【出来ないじいちゃん〜始まりの理(ことわり)物語〜】






島の真ん中に、いつも日向ぼっこを
している二人のおじいちゃんがいました。

ひとりは、出来ないじいちゃん。
もうひとりは、ほめじいちゃん。

出来ないじいちゃんは、
朝からにこにこしています。 

理由は簡単。
「今日は出来ないことが、
いーっぱいありそうじゃ♪」

普通ならため息が出そうな言葉を、
出来ないじいちゃんは、
まるで宝箱を見つけたみたいに言うのです。

一方のほめじいちゃんは、
朝からもう忙しい。

「おはよう!今日もちゃんと目が覚めたねぇ!」
「歩いてるだけでえらい!」

「昨日より一歩ぶん、進んどるよ!」 






ほめじいちゃんは、とにかくほめ続ける。
止まらない。止められない。

この二人、正反対のようでいて、
島ではセット扱いでした。

島の人たちは言います。
「この二人がおると、なんかうまくいく」
「理由は分からんけど、元気になる」

出来ないじいちゃんは、何か頼まれると、
まずこう言います。

「それは出来ません。」
でも、その顔はとても明るい。

「これはありません。」

「これは出来ません。」






断る。
だから、事が始まる。

これが出来ない
じいちゃんの口ぐせでした。
ある日、島の集会所で
困ったことが起きました。

新しい催しをしたいけれど、
誰もまとめ役がいない。

「わしは出来ん」
「忙しい」
「失敗したら嫌じゃ」

空気が重くなったその時、
出来ないじいちゃんが、
ひょいっと手を挙げました。

「それは出来ません!」
みんなズコーッと転びそうになります。

でも次の瞬間、
出来ないじいちゃんは続けました。

「でもねぇ、
“出来ない”って言えたから、
何が必要かが、見えてきたんじゃ」

出来ないじいちゃんは、こう言いました。

「わしは段取りが出来ん」
「字も小さくて読めん」
「時間もよく忘れる」

すると、島のあちこちから声が上がります。

「じゃあ段取りはわしが」
「字はわたしが書くよ」
「時間は任せて!」

ほめじいちゃんは、横で大喜び。

「ほらほら!
出来ないじいちゃんが出来ないって
言っただけで、
みんなが輝き始めたよー!」

出来ないじいちゃんには、
もうひとつ力がありました。

それはネガティブ力。
「それ、つまずくかもしれんねぇ」

「そこ、誰かが困るかもしれん」






普通なら嫌がられる言葉を、
出来ないじいちゃんは、
そっと差し出します。

すると不思議なことに、
誰かがそれに気づき、
形にしていく。

出来ないじいちゃんは言います。

「気づくのは、わしの役目」
「形にするのは、仲間の役目」

出来ないじいちゃんの周りには、
いつも自然と仲間が集まっていました。

誰一人、無理をしていません。

誰一人、出来るふりをしていません。






ほめじいちゃんは、
その様子を見ては叫びます。

「出来ないって、最高じゃー!」
「今日も人生が、ちゃんと幸せじゃー!」

夕方、島の海がオレンジ色に染まるころ、
二人は並んで腰を下ろします。

出来ないじいちゃんが言いました。
「出来ないをちゃんと口にすることで、
出来るようになる魔法があるんじゃな」
ほめじいちゃんはうなずきます。

「うんうん。
それが“始まりの理”じゃね」
断る。
だから、事が始まる。

出来ないを隠さない島では、
今日も何かが、静かに、

でも確かに始まっています。






二人の笑い声は、
島じゅうに響き渡りました。
「そんなワクワクに、バンザーイ!」

感謝ありがとう幸せの連鎖
やまぐちふるさと大使

マウンテンマウスまぁしぃ