えばシラスター王は世界の性質そのものを変えてしまう革命児といえる

 

しかし、彼は誰もが認識してしまう欠点も抱えていて

 

それが人間的に捉えれば、脅威と言うより好感を感じる王としかならない

 

決してずば抜けた頭脳ではないのだ

 

彼はどちらかと言うと世界の根本を根こそぎ変えてしまう

 

デラシーズ国の性質をたった数年で変えてしまったように

 

彼なら世界を根本的に変えてしまえるだろう

 

ところが、驚くほど間の抜けたところもあり、それが人々に好感度を爆上げしている

 

テーシー女王には、そんな粗が見つけられないのだ

 

抜け目がなく、ほんの僅かな油断でもすれば、立ちどころに見抜いて

 

その日のうちにそこを突いてしまえる能力を持っている

 

これは蟻の這い出る隙も無い程の戦略といえるだろう

 

デュカルト王ですら、彼女を好き放題させざるを得なかった

 

抜け目のなさで言えば七大長老も彼女に近いタイプではあるが

 

七大長老たちは小さな世界の中で、無難な道ばかりを選択して生きて来た

 

テーシー女王は幼少から搾取を前提とした薄汚い策略の世界で生き抜いて来た

 

戦う前から勝敗は決まったようなものだ

 

七大長老たちは、そのことは認識しているものの

 

相手は一人でこちらは七人もいると過信していた

 

そのため、ほぼトリメキア国はユーラゼレード国の属国となるような提案書を渡したのだ

 

テーシー女王は珍しく冷静にこの理不尽な提案書を一通り目を通してから

 

会見場へ向かった

 

この時七大長老たちがテーシー女王は

 

彼らが考えているような生易しい存在ではないことを思い知ることになる

 

「失礼ながら、ここに居る方の一体誰がこの国の王なのでしょうか」

 

「我々に王はいない、国の統治は我ら七大長老がしております」

 

するとテーシー女王は立ち上がり

 

「話にならないわ、古来王の居ない国を私は見たことも聞いたことも無い、つまり王がいないのであればこのユーラゼレード国を国として認めるわけには行きません」

 

「無礼ではないのか」

 

「無礼と言うなら、私はトリメキア国の女王であり当然対等の交渉をする相手はその国の王以外身分不相応です、馬鹿にするのもいい加減になさい」

 

まさかいきなりテーシー女王が怒鳴りつけて来るとは思わなかった七大長老はたじろいだ

 

「王がいないここを国として認めるわけには行かない、土地を不当に選挙した無頼漢、或いは野盗の類と認識します」

 

流石に野盗扱いされては七大長老も怒りを露わにしたが

 

「国で無いのであれば、世界中の国が野盗討伐に出向くでしょう、少なくとも三国とデラシーズ国、そしてトリメキア国は今この時より宣戦布告します」

 

途端に七大長老の顔色が変わった

 

如何に絶大な魔力を持った魔法使いと魔術師たちの集団であっても

 

世界中の国が敵となれば、勝てるとは限らないし、甚大な被害を被ることは間違いない

 

「お待ちください」

 

「即刻帰国して、戦の準備に取り掛かります」

 

「そう言うと歩き出した」

 

「お待ちくださいテーシー女王、交渉を」

 

「我が国と交渉したければ、あなたたちが国であることを証明なさい」

 

「それは一体どうすれば」

 

商談においては主導権を握ったものがその場の勝利者となる

 

今この場はテーシー女王が完全に主導権を掌握していた

 

「王を選出しない限り国として認めないと言いました、私と対等に話し合いたいのであれば、あなたたちの王を連れて来なさい」

 

そう言うとまた歩き出したため

 

七大長老が魔法使いと魔術師たちを彼女の前にひれ伏すように指示する

 

魔力結界を張っていることは魔力を未だに持ち続けているテーシー女王には感じ取れる

 

彼女は宝剣を抜くと一振りでその結界を打ち砕いた

 

「なんと結界を剣で打ち砕くなんてあり得ない」

 

長老たちは立ち尽くす

 

