『お父さん、これ、なんて書いてあるの?』


『俺にも分からないなあ。日本語で書いてあるんだったら、君も読めるだろう』


『お父さんの…ケチ』


目が見えないのは、不自由だわね…と、ボソボソ言いながら、女房は、メガネを探し始める。


『何処に行ったのかしら…。ねぇ、お父さん、知らない』


又、始まった…。


『メガネが独り歩きする訳ないだろう。メガネボックスに、ちゃんと戻しておかないからだろう』


『でも、ヘンよね。さっきまで、新聞を読んでいたんだから…。確か、この辺にあるはずなのに』


ひとりでキレた女房。

私は、毎度のことなので、気にもしない。


『お~い、メガネや…』


メガネが返事するわけでもないのに、女房は、メガネに呼びかける。


部屋中一回りして、台所に戻った女房。

『何をしようとしていたのかしら…私』


すっとんきょうな声で言う。


『テレビの前にあるじゃないか』と、声をかける。


『何が…?


『君のメガネ…だよ』


『あら、そんなところに置いたのね。誰かしら…』


誰かのせいにする女房。


私は、感情に蓋をする。