八丁堀岡崎町で小間物屋を営む伊勢屋亀四郎に命を助けられたお登勢でしたが、浅草福井町に居るはずの父、戸澤三吾は、お登勢の書置を読んで、

『娘は大川に身を投げて死んだ!』と、思い込んで、娘の仇討ちの為、腕を磨くと言って全国六十余州の武者修行に出て仕舞う。

そんなお登勢を不憫に思った伊勢屋は、彼女を養女にして八丁堀の家に引き取る事にして、万一、戸澤三吾が浅草に舞戻ったなら、

知らせて欲しいと地元の顔役で、戸澤親子の面倒をみていた、大工の棟梁、二人の後見役助五郎に事付けをしておくのだった。


やがて、お登勢が八丁堀に住み始めて半年程が過ぎて、それまで風邪ひとつ引かない元気な亀四郎が、突然、流行病にかかり寝込んでしまう。

そして、伊勢屋の商売を全部、番頭の利兵衛に任せっ切りになると、この利兵衛、白鼠とばかり思っていたら、実は黒鼠に変貌するのである。

なんとも、何処かで聴いたような噺の展開になります。そう!『白子屋政談/髪結新三』の、白子屋庄三郎が紀伊國屋の番頭をして居た時に、紀伊國屋が傾くと、

紀伊國屋の身代と顧客を奪って独立し、日本橋に材木問屋白子屋を立ち上げた!まさに、このやり口で伊勢屋の身代と顧客を奪って利兵衛が独立致します。

利兵衛の悪巧みで、伊勢屋の身代は傾き倒産!亀四郎とお登勢は僅かな金子だけで、ほぼ裸同然!親子二人だけで、放り出されてしまいます。


なんとか亀四郎の知り合いの紹介で、京橋五郎兵衛町のナメクジ長屋を借りて親子二人の生活が始まりますが、亀四郎は寝たきりの病人。

お登勢一人の売卜と針仕事ては、やっと食べる事が精一杯。病人の亀四郎を医者に診せたり、薬を買い与えたりは、借金抜きには出来ません。

結局、薬代、医者代は借金。アッと言う間に五両二分に膨らみ、年末にはこの借金をどう返済するか?お登勢の悩みの種になります。

「外妾になるか?」「身売りなどしては、父、戸澤三吾に会わせる顔がない!」と、悩んだ末。お登勢は『浅草の観音様に、願掛けに行きます。』と、

亀四郎には嘘をついて、結局、お登勢は物乞いをしてその日の日銭稼ぎをするのですが、これは『双蝶々』と、全く同じ展開!!

そうなんです。この浅草で物乞いをしていて、お登勢は戸澤三吾の舎弟、輿左衛門こと仙臺屋輿兵衛と偶然出会います。

乞食に身をやつした姪ッ子登勢を見て輿兵衛は驚き、その時紙入れに在った七十五両の金子、それを全てお登勢に与えて、この場を立ち去ります。

輿兵衛は『私は、戸澤輿左衛門などではない!』と、強く否定しますが、お登勢はアレは叔父上に違いないと確信します。

そして、その輿兵衛から恵んで貰った金子を使って借金を返済し、亀四郎を医者に診せてやるのですが、この金子が思わぬ次なる事件を招きます。


お登勢と伊勢屋亀四郎が引っ越した五郎兵衛町の長屋で、斜向かい(はすむかい)に住んでいる親子があります。母をお崎、息子を佐吉と言います。

この佐吉と言うのが、所謂、頭のネジが緩んだ与太郎さんでして、お登勢にぞっこん!丘惚れしていて、お登勢を嫁にと狙っています。

ですから、何か有れば駄菓子なんぞを持って、斜向かいのお登勢と亀四郎の家に上がり込んでは、ご機嫌伺いを致します。

今日も今日とて、貰い物の饅頭を手土産に、お登勢を訪ねたものの、お登勢は外出中で留守。亀四郎が一人で留守番をしております。

仕方なく、上がり込んだ佐吉は、勝手知ったる他人の家。お茶を入れて饅頭を亀四郎に振る舞うと、お登勢の分の饅頭は、長火鉢の引出しに仕舞うように言われましたから、

三段重ねの引出しの、一番上ではなく、一番下の引出しを開けて仕舞います。そう!そこは煎餅や饅頭を仕舞う引出しではなく、

あの叔父の仙臺屋輿兵衛から恵まれた金子を、小分けにして、十両だけを紫の帛紗(ふくさ)で包んで、大切に仕舞われている引出しだったのです。

佐吉は、特に手癖の悪い輩ではありませんが、魔が差したのでしょう。引出しん中から帛紗を抜き取り、行付けの女郎屋『黄金楼』に駆け込みます。

そして何時もなら一両握り締め、香盤板を左端から数えて八枚目くらいの大年増を指名して、店に代金の二分、女に玉代を一分出したら、酒も肴も一切頼まず遊びます。勿論、お直しなんて絶対しない。

しかも一両出して釣り銭の一分から、牛太郎連中に祝儀なんぞ切った試しの無い滲みっ垂れの佐吉が、この日に限って違います。

香盤が左端から三枚目。若くは無いが男好きのする女郎を指名して、玉代を二両二分もはずみます。また、酒や肴を注文し、何より三度も"お直し"して朝まで居続けです。

そして翌朝、勘定の七両二分を即金で支払うと、釣り銭の二分を店の奉公人で分けろ!と、言ってご祝儀として渡して仕舞います。


これは絶対に何かある!?


そう店の町場が疑りまして、牛太郎を品川の番屋に走らせて、直ぐに地廻りの岡っ引きが二名店に来て、即、佐吉に縄目を掛けて背負ッ引きます。

番屋の牢に入れられた佐吉。半刻もすると吟味与力の"高梨斬九郎"が来て、拷問をチラつかせて脅しに係りますから、佐吉は直ぐに白状致します。


さて佐吉が十両を盗んだと白状したものの、五郎兵衛町のナメクジ長屋に、寝た切りの父親と住む易者渡世の女が、なぜ、そんな大金を持っているのか?!

これは理由(わけ)を調べないわけには行かない!そう考えた高梨斬九郎は、奉行大岡越前にコレを報告。大岡は直ぐさま、お登勢に差し紙を出して呼び出します。

町役五人組付き添いで、お登勢は南町奉行所に出頭すると、七十五両という大金を、人品の良い侍から浅草観音様の脇で、恵みを受けたと正直に語ります。

そして、その侍は恐らく、自分の叔父、戸澤輿左衛門に違いないとお登勢は証言しますが、この輿左衛門、山岡頭巾で顔は隠し、居所も告げず姿を眩ましたと言う。


この物語が、大団円を迎えるにつれて、何処かで聞いた事のあるストーリーが、ちょくちょく混じり始めて、『白子屋政談/髪結新三』『双蝶々』と、

落語でも、講釈でも、芝居でも、誰もが知っている超お馴染みのストーリーが散りばめられていて、読んでいて嬉しくなる展開です。

三代目伯龍は、この私が二つに分けた大団円を、一話で一気に演じているのですが、今の⑥の上でも、45分から1時間はあるから、一話は無理かなぁ〜。

さて、神田伊織さんは、どんな感じで纏めるのか?ダレ場は少なく、それなりにストーリーとして面白いし、悪事が暴かれる謎解きが楽しいと感じます。