ゴスペルってなぁに? 【スピリチュアルとゴスペルの違い編】 | とある音楽教師のつれづれ

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 スピリチュアル(黒人霊歌)とゴスペル、ともにアメリカのアフリカ系アメリカ音楽の宗教歌ですが、その違いはどこにあるのでしょうか?

 

●時代、場所

スピリチュアル➡1740年頃~1863年(奴隷解放宣言まで)

              ※ただし、解放宣言以後も歌われている。

           アメリカ南部

ゴスペル➡➡➡1920年代 シカゴ

    

 スピリチュアルは現在でも歌われていますからね。。スピリチュアルが死んだわけではありません。これは、バロック時代の音楽が現在も演奏されていますが、「バロック時代が1600~1750年くらいだ」というのと同じような感覚だと思います。「奴隷制時代の宗教歌」という狭義的な意味においてはこの年代で歌われた歌です。アメリカ南部というのは広域的に言えば、テキサス、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、フロリダ、ジョージア、サウスカロライナ、ノースカロライナ、テネシー、アーカンソー、ケンタッキー、ヴァージニア、メリーランド、ミズーリ、ウェストヴァージニア、デラウェアあたりです。ちなみにこれらの州すべてが南北戦争の南軍として戦ったわけではありません。

 

 一方、ゴスペルは1920年代から起こりました。誕生の地は北部のシカゴですが、この音楽には南部の血が混ざっています。というのも、ゴスペルを創始した人物、トーマス・ドーシー牧師は南部のジョージア州出身、父はアフリカ系牧師、母はピアノ指導者と、当時のアフリカ系としては恵まれた環境で育ちました。

 1910年代からは、南部のアフリカ系はより高給な仕事を得るため、また厳しい差別から逃れるため、大量の人々がシカゴやデトロイトなどの北部に移動します。シカゴは娯楽産業、デトロイトは自動車産業ですかね。ドーシーさんも17歳でシカゴに移住しています。南部で獲得した音楽技法を生かして、シカゴの地でゴスペルを生み出しています。

 

●編成

  スピリチュアル ➡ ア・カペラ

 ゴスペル➡➡➡➡ 伴奏つき

  

 スピリチュアルは、奴隷時代の宗教歌。したがって楽器なぞございません。現代ではピアノなどの伴奏をつけて歌われることがありますが、これはアレンジヴァージョンです。

 奴隷制時代のスピリチュアルを再現するならア・カペラでしかも小声で歌わなければなりません。小声で歌っていたのは、ヨーロッパ系のフィールド監督者に見つからないようにするためです。感情を思いきり吐露するゴスペルとは正反対ですね。ひょっとしたら、スピリチュアルの抑圧された表現が爆発して、本当は思いきり叫びたいのに叫べなかったものが爆発して、ゴスペルのような表現方法につながったのでしょうか・・・。

 

 ゴスペルは宗教には欠かせないオルガンをはじめ、ピアノ、ドラム、電子ピアノなど、非常に世俗的です。発足当初はピアノが中心でしたが、徐々に世俗的な傾向が強まっていきました。差別が厳しかったアフリカ系の方々の何でも受け入れる姿勢が見えて取れますね。

 

●音の扱い

 スピリチュアル ➡ 極めて西洋音楽的

 ゴスペル➡➡➡➡ブルーノートやシンコペーションを含む

 

 スピリチュアルはヨーロッパ的な音の扱いです。もともとはヨーロッパ系の主人が自分の権威を高めようと、奴隷を教会に連れて行ったのが、アフリカ系とキリスト教の出会いです。アフリカ系はそこでヨーロッパの讃美歌を聞くことになります。覚えた音楽は、平均律で演奏される音楽、奴隷の第2代、第3世代は、故郷のアフリカの音楽など知らず、アメリカで聞いたヨーロッパ型の音楽を知るようになります。こうして、スピリチュアルは極めてヨーロッパ型の音楽となっています。アイルランド系の5音音階も使用されます。アイルランドといえばカトリック系が多く住むのでプロテスタントとはまた別ですが、これは奴隷船を航海士がアイルランド系が多かったのではと推測されます。奴隷船がアフリカからアメリカの地に後悔する間、アイルランド系の航海士が故郷の歌を歌うことは当然、考えられますね。時代は異なりますが、映画「タイタニック」でも、ジャックとローズが3等客室でアイルランド民謡に合わせて踊りまくるシーンがあります。また、「アメージング グレイス」を作詞したジョン・ニュートンはイングランド出身、アメリカで都会ではなく田舎に住み着いたのはアイルランド系です。アイルランド系と奴隷の距離は、そう遠くはありませんね。となれば、スピリチュアルに5音音階が使用されたも不思議ではないと考えるのは私だけでしょうか。。

 

前回、アップしたブログ「ゴスペルってなぁに? 概要編」でも書かせていただきましたが、Wikipediaの「ゴスペル」の情報で下記のような記載がありましたが、これは誤りですね。

 

 こうしてアフリカ特有の跳躍するリズム、ブルー・ノート・スケールや口承の伝統などとヨーロッパ賛美歌などの音楽的・詩的感性が融合してスピリチュアル(黒人霊歌 negro spiritual [3]とも言う)という現在のゴスペルの基調となる音楽が生まれた。《Wikipedia ゴスペル》

 

 この文章を見る限り、跳躍するリズムとブルーノートスケールがスピリチュアルの音楽要素に含まれるということになりますが、そうではありませんのでご注意ください。ちなみに「跳躍するリズム」とは、スウィングかシンコペーションと思われますが、1700年代~1800年代の音楽であるスピリチュアルとしては、ちょっと考えにくいところです。

 

その他、歌っている人の身分の違い、内容の違い等、簡単に記載させていただきます。

 

●歌っている人の身分

 スピリチュアル ➡ 南部のアフリカ系奴隷

 ゴスペル➡➡➡➡ 北部に住むアフリカ系解放民

 

 スピリチュアルは現在ではだれでも歌いますが、もともとはアフリカ系奴隷が、夜な夜な集まってひっそりと歌われるものでした。もちろん畑での仕事中にも歌われたと思われます。

 ゴスペルは、奴隷制度が解かれ解放民となったアフリカ系の方々がまだ法的に市民権が得られない状態で、著しい差別に苦しむ中、歌われました。

 

●内容

 スピリチュアル➡聖書の物語や出来事を歌う

 ゴスペル➡➡➡悩みを持つ人を励まし、

           救い、聖なるものへのあこがれを歌う

 

● 作者の違い

 スピリチュアル ➡ 作者不明

 ゴスペル ➡➡➡➡作者が明確

 

 スピリチュアルは口伝でしたので、作者は不明になっています。おそらく集団のリーダー的な立場の人がつくったと推測できますね。

 一方、ゴスペルは楽譜が読めるアフリカ系を中心に作られていきましたので、誰が作ったのかが明確になっています。

 

以上、スピリチュアルとゴスペルの違いでした。

 

↓ゴスペルの概要↓

https://ameblo.jp/marubach140/entry-12565427344.html

↓ゴスペルとソウルの違い↓

https://ameblo.jp/marubach140/entry-12566135380.html

↓ディズニーにおけるゴスペル↓

https://ameblo.jp/marubach140/entry-12566899083.html

 

もどうぞ。

ご精読、ありがとうございました。