魔王テレメッドが魔王ザッドに斬りかかるのを合図に

 

他の魔王たちも剣を交え始める

 

双子の魔王は互いに始めて剣を交えた

 

両者はそう思っている

 

いがみ合ってはいるが、決闘することも無く

 

嫌味の言い合いはしても論争まで発展しないのは

 

この両者が感情が絡むようなことを極度に嫌う傾向があるからだ

 

相手に対してもそうだが、自分自身に対しても

 

もし相手に対する悪感情が爆発的になれば嫌悪感が生まれ拒絶反応を示す

 

結果的に冷めてしまう

 

時には感情的になることもあるが

 

この双子は直ぐに冷静さを取り戻し、その感情を破棄してしまうため

 

決闘までには及ばない

 

双子の魔王には部分的に幼少期の記憶がない

 

記憶の一部が欠損している感じだ

 

ある特定の記憶だけが消されているように欠落しているのが近いだろうか

 

幼少期から青年期になり準魔王に至るまでの記憶の一部が虫食いのように消えたまま

 

だから、幼少期を共に暮らした記憶が互いにすっぽり抜け落ちていて

 

それぞれが別の場所で準魔王に成り再会するまで

 

双子だったことすら忘れていたためだろうか

 

相手への気持ちが希薄だ

 

理由はわからないが

 

再会してからは、相手が自分と同じ能力同じ思考パターンを持っていることに嫌悪感を抱き

 

いつの間にかいがみ合うようになった

 

少なくとも双子の魔王はそう思い込んでいる

 

感情的な争いに対しての拒絶反応から

 

どんなに相手のことを嫌悪していても、争いにまで発展しなかった

 

魔王種は剣を交えた相手の感覚が互いに伝わる性質を有しているが

 

魔王に成ればその感覚が更に鋭敏になるカタチで進化する

 

剣を交えた相手の記憶や心の状態、今何を思っているかなどが感じ取れるようになっている

 

また斬った相手の記憶の全てが走馬灯のように流れ込んでくるため

 

魔王は決闘で倒した魔王たちの生涯を背負い込むことになる

 

それは同じ魔王だけでなく、魔物たちも他の生物も同じように感じ取ることができる

 

これは魔王種の時代には見られなかった傾向だ

 

唯一この性質が機能しなかった存在はある

 

ホムンクルスたちである

 

人工的に救られた疑似生命体であるが故に

 

母体となった人間の記憶すら感じられない

 

一部特定な記憶が欠落した双子の魔王は剣を交えたとしても

 

欠落した記憶しか互いに理解し合えない

 

双子の魔王の剣技は拮抗した

 

剣技の能力も魔力も元は同じものが分離したのだから

 

その可能性は低くはないが

 

努力や環境の変化によって多少の差異は生まれるものだ

 

ところが、魔力も剣技もまるで互角ときているのだから

 

同じような努力しかしてこなかった可能性は高い

 

「そう言えば魔王ロッド、貴様とは幼少期にこのように剣を交えただろうか」

 

「さぁなそのころの記憶がないから、我々にとって過去は無いに等しい」

 

「つまり、その時の我々の歴史は消滅していると?」

 

「取り戻せない記憶であれば、どんなに詮索しても意味はあるまい魔王チート」

 

「貴様にそう言われればますます知りたくなるではないか」

 

「果たして失った記憶をどうやって取り戻すつもりなのだ」

 

「さぁな、見当もつかないが、可能性は皆無ではない」

 

「可能性は皆無ではないが、限りなくゼロに近い、何故なら何万年も我々は記憶を取り戻せなかった」

 

双子の魔王たちは何万年もかけて自分たちの失った記憶を取り戻そうとしたが

 

断片的な一欠けらの記憶さえ取り戻すことは出来なかった

 

結局双子の魔王は諦めたように、記憶を取り戻すことを止めて更に数万年経っている

 

「すでに魔王となっている我々が、今更記憶を取り戻したところで、それに何の意味がある」

 

魔王ロッドは記憶を取り戻すことに否定的だった

 

研ぎ澄まされた感性は剣を交えた相手の言葉が嘘か真実かを敏感に感じ取ることができる

 

謎の魔王種の少女が本当に魔王テチカなのか

 

この審議が見えなくなった時、魔王たちは互いに剣を交わして相手の心を探る

 

ところが、一部の記憶が破損している双子の魔王にはその機能が上手く作用しない

 

皆無ではないが上手く機能できないことがあるようだ

 

その分洞察力と分析力が発達している

 

一方だけを鍛え上げれば他方は縮小され場合によっては退化して欠落するように

 

洞察力と分析力を発達させた双子の魔王たちは

 

