10年前の夏
私と彼は 出会った

次の年、3月まで
お互いに顔も知らない、
名前も知らないネットの世界
ハンネで呼んでいた

年齢も独身なのか?既婚者なのか?
それも告げない単なるゲーム仲間
そこが始まりだった

バトルの方法やコンプリートの応援
そんな会話から
自然と1日あった話しや
育った環境などを話すようになった

週に2~3回のやり取りから
毎日同じ時間になり
私は一人の人間 一人の女性なんだ
そう思える時間だった

友達から恋人へ
意識したのは、いつかは わからない
だから、いつからの交際なのかも
お互いにわからない

もっと自由に話したい
声を聞きたい

二人の気持ちが重なり
アドレス交換をしたその日の夜
彼からの突然の電話

その声は
優しくて穏やかで
ゆっくりとした口調
12歳も年下なのに
懐かしくて包んでくれる
どこか父に似てて
何故か、泣いてしまった
それが 3月9日

2日後にあの地震 3.11
悲惨な現状がテレビから流れる
彼の住んでる茨城県の情報は
テレビから得る事が出来なかったし
連絡が取れたのは6時間後だった

彼のお祖父さんが津波で亡くなった
震災から1週間も経っていた
行方不明になり、親戚一同で捜索も
屋根と壁の一部しかない
そんな状況から
諦めてくれと連絡が来た・・・と
お祖父さんの家の前は
流れが逆流し津波となった川だった

電話から聞こえる涙声
恥ずかしいから……電話切るね
おれ、彼女の前で泣いた事ないんだ
とても電話を切れなかった
大切な人が亡くなったんだもん
泣いていいよ
我慢しないで、泣きなよ
カッコ悪くないし
それで嫌いになんかならない
その言葉で彼は号泣した


この人を一生 支えたい
いつの日か、震災と向き合う事が出来て
立ち上がったら
その時、わたしの存在が不要なら
それでいい

本気だった

茨城空港から札幌への直行便を知った時
私達は会う約束をした

もしも、相手が来なかったら・・・

お互いに心のどこかにあった
そんな待ち合わせ

到着ロビーで写真じゃない
生の彼とわたし
お互いに恥ずかしくて目を見れなかった