時は延宝四年六月二十四日の深夜丑の下刻、佐賀城の本丸、即ち太守の神殿に於いて、宿直を勤める不寝番の末席に居る英雄伊東荘太郎、其夜、櫻御殿より出仕致したのは、
殿一番の寵愛を賜りますお豊の方と申す愛妾、此のお豊の方の挙動妖しく荘太郎はお豊の方の行動に注目した。お豊の方が殿様の寝所へと這入り近付く體を、
両の眼を大きく開き見詰めて居りますと、引き連れましたる二人の女童、禿は廊下の脇、次の間に立って待ち居ります。お豊の方は上段の間に両手を支えまして、
何やらブツブツと呪文を唱えるが如く独り言を呟きまして、優しい女のか細い声由え荘太郎の耳には届きません。其のうち太守に於いては御枕を静かに押しやり給いて、
太守「オォ〜、豊ではないかぁ。能く来て呉れた。予の近習は数多居り、不寝番と称する宿直する役目に着いては居るが、聴いての通り高鼾で誰一人正気の者無く、
丸で皆んな死人同様じゃぁ。併し、其方は女子でありながら、館続きとは言え予を見舞いに来て呉れるとは本に嬉しい。汝が予の身体を摩って呉れると苦痛を忘るゝ思い、
心の籠る其方の介抱、予は過分に感じ泪の溢るゝ思いで有るぞ!豊、本に汝は貞女の鏡である。予は本当に良い愛妾を持った。」
と、太守、鍋島信濃守綱茂はお豊の方の手を握り締めて、目を見つめながら語りました。すると、お豊の方も涙を見せて其れに答えます。
お豊「君が一夜の御情けには、妾(わたし)の百年の命より深いと以前に申しましたが、そんな我身此の度のご病気は神に祈り佛に誓いを掛けまして、
此の我が命を縮めましても何卒御全快を明暮祈り奉ると謂えども、未だその印見えず実に妾が腑を引き裂かるゝ思い、せめて昼の内は疲れを休め夜分出仕致し、
我君を介抱差し上げますれば、何事も御遠慮は無用に願います。どうか?この豊に何ん成りと御用をお申し付け下さいませ!」
と、お豊の方は申しますと、ご寝所への敷居を跨いで中へと進みまして、殿様の掻巻などを傍へ押しやり、白綾の寝衣を召して御座る太守の御胸の辺りを、
其の細き柔らかいお手でお摩りなさいますと、太守はスヤスヤと次第に眠気を催されたご様子です。一方、荘太郎はと見てやれば、上座に座り眠り込んでいる二十三人、
此の先輩・上役の宿直の面々を押し除けて、漸く殿様の御寝所へと近付き、立て回された屏風の陰で、中へは三間ほど離れた所で此の様子を確かと見て居りましたが、
別段変わった様子には見て取れず、単に愛妾が君主を介抱しているだけに映ります。すると、もう刻限は寅の下刻。東の方よりぼんやりと空が白み始めます。するとお豊の方は、
お豊「アァラぁ我君!もう東の空が白み始め妖気も弱まり始めて御座いまする。次期に御宿直、不寝番の方々も眼を覚ます頃でしょう。妾は之にてお暇致します。」
と、太守に又お掻巻を掛けて自分も身支度を直しまして、ご寝所を出て廊下傳に戻ろうと致して居ります。さぁ次の瞬間屏風の陰から荘太郎進み出てお豊の方の前に出ます。
荘太郎「イヤ!暫く、暫く、お控えを願いたく存ずる。」
お豊「無礼なぁ!!御身は何者?」
荘太郎「手前は宿直、不寝番の者にて、新参の今宵より任を受けましたる伊東荘太郎と申す、殿の近習の一人で御座います。
さて、失礼ながら貴方様は櫻の御館より御出仕に成りました御愛妾、お豊の方様とご推察仕りますが如何に御座いますか?」
お豊「如何にも不束ながら殿のご寵愛を蒙る愛妾の一人、豊であります。」
荘太郎「然らば拙者、お尋ねしたき義が御座います。」
お豊「シテ妾(わらわ)にお尋ねとは?」
荘太郎「こういう謂い方をすると誤解されては困るのですが、敢えて憚る事なく申し上げますが、毎夜毎夜交代で務める不寝番の宿直役二十四人で御座いますが、
ご覧の通り拙者以外、此の様に子の下刻から丑満つ刻を迎えると、寝ては成らぬと知りつつも、化物の類いが用いる妖術の為か?毎夜高鼾の白河夜船と相成ります。
忠義の武士が我慢できずに妖術の餌食となるのに、か弱い女性の貴方様と、その廊下に控えて御座る幼女児、禿達は寝ずの役目が務まるのを見て些か不思議に思いまする。
何故、妖術が利かないのですか?拙者は其の理由(ワケ)を知りとう御座います。屈強な武士が眠り込んで役に立たなくなる妖術を何故打ち破れるのか?其の理由をお聞かせ願いたい。」
お豊「何を馬鹿な事を、愚かしい事を尋ねるのですか?まず第一に貴方自身が寝ずの番をして居られるでは有りませんか?其れと妾達と何が違うのですか?!
