夜仕事が都内で終わり、今日は文菊師匠の『鰍沢』が聴けるので、何をおいても行くべき!と、感じたので初めての生文菊の『鰍沢』を聴く事にした。




1645分〜】

・十八 道灌 前回『つる』を聴いたきく麿師匠の弟子の十八さん。地味な仕草や言い回しも、古典口調が出来ていて、リズムがしっかりしています。鼻濁音は???ですが、立派な前座さんです。

・一花 金明竹 道具七品の加賀屋佐吉方から来た上方の商人の言い回しが、上方弁で何を言っているか?難解な早口のハズなのに、全然出来ていない。こんなに出来ないなら、やらない方が良いと感じる。

前回の二代目文蔵追善と、脇の顔付が酷似で、一花さんは3回目だが、結構、二つ目としては酷い落語だと思う。稽古しているのか?真打も近いし、夫婦で咄家だが、廃業して女将さんになるのか?!

・のだゆき 久しぶりに見た「のだゆき」さん。喋りが上手く成っていて、ピアニカとリコーダーの音楽ネタは変わらないが、踏切、救急車、コンビニのドアの音と、クウォリティが高い笑いです。

・きく麿 歯ンデレラ 又、二代目文蔵追善と全く同じで

・小せん 野ざらし 久しぶりに聴く小せん師匠。相変わらずの美声による『サイサイ節』と、手向の句は「野を肥やす 骨を形見の 薄(ススキ)かな」でした。

・正楽 紙切り 腕試しの相合傘からの、ホームラン王大谷翔平と阪神タイガース岡田監督の胴上げ。胴上げは、大人数を切る大作、時間が掛かりましたが、その間、お囃子さんも『六甲颪』を弾き続けました。

・一之輔 黄金の大黒 三ツ所紋の羽織があると言う長屋の徳さん。裏が畳で、胸の紋が左三階松と鬼蔦だと言う。「談志に、志ん朝!凄い羽織だなぁ〜」と、褒められたが、後ろが花菱で、なぜ?根岸の正蔵なんだ?!と言うボケが入ります。

・こみち ほっとけない娘 初めて聴いたこみちさんの新作落語。白鳥テーストが少し感じられる新作でした。


仲入り


1845分〜】

・猫八 動物モノマネ 八色鳥が高知県の鳥だと力説。後は猫、アルパカ、カモ、鶯と二代目文蔵追善と同じに。

・正朝 目黒のさんま 久しぶりに聴いた正朝師匠。上手いし売れていたのに、何んか芸が変になりました。

・ぺぺ桜井 ギター漫談 ぺぺとこみちのコラボを初めてみました。こみち師匠のスパンコールのドレス姿と、ギターとピアノの共演。

二人が共に出る八日間は、このぺぺ&こみちのコラボ芸があり、ネタは毎日新しいのが披露されるみたいで、是非、見てほしいコラボ芸です。



・文菊 鰍沢 落語である事に対する文菊師匠のこだわりを強く感じる『鰍沢』です。描写が会話で進められますから、法論石を出てから鰍沢へ向かう新助の様子も、

紳助自身の口から独り言で描写されるので、より近くの出来事で、力強く感じられて、雪ん中を進む新助の心細い感情が揺れる様子、特に野宿したら死ぬ!と、お題目と一緒に唱える新助。

そこに、一軒の荒屋を発見した時の慶びと必死さが、地のト書きにしない事で、俯瞰にならない新助の目線に感じる恐怖と安堵が伝わり、文菊師匠の高度な芸を見せて貰えた様に思います。


法論石から鰍沢へ向かう途中で見付けた荒屋。九死に一生、地獄に仏の思いの新助でしたが、外の雪ん中を彷徨い続けたお陰で、手が悴んで自由が利かない中、笠と蓑を取る仕草が実に細かい文菊師匠。

そして、お熊に薦められて、囲炉裏の火に当たりますが、都会育ち故に勝手が分からず、お熊に笑われてしまいますが、新助は正直に江戸っ子の法華で、身延に父の分骨をしての御礼詣りだと素直に語ります。

この新助の身の上話が、実に誠実な性格を表していて、お熊を信じ切っているし、心中前のお熊、熊蔵丸屋の月乃兎花魁!と、一夜の馴染みに成った事で、より深く信用してしまう新助。


九死に一生を得た者


だからこそ、尚更、吉原熊蔵丸屋での事が蘇り、嬉しくなりお熊への信頼は確固たる物へと変わる。それが故に、下戸の新助は出された卵酒を、折角、お熊が作ってくれたからと、好意に感じ無理に飲む。

