◆ダイハツの不正が業界再編の引き金に? スズキとホンダが焦点。井上久男氏

 ダイハツの不正をきっかけに、軽自動車業界で再編機運が高まっている。

 ダイハツ親会社のトヨタはスズキに出資しており、トヨタを軸にスズキ・ダイハツ連合が誕生する可能性がある。

 さらに、ホンダが開発コスト削減のため軽分野で日産自動車・三菱自動車連合に合流するかもしれない。軽でトヨタ系・非トヨタ系の2グループが形成されれば、将来はEVも見据えて軽以外にも提携関係が発展するという読み筋も成り立ちそうだ。

 トヨタは子会社の日野自動車で2022年に大規模な品質不正が発覚した後、日野を支援しながらも一気にダイムラートラック傘下の三菱ふそうトラック・バスと経営統合させる「荒業」を用いた。

 今回もトヨタや同グループ内では、「ダイハツも事態が落ち着けば日野同様に他社との提携をトヨタが進める可能性がある」との声が出始めている。

 トヨタとスズキは2019年に資本提携を発表し、スズキにはトヨタ資本が入っている。この提携は、独フォルクスワーゲンとの提携破談後、スズキ側がトヨタに持ち掛けたとされる。この資本提携を機に、トヨタはスズキに初めて役員を送り込んだ。送り込 まれたのは、インド法人「トヨタ・キルロスカ・モーター」の社長を2016年まで務めてトヨタ本社に戻り、コーポレート戦略部長などを歴任した石井直己氏だ。

 石井氏は現在、スズキで副社長を務め、鈴木俊宏社長の右腕となっている。

 歴史的にもトヨタとスズキの関係は深い。スズキは初代社長の鈴木道雄氏が1909(明治42)年、現在の浜松市内に鈴木式織機製作所を設立したことが事業の原点にある。
 トヨタグループの始祖、豊田佐吉氏も浜松市に隣接する湖西市出身で自動織機の事業で財を成し、それが自動車進出の原動力となった。創業家が同郷で、織機から自動車産業に繋がる点も共通する。

 スズキでは1950年に資金繰りに窮して大規模な労働争議が発生した際に豊田自動織機に融資を依頼したことがある。1975年にはスズキの2サイクルエンジンが排ガス規制をクリアできず、専務だった鈴木修氏(当時、現相談役)が、トヨタ社長(当時)の豊田英二氏に頭を下げ、競合相手であるダイハツからエンジン供給を受けた。

 スズキからすればトヨタグループには「恩」がある。スズキの中興の祖である修氏は相談役に退いたとはいえ、影響力を少なからず持っており、トヨタから頼まれれば、ダイハツの窮地を見捨てることはできないではないか。

 EV時代のキーデバイスの一つである蓄電池事業においても、国内では、トヨタ・パナソニック連合の存在感が高い一方で、ホンダはGSユアサとEV向け電池で合弁の「ホンダ・GSユアサEVバッテリー」を設立した。この合弁会社に対しては、経済安全保障の
 観点から、蓄電池を半導体などと同一の重要戦略物資と位置付ける国が約1500億円の補助金を投じている。

 かつての国内の半導体産業は各企業が競い合い過ぎたことが一因となり、共倒れした。重要戦略物資と位置付けられた以上、蓄電池は、半導体同様に国内過当競争で共倒れしないことが求められている。

 GSユアサは三菱と電池の合弁会社「リチウムエナジージャパン」を設けている。過当競争を避け、規模の利益を追求するためには、GSユアサが絡むホンダとの電池合弁と、三菱との電池合弁の2社を統合させる動きが出てくるだろう。

 この動きが実現すれば、EV向け車載電池でトヨタグループ、非トヨタグループという2極ができる。

 技術の変化が激しく、しかも莫大な投資が必要な時代になった。加えて世界の政治、経済情勢の不安定化を受けてサプライチェーンの再構築も進む。こうした時代、大胆なアライアンスに躊躇しているようでは競争に劣後してしまうだろう。


https://news.yahoo.co.jp/articles/34fcd1f7e695d479139725d8e01a8d408eb86d29