妾は、我君様の夜伽を致して参るのが勤めに御座います。太守様よりご寵愛を受け妾自身も我君様に誠心誠意尽くします。貴方達武士に負けぬ忠義も御座います。
ですから当然、我君様がご病気だと知れば昼間は医師や薬師が看病致しますから、妾は昼間身体を充分に休めて、夜中に介抱致す為に櫻御殿を抜けて廊下傳に参るのです。
妾が殿様に仕て差し上げられる事は、夜中に参って腕や胸を摩って差し上げ、励ましの言葉をお掛けするのが関の山です。だから毎夜訪ねて参るのです。」
荘太郎「御尤も至極で御座います。実に仰る通り殿のご病気平癒を願い、毎夜御太守様の御寝所へ介抱しに参って居られる道理は理解いたしました。
さて、拙者は不寝番の役目を仰せ付って御座いますれば、此の仔細を重役の皆様、殊に御用人の大澤倉之丞様にご報告する義務が御座います。
因って、お豊の方様、失礼ながら貴方様は御当家に何時からお宮仕なさったか?どの様な家柄のご出身なのか?など、履歴を詳しくお聞かせ頂きたい。」
お豊「御尤もな事ですね。ならばお噺致しましょう。妾は当家、鍋島家に代々お仕えする譜代の家来の家柄で御座います。父は松浦金左衛門と申しまして、
不肖ながら二百石取りの馬廻り役として、現在も勤めて居ります。大澤様であれば妾も一、二度お逢いしておりますし、父も能く存じておられます。」
荘太郎「左様ですか、シテ、お豊の方様はどの地にお生まれですか?」
お豊「ハイ其れは………、江戸屋敷にて生まれました。」
荘太郎「櫻の名所の下屋敷で御座いますか?!」
お豊「ハイ、左様です。」
荘太郎「では、お産まれの年月日は?」
お豊「明暦二年、九月一日生まれで、本年二十一歳です。」
荘太郎「能くお示し下さいました、有難う御座います。さて、お豊の方様は大層風流を好まれるとお聴き致します。お茶はどなたに指南を受けられましたか?」
お豊「異な事をお尋ねになる。左様な事が必要ですか?」
荘太郎「失礼は承知でお伺いしております。拙者も役目柄仕方なくお伺いしています。お気分を害されたやに思いますがお答え願います。」
お豊「茶は千家を学びました。御指南頂いたのはお家の指南役の村田陽石先生で御座います。」
荘太郎「成る程、シテお花は何者に御伝授に成りましたか?」
お豊「ハイ、花は遠州流の家元、松尾一徳斎様よりご指導を受けました。」
荘太郎「花は遠州流、松尾一徳斎様と。では、お豊の方様はすこぶるお琴の腕前も一流だと聴き及びます。お琴はどなたから?」
お豊「琴ですか?野村勾當先生から免しを受けました。」
荘太郎「其れでは御手跡は?」
お豊「手跡は些か御右筆の長尾金十郎先生の手習本で学びました。」
荘太郎「成る程。又近頃は囲碁もなさるとお聴きしておりますが、碁はどなたより?」
お豊「別段師匠に付いて囲碁は学んではおりませんが、御納戸役の松井慶順殿に定石本をお貸し頂き独学我流の碁で御座います。」
荘太郎「丁寧に有難う御座います。では最後にもう一つ。三十一文字の和歌もお好みの趣きで御座るが、歌道は何者から?」
お豊「ハイ、詩歌は幼い頃から元吉重成先生より些かご指導頂きました。」
荘太郎「左様で御座いますかぁ。イヤ是は余計な事までお伺いして大変失礼しました。お疲れの中御丁寧にお答え頂き恐縮です。」
お豊「いいえ、構いません。貴方もお役目ですから、とは謂え貴方は男の子(おのこ)、妾は女の子(めのこ)、瓜田に履を納れず、李下に冠を正さずです。では早々に之で失礼致します。」
長い廊下を二人の禿を連れて、櫻の御館へと裲襠(うちかけ)の裾を床に擦りながら、シャナリシャナリと歩いて行くお豊の方の姿が見えなくなるまで荘太郎は見送るのだった。
軈て、明け六ツを告げる拍子木のコン!コン!と響き渡る音が聴こえて来ると、漸く次の間で寝て居た二十三人の宿直の先輩方が目を覚まし起き上がって来るのだった。
風間「何んだ!小林、中島、今日も又寝て居たのかぁ〜、だらしない奴等だ。白華はどうした?錐は役に立たなかったのか?!」
