岸谷五朗に似た、細身で
心臓に病を持った、優しい目の
一つ年上の元カレ


電話の向こうで泣きじゃくり
言葉にならないカレの代わりに
カレの友達が言った事

カレの赤ちゃんが 
今、生まれました

だから?
忘れよう、諦めようとしてる私には
直接には知りたくなかったことだ

長い沈黙のあと
やっとカレが電話に出た

maru ごめん!
赤ん坊、生まれたんだ
もう後戻り、出来ない
最後に一度だけ、会ってくれないか?

断れなかった
この7年間、何度も別れたけど
磁石で引き合うかのように
わたし達は お互いを求めてきた
カレが結婚したなんて
たった今、父親になったなんて
信じられなかったし
信じたくなかった
これが、この時の正直な気持ち
どんなに、格好つけても
会いたい!っていう気持ちには
勝てなかった

だから、会った



結婚と赤ちゃん誕生・・・
まだ私には
おめでとう!なんて
言えない


もっと違う事を話したかったのに
カレの車に乗ってすぐに
出た言葉

港の側で車を止めた
車内は静かだった
聞こえるのは波の音だけだ


奥さんは
友達の彼女だったんだ
友達と付き合ってる時に妊娠して
生む生まないで揉めた時
仲裁に入って・・・
結局、二人は別れたけど

奥さんとは
元々、遊び仲間の一人だったし
友達とも別に会ってない訳じゃないし

ある日、妊娠したって言われて
自分の子供か確信がなかったんだ
奥さん、他に彼がいたからな
でも両親に会って欲しい。とか
式はいつにする?とか
向こうの親、市議会議員なんだ
だから、派手に式を挙げないとなって
おれの知らない間に
全部決まってて・・・

子供が生まれてすぐに
血液型検査したら
おれの子供じゃなかった
でも戸籍上、夫婦だからな
戸籍に入れたけど・・・

maru ごめんな
はっきり断れなかったおれの責任だ




情けなかった

言葉にならなかった

ただ、ただ
泣くしかなかった