剣を交えて相手の心を探る機能がかなり低下している

 

双子の魔王には未だに相手の心を感じ取ることができずにいた

 

まるで機能しない訳ではないのだが、何故か今は沈黙しているという感じなのだ

 

いまさら、その能力を開花させたところで、たかが知れていると双子は考え

 

これも努力することなく、むしろ洞察力と分析力を鍛えることに専念してきた

 

その代償として相手の心を感じる感受性が希薄になり

 

この機能が低下することで、共感能力まで著しく低下してしまった

 

共感能力にはメリットとデメリットがある

 

それはどんな性質にも存在するものだが

 

その場の空気や相手の気持ちを察する感性は鋭敏になり

 

それを壊さないように調和のとれた関係性を築けるメリットに対して

 

空気を読み過ぎ、知らなくて良いことまで感じてしまうことで心が傷つき

 

またその場の空気を崩さないように

 

相手の気持ちを尊重するあまり、自分を押し殺し結局自己犠牲をしてしまう

 

こんなことが日常になれば次第に心は疲弊(ひへい)して行く

 

すり減り続けた心の末路は、破綻の一途を辿ることだろう

 

或いは爆発して攻撃的になる場合もある

 

ひっくり返して考えれば

 

共感能力がないことにもメリットとデメリットが存在することになる

 

空気を読まないため周りに溶け込みにくくなり孤立する可能性を背負い込む

 

これは洞察力と分析力でカバーできる

 

空気に流されず自分の思う通りの生き方を貫くことができる

 

反面、人との調和を築くのは難しい

 

相手の痛みを自分の痛みのように感じ取る能力も欠落するため

 

やがて自分の感覚が全てだと思うようになる

 

これはある面意志の強さに通じるが、人の痛みがわからないため

 

平気で人を傷つける、また傷つけてしまっても少しも心は痛まない

 

サイコパスと呼ばれる存在はこの共感能力が欠落していると言われている

 

この双子の魔王は、亜魔王種同様に

 

大切な心の機能が一部の記憶の破損と共に失っていた

 

ただ利害的に不利だと思えることはしないため

 

必要以上に相手を傷付けることはしない

 

記憶と脳の一部が破損しているため双子の魔王は

 

このサイコパスに限りなく近い存在になっていた

 

この症状は亜魔王種のそれと差異(さい)は無いようだ

 

従って双子の魔王の今の状態は、亜魔王種たちと類似していると言えるだろう

 

利己的で、他者のことなどまるで考えない

 

一方で他者の評価など意に介さず利害にのみ感情が動くようになる

 

このことで目的に準じて心は感情や状況に左右されないためブレることはない

 

目的の為なら自分の命の危険にすら心が動じない

 

魔王大戦の時双子の魔王たちはそれぞれ違う魔王と戦う場面でも

 

まるで他人事のように冷静に分析して判断することで

 

戦略的に相手を追い詰め策略によって倒していた

 

相当の深手を負い魔物たちが慌てて治療するも

 

「傷は深いが心配には及ばない」と適切な治療方法まで支持している

 

全てが計算ずくで戦っているのだろうか

 

そんな双子の魔王でも魔王としての本能は失われず魔物だけは愛しているようだ

 

本来サイコパス同士が戦うなど万に一つもあり得ない

 

特に自分と拮抗する相手と戦うリスクを考えると気に入らない相手でも手を組むだろう

 

それができない状況であれば、互いに干渉しない道を歩き出す

 

両者にはこの相手と戦えばタダでは済まない

 

場合によっては共に滅ぶことになると本能的に感じ取るようで

こんな割に合わない戦いはしないと少なくとも表面上は仲良くするフリをする可能性は高い

 

両者の魔王の剣技はフェイントに次ぐフェイントが繰り広げられ

 

斬られれば、必ず斬り返す

 

互いに致命傷を与えることは出来ないが少しずつ斬って力を削いでゆく

 

剣を交えて相手の心を感じ取る能力が機能しない以上

 

この両者に残された選択肢は決闘の如く相手を斬り殺し記憶を奪う以外無い

 

どんなに退化しているとはいえ、その能力までは失われてはいないようだ

 

そして違いに目的観に徹しきると、このような決断に踏み込むことになる

 

適当に剣を交えて、それらしいことを結託して発言することで交わす道もあるが

 

彼らにも厳然と組み込まれた魔王としての性質である誇りがその選択をさせてくれないようだ

 

双子の魔王にとって剣を交えた時点で、互いに相手を斬り殺す以外道は無くなっていた

 

もちろん、両者はそれを承知の上で剣を交えている

 

記憶がないただ同じ遺伝子が分離してふたつの生命体になっただけの存在

 

