魔王ザッドの城を飛び出しランドは無意識に森の奥深くにある魔物たちの墓石に辿り着く

 

夥(おびただ)しい数の墓石が並んでいるが、全て整備されている

 

魔王ザッドは三日と開けずこの墓石を整備しているのだろう

 

こんな心ある魔王が、亜魔王種たちが言ったような恐ろしいことを企てるだろうか

 

しかし亜魔王種たちの言葉に嘘は感じなかった

 

一体魔王ザッドに何があったのか

 

何故あのような恐ろしいことを考えるようになったのだろうか

 

ふと背後に気配を感じて振り返るとそこに一体の魔物がいた

 

ランドの様子がおかしいと心配してついて来たのだろうか

 

「魔王ザッドを許してあげて」

 

ここの魔物は言語能力が未発達でうまく言葉を話せない

 

「魔王ザッドは魔物を憎んでいる」

 

片言の言葉に魔物は心を込めて話しているのが感じられる

 

たどたどしい言葉でその魔物は懸命にランドに伝えようとしているのは理解できるが

 

内容を把握するのは骨が折れた

 

ここの魔物は論理的に物事を捉えるのが苦手のようだ

 

その為論理的に話をすることもできない

 

ランドにとって非論理的な話し方は苦手なのだけれど

 

賢明に伝えようとする魔物の気持ちは感じ取れるから真剣に受け止めようとした

 

魔物の話によると、魔物の世界は弱肉強食で弱者に生き残る術は無かったらしい

 

強い種族だけが生き残る世界で自分たちはあまりにも非力で滅び行くしか道は無かった

 

そんな時魔王ザッドとその親友が助けてくれたそうだ

 

魔王ザッドの親友が理不尽に殺されたことや

 

その後

 

横柄で魔物に辛く当たる魔王も現れ鬱積された魔物たちはそのイライラを弱者に向けた

 

魔物が魔物狩りをすることも少なくない

 

そして自分たちの先祖も魔物狩りに遭い多くの仲間を失う

 

弱いからという理由なだけで虐殺されることは理不尽すぎる

 

弱肉強食の意味を履き違えた魔物たちも少なくなかったようだ

 

本来弱肉強食は捕食の連鎖を示している

 

弱い者いじめをする法則などこの世界には存在しない

 

つまり

 

弱者を虐めることはこの世界の法則ではなく、あくまでその道を踏み外した者たちの生き様だ

 

捕食者は真っ先に群れの弱者を狙い糧とする

 

しかし腹が満たされた捕食者はそれ以上に狙うことは無い

 

では弱者だから生き残れないのかといえば決してそうではない

 

この世界は常に変動している

 

その変動があまりにも緩やかなため

 

ほとんどの時代でそのことに気付くものがいないだけだ

 

ある沸点を超えると突如切れ変わる様に気候変動や天変地異が起こる

 

大きく変化した環境の中では、寧(むし)ろ弱者と呼ばれた者たちが生き残り

 

強者とされて来た捕食者が滅ぶということもよくあることだが

 

それも数万年に一度の規模の変化なので

 

殆どの世代はその事実を知らない間に一生を終える

 

だが、その時代の転換期と呼べるその時期に生まれ育った者には

 

この恐るべき事実を知ることができるだろう

 

その者たちが何らかのカタチで後世の人々にこの事実を伝えているが

 

この事実を知ることができるのは歴史に学ぶ者だけで

 

経験に学ぶ者たちには決して辿り着けない

 

その時代の強者或いは成功者と呼ばれた者たちは、
 

その時代を生き抜く知恵は得られても世界の本当の姿を理解するに及ばない

 

これと同様に当時の魔物たちの中で歴史に学ばず経験を頼りにしてきた魔物たちも

 

弱肉強食の意味さえ履き違えてこのような暴挙に及んでいる

 

心理的に見れば不安定感と未来に対する不安に晒され続けて来たものたちが

 

その不安定な心を安定させるべく心の穴埋めをしようとする

 

それが虐めというカタチをとるケースも少なくない

 

実はいじめをする者たちは常に不安に晒され恐怖心に支配されているが

 

ほとんどの場合無意識化でのことで無自覚であるから、自分でも気が付かない

 

魔物たちと人間の精神構造は違うが、これに関しては類似しているようで

 

当時の魔物たちは平気で弱者をおもちゃの様に扱い簡単に殺してきた

 

ただ殺すのではない

 

いたぶり恐怖心を煽りながら絶望に顔を歪ませた姿を見て楽しみながら

 

