僕亭さんの特別企画、二日目は先ず「興津河原の間違い」が一席目。物語は遠州興津の貸元和田島ノ太左衛門と、甲州鴨狩津向村の貸元津向ノ文吉が、興津川の河原を挟んで一触即発の睨み合いに成っている所から噺は始まります。三代目伯山の噺で詳細を追うと下記の二話になります。




◇悪い野郎は三馬政! https://ameblo.jp/mars9241/entry-12653078644.html

◇三馬政の最期! https://ameblo.jp/mars9241/entry-12653155628.html


さて、この回の題名にも成っている「興津河原」ですが、愛山先生によると元々は、「庵原河原」だったとか。ただ、私が読んだ三代目伯山の速記本は、「興津河原」です。確かに興津川の方が庵原川よりは有名です、浮世絵にもなっています。

まぁ、両方とも現在は二級河川で川の規模は等しいけど、江戸時代はどうだったのか?愛山先生は「庵原河原」なんて、ガキが水遊びする河原だ!と、仰っています。確かに、河川流域は興津川の方が広いと言う印象です。


さて、この"興津河原の間違い"に登場する悪役、三馬村の政五郎、通称・三馬政と呼ばれている悪党を、愛山先生は"三馬政"とは呼ばずに、三馬村の政五郎とフルネーム呼びですね。拘りがあるのか?と、感じました。

『清水次郎長傳』の映画やドラマは、殆ど三馬政と呼び、通称じゃない呼び方をする方が珍しい。吃安もそうでしたが、通称を使わない愛山先生の拘りを強く感じる一席でした。



仲入り休憩後は、結構、話が先に進んで初代お蝶が旅先の尾張で亡くなる噺、「お蝶の焼香場」と言う噺に飛びます。

三馬政の一件の後、津向ノ文吉と次郎長の関係は益々深くなり、遠州見付ノ友蔵を加えた3人は互いの盆茣蓙が立つと祝儀を切る間柄になります。

そして迎えた「身延のお会式博打」で津向ノ文吉と武井安五郎が揉める。当然、友蔵は文吉の助っ人を買って出る。すると…。


身延川を挟んで吃安一家と津向ノ文吉、見付ノ友蔵の連合軍の100対100が一触即発の睨み合いになる。これを聴き付けた清水次郎長は時の氏神、仲裁役を買って出ますが…。

結局、次郎長はお上に睨まれ凶状持ちに。暫くは清水湊には居られなくなり、子分の遠州森ノ石松を連れて、女房孝行の真似事をと、上方見物に出かけますが…。

道中、次郎長も女房のお蝶も、悪い風邪を引いて寝込む事に。現在のインフルエンザでしょう、人混みに連日居て高熱に倒れて、2人共に同じ症状ですから。


この窮地を救ったのが、昔、清水湊で次郎長一家に一宿一飯の恩義を受けて、お蝶に大変可愛いがられた小川ノ勝蔵!この勝蔵が、次郎長とお蝶を看病するのですが、先立つ物・お足が有りません。

そこで、勝蔵と石松の2人で無い知恵を絞った結果、昔相撲取で清水に興行に訪れ、雨に祟られて興行がハンチクになり、飢えて苦しんでいた所をお蝶に施しを受けて生き延びて、相撲廃業の後は長脇差となり、次郎長一家に草鞋を抜いた折りに、

次郎長から目を掛けられて、出世払いだ!と博打の借金三百両の金子を恵まれて、今では百人からの子分を抱える大親分の、保下田ノ久六が尾張には居る!と言う結論に至るのだが…。


愛山先生の噺は、現実的な五拾両の施しになっている。また、保下田ノ久六は、伊豆の大場ノ久八の盃を貰ったから"久六"を名乗っております。

この伊豆の大場ノ久八と清水次郎長は、反目、の間柄なので、その子分保下田ノ久六には喧嘩で加勢が出来ないと過去に断った経緯があり、これを久六は根に持ち次郎長を、外道呼ばわり。

次郎長とお蝶の看病を頼みに来た、石松と勝蔵を全く相手にせず追い返します。捨てる神あれば、拾う神有りで、尾張の侠客・深見ノ長兵衛が、次郎長とお蝶の面倒を見ると名乗り出る。


しかし、長兵衛の看病の甲斐なくお蝶は亡くなり、清水湊に帰れない凶状持ちの次郎長は、安政三年一月二十一日、尾張深見村の蓮光寺にて荼毘に臥されます。

そしてこの本葬に参列したのはこの時分は平親王の代貸だった安納徳次郎、通称・安濃徳、稲木ノ文蔵、そして美濃三人衆と云われました、関ノ小左衛門、彌嶋町の水野彌太郎、神戸ノ政五郎、濱松の黒龍屋亀吉、沼津の菊地和助、

池田の七坊主こと藤枝長楽寺ノ清兵衛、寺澤ノ間之助、見附の大和田ノ友蔵、相場ノ左源次、今天狗ノ治助、三州の雲風ノ亀吉、江戸の相撲・清見潟又一の弟子で幕下崩れの大林亀蔵、この亀蔵の実弟の向井ノ善吉、

そして、最後に控えしは、錦手ノ亀五郎と言った面々が綺羅星の如く居並ぶ中、弔辞を述べたのは次郎長の親戚筋から武蔵屋周太郎で御座いました。


ここは、愛山先生も、道中付け風に、綺羅星の如く居並ぶ親分衆の名前を上げてくださって、保下田ノ久六がお蝶本葬儀に来ない事を非難します。そして、

久六はこのお蝶本葬を欠席し、村八分にあった事を恨んで筆頭代官武恒三郎兵衛の力を利用して、深見ノ長兵衛をお縄にし、拷問の末に責め殺します。

さぁ、これを聞いた清水次郎長、敵討ちを決意、金毘羅様に願掛けをして、筆頭代官武恒三郎兵衛と保下田久六を討ち捕ります。この後、石松が願解きに金毘羅様を代参しますが、悪い奴等に閻魔堂で殺される。


次回は、この石松が閻魔堂で殺される場面をミステリー仕立てでお送りする、結城昌治作品と、「荒神山の決闘」の発端です。