夜がやってきて

私は電気をつけなければならない


そんなことも忘れて

暗闇で身体が硬直し動けない

何時間、闇の世界に私は居たのか


呼吸をすることさえ

忘れていく


踵を返して私が駆けていく先は闇

死ぬ準備をしています


肉体の死か、魂の死か

そんなことはしらない


薬が私を蝕んで

医者には笑顔で礼を言う



貝殻に耳を押し当てると

何が聞こえる?


忘れてしまった遠い記憶


慣れない私たちは砂浜を走り

突然の波に膝まで濡れる


夕方の海は静かにお終いの準備をしている

あなたの着物が濡れてしまって

それでもずっと笑っている


濡れてしまった、濡れてしまった


まるで喜劇をみているように

子供みたいに笑っていた

いつもまでも、いつもまでも


遠い記憶の思い出は

儚く消える、あなたの亡骸


狂っているのだ

私は狂っているのだ


治らない

努力しても


ネジの軸がゆがみ

私のバランスは

回転するたびに崩れていく


最後にパンっと

私は破裂してしまう



私の庭に男がいた

知らない男が住んでいた


妻子ある男が住んでいた

母の恋人


不倫の恋を

堂々と庭に別宅を建てて楽しむ母


一流大学を出て

実家が金持ちであれば

何をやっても許される

一般庶民と自分は違う

そんないびつな選民意識


法にふれなければ

何をしてもよい


そんな考えが

家族を、家族の精神を蝕んでいく


二人を裁く神は

見当たらなかった


代わりに私が罰をうけた

精神を壊しました

病になりました





気付かないふりをすれば

ほら、あなたの邪魔なあの人も

自殺するよ


だから、あと一息だよ


もう一言、

最後の致命傷を

さらりと与えればいいさ


弱っている精神病の人間なんて

薬で頭が変だから


生命力の強い

あんたの一言で

簡単に飛び降りてしまうよ


呪ってでてくることもない

それで終わり

法にも触れない


日本中のあちこちで

おこなわれてる

殺人だね

このやり方


殺したいんでしょう?

うつ病の家族を

統合失調症の妹を

パニック障害の旦那を

私は見ていない

魂というものを


父が自殺してしまった時も

そのあとも、お墓でも、

父の好きだった書籍棚のまわりでも

魂なんてものをみたことがない


私にはありません


きっとないのだ

そうだ、そうにちがいない


だからこんなに苦しいのだ

だから父の魂も見えやしない


みんなにはあって私にはない


いつかどこかで

忘却の扉をひらき


私の魂が私に戻されることはあるのだろうか


いつかどこかで

抜き取られた私の魂は

もう朽ちてしまったのか


帰ってきたとして

ちゃんとした自分になって

生きていくのが怖い


欠落している自分に

慣れてしまいすぎたから






あなたさえいなければ

あなたなんて産まなきゃよかった


その言葉に返す言葉を私は持たない



白雪姫の継母のごとく

辛辣な言葉で

娘の神経をどこまでも、どこまでも追い詰める母


母性を持たない女は醜い


狂っていく私を

遠巻きに見る家族


私はひとり底なし沼に

落ちて行く

息が苦しい


私は狂った犬のように

ウロウロと部屋の中を歩きまわる 

部屋は狭く

余計に落ち着きがなくなる


苦しい

今夜は月が出ない

助けて下さい


ラヴェルのピアノ協奏曲

闇に静かに優しく誘われて

二度と戻れない気がして

怖くなり

途中で止めた


ショパン ピアノソナタ第三番 ロ短調 第一楽章

助けて下さい、私の神経を


いにしえの音楽家は医者なのだ

娯楽のためにだけに曲を書いたわけではないのだ


どうか、私を不安から救ってください

月がでないという不安

何かを失っていくという恐怖から


太陽は私を照らさない

永遠に


あなたがいなくては誰も生きていけないのに

わたしを照らしはしない


じっとりと疲れた汗だけを私に与え

風さえも吹かない


なのに、夕暮れの不安定さが

私を亡きものにしようとする


わたしはあなたが嫌いです

太陽、あなたが嫌いなんです