木から木へと飛び移りなが激しい攻防が続いている

 

アーシアですら二人を見失う速度だ

 

勝敗の決着が付く様子がまるで見えてこない

 

「驚いたわねシラスター王は人間なのにネオホムンクルスと互角に戦っているわ」

 

「互角なものか、シラスター王は意外と狸かも知れんぞ」

 

「それはどういう意味かしら」

 

「私が見る限り、剣技はシラスター王の方が圧倒的だ」

 

「私には互角に戦っているようにしか見えないわ」

 

「だろうさ、そう感じるように手加減してやがるのだろうよ」

 

アーシアの見解は間違いではないようだ

 

次第にラッドリュートもそのことに気が付いた

 

シラスター王は自分の攻撃を全て交わしているが

 

少しも息が上がってはいない所から違和感を感じ始める

 

彼の剣技は複数の技を連動して攻撃し続ける性質がある

 

一度受けてしまえば抜け出すのは至難の業で

 

アーシアですら速さと威力に圧倒され、辛うじて急所を外すのが精一杯で

 

斬られることを交わすこともできなかった

 

ところがシラスター王は繰り出される剣を全てを交わしている

 

一方シラスター王からは凄まじい剣気を感じるが

 

その剣気と彼の攻撃は一致してない

 

力をセーブしているのではないかという疑念が浮かぶ

 

一体何のために?

 

「一向に決着がつかないな、どうだラッドリュート、この勝負引き分けにしないか」

 

「引き分けとはどういう意味だ」

 

「お前は今回アーシアを見逃す、デラシーズ国はザードラ国復興に手を貸す」

 

「私にとって異論はないが、それれではデラシーズ国に何のメリットもないぞ」

 

「ではもう一つ条件を追加しよう」

 

そう言うとシラスター王は手を差し伸べて握手を求めた

 

「互いに友と呼び合おうラッドリュート」

 

シラスター王は最初からこれを狙っていたのだろうか

 

或いは戦っているうちにそのように思ったのだろうか

 

ラッドリュートは完全な敗北感を感じたが少しも悔しいと思わなかった

 

むしろ、シラスター王の優しい気持ちが感じられて嬉しいとさえ思える

 

「私はネオホムンクルスだぞ、そんな化け物を友として良いのか」

 

「お前と同じネオホムンクルスであるランドを友と呼んだ筈だ、カムイ元帥も我が国に受け入れた」

 

「よくデラシーズ国の住人たちが許したな」

 

「デラシーズ国の住人たちは相手が何者でも気にしない、魔物とだって友となるような民族なんだ、たとえお前がネオホムンクルスであろうと心が許せる相手なら、気にする奴らは一人もいない」

 

「デラシーズ゛国とは不思議な国だな」

 

「もしザードラ国がお前を受け入れず行くところがなくなったなら、我が国の住人になれ、私はお前のことが気に入ったから歓迎する」

 

お人好しの王が君臨する国は

 

住人たちもみんなお人好しだとすれば

 

それはきっと母体が望んだザードラ国の姿かもしれない

 

いつかザードラ国がそんな国になれたならどんなに良いだろうか

 

「しかしそれは母体の願いだ」

 

ラッドリュートは母体とは違う、彼は今この瞬間ザードラ国より

 

こんなお人好しの王を仰ぐデラシーズ国の住人になることを望んだ

 

「私もあなたが気に入ったシラスター王、私が骨を埋める国はあなたの様な王がいる国が良い」

 

「では我が国の住人になってくれるのか」

 

「あなたが許してくれるなら、私の忠誠をあなたに捧げよう」

 

ラッドリュートは礼を尽くした

 

「我がデラシーズ国は今後魔王界の争いを治めるために戦うことになるが、それでも構わないか」

 

「私に二言はない、あなたを主君と決めたからには、地獄の果てまでお供をする」

 

「ありがとう嬉しいぞラッドリュート」

 

「一つだけ進言してよろしいか」

 

「なんだ」

 

「手加減したことは相手に対する侮辱になる武人とは何よりも誇りを重んじる生き物だ、あなたにとって優しさでも相手を深く傷つけることになるから今後は控えるべきだ」

 

「そうか、それは思慮が足りなかった、すまない、お前にはお見通しなんだね」

 

シラスター王は頭を下げた

 

「あなたは臣下に頭を下げられるのか」

 

