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セミは成虫になるまでに七年くらい地中にいて羽化してからは一週間しか生きられない。

その生を噛み締めるかのように成虫の一週間は精一杯鳴き続けて死ぬ時は総てを出しきった様に静かに死ぬ。

儚さの象徴として春は桜、夏はセミが挙げられるのもそうしたことによるのだろう。

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セミが嫌いだ。

情感タップリに話を始めてしまって何だが、本当に嫌いだ。なにせデカイ。茨城みたいな田舎に住んでたらあれくらいの虫はよく見るだろうとお思いだろうが、とにかく嫌いだ。あの大きさで、しかも飛ぶ。

そんなことを言ったら同じ様な大きさのカブトムシだって飛ぶだろうと言うかもしれないが、そういうレベルじゃない。大体、剥き出しの羽根に柔らかい腹部。意図不明の管のついた顔。何だあのデザインは。生理的に受け付けない。

とは言え、実は昔はそこまで嫌いじゃなかった。嫌いになる出来事があったのだ。

あれは3年程前の夏。


夜、犬を家に入れるときにセミも一緒に家の中に入ってきてしまった。かなりビックリした。「ビビビビビビビ」という音と共に玄関に乱入してきたセミ。驚いてうっかり明かりを消してしまったら、今度は俺の部屋に入ってきた。本当にビックリした。


あまりの出来事に驚いて部屋から出て、自室の明かりを消し、窓を開け、扉を閉めてしばらく鳴き声が消えるのを待った。


すっかり鳴き声が聞こえなくなり、恐る恐る部屋も隅々まで確認した。どこにもセミの姿がは見えない。思惑どおりに外に出て行ってくれたのだろうと、その日は安心して眠りについた。


翌朝。


ボンヤリした頭で起きぬけの煙草に火をつけて、テレビを見ながらコーヒーを飲んでいるとどこかから「ジジジジジジジ」という声が聞こえる。恐る恐る部屋を見渡しても何もいない。空耳か、と思った瞬間。


自分の座ってるすぐ右側に物凄い鳴き声と共に現れるセミ。


どうやら一晩中エアコンの裏で息を潜めていたらしい。そんなに俺を驚かせたかったか。どんだけ暇なんだお前は。残り1週間以下しかない命のうちの貴重な時間をそんなことに使ってまでビックリさせるなんてどうかしてる。もしくはあれか。出るに出れなくなっちゃったのか。出るタイミングを見失ったのか。下手な若手芸人か。


そんなどうしようもないことに情熱をかけるセミにどうにもいじらしさを感じた俺は、もう二度と仕掛けたドッキリが報われないような不幸なセミを出さないためにセミを嫌いになったのだった。俺みたいなドッキリ殺しのところにきちゃいけない。出川のところにお行きなさい。本当は大好きなセミの為を思うならそれが一番だ。


ちなみに、そのセミは掃除機で吸って、外に放った。だって、手で触んの気持ち悪いし。