ここの、新助とお熊も実にリアリティがあり、お熊の妖しい色気が元吉原の遊女らしく、出そうと思えば、急に感情を高めて昔取った杵柄、女郎の艶が現れるのです。

いやぁ〜ここで文菊師匠は、声の調子と指使いで、そんなお熊が出す手練手管を、この場面で滲ませます。若い四十凸凹の文菊師匠らしい芸の魅力だと感じます。

一気に、お熊が月乃兎へ変身するみたいなぁ、この感じは、地噺っぽくト書きを多めに演じると出せない迫力で、文菊さんの落語の魅力だと感じました。


そして、熊の膏薬売りの夫、傳三郎が戻って来るのですが、その服装の説明から入り、山岡頭巾と鉄のカンジキ、更には熊の膏薬を入れた薬箱を取る仕草が実に慣れた感じで、新助とは対照的。

八千草で編んだ山岡頭巾、松坂木綿の二重に、焦茶色の目クラ縞のヨレた下履き、膝下に藁を巻いて赤錆の出た重い鉄カンジキを履いており、肩には斜に(ハスに)掛けた薬箱、中には熊の膏薬が!

また、傳三郎は勝手知った我が家らしく、囲炉裏へと一目散に当たり、粗朶(ソダ)をへし折る手付き、火箸を使い火を起こす仕草、全てが新助とは段違いに手慣れているのが、文菊師匠の仕草だけで伝わります。

そして、お熊が新助に馳走した卵酒の残りの入った鉄鍋を囲炉裏傍で見付けた傳三郎は、これを飲むのですが、実に意地汚い飲み方をするのが、お約束です。

更に、アレ?見慣れない笠と蓑が、土間の壁に掛かっているのに傳三郎が漸く気付きます。「はて?客人でも来たのやら?」との思いが過ぎります。


そして、ここが実にポイントとなる場面。お熊が傳三郎の為に、寝酒を買いに出た帰り、手が塞がり、カンジキの紐が緩んだからと、戸を開けてくれと中に居る傳三郎に頼むのだが、

既に、囲炉裏の火に当たり漸く温まった傳三郎は、立って寒い玄関戸まで歩み寄るのが億劫である。「厭だ!てめぇで開けろ。」「あんた!開けてよ。」のやり取りが続くが

傳三郎が、返答を突然しなくなり、仕方なく、お熊が戸を開けて中に入る。すると、顔色が真っ青に成った傳三郎が、土間に蹲り虫の息になり苦しんでいる。

文菊師匠は、実に短い会話で傳三郎が、自身が仕込んだ毒卵酒の残りを誤って飲んで死にかけていると知り、急転直下、怒りに狂い妖魔に変身したかの様に、激しく新助を逆怨み致します。

ここ、文菊師匠のように、出来るだけ短い間合いで、急転直下、復讐の鬼へと変化(へんげ)するのが正解です。コレをダラダラ、中々、傳三郎が苦しんで死なずに引っ張る演出をする咄家が居ますが、

この場面は、余りに長く引っ張ってしまうと、なぜ、お熊は亭主の寝酒を買いに出る前に、残りの毒卵酒を捨てるなりの処分をしなかったのか?!

と、お熊の過失がクローズアップされて、逆恨みにも程がある!新助が、可哀想だ!理不尽極まりないぞ!と、復讐鬼と成ったお熊がわがまま過ぎる存在と気付かれるので要注意です。


さぁ、ラストシーン。亭主の仇!と、逃げる新助を追うお熊。ここでの文菊師匠オリジナルの表現は、火縄銃を小脇に抱えるお熊が、キタキツネ風にルールールーと、鳴きながら迫る演出。実に不気味です。

さて、文菊師匠の『鰍沢』。実に落語らしく極力口述による進行で、新助目線、お熊目線で、登場人物に近い目線で物語が展開される、スピード感のある『鰍沢』は、私は初めてで、

元は小満ん師匠の『鰍沢』なのか?と、推察しますが、若さ故、小満ん師匠にない独自色を強めた迫力満点の『鰍沢』でした。また、聴きたい素晴らしい演出です。

私は、過去に12人の咄家で『鰍沢』を聴いていますが、誰よりも登場人物目線の『鰍沢』で、あえて俯瞰にしない演出で、スピード感が素晴らしかった。

私が過去に聴いた柳家三三師匠の『鰍沢』とは、一番、両極端な『鰍沢』ですね。聴き比べると、大変面白い気がします。


次は、四日目の『文七元結』を聴きに行く予定です。