文政八年二月二日。明日は節分だと謂う番に業平文治改め高濱文治郎は、母のお峰と子分の立川ノ岩松を前に大切な決断を話していた。
文治「母上、文治郎は決めました。アッシを必要として呉れる人達が居て、其れがアッシの大切な仲間ならば、命を賭しても助けてやらねば、
アッシは漢じゃ御座んせん。そして、残念ながらこの世には絶対に生かして於いちゃいけない鬼や邪が蔓延って(のさばって)おる。
之までは母上に従い『堪忍』の二文字に賭けて一切の喧嘩、暴力を封印し、侠客ではなく浪人武士として生きて行く所存てしたが…。
蔓延る悪党を野放しにして於くと、地獄を見る仲間が増えまして、世の為人の為に成りません。依って文治郎は『堪忍』の二文字を捨てさせて頂きます。
本日、只今より侠客・業平文治に戻り、世の為人の為に悪党を退治して、弱き仲間の為に此の命を捧げて生きて行く所存で御座います。
そんな親不孝に戻る文治郎をお許し下さい。そして本日只今より高濱文治郎は死にました。もう親子の縁は切れ申した由え、アッシのする事には御意見無用に願います。」
お峰「判りました、文治郎。貴方が高濱文治郎を捨てると謂うのを、もう、止めは致しません。ですが母は此の屋敷を出て行きませんよ。
だって、沢山の子供達や町内の皆さんが、妾に素読やお習字、茶の湯や生花を習いに参りますから、妾は教室を閉める訳には参りません。」
文治「其れは構いません。何年でも江戸に居たいだけ居て下さい。其れに私より母上の方が固定収入は遥かに上ですから…。」
岩松「親分のオッカさん。違うんです。親分が侠客に戻ると決心しなすったのには、ちゃんと理由(ワケ)が在るんです。実はですねぇ、
親分は三年半前に心中しようとした若い二人の命を大川でお救い成すって、その心中の男女が夫婦になり、京橋の五郎兵衛町って所に小間物屋の店を持って、
其れも、全部親分が面倒を見て男の方は吉之助って謂うんですが店の銭に手を付けて帳面に穴を空けていたのを、親分が店の旦那を噺して呉れて、
借金って事にして呉れて、今も月賦で返済しているんです。女の方も業突く張りで因業な母親が居て、コレと手切金を五拾両渡して縁を切らせて、
其の上、五郎兵衛町の店を出す時だって親分が全部金出して店を持たせて、三日と空けずに五郎兵衛町の店に行っては二人の悩みを聴いてやって…。
そんな二人に近付いて悪さする野郎が居て…ところが此の夫婦だけじゃないんです。親分の所に苦情やお困り相談が未だに月に二、三件来るんですが、
其の殆どが南割下水の直参旗本の服部平太夫って悪党の相談で、相手を賭け碁に誘って借金を背負わせて、証文書かせて型に嵌める悪どい遣り口で、
何人もの町人が家や財産、女房や娘を取られていて、そいつに吉之助も騙されて、心中までした女房の志乃も奪われ、吉之助は殺されかけた所を、
三日前にお峰さんもご存知の松之助!船宿の『三好乃』で船頭している松之助が、割下水に簀巻にされて捨てられていた瀕死の吉之助を助けて、
其れを此の屋敷に連れて来たから、服部の野郎の悪事が全部バレて、親分が遂に『堪忍』している場合じゃない!って成った訳なんですよ、お峰さん。」
お峰「文治郎、無茶をするなと謂っても聴かないお前だが、母さんは敢えて謂うよ。人の道、義にだけは反せずに、お前の謂う真の侠客に成るのですよ。」
文治「ヘイ、オッカさん!」
そんな親子の会話が御座いまして、節分の前日に高濱文治郎は、再び、業平文治と名前を変えて、子分の立川ノ岩松が持って来た焼鏝で二の腕に彫った『堪忍』の刺青を焼き消します。
