力道山の真実 大下英治 祥伝社文庫


力道山の真実。1991年に徳間書店から出版した「永遠の力道山」を2004年に改題して出されたものである。


作者はノンフィクションモノの大家大下英治。とにかく多作でこの本を出した1991年にも8冊の本を出版している。力道山のダークサイドも含めた人生を描いたものとなっている。


いまや周知の事実だが朝鮮出身の力道山は生前長崎県大村市出身と名乗っていた。本名は金信洛。父は漢学者だった。兄と共に韓国相撲シルムで活躍し、家計を支えていた。そしてスカウトされ来日、二所ノ関部屋へ入門。力道山の父親が漢学者とはなんか意外である。


相撲で負けん気を生かし関脇まで登り詰める力道。しかし相撲界、二所ノ関部屋とそりが合わなくなり廃業。相撲時代に知り合った有力者新田新作の元で働くが荒れた生活を送る。


そこで酒場でたまたま喧嘩した相手がハロルド坂田だったことでプロレスに誘われる。本格的にプロレスを始めた力道山はかねてから親交をふかめていた新田新作、永田貞雄の支援でプロレス修行のためアメリカに渡る。(吉本興業の林弘高も関わっていたようである)


アメリカで成功した力道山は日本に戻り日本でプロレス興行を起こすことを永田に提案。最初は先に日本でプロレス興行を行っていた木村政彦と札幌でのワンマッチと戦うことを提案されるがこれを拒否。最終的には力道山・木村vsシャープ兄弟の試合を行う事になる。この興行はNHKの中継もつき大成功。


しかし力道山の引き立て役になって不満を貯めていた木村が力道山を挑発。力道山もこれに乗り現在でも有名な木村政彦vs力道山の昭和の巌流島が行われることになる。興行は日本プロレスと旧国際プロレスの対抗戦のような形になるが第1試合木村率いる国際プロレスの市川登はセメントマッチで芳の里にボコボコにされてしまう。この時点で木村は警戒しなかったのかと思うが、前日も酒を飲んでた木村は力道山のブック破りでボコボコにされてしまう。その後の一悶着などは有名な話なので今回は割愛させて頂く。


その後、増長した力道山はお世話になった永田、新田とも関係がギクシャクしていく。国民的スターのイメージのある力道山だが実際にはプロレスの人気は浮き沈みが激しくワールドプロレスリーグ戦を企画するまでは安定した人気を得ることが出来なかった。


また私生活でもホステスに怪我をさせ、ヤクザに命を狙われたり、事業に手を出して借金まみれだったり、不摂生のせいで体がボロボロだったり成功してからも常に苦労が絶えなかったことがわかる。


有名な猪木へのしごき、NWA王者挑戦した馬場に嫉妬し報道させなかったり、ギャラを自分で配分すると言ってピンハネしたり、世話になった永田、新田に恩を仇で返したり人間的にクズであったことは疑いようがない。しかし木村・山口が日本プロレス界のトップであればプロレスは大きなコンテンツになっていただろうか。アイデアマンであり野心の塊である力道山が日本プロレス界のトップであったからこその日本プロレス界であり偉大な人物には変わりない。


というわけで本書は偉大な人物の伝記でもあり、人並み外れた野心を持った男のピカレスクロマンとして読むことも出来る。


文庫版は安いのでざっくり力道山を知りたい方にはオススメの本である。