小林「組頭!貴方も寝てたんでしょう?」
風間「何を言う、拙者は寝てはおらぬ。」
中島「嘘を言わないで下さい、風間様、右の頬にクッキリと畳の跡が付いていますから。」
風間「何んだと?!アッ、締まった。そんな事より、新人はどうした?まだ、寝て居るのか?」
小林「さぁ、私が起きた時にはもう次の間には居ませんでしたよ。」
中島「まさか?一人で不寝番を務め上げて居たのでは?」
風間「馬鹿を言えそんな事を高が五十石取りの新参者にされて堪るか、面目も有ったもんじゃないぞ!!」
そんな噺を凡庸な三人がしている所に、太守の寝所の奥から荘太郎が現れますから、組頭の風間権十郎が少し慌てた様子で問い掛けます。
風間「オイ、伊東氏。殿の寝所で何をしている?其れに足に巻いた手拭いはどうした?血が、血が付いておる様子ではないか?如何いたした?有体に申してみよ。」
伊東「之は風間様、昨夜丑満頃に眠気に襲われた由え、匕首にて我が腿を刺して眠気を堪えて不寝番を致しました。もう、血は止まりましたからご安心下さい。」
風間「何ぃ〜、匕首で自分の腿を刺したと謂うのか?オイ、聴いたか!?小林、中島。伊東氏はそうまでして不寝番をなされたそうだぞ!其れに引き換え貴様達は何んだ!だらしない、赤面の至りぞ。伊東氏を見習いなさい。」
叱られた小林と中島は、風間組頭も寝て居た癖にと喉まで出掛かって言葉を呑み込んだ、そして「面目ない!」と平謝りで、半心は『寝てれば宜いのに!余計な事を。』と思います。
風間「時に、伊東氏何故、殿の寝所へ向かわれた?狐狸妖怪の類いが出ましたか?!」
伊東「イヤ、少し不思議な事が起きまして、殿様の安否を気遣いまして、寝所の奥へ駆け付けた次第で御座います。」
風間「何んだ?その少し不思議な事とは?!」
伊東「ハぁ、其れが未だハッキリした事が判っておりません。由えに軽々しく口にして、在らぬ悪い噂を立てるのは不本意なので…。」
風間「我々には喋れぬと申すかぁ?!」
伊東「申し訳ない、ご容赦下され。先ずは大澤様のお耳にその上でお許しが有れば、皆様にも必ずお伝え致します。」
風間「左様かぁ、残念。我々には話せない程の不思議で御座いますかぁ。」
伊東「すいません、急ぎ大澤様や御重臣の皆様にお知らせに上がりますので、此の場は御免!」
そう言うと、伊東荘太郎は殿様の寝所を出て、庭先を抜けて丸の内に在る御側用人、大澤倉之丞の屋敷へと駆け付けて大澤倉之丞が起きて来るのを待つ事にした。
伊東荘太郎は、玄関脇の使者の間で待たされまして、部屋の隅に両手を付いて伏して待って居りますと、半刻ばかりして大澤倉之丞が現れました。
大澤「伊東殿昨夜は不寝番の宿直の任、ご苦労千万と存ずる。承りますれば昨夜相変わらず、二十三名の宿直役は悉く睡眠致して居る中、
お主只一人だけは滞りなく不寝番を相務められたと聴き及ぶ、実に見事!推挙致した累天和尚と拙者も鼻が高い。アッパレで御座る。」
伊東「お褒めに預かり光栄です。」
大澤「シテ、昨夜の様子を須くご記憶ならば、是非、此の倉之丞にもお聴かせ願いたい。」
伊東「特段怪しい出来事は御座いませんが、斯く斯くしかじか……云々かんぬん。」
大澤「成る程、お豊の方様が寝所へ殿の介抱に参られたとなぁ?!禿を二人連れてのぉ〜。併し、其れにしても能く気が付きましたなぁ伊東殿。
真のお豊の方でないと答えに窮する質問ばかりだが…、この答えだけで昨夜のお豊の方様が本物だと決め付けるのはチト早計に御座る。」
伊東「どう言う事ですか?大澤様。」
大澤「実は………。」
と謂うと大澤倉之丞は、かつての自分の部下小森半之丞の妻・お里が死から蘇った事件を伊東荘太郎に話して聴かせるのだった。
そして、ここは実の父である松浦金左衛門が幸にも現在佐賀領内での勤番である。其処で此の金左衛門に実の娘、お豊の方を見聞させて本物か?妖怪の化身か?吟味させようと謂うのである。
