裏目に出た小池百合子氏の都知事選「後出しジャンケン」出馬表明に区市町村長も巻き込む“自作自演”疑惑。蓮舫氏「電撃出馬」で狂い始めた歯車
国内2024.06.18

蓮舫氏の都知事選出馬表明から遅れること16日後の6月12日に、ようやく立候補を宣言した小池百合子知事。これまで「後出しジャンケン」が有利とされてきた都知事選ですが、今回の小池氏出馬表明までの間のさまざまな動きについて「ずれている感が否めなかった」とするのは、元毎日新聞記者で政治部副部長などを務めた経験を持つジャーナリストの尾中 香尚里さんです。先日掲載の記事で小池氏の「政局勘の衰え」に言及した尾中さんは今回、その「ずれ」の数々を詳しく解説しています。

ようやく出馬表明。小池知事の「狙い」は次々と外れた

東京都知事選の告示(20日)まで、いよいよあと2日。過去最多の50人以上が立候補の意向を示しているというが、3選を目指す小池百合子知事と、立憲民主党を離党して挑戦する蓮舫参院議員による、事実上の「与野党ガチンコ対決」を軸に選挙戦が展開するのは、ほぼ確実な情勢だ。

さて、筆者は5月29日に公開した記事(「小池百合子氏の大誤算。蓮舫議員の都知事選『電撃出馬』が炙り出した“自民党返りの変節”と“政治生命の危機”」)で、小池氏の「政局勘の衰え」に言及した。8年前、自民党に所属しながら党に「反旗」を翻す形で都知事の座を勝ち取ると、その後は自民党をうまく利用しながら、選挙では同党の批判票をも取り込み再選した小池氏。だが、自民党の裏金事件で政治の潮目が大きく変化したことを見誤り、今回の都知事選で苦境に立たされていることを指摘したのだ。

この時点で出馬の意向を明らかにしていなかった小池氏は、6月12日になってようやく3選出馬を表明したが、この間のさまざまな動きを見ても、やはり小池氏はどこか「ずれている」感が否めなかった。

あれほど「機を見るに敏」な政治家だった小池氏も、一度狂った歯車を元に戻すのは難しいのか。小池氏の3度目の選挙戦は、これまでとはかなり違う様相を示すことになりそうだ。

強烈な自己意識が「出馬表明」を遅らせた

まず「出馬表明を遅らせたこと」だ。

前述の記事が公開された5月29日は、都議会定例会の開会日だった。本来、小池氏はこの日午後の都議会本会議での所信表明演説で出馬表明を行うとみられていたが、この日の表明は見送られた。

小池氏は表明を見送ったことについて「まずは定例会にしっかりと取り組んでいくのが現職の務め」と述べたが、直前に蓮舫氏が出馬表明したことが影響したのは確かだろう。報道では「(蓮舫氏と)同じ土俵に乗ったとみられるのは得策ではない」「(出馬表明をめぐり、前日の11日と12日の)2日間はメディアジャックできる」などという小池氏周辺の声が紹介されていたが、要は陣営を含め「スポットライトが当たるのは自分だけ!」という強烈な自己意識があったのだと思う。


小池氏にとって裏目に出た「後出しジャンケン」戦術

小池氏が出馬表明を遅らせた理由は、おそらくもう一つある。自民党の支援を見定めることだ。

4月の衆院東京15区補選で、小池氏は自らが推した候補が自民党の支援を事実上拒み、惨敗した現実を目の当たりにした。野党第1党の立憲民主党が、7年前の「希望の党騒動」で小池氏自身が「排除」した人々を中心に結党した政党であることを考えれば、小池氏は今後「非自民」「野党系」の立場で振る舞うのは難しい。自民党が裏金問題でどれだけ国民の支持を失っていても、自民党の組織票に乗って選挙を戦うことは、死活的に重要だったのだろう。

小池氏は、自民党都連が10日の総務会で「小池氏が出馬表明したら支援する」との方針を決めたのを確認すると、「保守の方々の支援は大変心強い」と述べ、2日後に満を持して出馬表明した。