そこには何の感慨も生まれない

 

だが両者の剣技も魔力も拮抗していて、このままでは互いに消耗して共倒れになる

 

その可能性は見えているが、これは生き残るための戦いではない

 

相手の記憶を奪い取るという目的の戦いであるため

 

その目的を果たすために自分の命が損失したとしても

 

相手よりほんの少し長く生きられたなら何の問題もないと両者は考えている

 

何の感情もなく、ただ目的を遂行する意思だけが両魔王を突き動かしている

 

相手を斬り殺し記憶を奪い取る戦いは次第に相手の肉を斬り骨を断つ

 

忽(たちま)ち両魔王は傷だらけで満身創痍になった

 

魔王ロッドが魔王チートの僅かな隙をついて斬りかかるが辛うじて剣で交わす

 

その時一瞬何かを両魔王は感じた

 

それは、今までどんなに手を尽くしても取り戻すことができなかった記憶の断片である

 

幼少期の双子はとても仲が良かったことが見えて来る

 

それから剣を交える度に記憶の断片が蘇る

 

極度に命の危険に陥った状態は

 

彼らの脳ではなく肉体に宿って失われていない記憶を呼び起こしたのかもしれない

 

その記憶と脳は通常共有しないシステムのようだが

 

この緊急事態に肉体は生き残ろうと記憶の共有を謀ったのだろうか

 

いずれにせよ、失われた記憶は断片的で意味をなさない

 

ただ光景だけが見えている、恐らく脳による記憶とは別のロジックで記憶しているのだろう

 

脳がその記憶を上手く解読できないのだろうか

 

ただ感覚は覚えている

 

互いに相手の声の響き、剣の響き、空気感、匂い

 

いつの間にか涙が止まらない

 

断片的に切り取られたそれらを脳は仮想的に映像の記憶として修復して行く

 

この時初めて双子の魔王は互いの失われた記憶の一部が脳の記憶のように認識する

 

そして両魔王は驚愕の事実に辿り着く

 

「なんなんのだこの光景は」

 

仲の良い双子の魔王種の傍らには魔物ではなく

 

亜魔王種たちが群がっていた

 

涙が止まらない

 

切ないまでに懐かしくて、心が痛い

 

「見たか魔王ロッド」

 

「こんなことなどあり得ない、何故我々は亜魔王種と共に生きているのだ」

 

「何故だろう、我々は奴らを大切な仲間だと感じている」

 

「ばかな、亜魔王種は我々魔王を滅ぼそうとする敵だ」

 

「本当に敵なのか、懐かしくて、私は奴らが愛おしい」

 

「信じられないことだが、むしろ魔物たちへの嫌悪が強い」

 

「我々は愛すべき亜魔王種を敵対して、憎むべき魔物を守って来たというのか」

 

「まて、そう判断するには資料が少なすぎる」

 

今はまだ断片的な記憶で、双子の魔王にはその全容を理解できない

 

身体の記憶を解読して脳内記憶に変換するために両魔王はまた斬り合おうとしたが

 

力尽きてそのまま倒れ込んでしまった

 

その直後魔王パルフェによる審議の言葉が魔王ロドリアスの城中に響く

 

双子の魔王が失くした記憶を取り戻したとき、魔王界に大きな災いが起こる

 

災いは魔王たちを食い尽くし、多くの魔物たちは焼かれ消えて行く

 

これはリュエラが無意識に予言したことで

 

今この可能性に気が付いている者は、魔王界にはいない

 

シーランですら気づきようもないことである

 

マーリアもまたリュエラが予言しなければその可能性に気付かなかっただろう

 

再び魔王界に騒乱の兆しが生まれた

 

つづく
 

人間たちの落日 落日の兆し もくじ

 

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あとがき

 

何とも中途半端な尺になってしまい

 

かなり短くなってしまいました・・・(。_。;)゜:。アセ 

 

私が今している仕事も同じで、トラブルや問題を解決するのに

 

一つの解決が他の問題を引き起こすことは少なくない(((゜д゜;)))

 

連鎖的にいろんな綻びがあちこちにあることを気付かせてくれていると私は解釈しました

 

この際みんなまとめて面倒見るか( ̄‥ ̄)=3 フン

 

と掘り下げてあちこち手を出して行くことで

 

不具合のバランスで成り立っているシステムの危険性と直面することになりました

 

部下たちはこれだから重役たちに睨まれるんだと言いやがりますが

 

一つの不具合が他の問題を起こさないストッパーになっている場合があること

 

それがあちこち連鎖的に繋がっているため

 

これを解決することで、他の問題が次々に勃発するエッ∑(`・д・´ノ)ノ

 

さて、どうするかです

 