「悪いと思ったら謝る、当然のことだまして臣下の助言は私にとって宝ものと同じだ、今後も思ったことを何でも言ってくれ、その点で言えば王宮の連中も容赦なく私に助言してくれる、こんな有難いことはない」

 

何と気持ちの良い王なんだ、ラッドリュートは心の底からシラスター王に敬服した

 

「私は不運が続いたが最後に良き王に恵まれたようだ」

 

兄弟たちに裏切られ毒殺され掛け、自分を庇ったため最愛の兄を亡くした

 

カムイ元帥によって拉致され人間ですらなくなり

 

そのカムイ元帥から自分はそう長く生きられないこと聞かされた

 

それでも残りの期間を心から敬服する王のもとで生きられるなら

 

それまでのことが全て相殺できるほどラッドリュートは幸せに感じられた

 

「こんな王に出会わせてくれたことを天に感謝せずにはいられない」

 

彼は天を仰いでそう心の中で叫んだ

 

「ところでランドは私を許してくれるだろうか」

 

「ランドなら許すと思う、お前とは戦いたくないと言っていたから」

 

「奴とは友と呼び合いたい」そう彼は思っている

 

二人はアーシアたちの居る場所まで戻って来たが

 

ランドの姿が何処にも見えない

 

「お二人とも仲良くなられたのですね、それならあんなことしなくて良かったんだ」

 

「君はランドと共にいた人だね」

 

「トリメキア国のランド元帥直属元帥補佐官ゼダンと申します」

 

「デラシーズ国のシラスター王だ」

 

ゼダンはカムイ元帥の首を刎ねた所まで話した

 

「カムイ元帥とは何から何までピントがズレているなぁ」

 

このゼダンの言葉通りではなく

 

カムイ元帥のその行為はあながち外れているとは言えない

 

何故ならランドはそのお陰で魔王ザッドと出会えたのだから

 

「カムイ元帥は自分の意志でランドを助けようとしたのだな」

 

ジワリと熱いものが込み上げて来た

 

ホルンの面影のあるカムイ元帥が心から改心したのだと思えたら

 

嬉しくて涙が止まらない

 

「どの道そう長くないと言っていましただから自分の命でランドを助けたいと」

 

「信じられないあの悪魔のような男がそんなことを言うなんて」

 

「ランドとはそういう男なのだ、自分の親の仇ですら心を開かせ友とすることもできる」

 

シラスター王はランドの自分でも気が付いていないであろう優しい心が好きでたまらないのだ

 

「私も友となれるだろうか」

 

「再会した時に尋ねてみるが良いぞ」

 

シラスター王はランドが無事で再会できると信じているのだ

 

「話は済んだか、ここから降ろしいくれると有難い、そいつに散々やられて動くことすら出来ないんだ」

 

アーシアが木の枝の上で言うとルシアが笑い転げた

 

「ルシアてめぇ笑ったな」

 

ラッドリュートがアーシアを降ろし、一旦デラシーズ国へ行き手当てすることにした

 

シラスター王はラッドリュートのことを首都城でみんなに報告すると

 

王侯貴族たちがカンカンになってシラスター王を怒っていて

 

シラスター王が頭を掻いて謝っている光景が目に入った

 

本当にデラシーズ国の住人たちはシラスター王に容赦がない様子だ

 

「出て行くのは良いですが、一言くらい何処へ行くかくらいは伝えて置いてくれないとみんな心配しますぞ、まったく王が風の向くまま気の向くままでは、周りは振り回されてしまいますからね」

 

「本当にすまない」

 

ところが、再び魔王テチカに会いに行くと言えば、みんなそれに素直に従う

 

口は厳しいがみんなシラスター王を信頼している様子だ

 

準備が整うと彼は魔王テチカの元へ向かった

 

その時護衛と言う名目でラッドリュートはシラスター王に同行している

 

「あなたに護衛は必要ないと思うが、王宮の人たちがどうしてもと頼まれた」

 

「そうか」

 

「あなたは私より強いのにどうして王宮の人たちはそんなに心配されるのだろうか」

 

「さぁ、心配性なんだろう気にするな」

 

ラッドリュートはその時シラスター王の危険性に気が付いてはいない

 

目の前に苦しんでいる人がいれば助けずにはいられず命を張るような王はこの先

 

命がいくつあっても足りないのだと後々彼は思い知ることになる

 