さぁ、早速喧嘩仕度で御座います。薄い江戸腹に下帯を付け、其の上から鎖帷子、丸に『業文』の半纏博多帯、下は股引足には黒い脚絆、素足に草鞋履きで御座います。
この出立で、白い襷十字を綾なして頭には同じく白の長鉢巻。岩松には付いて来るな!と、此の場は一人、父文左衛門より頂戴した粟田口忠綱の名刀を腰に帯びまして、
本所業平橋の屋敷を出た文治は韋駄天の走るが如く、疾風を巻いて急ぐ々ゞ、南割下水なる服部屋敷の表門際までやって参り、通用門を押し開け中へ入らん!と致しますに、
堅く閉ざされ中へは入れません。そこで文治は暫し考えた『之れは如何にして這入り込んでやろう?若し憖(なまじ)勇んで押入り憎むべき成敗する相手の、
服部平太夫、志乃並びお久羅の三人を獲り逃しては相成らん!何か這入り込むに良き手立てはないものか?!』と。少々門前に佇んでおります内に、
夜は深々と更け行くと昼間でも淋しい割下水、人ッ子一人通る者は御座いません。針を落としても聴こえる様な静寂の中、向こうの方からパタパタと足音が聴こます。
『おや?誰か来る!』、そう思った業平文治、眼を据えて見ますると、一人の男が『大和田』と書かれた提灯をブラ下げて歩いて参ります。
そして、宜く見ると左手に提灯を、又右手には出前箱を持っている様子、是を見た文治は故意に其の出前持ちに近付き話し掛けます。
文治「オイオイ、若衆、何処へ行くんだ?貴様。」
若衆「ヘイ、私は此の先の駒形の鰻屋『大和田』の若モンで、旗本の服部様よりの誂えの肴の注文をお届けする所です。」
文治「注文をお届けする所じゃない!遅いではないかぁ。様子を見に来て良かった。其の箱は儂が届けてやる代わりに、明日昼過ぎに箱と丼鉢を引取に参れ、で、勘定は幾らだ。」
若衆「どうも遅く成って相済ません。御代は二分二朱と百五拾文に成ります。」
文治「ヨシ、二分と三朱やる。釣りは要らぬ残りは貴様の手間だ、取っておけ。オイ若シ!明日道具は忘れずに取りに参れよ。」
若衆「毎度、有難う御座います。」
そう謂うと大和田の若衆は喜んで出前箱を置いて帰って行った。さて、文治。是で服部屋敷へ堂々と這入る上手い口実を手に入れましたが、
今の格好では出前持ちには見えないので、襷十字に鉢巻は取りまして、半纏は単物の着流しに刀は背中に隠して、
出前持ちで御座いますと、服部屋敷の門前へと参りますと、通用口の戸をドンドンと叩き、中の門番を呼び出します。
文治「ハイ、遅く成りました!大和田で御座います。ココをお開け下さいまし。」
すると、門番は既に酒を喰らっている様子の千鳥足で、番小屋からフラッカ!フラッカ!歩いて門の前まで参ります。
門番「オウ!ヒック、ヒック、貴様ぁ〜誰だ?」
文治「駒形の鰻屋『大和田』に御座います。ご注文の肴をお持ちしました。」
門番「大層遅いぞ!ッたく。待て、下がって居れ、今開けてやる。」
ゴットンとかなり大きな音をさせて、門番は関(カンヌキ)を乱暴に引っコ抜いて扉を開きます。
門番「さぁ、早く中へ這入れ!」
文治「ヘイ。」
さぁ、文治は"してやったり!"と心に呟き中へと這入りますが、文治の後ろ姿を見た門番が文治の背中の膨らみに気付き声を上げようと致しますが、
文治は素早く是に気付いて、門番に「ヤぁ〜!」っと当身を喰らわせて、門番を気絶させて植え込みの茂みに連れて行き、
更に素早く帯を引くと是で高手小手に縛り、手拭いを使って猿轡を咬ませます。こうして於いて玄関まで来ると中へ声を掛けます。
文治「駒形の鰻屋『大和田』です。肴、お持ちしました。」
