◇サタン 小満ん

キリスト教に登場するサタンを題材にした、小満ん師匠オリジナルの落語です。所謂、サタンと天使の物語なのだが。一話完結の落語ではない。次回に続き、来年五月に、『サタンII』が予定されている。


ジョン・ミルトン作、叙事詩『失楽園』。コレを落語にすると言う、実に柳家小満ん師匠らしい取組み、挑戦的な落語なので御座います。しかも、サタン目線。

渡辺淳一の『失楽園』ならば、快楽亭ブラック師匠が落語にしそうですが、ミルトンの『失楽園』ですからねぇ。叙事詩って、落語になるのか?!


サタンは天使と同じカテゴリーに属し、羽根と言うかぁ、翼の立派さ加減から、九段階の階級に分けられていて、サタンはその翼の立派さから最上級。

所謂、熾天使と同じ位、「熾(シ)」と言う文字は「火が盛んに燃える」の意で神への愛と情熱で体が燃えていることを表すと、小満ん節が炸裂します。


天使の1/3を仲間に引き入れ、サタンは綿密に計画を練り天界でクーデターを企てますが、ゼウスも馬鹿じゃありませんから、必殺技、新兵器である『雷(イカヅチ)』を用いて、クーデター軍を一蹴。

ゼウスは、サタンとそれに従った天使たちを、灼熱地獄に落として蓋をし、彼らに戒めを与えます。この戒められ地獄で炎に包まれているサタンと天使の場面から『失楽園』は始まります。

天使と言う存在は、不死身由え死を迎える事はないので、紅蓮の炎に焼かれ地獄の苦しみを痛感しているのですが、流石、熾天使格のサタンは烈火地獄などどこ吹く風。涼しい顔。

もがき苦しむ堕天使を嗜めながら、それでも烈火に少しずつ慣れて来た根性のある天使を集めて、サタンは現状の戦況を冷静に分析しながら、天界への復帰とゼウスへの反撃を模索する為、地獄の作戦会議を開催致します。


しかし、仲間に付いた天使たち。碌な意見が出ない。有るものは強面で少し知能が足らない。由えに硝石と硫黄で黒色火薬を造り花火攻めを提案します。

また、ある天使は、少しづつ火炎地獄にもメンバーは慣れて来ているから、住めば都だ!、と、トンチンカンも現れて

挙げ句の果てには、住めば都の意見に乗っかって、欲張り野郎の天使は、地獄の底には金銀財宝が眠っているから、何も天界へ戻る必要はない!と、まで言い切る始末です。


さて、堕天使たちのあまりに浅はかな態度に呆れながら、サタンは一人リーダーシップを発揮し、解散命令を宣言して、地獄から逃げ出すルートを探す為、独り旅に出るのであります。

地獄からの脱出、サタンはその扉を守る番人と出逢うのですが、その番人はまか不思議!影無き物体、且つ上半身女体、下半身は蛇という化物なのだが

門番の化物も、そしてサタンその人も、互いに槍を持ち対峙するので、小満ん師匠らしく、本多平八郎の槍、つまり母里太兵衛の日本丸、黒田節の由来ギャグが炸裂します。


この門番を務めるゼウスから、地獄の扉の鍵を預かった化物こそ、誰あろうサタンの実の娘なのであるが、サタンの娘は近親相姦でサタンの子を身籠り、

生まれた子はサタンを越える人非人。我が母を犯しサタンのDNAを地獄に排出させ続ける。サタンは、娘と娘との間に生まれた息子、更には娘と息子の間に生まれたサタンDNAの兵士達を連れて地獄を脱出致します。


軈て、サタン一族は、新たにゼウスが生み出した楽園『地球』を発見するのだが、それは次々回、五月の『サタンIIのお楽しみ。



◇提灯屋 小満ん

この日の小満ん師匠は、実に饒舌で、ジャン・コクトーの『美女と野獣』に付いて語り、銀座で小満ん師匠の後ろを歩く女性二人組が、『美女と野獣』について語り合っていた話題を紹介した後、

コクトーの来日と、横浜でコクトーが来日記念にハンカチを買いに行き、その対応をした女性店員が大のコクトーファン。偶々持っていた堀口大學訳のコクトー詩集にサインを求めると、

コクトーは非常に感激し、喜んで、得意のひと筆描きの様な絵まで添えてサインをしたという、エピソードを嬉しそうに語るのでした。

因みに、コクトーの『美女と野獣』は、来日の際に歌舞伎座で観た「鏡獅子」にインスパイアされて創られた作品と言われています。


そこから、商人と暖簾の話題から、暖簾の屋号や紋が看板の始まり、そして、そこから三越の話題。商売上手の三越の商魂のお噺から、

少し脱線し、大黒様の話題になり、三越の大黒様と同じ物を持つお方から、師匠黒門町の紹介で、本物の大黒様を小満ん師匠は見た事があるという噺へ。

更に、三越は宣伝が上手かった噺も紹介しつつ、明治、大正、昭和の宣伝マン、ちんどん屋の話題へと移り、ここから本編の『提灯屋』と入ります。

実に、小満ん師匠らしく蘊蓄と、ジャン・コクトーへの想いの詰まった『提灯屋』でした。日本橋亭での最後の小満んの会に相応しい会でした。引き続き、赤坂見番にも『サタンIIを聴きに行く予定。


次回令和六年一月十三日・土曜日は、『陽成院』『曲垣と度々平』『芝濱異聞』の三席です。