それにしても不思議なのは

 

初対面でしかも自分がネオホムンクルスであることも王宮の者に伝えたが

 

シラスター王が認めたならと誰一人ラッドリュートを疑う者がいなかったことだ

 

それどころか自分たちの大切な王を頼むと任せてくれたのだ

 

ラッドリュートは非常に驚いたが、彼らは本当に相手が魔物であろうとも

 

分け隔てせずに受け止める民族だということは理解できた

 

そんな民族の国の住人になれたことを彼は誇りに思った

 

どんなことがあろうとシラスター王は守り抜くと誓う

 

シラスター王はその日のうちに魔王テチカの魔物の森へ入り込んだ

 

北の森の魔物たちはシラスター王の匂いを嗅ぎつけ続々と集まって来た

 

その歓迎ぶりはまるで彼を慕っている様子だ

 

反面北の魔物たちはラッドリュートを警戒していた

 

警戒と言うより敵意に近い視線を感じる

 

恐らくホムンクルス独特の匂いを感じ取っているのだろう

 

信頼するシラスター王が共として連れている以上それ以上追求しない様子だが

 

ホムンクルスは魔物にとって仇同然で

 

そのホムンクルスを模して作らたれネオホムンクルスも同様に感じているのだろう

 

ただランディスが友としたランドは例外として魔物たちは受け入れている

 

「こいつは私を大切に思ってくれていることに関してランドと変わらない」

 

ランドの名前を聞いた途端に魔物たちは嬉しそうな顔になる

 

「ランドは魔物たちに好かれているのか」

 

「奴がデラシーズ国へ来て前の人間の勇者の友となり、魔物の森たちといろいろとあってな、それ以来魔物たちはランドが大好きになったようだ」

 

ラッドリュートはつくづく、そういう男を殺そうとしたことを悔いた

 

みればランドだけでなくシラスター王も魔物たちに好かれている様子だ

 

魔物たちにとって好き嫌いは正義や善悪より重い

 

時には悪だとわかっていても大好きな友の為に命を張ることも厭わない

 

魔王テチカの影響で理性的になっている北の森の魔物たちでもこの本性は変わらない

 

「みればあなたとも何かあったのですね」

 

「まぁな、元々北の森の魔物たちはデラシーズ国と深いつながりがあるのだ」

 

限りなく魔物たちに近い国だとラッドリュートは実感した

 

「生憎魔王テチカは多忙でして」

 

魔物たちは焦りを見せたが、シラスター王は笑顔で対応しながら

 

「私は魔王テチカが大好きなのだ、城で彼女の匂いだけでも感じさせてくれないか」

 

そう言われると魔物たちは大喜びで魔王テチカの城へ案内した

 

「ネオホムンクルスであるお前にはこの城に違和感を感じるよね」

 

確かに城に近ずくにつれて魔力を感じ始めた

 

「魔力で異空間でも作っているのだろうか」

 

「その通りだ、今魔王テチカは異空間に隠れ住んでいる」

 

「一体何故そんなことを」

 

「少しばかり事情があってな」

 

そう言うと異空間の門の前に立った

 

「魔王テチカ、シラスター王です、少し尋ねたいことがあり来ました」

 

暫くして門が開いた

 

二人がその中に入るとすぐに門が閉じて普通の壁になる

 

大きな草原に出たのにシラスター王は驚いた

 

マーリアやランドからは城内だと聞いていたからだ

 

「入るのは初めてなのか」

 

「そうだ、ランドから城内だと聞いていたから少し驚いた」

 

みれば魔王テチカは剣技の修練をしている様子だ

 

途端にラッドリュートは立ち尽くし動けなくなった

 

「桁違いだ」

 

恐ろしい剣技の冴えにラッドリュートは身動きすら出来ない

 

「魔王テチカは魔王界では剣帝と呼ばれる程の腕前だ、我々が束になってかかっても万に一つも勝ち目はないだろう」

 

「この世にこんな強い方がおられるとは驚いた」

 

「久しいなシラスター王」

 

剣を鞘に治めシラスター王に近づいて来た

 

見ればまだ子供の姿だ、ラッドリュートは魔王をはじめて見たので

 

「魔王とはこのように子供の姿なのか」

 

「いや少しばかり理由があって、身体は子供の時代に戻った感じだ」

 

「若返ったということか」

 