奥から取次番の武士が出て来て、「ご苦労、今、開けてやる。」と謂って玄関を開けた瞬間、文治は「エイッ!」とばかり当身を水月(みぞおち)に喰らわせ其の場に気絶させた。
するともう一人の取次番の武士が出て来て、「どうかしたのか?」と、気絶した侍の倒れる音に驚いて駆け寄って来たが、是も業平文治は素早く脾腹に蹴りを入れて倒してしまった。
この二人の侍も、一つにして縛り上げると布団を被せて於き、文治は屋敷内へと忍び足で侵入を続けた。そして、静かな台所の前を通り薄灯りの見える座敷からは、
大騒ぎをしている様子が音に取れる。業平文治は此の座敷を避ける為、台所から勝手口を出て裏へ廻り、中門から芝折戸をこじ開けて庭前へと這入り込み、
庭の植込み樹木の陰に身を隠すのだった。こうして中の様子を伺う文治。正面の大広間は沢山の燭台でコウコウと照らされ、二十七、八人の連中が呑めや唄えの大宴会の真っ最中です。
此の家の主人、直参の大臣服部平太夫は盃を取って脇に居る志乃に酌婦をさせて一番の上座に陣取ります。此の光景を目の当たりにした業平文治は大いに憤慨の色を現し、
今は猶予する場面に在らずと、袂から襷・鉢巻を取り出し斬り入る準備を始めます。忠綱の一刀の目釘を締めて、庭を飛石傳いに縁側へと出て此処へスッくと立ち上がった。
さぁ、突然現れた黒い影。のんびりと庭へ目線をやっていた服部平太夫は、此の人影に驚き、ハッとして思わず盃を落としてしまい、盃は酒を撒き散らし乍ら畳に転がる。
服部「オイ!誰だ、貴様。一言一句何んの断り無しに、我らが酒宴に庭から押入るとは無礼千万!狼藉者めぇ〜、猪口才なぁ、名を!名を名乗れぇ〜。」
文治「赤胴鈴之助だぁ!!」
服部「巫山戯るなぁ、名を名乗れ!」
文治「知らざあ言って聴かせやしょう!歌に聴こえる業平のぉ〜橋の袂の住人で、元は備前岡山の武士あがり、二十二ん時に恋する内儀(にょうぼ)に先立たれ、
生涯内儀は持たぬと神佛に誓い國を出て、流れ流れて江戸表、親から貰った名を捨てゝ、今じゃ文治と名乗る渡世人、侠客・業平文治たァ俺がこッたぁ!
ヤイ、服部平太夫!汝、よくも尾張屋吉之助を騙して型に嵌めやがったなぁ。偽証文で大金を奪い、剰え女房の志乃にも横恋慕、
まだ更には其の上に吉之助の命まで奪おうとしやがって!天下の直参旗本が聴いて呆れるぜぇ、ッたく。言語道断不届至極の曲者めぇッ!
さぁ、此の上は大悪党の服部平太夫、淫売女の志乃、強欲婆のお久羅、そして刃向かう輩も此の場で成敗致す、
宜いか?悪党共、此の業平文治が其の三人を撫で斬りにし成敗致すが、其れを邪魔する奴等も許さんからそう思え!行くぞ服部平太夫、志乃、お久羅!貴様等人間じゃねぇ〜叩き斬ってやる。」
服部「笑止!糞長い巫山戯た啖呵を切りやがって、馬鹿町人めぇが。飛んで火に入る夏の虫、とは貴様の事だ。
天下の直参に向かって狼藉を働くとは、正に言語道断は貴様の方だ。ヤイ、下郎覚悟しろ!槍玉に上げて呉れん!死ね。」
さぁ、最後の『死ね!』を謂い終わらぬ内に、服部平太夫は長押に掛けたる笹穂の槍をオッ取りますと、素早く鞘を払って文治目掛けて鋭く突き捲ります。
文治「糞、卑怯者めぇ、猪口才なぁ。」
そう叫ぶと、服部平太夫の槍を態を交わし空を突かせると、斜め(ハス)から斜四十五°、肩を袈裟掛けに粟田口!鋭く入れますと、高く々く血煙がパッと上がり、
哀れ服部平太夫は前方へバタリッと倒れて刹那に絶命致します。さて此の早業を見た周囲の奴原は大いに恐れ慄き右往左往、逃げ惑いまする………。