恐らく人間の心の問題も、人間関係の問題も、これに似た場合もあるでしょうね∑(-x-;)

 

私は応援の仕事としてトラブル処理や問題解決を任された時にこの問題と直面して

 

相当頭を使いました( ̄▽ ̄;)汗

 

元の元の原因を、歴史的見地から調べないと解決できないと思われたからです

 

後はこの会社の歴史を紐解(ひもと)き何故このシステムが生まれたのかから追求することで

 

その当時の時代的背景や会社内の諸事情まで調べる必要があり

 

結局一時的代用というカタチのイレギュラーを組み込むことで問題解決にしたこともあります

 

この問題を解決することは他の問題を引き起こす原因になるからです(=◇=;)

 

また当時の私にはシステム全体に関与する権限も無かったので止む無くの応急処置でした

 

今はその権限を与えられているので

 

更に掘り下げて大幅にシステム変更をすることができます(ΦωΦ)

 

こうして痛い腹を触られている重役たちに相当恨まれることになっております( ̄‥ ̄)=3 フン

 

現実のこの現象を物語の中に組み込めないかと模索して実験的にしてみました

 

双子の魔王の外伝で伏線を引いていますが

 

この双子は相当魔物たちを憎んでいる

 

その記憶が亜魔王種たちと共に破損してしまっているため

 

魔王の本能的作用が働き、自然と魔物たちを愛するようになり魔王に成りましたが

 

彼らは自分たちを殺そうとした魔物たちを許すことができるでしょうかΣ(@@;)

 

もし許し得ない相手がいるとして、その相手の顔を浮かべてみてください

 

その相手のことを許してやれと言われて許せるでしょうか

 

その相手にされて来た数々の酷い仕打ちが蘇り返って憎しみが倍増するかもです

 

私も許せないという思いは幾度もしてきました

 

基本的に怒りが持続しない頭の切り換えの速い私ですら

 

そんな相手を許すのに何年もかかりましたよ

 

それも許そうと決めて費やした時間です¢( ・・)ノ゜ポイ

 

許すということはそう簡単なことではないと思い知りました・・・(。_。;)゜:。アセ 

 

同時に相手を許すには「許さなくて良い」という道を通る必要があることも気がつきました

 

相手を憎んでいる自分を認めなければ、許すどころか憎しみの自覚すら得られない

 

ここのところをいい加減に扱うと燻(くすぶ)り続けその憎しみは自分を蝕(むしば)み続けます

 

私はこいつを心底憎んでいるんだという自覚があって初めて許しの道を歩き出せる

 

特に愛憎が裏表にある場合、本当は心の底から憎んでいる相手なのに

 

その相手のことが大好きだと自分の気持ちを誤解している場合はもっと深刻です

 

双子の魔王は記憶の破損という事故に見舞われることで

 

愛憎が逆転した状態ですが、心は覚えているまた体も覚えている

 

無意識に矛盾状態に陥っていて自覚が無い

 

彼らは自分たちが最も憎んでいる魔物たちを愛し育んできた

 

相手を憎む心は脳とコンタクトが取れず、ロジックの違う体の記憶と脳は理解し合えない

 

けれど憎しみは常に双子の魔王の中で生き続けている

 

彼らが皮肉屋であったり、毒舌であるのはそう言った背景から生まれた可能性を感じます

 

さて、完全ではありませんが、双子の魔王は断片的に記憶を復活させました

 

このことで心と脳にパイプができて、自分たちの深い憎しみを自覚するようになるでしょう

 

彼らの魔力は両者が心を一つにしたとき発動する

 

また亜魔王種以上に悪知恵が発達していること

 

これも互いにいがみ合うことで活性化して鍛えてきている

 

今まではその悪知恵を活躍させる場面が無かったため他の魔王たちは知らない

 

深い憎しみに気が付いた双子の魔王はその悪知恵を駆使して魔王界を荒らすかもです

 

それは魔物に対する彼らの復讐でもある

 

許し得ないという境地に立たされたことのある私は彼らの憎しみが痛い程わかるので

 

そう簡単に解決できものではないと思えるからかなり困りました(=◇=;)汗

 

私の場合の解決方法はあるのですが、彼らに適応できるとは限らない

 

はてさてどう解決したものかᕙ(⇀‸↼‶)ᕗあせる

 

その前に、次回はほんの少し時系列を戻して

 

魔王テレメッドと魔王ザッドの確執の問題に向き合うことにしますね

 

困ったことにこの双子の魔王と魔王ザッドは共感し合える可能性を秘めています

 

魔王ザッドもまた魔物たちを憎んでいる

 

再び深淵に向かって歩き出さなければ良いのですが汗

 

まる☆