卒コンが終わってから特にすることもなく、実家に帰ったりメンバーと遊びに行ったりのんびりと気ままに過ごしていたんだけど…。
小林。絶賛大ピンチ中です。
普段は滅多にかかってこない電話が鳴ったから、不思議に思いながらも電話に出ると。
理佐「もしもし、こば?」
由依「…!?理佐!?」
予想もしていなかった人物からの電話に思わず背筋を伸ばして正座してしまう。
理佐「そうだよ〜。久しぶり!」
由依「久しぶり…!どうしたの?」
理佐「こばさ、今日暇?」
由依「今日…?暇だけど…。」
理佐「私今日仕事早めに終わるからさ、夜ご飯食べに行こうよ。6時頃に迎えに行くから!後でね!」
電話が切れて見慣れたロック画面が映った時にようやく現実に引き戻された感覚がした。
卒コンの時に周りに協力してもらってやっと撮ることができたツーショット。
穏やかに微笑む理佐とどこか緊張してぎこちない私な顔が微笑ましい。
スマホを開くたびにこの写真が表示されて理佐を好きな気持ちが溢れてくる…。
っていやいやいや。今はそんなことを思い出している場合じゃなくて!!
由依「…!?いや、え、ご飯!?」
理佐とご飯に行ったことなんて現役時代でもなかった気がする。
なんで私なんだろうとつい考えこんでしまいそうになるが、現在の時間は4時。
あれこれ準備していたら2時間なんてあっという間だ。
由依「急ごう…!いてっ、正座してたから足痺れた…」
そこから服やメイクなどの準備を頑張って済ませ、ようやく終わったのは伝えられた時刻の5分前だった。
迎えにきてくれるって言っていたから、部屋から出てエントランスで待つことにした。
理佐「ごめん。待った?」
聞き慣れた声のする方に目を向けると変装はしているもののオーラから芸能人とわかるような格好にしばらく見惚れる。
理佐「ん?こば〜?」
由依「あ、!ごめんごめん。全然待ってないよ。」
理佐「ほんと?よかった〜。じゃあ行こう!」
車で迎えに来てくれたらしく、理佐の匂いに包まれた車内は落ち着かなかった。
理佐「ふふふ、なんでそんなにソワソワしてるの?」
由依「ん!?え、そうかなぁ。あ!今日どのお店行くの?」
そわそわしているのは自覚があったし図星だったから、急いで話題を変えてなんとか誤魔化そうとする。
理佐「行ってみたかったんだけどちょっと1人じゃ入りずらい和食屋さんあって。」
由依「和食!いいね!」
理佐「本当?よかった。確かこばって和食とか好きだったよね?」
由依「え、うん。なんで知ってるの?」
理佐「ふーちゃんと楽屋で話してるのちょこっと聞いた記憶あって。」
私の記憶には残っていないってことは本当にたわいもない話だったのだろう。
そんな話を他の誰でもない理佐が覚えていてくれることがすごく嬉しかった。
目的のお店について夜ご飯を食べる。
お店についてからも注文をしてくれたり届いた料理を取り分けてくれたり。
小さな気遣いや優しさにどんどんと理佐の好感度が上がっていく。
由依「ご馳走様でした〜。ねぇ、本当に半分出さなくていいの?」
理佐「いいの!私が誘ったんだし。」
由依「でも、!やっぱり半分…」
理佐「いいって〜!あ、じゃあ一つわがまま聞いてよ。」
由依「ん?何?」
理佐「この近くにさ綺麗な桜が咲いている通りがあるから見に行かない?」
由依「え、そんなのでいいの?」
理佐「うん!行ってみたかったんだ〜。」
お店から少し歩いて行くと、満開の桜が咲き誇る大きい通りに出た。
由依「うわぁ…!!」
理佐「すごっ!こば!綺麗だね!」
満開の桜にはしゃぐ理佐が微笑ましい。
由依「理佐こっち向いて。」
理佐「ん?」
理佐が振り向いたタイミングで写真を撮る。
夜の桜と理佐は相性が良すぎて綺麗と言う一言ではおさまらない。
理佐「へへ。」
あんなに長い期間一緒にいたのにそんな風に笑うなんて知らなかった。
この写真はきっと私の宝物になる。
もっと知りたいと思う。この気持ちが好きというものなんだろう。
でも絶対に伝えない。いや伝えられない。
当たって砕けるくらいなら遠くからでもいいから眺めていたい。
理佐「寒くなってきたね。」
由依「そうだね〜。」
こうやって時々少しだけ話すくらいでいい。
静かな夜の街にカシャ、とスマホのカメラの音が響く。
横を見ると理佐が空に向けてカメラを向けていた。
由依「何撮ったの?」
カメラロールを見て満足そうに写真を眺める理佐を見て、何を撮影したのか気になった。
理佐「あー、月と桜の写真。」
由依「月?」
理佐「うん。」
顔を上げてみると大きな月が夜空に浮かんでいた。
由依「うわぁ!すごい大きいね!」
理佐「あのさ…」
由依「ん?」