業平文治は是に一切動ぜず、服部平太夫の死骸からゆっくりと首を斬り落とし是を床の間に置きます。実ッと打笑い、不敵な笑みのまま、血潮の滴る白刃を片手に、
コトコト、コトコト震える音が聴こえる台所の納戸の前に立ち、業平文治は悪魔の如く、ほくそ笑むので御座います。
文治「ハハぁ?此の中へ隠れたなぁ?!」
そう謂って扉を開けて中を見てやりますと、黒紋付の男が一人、ブルブル震えて御座います。
文治「貴様は誰だ!謂わぬと、突き殺すぞ?」
黒川「ご、ご、ご・碁打ちの…客に御座います、く、く、く黒川藤十郎と申す、囲碁の棋士に御座るぅ。」
文治「貴様かぁ、イカサマ賭け碁の片棒野郎と謂うのは!」
黒川「命ばかりは!何でも喋ります!命ばかりは………。」
文治「判った。生かしてやるが全部正直に喋れよ、黒川とやら。」
そう謂うと帯を解かせて、高手小手に縛り元の納戸へ詰め置きます。
すると、二人の浪人風が業平文治に斬り掛かるも、サッと態を交わし、二人の腕を文治が斬り落として仕舞います。血潮が湧き出まして野田打つ二人。
文治「腕を落され、如何とす?」
二人「蒟蒻屋でも………。」
文治「往生際の悪しき奴!」
と、謂うと二人の右足をも斬り落として仕舞いますから、是で蒟蒻屋にも成れません。
さぁ、残る悪党二人は!何処へ逃げた?何処だ!何処だ!と、文治ざ叫ぶと、縁側から渡り廊下の向こう側、雪隠の中からガタガタと震える音が聴こえます。
文治「其処に居たか?」
と、文治が答え、雪隠の扉へ刀を刺すと、中から『ヒィ〜!ヒィ〜!』女人の悲鳴が致します。文治が扉を蹴破り見てやれば………。中には志乃の実母、お久羅が隠れて御座います。
お久羅「業平橋の親分さん!アタイは、アタイは何も、悪事は致しておりません。全部、服部の旦那と志乃の奴が…ご慈悲です!老いた老女をお助け下さい。」
文治「心中を網で助けた折りの、五拾両の誓い、貴様は忘れたか?」
お久羅「ヒィ〜ッ!!」
っと逃げ出すお久羅の背後から髻(たぶさ)を掴み、背中から粟田口で一刺し!ギャッと短い声を上げた因業婆のお久羅は絶命し、同じく首を切り落とされて床の間に並べられます。
文治「さぁ〜、最後は志乃!貴様だ。何処へ隠れた、出て参り神妙に成敗されろ!この淫売めぇ。」
そう脅し文句を叫びながら、業平文治は広い屋敷内を探して廻ります。すると、先程の雪隠脇の庭の植木がカサカサっと揺れて音が致します。
文治「さては庭に降りたなぁ?!」
そう謂って文治が縁側から庭へと飛び降り、植木の茂みへ刀を刺すと、『アーレーッ!』っと声がして女が飛び出て逃げ惑います。
文治「志乃だなぁ!許さん。」
そう謂う文治に女が、
月乃「ち、ち、ち違います!アチキは志乃ではありんせん。妹芸者の月乃です。」
文治「貴様は柳橋で、志乃を服部の野郎に売る手引きをした妹芸者。ヨシ、貴様も黒川同様後日の証人!命ばかりは助けてやる。」
と、此の月乃も高手小手に縛り上げて、黒川藤十郎と同じ行燈部屋へ転がし置きます。尚も、業平文治が庭の植込みを探索していると、
業平文治!服部様の仇だ。
っと叫んで二十七、八人の若侍が突然、斬り掛かって参ります。服部配下の若集食客が、『曲者、覚悟!』と振り係る。文治も『猪口才な、係る火の粉は振り払う!』と相手して、
一刀をチャリン!と受け止めて、一上一下電光石火虚々実々千変万化、秘術を尽くして斬り結ぶ(パンパン!)元より一刀流の達人なれば、
みるみる内に真っ向梨割!、唐竹割に大袈裟小袈裟に、右利きだからの左袈裟!(パンパン!)横に払って抜きの胴斬りの俥斬り(パンパン!)