「聞こえているぞ、若返ったと言えば聞こえは良いが、剣技においては少しばかり調整が必要なのだ、更に問題点も山積みだ」

 

言いながら更にシラスター王に近づいて来る

 

「詳細はマーリアから聞いているであろう、して用向きは何だ」

 

涼しげで美しい響きのする声が響いた

 

シラスター王はその声が大好きだった

 

彼は母を早くに亡くしていて父王と乳母たちに育てられた

 

何故か初めて会見した時、彼女に母の面影を重ねてしまったようで

 

依頼シラスター王は魔王テチカを母のように慕っている

 

もちろん魔王テチカはそんなシラスター王の気持ちは感じていても

 

それに心は少しも動かない様子だ

 

彼女はそういう精神構造をしている

 

とは言え、

 

マーリアに対しても、またシーランに対してもまるっきり心を動かせなかったわけではない

 

魔物たちもシラスター王を随分と慕っている様子で

 

彼の溢れんばかりの深い情を感じないわけには行かない様子だ

 

理性的にみても彼は信頼できる王であり、今まで来たの森に有益となることしかしていない

 

本当に友好国としてデラシーズ国は相応しいと判断する材料は多い

 

危険性はあるもののシラスター王は決して裏切らないことだけは

 

魔王テチカも本能的に感じ取っている

 

彼女の殆どが理性に支配されているとはいえ

 

心がないわけではないむしろ理性の壁の中は深い愛情に満ちている

 

恐らくマーリアもシラスター王同様にその愛情を心で感じ取ってしまう性質なのだろう

 

だからシラスター王は魔王テチカに会えるだけで涙が込み上げて来るほど嬉しい様子だ

 

初めての会見以降、これと言って用もないのにシラスター王は用事をこじ付けては

 

魔王テチカに会いに行っている

 

それは母親を恋しがっている子供が母親に会いに行くのに似ている


理性的な魔王テチカは厳しい指摘もするが、一つ一つ心に刻みそれを実行してきた

 

次第に魔王テチカもシラスター王は打てば響く者と感じられ

 

また彼女の知性を恐るべき速さで吸収している様子に驚きつつも脅威に感じなかった

 

むしろシラスター王の知性は自分が育てたような感覚になっている

 

まして真っ直ぐな心で自分を慕っているシラスター王の心も含めて

 

まるで子弟の様な、強いては親子の様な関係に近づいて来ているのだから不思議だ

 

魔王テチカ自身自分がこんな気持ちになるなど予想もしていなかった

 

「これがマーリアが言っていた奇跡の王ということだろうか」

 

魔王テチカは絵空事として捉えていたが

 

現実的にその可能性を否定できなくなってきた

 

ラッドリュートは魔王テチカがシラスター王を見つめる目から

 

まるで愛弟子を見るような愛情を感じた、改めて自分の主君の凄さに驚いた

 

「魔王ともそう言う関係になれる、この人は一体何者だろうか」

 

魔王テチカの作った異空間は、暖かい空気に包まれていた

 

つづく

 

人間たちの落日 落日の兆し もくじ

 

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あとがき

 

ラッドリュートという新キャラがシラスター王に忠誠を誓い

 

魔王界に対抗する兵力をデラシーズ国も作りつつあるようですΣ(@@;)

 

ランドがデラシーズ国に初めて足を踏み入れた時

 

ランディスやシラスター王を巻き込み

 

北の魔物たちに巻き起こる問題を力を合わせて解決する

 

と言うエピソードがあるのですが、

 

本編の進行上割愛しています・・・(。_。;)゜:。アセ 

 

機会があれば外伝でも描いてみようと思います

 

今は本編に集中したいため、あとになると思いますが(゚ω゚;A) 汗

 

まだ掘り下げていないため話も描きながら変わって行くでしょうけれどあせる

 

次回はシラスター王と魔王テチカの会見です

 

ランディスの一件以来ずっと会えなかったシラスター王ですが

 

デラシーズ国王として解決しなければならないこともあり

 

またランディスの友として魔王テチカに思うこともあり彼としては複雑な気持ちでしょう

 

程なく魔王テトが魔王テチカに会いに来るため

 

話はまた更に複雑になる可能性はありますが(((゜д゜;)))あせる

 

張り切って続きを描きますヾ(@^(∞)^@)ノ

 

まる☆