ひれ伏している魔術師と魔法使いたちは力尽きて気を失った

 

「魔力があなたたちだけのものだと思わないことね」

 

「そんなことは聞いていない、人間たちの中で魔力を使える者がいるなんて」

 

「魔力を使えるのが私だけだと思いたければ思いなさい」

 

テーシー女王は宝剣の切っ先を七大長老へ向けた

 

もちろん、膠着(はったり)である

 

しかしこの世界に始めて飛び出した七大長老たちにはその真偽は見抜けない

 

「あなたたちが敵に回した相手は、あなたたちに匹敵する国だと、あなたたちはその身をもって思い知ることになるでしょう」

 

歩き出してから立ち止まり振り返り

 

「因みに三国もデラシーズ国も我がトリメキア国の同盟国なので、共に力を合わせてあなたたちを倒すことになるから覚悟なさい」

 

シラスター王は最初慌てたが、テーシー女王の言はもっともだと思った

 

三つ巴の戦いなら世界が滅ぶ可能性はあるが

 

その強大な三つの国が力を合わせてユーラゼレード国を殲滅(せんめつ)するとなれば

 

世界中の国は賛同せざるを得ないだろう

 

この三つの国を全て敵にする力のある国は今は世界には無いのだ

 

テーシー女王は一瞬にして三つ巴の戦の危機を

 

ユーラゼレード国討伐というカタチに変えてしまったのだ

 

歩きながらテーシー女王は

 

「ランドあなたはこの戦トリメキア国元帥として力を貸してくれるわよね」

 

「それがテーシー女王の選択なら、微力を尽くします」

 

「ソールト元帥はどうかしら」

 

「おいおい私はもうトリメキア国の人間だ手を貸さない筈はないだろう、面白くなってきやがった」

 

「最期にポロっと本音が漏れてますよ」

 

ランドはしらけた目で口を挟んだ

 

「堅いことを言うなランド、今私は楽しくて仕方がないのだ」

 

「シラスター王あなたはどうされますか」

 

テーシー女王は立ち止まりシラスター王を見つめた

 

「テーシー女王の言の正しさを私も支持します、王すら決めていないなんて私も思いもしませんでした、こんな無礼な輩なら討伐すべきでしょう」

 

珍しくシラスター王までもが好戦的な態度になった

 

困り果てたのは七大長老たちである

 

彼らはマーリアに泣きつくカタチで、彼女に女王になってくれるように懇願した

 

「お断りよ、折角建国する場所とチャンスを提供してあげたのに、あなたたちはそれを潰してしまった、はっきり言ってここはもうおしまいよ、いくら何でもすべての国を敵に回して生き残れる筈はないでしょ、あなたたちの采配で魔法使いと魔術師は絶滅することになるわ」

 

いまさらながらにテーシー女王を舐めてかかったことを七大長老たちは後悔したが

 

今となってはどうにもならない

 

「結局予言の書は間違いだったということね、魔法使いと魔術師のことの世界を滅ぼすのは魔導師ではなく、あなたたち七大長老たちの采配だった」

 

七大長老たちは電撃に打たれたとような衝撃を受けた

 

「私に心当たりがあるわ、あなたたちもうすうす気が付いているのではなくって、魔術師と魔法使いが何故争いを起こしたか、それが何故大きな戦にまで発展したのか」

 

七大長老たちもそこまで言われると、予言の書は錬金術師を生み出し

 

ホムンクルスを作らせた存在の仕業である可能性が見えて来る

 

「実はこの土地で錬金術師たちは生まれて、ホムンクルスが作られた、あなたたちにとっては因縁の土地だということね、この因縁の土地で滅ぶことね、私の条件を破棄した報いを受けると良いわ」

 

「マーリア殿お待ちください、もしその予言の書が亜魔王種たちが作った偽物だとすれば、我々とて魔導師を王に据えることを反対する理由がなくなります」

 

「それなら、お願いしてみることね、リュエラが承知してくれたなら、おなたたちが滅ばない道も生まれて来るかも知れないから」

 

長老たちは暫く話し合ったが結局観念したらしく

 