瞬く間に、前後左右にバッタ、バッタ、と討ち尽くす(パンパン!)、さぁ二十余名を冥土へ送り血刀震いて勇ましく、四方八方を睨み付け、最後の仇、志乃は何処だ!と吠え捲る(パンパンパン、パンパン!)
すると、庭を探索している横手の竹塀に一尺程、竹の網目に穴が空けられているのを業平文治は発見します。
文治「之れは不覚!此の穴から逃げられて仕舞ったか?!」
天野「オイ、文治郎殿。大丈夫で御座るか?!」
文治「之れは、天野光雲斎先生。なぜ、此処へ来られたんですか?」
天野「イヤ、虫の知らせか?偶々、今日貰い物の大森海苔を沢山頂いたので、お裾分けにと業平橋を訪ねたら岩松が居て、カクカクしかじかと話して呉れたから様子を見に来たのだ。」
文治「そうでしたかぁ。其れで先生は何処から入られました?締まりはしていたハズだが…。」
天野「オウ、玄関も通用口も締まりがされていたから、此の竹塀の網目を破り侵入致した。するとだ、此の阿女(アマ)が茂みに隠れてやがってよ。
此の阿女だろう?お前さんが助けた心中の片割、元柳橋の町芸者、志乃とか謂う奴に相違ないと睨んで捕まえて置いたよ。さぁ、存分に成敗しなさい。」
文治「之れは忝い。ヤイ志乃、貴様は何時ぞや拙者に申したなぁ、吉之助と夫婦に成れるなら一生真面目に商いを続けて行くと!
其れが何だ、服部平太夫と交尾み、因業婆の母親や妹芸者との悪巧み。尾張屋吉之助を簀巻にして殺害せんとするとは許し難い。
拙者が網打ちで助けた命だが、もう、許して遣わす訳には参らん。先に地獄へ送った服部平太夫、お久羅の元へ行って終え!」
そう謂うと粟田口忠綱の名刀を一閃、横真一文字に走らせると、三つ目の首が斬り落とされて、床の間に並べられるので御座います。
さて、更に服部平太夫宅に潜んでいた、五、六人の食客どもが、業平文治と天野光雲斎に斬り掛かりましたが、あっさり返り討ちとなります。
結局、業平文治は服部平太夫、志乃、お久羅、以下三十八人を皆殺しに致します。
文治「天野先生、之で大層晴々して良い心持ちです。」
そう謂うと業平文治は料紙硯を取り、三人の罪状を其処に認めるのでした。其の文意は………。
服部平太夫。
一、此の者は天下の直参要職の地位に在りながら、連日賭博、賭け碁を開帳致し、数多の人々を苦める段、重々不埒につき斯くの如く天誅を加え磔斬首とする者也。
戸倉屋久羅並びに娘志乃も、同じく悪事の条々を認める者也。業平文治はコレを記すと、筆太に書き認め、三つの首を竹の竿に貫き、表門の外に立て掛けて罪状書を添えて晒します。
文治「天野先生、アッシは之れより奉行所へ訴えて出ます。先生は帰ったら母上、立川ノ岩松、尾張屋吉之助の三人には事の次第を全部話して下さい。」
天野「オウ、天晴れだったと伝えてやるから安心して自首しなさい。又、お前の母上様の事はちゃんと儂が面倒を見てやるから安心しないさい。」
文治「じゃぁ、跡の事は兄弟!宜しく頼みます。」
そう謂い捨てると、業平文治は南割下水から船に乗りまして、有楽町の北町奉行所へと向かい自首を致します。さぁ、どんなお裁きが下るのかは、次回のお楽しみと相成りまする。
つづく