しかし、この戦術は結果として、小池氏にとって裏目に出たと思う。

出馬表明見送りは結果として、蓮舫氏の出馬で「(小池氏の)計画に狂いが生じた」(読売新聞)という印象を、有権者に与えた。突然現れた対抗馬に自らの戦略を「狂わされた」印象は、小池氏の「堂々たる現職」イメージを、一定程度崩すことにつながった。


区市町村長からの「3選出馬要請」に自作自演疑惑

小池氏が出馬表明を遅らせている間に、さらに「意外な」事態が生じた。都内区市町村長からの「3選出馬要請」の「自作自演」疑惑である。

小池氏は都議会開会前日の28日、都内の52区市町村の首長から、3選に向けた出馬要請を受けた。都内の自治体首長の約8割にあたる。同じ日に自らが特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」や都議会の公明党からも出馬要請されており、小池氏はこれらの要請を受ける形で、翌日の都議会で堂々の出馬表明をする段取りだった。

蓮舫氏の出馬表明でこのシナリオが崩れ、小池氏が29日の出馬表明を見送ると、同日に調布市の長友貴樹市長が記者会見で、出馬要請について「知事サイドから打診があった」と発言。日野市の大坪冬彦市長も「(知事サイドからの)応援要請だったはずが、なぜか『出馬要請』になってしまった」と続いた。「出馬要請は小池氏側からの圧力?」との声が上がり、小池氏は「私からの依頼はない」と釈明するはめになった。

小池氏が当初予定通りに出馬表明すれば、早い段階で「小池vs蓮舫対決」が大きく注目されただろう。そこで小池氏が「受けて立つ現職の包容力」をアピールできれば、小池氏自身にもプラスの展開があったかもしれないし、出馬要請問題もさほど注目されなかったかもしれない。みすみす出馬表明を遅らせたがゆえに、結果として「悪目立ち」してしまった格好だ。


さらなる印象悪化につながった都議会各会派回り

さて、小池氏の出馬表明は、結局都議会最終日の6月12日となった。5月29日の開会日を避けた段階でこの日程はほぼ読めたわけだから、出馬表明にはもはや、インパクトもサプライズ感もない。さらに「日程が読めた」からなのか、蓮舫氏はこの日、立憲民主党への離党届を提出。結局、小池氏と蓮舫氏が並び立つ構図のニュースになってしまい「メディアジャック」の思惑は外れた。

むしろこの日のニュースで取り上げられた「小池氏の都議会各会派回り」は、小池氏のさらなる印象悪化につながった可能性もある。立憲会派に足を踏み入れるなり、軽く笑いながら「……特に(話すことも)ないみたいね、はい」と言うと、約15秒で立ち去った。

自らが立ち上げた「希望の党」に反旗を翻し、惨敗に追い込んだ立憲に、小池氏が良い感情を持たないのも当然かもしれないが、公人の振るまいとしてはいかにも幼稚に映った。一部の支持者はああいう映像を喜ぶのかもしれないが、果たして一般の有権者の反応はどうだろうか。


「AIゆりこ」に透ける小池氏の逃げ腰の姿勢

そして現在、微妙な話題になっているのが、あの「AIゆりこ」である。出馬表明翌日の13日、小池氏の「X(旧Twitter)」で爆誕した「AIゆりこ」は、生成AIで作成された本人そっくりのキャラクターが、小池都政の実績をテレビのニュース番組仕立てで伝える動画である。小池氏によれば「1日で約700万アクセスあった」とのことで「面白い」という評価もあるようだが、一方で「いくら税金を使ったのか?」などいぶかしむ声も続出。小池氏は14日のXの投稿で「AIゆりこは、東京都の事業ではありません」「税金は一切使われていません」と、またも釈明するはめになった。

税金が使われたかどうか以前に、この程度の政策説明さえ自分の言葉で話したくないのだろうか、ということにあ然とする。

もちろん、これでもなお、現職である小池氏は現時点で、選挙戦を有利に戦っていると思われる。手応えがあってこそ、小池氏も出馬表明もしたのだろう。にもかかわらず小池氏は、ここまで「狙った策が次々と外れる」ことに焦り、正面から堂々と選挙戦を戦うことから逃げ腰になっているように思えるのだが、どうだろうか。

小池氏も蓮舫氏も、本日18日に選挙公約を発表するという。選挙の前哨戦もいよいよクライマックスを迎える。今後の選挙戦の展開に、引き続き注目していきたい。