「リュエラを女王にすることを承諾致します」

 

七大長老たちは頭を下げた

 

「聞いていたかしらリュエラ」

 

突然リュエラが現れる

 

「随分と虫の良い話ね、あなたたちは私に罪を着せて殺そうと謀ったことを忘れたとは言わせないわよ」

 

「その責については我々はどんな罰も受ける、我ら七人の首を刎ねても構わない、どうか魔法使いと魔術師たちを救ってくれ」

 

七大長老たちは遂にリュエラに平伏した

 

「リュエラあなたが決めなさい、このまま魔法使いと魔術師たちを見捨てて滅ぼすか、それとも女王となって救ってあげるのか、私はあなたが決めたことを決して否定しないわ」

 

「マーリアあまりにも狡いじゃない選択肢があるようなフリはおよしなさい、私に選択肢は無いでしょ」

 

もし断れば予言書は正しかったということになる

 

魔導師であるリュエラがこの世界を滅ぼしたことになるからだ

 

「私が引き受けてこのユーラゼレード国の女王になれば、必然的に予言の書は偽物だという証明になるでしょ」

 

「そうよ、これから生まれて来る魔導師はもう命を狙われなくなる」

 

リュエラは無表情にマーリアの二の腕を抓(つね)った

 

「痛いわリュエラ痛い」

 

「私に尻拭いをさせる罰よ」

 

「だってこんな事態になるなんて、私もびっくりしているのだから」

 

「それでテーシー女王は合格かしら」

 

「もちろんよ、あんな面白い人を殺すなんて私にはできないわ」

 

リュエラは溜息をついてから平伏している七大長老たちに視線を移した

 

「私が女王となったら、あなたたちは生涯私に仕え支えなさい、それを持って償いとしてあげるから、私が魔法使いと魔術師たちを守ってあげる」

 

「ならば我ら七大長老はリュエラ女王に永遠の忠誠を誓う」

 

「さてリュエラ女王として、この事態どう治めるつもりかしら」

 

リュエラがマーリアに視線を移すとマーリアは二の腕を守るような仕草をしたので

 

リュエラは面白くなって笑ってしまった

 

「失礼なことをして怒らせたなら、謝るのが筋道というものでしょ」

 

「そんなことで許されるとは限らないわよ」

 

「謝るという行為は、決して許してもらうためにすることではないわ」

 

許す許さないはあくまで相手の問題なのだ

 

許されることを目的に謝るならそれは下心であり純粋に悔いているとは言い難い

 

許される許されないなど関係なく、傷つけてしまったことを謝るのが自然な行為だ

 

ユーラゼレード国の城の門の前までテーシー女王一行は辿り着くと

 

突然門の前に人影が現れた、リュエラである

 

テーシー女王を始めみんな剣を構える

 

「私の従者たちが失礼したわ」

 

そう言うとリュエラは頭を下げた

 

テーシー女王がいち早く手でみんなを制した

 

「あなたかこの国の女王なのかしら」

 

「たった今女王になったばかりですが、非礼は詫びます、話し合いに応じて貰えるでしょうか」

 

「あら、あなたが女王になる前のことなら、あなたに責はないわ」

 

「良かった」

 

そう言うとリュエラは七大長老たちが用意した、無礼な提案書を目の前で破り捨てた

 

「我々が話し合いたいことは、この世界に戦を無くすこと、また我々の魔力は決して弱くはなく、戦に利用されれば人間の世界に甚大な被害を生み出す危険性があります、私は女王として何としてもそれだけは回避したいのです」

 

「詳しい話を聞きましょうか」

 

テーシー女王がそういうので、リュエラは再び会見場へと誘った

 

歩きながら振り返ったランドは微笑み、シラスター王は満面の笑みを浮かべた

 

リュエラはしらけた目で二人を「早く行きなさい」と手で促す

 

こうなればマーリアがテーシー女王を認めたことは間違いない

 

ランドだけでなくシラスター王もそのことを認識した

 

それから二人は昔からの友人の様な感覚で三時間も話し合う

 