無残にも残虐に殺す狩りをしていた

 

それを目の当たりにした魔王ザッドは友の理不尽な殺され方と重なって

 

そんな残虐な魔物たちを親友の仇だと思うようになっても不思議ではない

 

ランドが不思議に思うのは、今まで出会った魔物たちでそのような性質を感じたことは無い

 

本当に魔物たちはそんな残虐な一面を持っているのだろうか

 

するとその魔物は答えた

 

「魔物は魔王の影響を直接受けて成長する」

 

魔物たちは魔王によって育てられ変化して行くようだ

 

ランドはそのとき天が何故魔王をこの世界に生んだのか悟ったように思えた

 

魔物の残虐性を正し、正しい道を歩ませるため魔王と言う羅針盤を魔物たちに与えたのだ

 

ということは魔王は間違いなく魔物たちの為に生み出された

 

魔物たちが魔王の為に生きているように見えるけれど

 

魔王こそが魔物たちの為に生まれ生きていることになる

 

シラスター王がかつて聞かせてくれたこととその考えが重なった

 

「王の為に国があるのではない、その国の住人の為に国があるのだ、その住人たちの為に王は生まれた、デラシーズ国の歴代の王たちの中で住人たちの為に生きなかった者はいなかった、これってまるで親子みたいな関係だとずっと思っていた、私もそれに習い生きて行くつもりだ」

 

王が親でその国の住人たちはみんな王の子供たち

 

そんな考えを持った王などこの世界のどこにも見つけられない

 

父ブラスト将軍を私利私欲に塗れた王宮と王族たちが脅威となったから殺した

 

人間の世界の殆どの国の王は国を搾取の為に利用しているのだから

 

変わった国だな、その時はただそう思っただけだったが

 

今まで出会った魔王と魔物たちの関係を知れば、まるでデラシーズ国のようにみえる

 

魔王は親で魔物たちは子供の様な関係を何万年もかけて築いて来た

 

魔物に至っては何世代にも渡り魔王が教育して育てて来たとすれば

 

そんな卑劣な魔物たちでも何万年もかけて魔王たちが心ある魔物に育てて来たのだ

 

そう思えてきた

 

そしてここにいる魔物たちはみんな心優しい

 

恨みを果たすより、相手を傷つけることを嫌っているのだから

 

ランドは堪らずその魔物を抱きしめた

 

「魔王ザッドはずっと昔の魔物たちの幻影を憎んでいたのだろうなぁ」

 

魔王は魔物より遥かに長生きだから

 

魔物たちが何世代にも変わり昔の話を伝承として伝えられたものでも

 

魔王たちはリアルタイムの記憶として未だに感覚的に覚えている

 

寿命に応じて時間感覚は違うから

 

魔物たちにとっては遠い先祖の昔話のような出来事であっても

 

魔王たちにとっては少し前の出来事に過ぎないのかも知れない

 

ランドは父ブラスト将軍を殺したカムイ元帥に対する憎しみを思い出した

 

自分がカムイ元帥を許せない気持ちと

 

魔王ザッドが魔物たちをなぶり殺しにした強者の魔物たちや

 

親友を無残に殺した魔王と今の魔王を重ねて嫌悪感を抱くことは理解できる

 

でも魔王テトの魔物たちは気持ちが良いくらい情のある魔物になっている

 

魔王テチカの魔物たちは自制心が強く情も深い魔物たちだ

 

魔物も魔王もきっと何万年もかけて成長するものなのだろう

 

認めたくはないがカムイ元帥もホルンと融合して心を獲得した

 

マーリアやデラシーズ国の住人と出会い獲得した心が彼を変えた

 

自分の命を犠牲にしてランドを救った事実がそれを物語っている

 

何より父ブラスト将軍を唯一の親友だと思っていたことは今は痛い程感じられる

 

「これでは奴を許すしかないじゃないか」

 

ランドは魔物を抱きしめながら

 

「魔王ザッドも魔物たちや他の魔王のことを許せるだろうか」

 

そういう気持ちが溢れて来た

 

「大丈夫だよランド、ランドが現れてから魔王ザッドは変わったから」

 

魔物はランドに語りかける

 

魔王ザッドはきっともう気が付いている筈だ、ランドはそう思う

 

その時魔物の長い耳はピンと立った

 

そして魔王ザッドの城の方をサッと見る

 

「どうかしたのか」

 

何気にランドも魔物が見ている魔王ザッドの城の方を見ると

 