いつの間に立ち止まっていたのか少し離れた場所で話し始めた理佐に目を向ける。
理佐「ゆ、由依、!今日は月が綺麗だね…!」
そんなに改まって真っ直ぐ目を見て言うこと?とちょっと不思議に感じたがそのまま相槌を打つ。
由依「ね〜。」
びっくりしたように私の方を見ると目をぱちぱちとさせて喜んでいる。
理佐「え、、!」
もしかして相槌が聞こえていなかったのかなと思いながら、もう一度言う。
由依「ね!今日の月綺麗だよね。満月かなぁ…」
さっきまでと一転して疑うような目を向けてくる理佐。
由依「どうしたの?」
理佐「いや、どうしたのとかじゃなくて…」
由依「ん?」
理佐「あ、え、?今の伝わってない?」
由依「今の?」
理佐「え、本当に、?月が綺麗だねって言ってるのに…?」
由依「え?うん、だから綺麗だねって。」
流石にさっきの返事は聞こえているだろうけど理佐が何に対してそんなに聞き返してくるのかが分からなかった。
理佐「えぇ、うわぁ、」
まじかぁ、なんて小さい声で呟く理佐がそのまま力なく座り込むから心配になる。
由依「ちょ、理佐どうしたの?」
理佐「いや、うん、あのね…月が綺麗って意味わからない…?」
由依「意味…?そのままじゃないの?」
理佐「嘘でしょ…、」
俯いてため息を吐く姿に更に訳がわからなくなって問いただす。
由依「もう何!勿体ぶらないで教えてよ。」
ぐいっと理佐の顔をあげると少し目を泳がせている。
あー、とか、うぅん、とか呟いた後によしと小さく言うとしっかりと目を合わせてくれた。
理佐「…貴方が好きですって意味だよ。」
由依「え」
貴方が…好きです!?
恥ずかしそうに私を睨んでくる理佐も顔が真っ赤だけれど、私の方が真っ赤になっている自信がある。
理佐「なんで知らないの…」
顔を腕に埋めてぶつぶつ言う理佐と真っ赤になった頰に両手を添えている私。
由依「いや、え、そんなのわかんないよ!」
理佐「常識でしょこんなの…」
由依「うっ、すいませんね無知で!」
そう言うロマンチックな言葉に弱いという痛いところを突かれてしまった。
理佐「…で?」
やっと顔を上げたと思えば、さっきと同じように少し恥ずかしそうに私を睨んでいる。
由依「で、って何?」
理佐「だから!告白の返事は?」
由依「え、う、そんなのいきなり言われてもわかんないよ…」
理佐「だめ。今ちゃんと返事して。」
いつになく融通が聞かない理佐。いやこんなに大事な場面だから返事がすぐに欲しい気持ちもわかるんだけど…、!
由依「えぇ…、うーん…」
理佐「由依は私のこと嫌い?」
由依「まさか!好きだよ!…あ、」
理佐「ねぇそれ期待しちゃってもいい?」
由依「いや、あの、理佐、!」
理佐「由依の好きは私と同じ好き?」
恥ずかしそうに顔を赤らめているけどいつになく真剣な表情を浮かべる理佐につい嘘がつけなくてこくりと頷く。
理佐「本当に?ほんとのほんと?」
由依「理佐しつこい…本当だよ。今日1日だけで理佐にこんなに恋すると思わなかった。」
嬉しさを堪えられないとでも言うようにふわっと私を抱き上げて一回転して始めた。
由依「ちょっ…!急に危ない!」
理佐「ごめんごめん。嬉しすぎて。」
理佐の背中を叩いたら優しく丁寧に地面に下ろしてくれた。
由依「もう。ほんとにびっくりした。」
理佐「ごめんって〜。」
由依「もうしないでよ!心臓止まるかと思ったんだから。ほら帰ろ?」
理佐「はーい。」
少し後ろにいた理佐を置いて恥ずかしさを誤魔化すように歩き出す。
理佐「由依。」
後ろから名前を呼ばれたから振り返ると、唇に暖かい感触を感じた。
驚いて目を見開く私を嬉しそうに笑う理佐は今日1番の笑顔を浮かべていた。
由依「は、え、…はぁ!?ちょっと!それはもっと段階を踏んでから…」
理佐「段階なんか踏んでられないよ。こんなに待ったんだから。」
由依「それでも…!雰囲気ってものが…」
理佐「そう言うの気にするタイプ?」
由依「いや、しないけど…」
理佐「だよね。」
由依「だよねって…もう…」
全く悪びれもせずに笑う理佐にため息をつく。
理佐「嫌だった?」
由依「いや…じゃないけど…」
私の返事に満足そうに頷くと、手を握って恋人繋ぎをしてきた。
由依「手汗かいてないかな…」
理佐「ふふ、由依手汗かかないタイプでしょ。」
由依「え、そう!なんで知ってるの?…てか名前!」
理佐「え、今?さっきから呼んでたけど。」
由依「うそ!気づかなかった。」
理佐「はぁ、やっぱり由依って鈍感だよね…」
由依「なっ、!失礼な!」
まぁ、いいやと呟いた理佐を見ると、にやっと悪い笑みを浮かべていた。
理佐「覚悟しといてね。私もう待たないから。」
end