「不思議だけれど、あなたとは初対面の様な気がしないわ」

 

「奇遇ね、私もずっと昔からこうして話していたような感覚になるから不思議」

 

ずっと黙ってテーシー女王の傍に居たリーザも驚いた様子だ

 

テーシー女王がこれだけ打ち解けて初対面の相手と話している所を見たことが無いから

 

勿論、初対面ではない

 

リュエラはナタルと共にテーシー女王の命を救った

 

しかし、ナタルと共にテーシーを救ってくれた魔導師と思われる彼女の正体を

 

シーランの弟子は誰一人知らないのだ

 

あのときその場に居合わせた弟子であれば

 

そのときの魔導師がリュエラ女王であることを

 

彼女の顔を見ればわかったに違いないが

 

残念ながら、リーザはその時道場を後にしていた為

 

二人は初対面であるという認識だ

 

まして、リュエラがこの状態でその事実を口にすることはないだろう

 

いますはユーラゼレード国を国として成立させることと

 

人間の世界から、戦を無くすことで手一杯だった

 

リュエラ女王とテーシー女王はリーザが見る限り真逆に近い性格だと思える

 

どこまでもクールで冷静なリュエラと

 

短気で不器用なテーシー女王

 

共通点があるとすればプライドが共に高いくらいだろうか

 

そのリュエラ女王が突然奇妙な提案をした

 

「我がユーラゼレード国にトリメキア国の手助けをさせていただけないかしら」

 

一体何を言っているのか暫く誰も解らなかった

 

「我が国は恐らく人間の世界では脅威的な存在となっているでしょう、トリメキア国もまた他の国からは脅威と感じている、今では三国やデラシーズ国もそれに加わったから逆に緩和しているけれど」

 

リュエラ女王は、このままトリメキア国と同盟を結べば更なる脅威と感じるに違いないという

 

これでは、戦を無くすどころが戦の陰に怯える世界になってしまうだろう

 

「魔術も魔法もこの世界の為に用いるべきだと考えているのだけれど、ゴッドウィンドウ国戦役後の復興国の支援協力をすることで、少しでも恐怖のイメージを拭いたいのです」

 

「それなら、あなたたちの魔力を国の特産物として生かすのが良いでしょう」

 

トリメキア国はドルトエルン国の時代から商業で栄えた国であり

 

商人気質の強いテーシー女王は

 

魔法や魔術を労働力という仕事として成り立つ道をし示す

 

「そうね、まず宣伝として復興国へは無償でその魔力を発揮すれば、多くの国があなたたちの魔法と魔術を仕事として依頼して来る可能性は高い、暫くは私たちが商業のノウハウを伝授しながらお手伝いしましょう」

 

こうして、トリメキア国とユーラゼレード国の会談は成功した

 

トリメキア国が仲介に入るカタチで、デラシーズ国と三国とも友好条約を結ぶ

 

こうなれば嫌でもトリメキア国を認めざるを得ない

 

また帰国途中テーシー女王は三十五万人の若者全ては無理だが

 

それぞれの国の代表を立てて握手して礼を言った

 

若者たちはその光景を目に焼き付けた

 

恐らく将来忘れることはないだろう

 

未だに世界中の各国の大人たちは「何か裏で薄汚い交渉をしたのだ」と疑っている

 

それでも、その大人たちの中からテーシー女王への色眼鏡を外して

 

彼女を支持する者も増えて行くようになる

 

マーリアの打ち立てた戦略は徐々に効力を発揮して行き

 

テーシー女王への偏見を少しずつ無くすことで

 

亜魔王種の刷り込みの威力を削いでいった

 

つづく
 

人間たちの落日 落日の兆し もくじ

 

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あとがき

 

イメージの力は大きいことを情報戦略というカタチで知ることが出来ます

 

情報戦略は、より真実に近い情報を入手するかだけではありません

 

自分たちにとって都合の良い情報を如何に大衆に刷り込み植え付けるか

 

それもまた情報戦略に含まれます

 

人間は一番最初に植え付けられたイメージを中々変えられない

 