突然雷撃が起こり城の一部が吹き飛んだ

 

何かあったに違いない慌てて城に向かう

 

他の魔物たちも急いで城へ向かった

 

城の爆破されたあたりへ辿り着くと鮮血で天井や壁面は真っ赤に染まっていた

 

床には夥(おびただ)しい数の血だまりができている

 

そして血だらけで倒れている魔王ザッドがそこにいた

 

「魔王ザッド一体何があったのです」

 

「ランド、ここの魔物たちを頼む、こいつらは弱く守ってやらなければ生きては行けない」

 

これでは父ブラスト将軍と同じではないか

 

「一体何者がこんなことを」

 

「双子の魔王に気をつけろ、奴らは亜魔王種と繋がっている」

 

その時微かに亜魔王種の笑い声がランドには聞こえた

 

隔離された亜魔王種たちに違いない

 

ランドは治癒魔法を施そうとしたが魔王ザッドは止めた

 

「最期にランド貴様と出会えたことは私にとって最高の幸福だった」

 

もう助からないと聡明なランドは不本意でも認識してしまう

 

「父魔王ザッド、あなたはもう魔王や他の魔物のことを許しているのですね」

 

魔王ザッドは暫くランドを見つめてから、ゆっくり頷いた

 

「貴様に出会えなければ或いは許せなかったかも知れない」

 

魔王ザッドは亜魔王種に類似した能力を持っているためランドの心が伝わっている

 

ランドはシラスター王同様に亜魔王種の魔力に耐性がある

 

これは恐らく彼の母体の少年がその体質を持っているのだろう

 

けれどネオホムンクルスとなってしまったためその体質を何かが阻害しているようで

 

ランドの心は明け透けなほどに亜魔王種には感じられるようだ

 

当然亜魔王種より強大な魔力を持つ魔王ザッドにはランドの心がより明確に伝わる

 

ランドがまた大切な者を守れなかった自責の念に囚われ始めていることを感じた彼は

 

「これはお前のせいではない決して自分を責めてはならない、これは深淵にどっぷりと浸かって生きて来た報いが来たのだろう」

 

魔王ザッドはランドかこの先自分を傷付けないように伝えた

 

「だが今は光の中にいる、そして理不尽な世界を作った天を憎んでいたが、今はランドと出会わせてくれたことに感謝している」

 

魔王ザッドは天を仰いで微笑みながら息を引き取った

 

見れば城に集まった無数の魔物たちが泣きながら魔王ザッドにしがみついている

 

ランドは首を大きく横に振る

 

「憎しみで見れば心が曇る、カムイ元帥の例もあるから」

 

ランドの俯瞰で物事を観る性質は

 

魔王ザッドを殺したであろ双子の魔王への憎しみを振り払いながら

 

今起きている事実を整理し始めた

 

そして魔王の中に裏切り者がいるという厳然たる事実に直面した
 

「亜魔王種の卑劣さを今私は認識した、滅ぼすべき存在もいるということだろう」

 

この時からランドは亜魔王種を絶滅させる道を歩き出す

 

つづく
 

人間たちの落日 落日の兆し もくじ

 

関連記事 12魔王ラフ画

 

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あとがき

 

タイトルの「switch」の意味は、(思いがけない)転換が近いのですが

 

これはランドの心境の変化、大きく考え方が変わる様を意味付けしていますあせる

 

双子の魔王が魔王ザッドを暗殺するシーンを書いていましたけれど

 

結局こういうカタチで表現することにしました

 

私はバトルや戦略や戦術になるとやたらと長く描いてしまいます(=◇=;)

 

特に格闘シーンは格闘技オタの血が騒いでしまいますヾ(@^(∞)^@)ノ晴れ晴れ晴れ

 

それだけ好きなのでしょうね∑(-x-;)←自己嫌悪汗

 

しかし、魔王界で初めて魔王の死者がでてしまいました(--。。

 

魔王ザッドはこれからなのに(。・д・。)。。

 

魔王界は12魔王でギリギリ均衡を保っているとなれば

 

一体の魔王がいなくなるだけで魔王界は荒れてしまいますΣ(@@;)あせる

 

どうやら魔王界にも大転換期が訪れているようです(((゜д゜;)))

 

暫くは激動の魔王界を描いて行くことになりそうです・・・(。_。;)゜:。アセ 

 

次回は漸くマーリアが出て来ます(Φ▽Φ)♪

 

出て来るというより、呼び出される感じですが( ̄▽ ̄;)汗

 

まる☆