若手芸人の漫才を見ていると、一番最初に「今日は名前だけでも覚えて帰ってください」と言ったりするのをよく目にする。
笑ってもらうことの第一歩は有名になることなのだと思う。例えネタがよくできていても、それがいかに面白くても誰だかよくわからない人のネタより、有名人の普通のネタの方がウケる。ある種の安心感と連帯感を持つことが重要なのだろう。いわば自分たちのホームの状況を増やすことが笑ってもらう一番の近道だと思う。
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UR賃貸住宅のCMを見た。
晴れた日の公園で走りまわる子供達。楽しげな音楽にのせて子供たちの無邪気な声が響きわたる。おそらく「こんな素晴らしい住環境ですよ」ってことを言いたいんだろう。確かにそういうこともあるだろう。近くに公園があり、子供もその親も仲良さげ。地域の雰囲気がいいと生活自体に潤いが生まれる。
そして、中盤でキメのキャッチコピー「名前なんて、あとあと!遊べば、みんな友達だよね!」
子供ってそういうもんだなぁ、と思わせる抜群のキャッチコピー。一緒に遊べばみんな友達。重要なのは楽しいかどうかだけ。極めてシンプルで潔い。一度でも触れあえばみんな友達。人がいて、一言話せばそこは常にホーム。名前を覚えてもらう必要もない。人間いつまでもそんな人付き合いができれば素晴らしいことだと思う。
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知り合いに「社長」というあだ名の奴がいる。
高校から同じ大学に進んだ友人で、高校3年の時に諸事情で留年したため年齢は俺よりも一つ上になるが、ちょうどよくバカで非常に気の合う奴だ。
ちなみに、ちょうどよくバカ、がどの程度のバカかを簡単に説明すると、当時の英語の中間テスト。第一問節に単語の意味を答える問題があって、その中の一問に「dragonfly」という単語があった。答えを言ってしまえば「トンボ」なわけだが、彼は「ドラゴン」と「フライ」という響きから一つの答えを導き出す。
社長の答え:竜田揚げ。
これくらいのバカさ加減。人間的に問題あるほどバカではなく、かといって普通と呼ぶにはあまりにも、なくらい。非常にちょうどいいと思う。
さて、あれは2008年の半ば頃だろうか。その日は休日だったのだが、朝起きたら社長が俺の部屋で俺のタバコを吸いながらテレビを見ていた。
ビックリした。と、言っても起きたら社長が部屋にいたことではない。玄関のすぐ横に部屋があるおかげでみんな入りやすいのか、友人は大体勝手に上がり込む。
驚いたのはそんなことではなくて、会うのがかなり久しぶりだったことだ。 社長とは、もう一人いるちょうどよくバカな同級生と三人で講義をサボってはビッグボーイでダラダラしていたことから「The 三名様」という呼び名を頂いたことがある。多分、DVD版じゃなくて原作のほうだろうけど。
そんな社長も、もう一人の友人も就職してからなかなか時間があわなくなり、しばらく音沙汰がなかったのに突然現れたからビックリしたのだった。 かなりボンヤリした意識のまま挨拶をかわし「あー」とか「うー」とか言いながら対応していたら、社長が思い出したように口を開いた。
「そーいや、俺、結婚したんだよ」
………。
「あと、苗字変わった」
どうやら婿入りしたらしい。何て言うか、一気に目が覚めた。物凄い寝起きドッキリ。 しばらく話を聞いてみると、実は結婚したのは結構前らしく、式もかなり前に済ませたらしい。
全然知らなかった。あんなにアホだったアイツがいつの間にか大人なっていた。時間は人を変える。人を変えたついでに苗字も変えた。
そこでふと思ったことは、こいつ名前なんだっけ、ということ。いや、名字はわかる。わかるが今となってはその名字すらも変わってしまっているわけで、現状、本人の正確な姓名の手掛かりがない。「名前なんて、あとあと!」と後回しにしてきたツケが回ってきた。
やっぱり、名前って大切だと思う。だいぶ前にこの記事 でも言ったが、名前は親からもらう一番最初の愛情であり、希望なのだから、ないがしろにするもんじゃない。
とりあえず、社長に関しては、この「社長」というあだ名の由来から本名へと順を追いつつ探っていこうと思う。
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俺のバンドのボーカルが人の名前を覚えない。
結成してから一年程経つが、いまだに俺の名前を間違える。所謂「ボケ」ではなくて、本当に間違える。ナチュラルに俺のことを「ハシモト」とか言う。社長という親友の本名を忘れてた人間がこんなことを言うのもなんだが、そろそろいい加減覚えてもいいんじゃないかと思う。
そんなことを思っていたらちょっと前には「ハシモト」から「モトハシ」に変わっていたし、ついこの前には「モトヤマ」になっていた。誰だ。サッカー元日本代表か。ついに一字も正解がないところにまで来た。時間は人も変えるが苗字も変える。毎回「オーハシ」と言っているのに、二~三日の時間が俺の苗字を「モトヤマ」に変える。
こうなるとちょっと面白くなってきた。次は何になるんだろう。「モトヤマ」からの変化形だとすると「ヤマモト」とかが最有力だろうか。次点として「ヤマグチ」「モトムラ」あたりも視野に入れておくべきか。
そんなことを思いながら、この前電話していたらどういうわけか呼び名が「オーハシ」に戻っていた。きっと、携帯の登録名が「オーハシ」なのだろうと思う。だから呼び名がオーハシ。
「オーハシ」から「ハシモト」に、そして「モトハシ」「モトヤマ」と来て、また「オーハシ」に戻った。
思うに、これはきっと間違いに気付いて「オーハシ」と呼び始めたのではなくて、名前を間違えるループの二周目に入ったんだと思う。もうそろそろいい加減にしてくれないだろうか。バンドを結成して1年以上一貫して正解の名前で呼ぼうとしないのはメンバーというだけではなく、一友人としてちょっとどうかと思う。俺もいちいち突っ込むのも面倒だ。だんだん腹が立ってきた。どうせ次会う時にはまるで違う名前で呼ばれるに違いない。名前なんて、あとあと!も、そろそろ限界だ。1年も後回しになるのは考えられない。
決めた。次に会う時にはもう間違えさせない。いや、今後一切間違えさせない。二周目のスタートラインをゴールラインにしてやる。だから、次にあった時にはしっかりとこう言ってやろう。
今日は名前だけでも覚えて帰ってください。