一度色眼鏡で見てしまった相手のイメージは消えにくいため

 

事実だけを見れば善行積んできた、世の中の為に良い結果を残している人でも

 

欠点や捏造したスキャンダル、連日のような悪評によって悪者に仕立て上げられれば

 

まんまとその戦略に乗った人は、その人物を嫌いになってしまい

 

どんなに正しいことをしていても、胡散臭くみえてしまうようになる

 

自分の意志で嫌いになったと思い込んでいる人が殆どなのだけれど

 

実は嫌いになるように仕向けられている(* ̄m ̄)プッ

 

大多数の人がその相手を嫌っている場合、特にその可能性が高いと見て良いでしょう

 

殆どの人が好感を持っていて、立派な人だと賞賛されている人がいるとして

 

その人物はどうも好きになれない、嫌いだと思えるのなら

 

それはその人の意志で嫌いになった可能性は高いのですが

 

テーシー女王への各国の大人たちのそれは

 

間違いなく印象操作により嫌いにならされているとみて良いと思います

 

この世界での若者たちはそんな刷り込みに引っ掛からず

 

事実だけをリアルに捉えて真実を掴み取っている(ΦωΦ)

 

こういうことは現実の世界でもよくありますよね∑(-x-;)

 

私は子供の頃から真っ黒い女子たちから印象操作や刷り込みで孤立させられたから

 

嫌でも敏感になりました( ̄‥ ̄)=3 フン←もちろん逆襲はしています(,,꒪꒫꒪,,)

 

面白いのはこの黒い女子たちが本能的にやってのけた手法と

 

この世界でまかり通っている刷り込みや印象操作があまりにも似ているΣ(@@;)

 

嫌いな相手のことを言っても意味は無いし気分が悪くなるだけですが

 

強いて言うなら、立派なことを言おうとする人ではなく立派な言葉を利用して

 

自分の思い通りに人心を誘導する人たちです( ̄へ  ̄ 凸見抜ける人はいるものです

 

Σ( ̄□ ̄;)何の話やあせる

 

トリメキア国を中心とした大戦はユーラゼレード国を投入することで

 

第三の脅威を生み出し、更に三国やデラシーズ国もまた驚異の国であると認識させた

 

更にユーラゼレード国が暴挙に及んだ時

 

当のトリメキア国がそれを治めることでトリメキア国討伐の国は勢力が削がれた

 

マーリア流の戦を回避する方法ですが

 

魔王界では敵対状態のマーリアの策略をシーランが手助けすることと

 

テーシー女王という逸材が見事マーリアの策略を違うカタチで成功させてしまった

 

改めてテーシー女王は凄いと思いましたΣ(@@;)

 

こうして人間の世界の大戦が回避されたので

 

マーリアは魔王界の革命を推し進め始めます

 

ユーラゼレード国の魔法使いや魔導師たちは暫くは人間の世界での活動が増えて

 

亜魔王種討伐に駆り出すのは難しくなってしまった

 

そうとわかれば瞬時にマーリアは戦略を改め違う方法で亜魔王種撲滅を始めます

 

やはり変幻自在の頭脳の持ち主でしょうね(=◇=;)汗

 

これから先は人間界から魔王界へ視線を移しましょう

 

マーリアにとっては亜魔王種を根絶やしにすることは

 

魔王界に革命を起こす第一歩でしかない

 

人間の世界に戦を無くすためには魔王界が変革を成して人間の世界と関わらせる

 

マーリアはケネスの構想を軸にして、魔王界を巻き込むカタチで大きく拡大させている

 

邪魔な亜魔王種を一掃して、人間界と魔王界の垣根を取っ払うことで

 

人間たち同士で戦うことを無意味だと思える世界を創り出そうとしているようです(((゜д゜;)))

 

本当なら人間の世界と同時進行で描くのが良いと思いますが

 

力及ばす、次回は時系列を戻して話を進めてみます(--。。

 

漫画で描くなら、魔王界と人間界の出来事を交互に描いて話を進める感じでしょうか

 

更に精進せねばヽ(;´ω`)ノあせる

 

まる☆