女流講釈師の田辺凌天さんと、つい最近、今年二月に二つ目に昇進したばかりの古今亭菊正さんの二人会へ行ってきました。
会場は、お馴染み四ツ谷荒木町、美舟さんでの「つばなれ特選会」。お客様の数はつばなれして、11人。こんな内容でした。
・道灌 … 菊正
・秋色桜 … 凌天
お仲入り
・坂本龍馬外伝「山本琢磨伝」… 凌天
・お見立て … 菊正
1.道灌/菊正
存在は兼ねてより知っていましたが、東京大学大学院出身で、ロシア人とのハーフ。青い目をした咄家さんです。
なんと!あの元フィギュアスケーターの日野龍樹は実弟で、菊太楼師匠のお弟子さんで、前座時代は師匠の前座名の『菊一』を名乗っておりました。
馬桜師匠が快楽亭の師匠に向かって能く謂う言葉ですが、あの顔で古典を聴いて客は這入り込めない!と。
確かに感じます。何でだろう?無駄に表情が豊かな菊正さんなのです。特に3メートル位から聴いたので尚更。超バタ臭い顔に古典落語、
顔の表情が読み取れると、違和感をどーしても覚えてしまいます。ただコレは仕方がない。声と滑舌は良いだけに尚更違和感となります。
菊正さんの声は、ガーシー被害者の城田優に似ている!ハーフあるあるな声なのでしょうか?
そんな菊正さんのマクラは、四月朔日発表された抜擢真打、林家つる子さんと三遊亭わん丈さんの来年三月昇進の話題からでした。
古今亭朝太改志ん陽、古今亭菊六改文菊となった2012年の二人真打以来の抜擢真打となるつる子とわん丈。
賞レースで大活躍の二人。特にわん丈さんは賞レース荒らしぶりは有名で、落語協会としても、年功序列に胡座を掻く二つ目に、
刺激を与えて活性化を狙う抜擢真打だったようでして、偶々、菊正さんは池袋の楽屋で真打昇進をつる子さんに打診する市馬会長を見たらしい。
さて、本編の『道灌』。八五郎とご隠居さんの掛け合いが実に軽妙。軽妙過ぎるくらいの早口なのに、しっかり笑いを生むのは技術の高さを感じました。
2.秋色桜/凌天
季節の噺で、非常に有名な一席を披露する凌天さん。そこそこ長い噺でもあり寄席形式の会では、中々、二つ目だと掛け難いので、
この様な二人会でしかやれないのでと前置きし、『秋色桜』を演じた凌天さんでしたが、実に彼女らしい明るく元気な高座でした。
囀り屋と謂う小屋が有った頃は、凌天さんがあおい先生や貞弥先生の会を手伝っていて、その天真爛漫な明るい高座を観て来ましたが、
今も変わらぬ元気で弾ける明るい高座に、あぁ、凌天さんらしい!と、感じ嬉しくなりました。素晴らしい。師匠の凌鶴先生には無い個性です。
3.山本琢磨伝/凌天
初めて聴いた新作講談で、凌鶴先生の作品なんだそうです。坂本龍馬の従兄弟、父の兄の息子で、龍馬と同世代の琢磨の物語です。
土佐藩の身分制度、上士と下士の確執に悩んだ山本琢磨は、従兄弟の坂本龍馬に薦められて、新潟から自由の新天地、蝦夷地へと渡る。
そして琢磨が渡り着いた港街が函館。そこで神社の宮司と知り合い、蝦夷地の役人の子弟に剣道を教える道場を構えて、
この宮司から神社ごと受け継ぎその養子となり、名前も沢辺琢磨と改める。そんな折に、キリスト教の宣教師、ニコライと出逢う。
ニコライはロシアの宣教師で、琢磨は神道の宮司なのだが、琢磨はニコライの教え、人は皆神の下に平等!と謂う教えに感銘を受け、
神道からキリスト教へと改宗して、キリスト教の布教に尽力し、明治政府に働き掛けて、御茶ノ水にあのニコライ堂建設に尽力致します。
ロシア人ハーフの菊正さんが見ている前で、片言の日本を使うロシア人ニコライを演じる凌天さんの心臓の強さに驚きました。
数学者で大道芸人のピーター・フランクルみたいなあの片言の日本語を操り続ける凌天さんに、菊正さんが苦笑いしていたのが印象的でした。
4.お見立て/菊正
二つ目成り立て二ヶ月の咄家がやるレベルの噺ではやく、ちょっと驚きました。一之輔や文菊が二つ目に成り立ての頃に負けない実力です。
また、機会が有れば観に行きたい期待の二つ目さんだと思いました。そうそう、菊正さんのロシア人のお父さんが観に来ていました。