昼休みを利用して、先生がT君を呼び出した。

声をかけられたT君は、「〇君のことですか」と言った。

〇君とは息子のことだ。

 

まずは、T君に嫌がらせをしている自覚があるのかを確認。

先生は一連の流れをT君に告げた。

身に覚えがないと知らんふりをすると思われたT君は、

【面白かったのでからかった】と素直に認めた。

 

そこに息子も加わり、3人での話し合いが行われた。

息子は自分が思っていることを伝えた。

T君の反応がどうだったのかはわからないけれど、

息子が嫌がるようなことはもうしないという結論になった。

 

担任の先生から電話を受けたT君のお母さんは、

「この話について家庭でもよく話し合います」と言った。

 

先生は私に、これですべてが解決したとは思っていませんと言った。

自分が入った中での話し合いなので、

明日以降何も変わらないということも十分にあり得ると思うと。

その時にはまたこうして3人で話をする機会を設けるので、

何かあったらいつでも連絡してほしいと。

 

正直なところ、私も今回の話し合いで何もかもが解決するとは思っていなかった。

そもそも、相手が素直に自分の非を認めると思っていなかった。

嫌がらせの期間が短かったのが大きかったのかもしれない。

 

入学してまだ1か月。

もしも息子が、いやだいやだと思いながらも誰にも言わずに我慢して

数か月間を過ごしていたとしたら、こんなにも簡単ではなかったと思う。

クラスメートも、息子がからかわれるのが日常になり、

誰も何も気にもしなかったかもしれない。

 

T君のからかいを聞いていた女の子(息子と小学校が同じクラスだった)が、

T君いつもひどいよねと息子に言ってきたことがあった。

小学校では誰かにからかわれる息子を見たことがないその子だって、

数か月間も見ているうちに、何も思わなくなっていたかもしれない。

 

嫌なことをされたと憤慨したり、落ち込む息子をすぐそばで見ていると、

最悪なことがいくつも頭に思い浮かんだ。

不登校になってしまったり、楽しいと言っている部活を辞めたり、

そのうち家族にも笑わなくなるんじゃないかと。

 

でも、息子は最初から私にも夫にもなんでも包み隠さず話してくれて、

その結果先生もすぐに動いててくれることになって、

T君はもちろん、T君のお母さんにも状況は伝えられた。

 

次の日学校から帰宅した息子に、T君はどうだった?と聞くと、

今日は何も言われなかった、と。

からかわれたり、嫌なことは言われなかったと。

 

その次の日も、何事もなく息子は帰宅し、

玄関で「部活疲れた~。おなかすいた~」と言って倒れこんだ。

向かい合って夕食を食べる時も、今日はこんな練習をしたから

脚が痛くなったとか、大変だけど楽しかったと部活の話をした。

 

息子は小学生の頃と変わらず、毎日どんなことがあったのかを

夕食の時に話してくれる。嬉しかったことも嫌だったことも。

その習慣がなければ、私は息子の抱える問題に気が付かなかった。

 

T君からの嫌がらせは今のところなくなった。

T君がお母さんから何を言われたのかわからないけど、

それが理由なのかなと私は思っている。

つい数か月前まで小学生だった子どもなのだ。

まだお母さんの言葉は響くんじゃないかと思う。

 

 

今やっと、私は毎朝心配なく息子を見送っている。

嫌なことに立ち向かった息子は立派だったなと思う。

自分一人での解決は難しかったと思うし、

私や夫、担任の先生を信じて頼ったから状況を変えることができた。

この先また同じようなことがあるかもしれないけれど、

そのときもまた、息子は状況を変えようとすると思う。

 

私の母は、「子どものケンカに親が口出すもんじゃない」と

昔から言っていたし、学生の頃の女子特有の仲間割れは何度も経験した。

それが原因で学校を休んだことはないけれど、

無視されたり悪く言われたり、突然仲間外れにされたこともある。

 

でもどんなことがあっても親に相談することはなかった。

相談したとしても、あのセリフが返ってくるだけだったと思う。

子どものトラブルにどこまで親が介入していいのかは難しい。

けれど、今は昔とはあまりにも状況が違う。

今回、息子のトラブルに夫婦で介入したことは正解だったと思っている。