来年三月に抜擢で真打が内定している三遊亭わん丈さんの横浜にぎわい座の、のげシャーレでの独演会、わん丈ベイサイド、

既に九回目を迎えているそうで、私は第一回を2019年の三月に聴いて以来の二回目でして、真打を目前にわん丈さんの成長というか進化を見届けたくて参りました。

そして、真打のご祝儀代わりに、鈴木三成先生のやや小振りの湯呑を、箱書き付きでプレゼント。いつか、名人になった暁には高座で使用して欲しい。


さて、そんなわん丈さんの勉強会兼独演会、わん丈ベイサイド。この様な内容でした。



1.お多賀さん

これは六代目圓生の為に、あの長谷川幸延先生が書いた新作落語なんだそうで、私は『圓生全集』を読んだ事がなく、この噺の存在を知りませんでした。

さて、「お多賀さん」と言うのは多賀大社と謂う神社の愛称なんだそうです。そしてこの"多賀"と言う地名は、米原と長浜の間くらいに位置していて、

現在、私が読んでいる三代目玉田玉秀斎の『後の業平文治』講釈版業平文治に登場する要所なのです。

なんと、業平文治の実弟の亡霊が、多賀峠の辻堂に現れて、養子先の父親に殺された経緯を語り、仇討ちの依頼をすると言う、少々オカルトじみた場面の背景が"多賀"なのです。


さて、わん丈さんは滋賀県出身の咄家で、関東の四団体で唯一の滋賀県生まれの咄家なんだそうで、折角、滋賀県の多賀大社が物語の舞台だからと言う事で、

わん丈さん、『近江八景』に続く二つ目の滋賀県根多にすべく持ち根多に加える意気込みを語っておりましたが、この『お多賀さん』、六代目圓生があまり演じない理由が分かります。

元は、この日、わん丈さんな演じた12分半より10分以上長い噺らしく、駄洒落や長谷川先生オリジナルの1970代らしいクスグリや、『死神』『鰍沢』のパロディギャグが有るらしいが、

流石に、令和の新作落語としては、???と成るので古典落語テイストに、わん丈さんなりのアレンジが加えられて、寄席サイズの小ネタに仕上がっておりました。



2.お節徳三郎(通し)

マクラでは、四月一日前に、落語協会内では抜擢で真打に内定した噂が広まった原因について語るわん丈さん。それは新・三人集に知られたのが拡散に繋がったらしい。

「わん丈」と言う名前を変えるか?そのままで真打に成るのか?悩んでいると言ってました。三点セットの発注ギリギリまで迷う様子です。

後ろ幕、三点セット、真打パーティー、真打披露興行チケットのノルマなどなど、大変忙しい日々が続きますし、出費も大変でしょう。


さて、本編の『お節徳三郎』「花見小僧」の前半はオーソドックスではあるが、わん丈さんらしい細かいギャグで笑いが多い。

小僧の定吉と親旦那のやり取りが軽妙で、親旦那の三枚目なキャラクターがわん丈さんらしい。全体を通して、志らく師匠の「花見小僧」に似ている。

後半、「刀屋」の部分も、暗く固くならない様に工夫されている。刀屋の主人がわん丈さんなりに工夫されていて、徳三郎への主人の説教がくどくない。

最後のオチが、「お材木で助かった!」ではなく、わん丈オリジナルに変えてありました。敢えて、書きませんが、わん丈さんらしい落語に成っていました。



3.ねずみ

この日、のげシャーレの上、芸能ホールの方では、昼夜、『落語教育委員会』が開催されていて、わん丈ベイサイドは、この影響からか?満席ではありませんで、当日券が有りました。

このわん丈さんの『ねずみ』は、三遊亭兼好師匠から習った演目で、偶然とは言え因縁を感じると、わん丈さんも気合いが入っていました。

又、わん丈さんは幼稚園に通う娘さんが二人、年長組と二つ下の一番年少組。その幼稚園から落語の仕事を頂いて、娘さん二人に気付かれないよう、サプライズ出演した噺が微笑しかったです。


さて、兼好師匠譲りの『ねずみ』。実に兼好師匠が演じるのと同じ形で、八割以上忠実に演じるわん丈さん。共に、六代目圓生のといいたいが、兼好さんは好楽一門だから稲荷町系?

兼好師匠の『ねずみ』の特徴、卯兵衛さんより生駒屋の旦那の方がかなり、目立つキャラクターで、旅籠「ねずみ屋」についての説明も、生駒屋が行います。

甚五郎と、卯吉のキャラクターが、もっと練られて確立されたら、わん丈さんらしい落語になる予感が致します。


さて、次回10回目のわん丈ベイサイドは、クリスマス、1225日月曜日の予定です。