そうと決まると此の大澤倉之丞と謂う御方は仕事が頗る早よう御座います。直ぐに配下の者を使者に立てゝ松浦金左衛門を登城する様に命じます。
さて何方も君主の愛妾の父親などゝ申す輩は、娘の威光を笠に着て常に上から目線で傲慢なもので御座いますが、此の金左衛門、実に質朴の人にして昔気質、
トンと娘の威を借るなどゝ謂う事は微塵も有りません。其れ由え出世を好まず金銭に執着せず、娘のお陰で良い役廻りに付いたなどゝは言われたくないので、
今も変わらぬ先祖代々の馬廻り役を相務めて御座いまして、最早年齢は四十後半左のみ美服を纏わず、普段の袴でご重役、大澤倉之丞の前にも罷り越します。
此の松浦金左衛門、この様な城内の奥に御座います御用部屋などゝ謂う立派な応接に通されたのは初めて由え、部屋の隅に下り両手を付き頭を垂れて待って居ります。
さぁ其処へ現れたのは、重役五人と伊東荘太郎を引き連れた大澤倉之丞で御座います。
大澤「アァ、松浦氏。急な臨時の呼び出しなど掛けてご苦労千万に御座る。さぁ、頭を上げて近こうに来て布団を当てられよ。」
松浦「イヤ他では御座らぬが急のお召、取敢ず伺候致して御座います。御歴々がお集まりに成って拙者に如何なるご尋問の次第?」
大澤「実は奥の櫻御殿に座します其方の御娘子お豊の方の事で少しばかり、ご貴殿に確かめて起きたい義がある。と、申すのは昨夜此の不寝番の宿直を務めるコレなる伊東荘太郎が、
信濃守様の寝所へ這入るお豊の方を見留めて、其の折りに荘太郎がお豊の方と暫く会話を致しまして、其の履歴と申しますか生立ちを伺いました。
其処で、万に一つも間違いは有っては成らぬ由え、此の荘太郎が聴き取り帳面に書き留めましたるお豊の方の履歴を貴殿にご確認頂きたく、お呼び出し申した次第で御座る。」
松浦「ハイ、承知しました。何んなりとお尋ね下さい。」
大澤「まず、お豊の方の生年月日を教えて下さい。」
松浦「ハイ、其れは……、明暦二年の秋だったと記憶しています。」
大澤「では、生まれた場所は江戸下屋敷で御座いますか?」
松浦「左様では御座いません。彼の時は拙者が江戸勤番から國元へ帰る年で、長男の金之丞がまだ二つで妻は懐妊中の身重、大変な思いをして江戸表より佐賀へ参りました。
其れで、途中の東海道は遠州掛川の宿で佐渡屋と申します宿で豊は生まれました。仕方なく先に拙者一人が佐賀へと赴任し、半年余り遅れて妻が金之丞と豊を連れてお國入り致しました。」
大澤「左様でしたか、では次はチト細かい噺に成るのですが、お豊の方は大層風流を好まれて博識なれば、茶は千家にて指南役は村田陽石殿とか、
又花は遠州流の家元、松尾一徳斎様よりご指導を受け、琴は野村勾當先生から、御右筆のお手前は長尾金十郎先生の手習本で学び、囲碁は御納戸役の松井慶順殿が先生で、
最後に和歌は元吉重成先生よりご指導頂いたとか?此れは総て間違い御座いませんか?松浦殿がお知りよるお豊の方に間違い御座らぬか?」
松浦「恐れながら豊と申す娘は、元々至って不器用でおっとりした女で御座います。女一通りの事は妻が仕込み、拙者が手習程度、小笠原流の御手跡は手本で教えてましたが、
江戸上屋敷に十五で行儀見習の腰元として上がり、素朴でおっとりして穏やかな性格を殿が気に入られ側室となります、十九からは國元にて城勤めとなります。
由えに拙者も妻も豊の不器用で鈍間な性格をお城勤め側室など務まるものか?と、大いに危惧しておったくらいで、いつの間に囲碁や琴など嗜む女人に成ったか?と驚いて御座る。」
大澤「左様で御座ったかぁ。さて、いつ頃までお豊の方は宿下りをなさって居りましたか?」
松浦「そうですねぇ〜、三年程前までは女同士母親とは大変に仲が良く、能く話す娘で宿下りの時には拙者にも土産など持参する孝行な娘でしたが、
其れが未だ上屋敷の御殿勤めをしている最後の年辺りから急に実家と疎遠に成りまして、母親が御殿に面会に参るのも疎ましい様子で近年は尚更気位が高く、
豊の奴は親を親とも思わぬ様な有様にて、最早親子の縁は有って無きが如くで、大変お恥ずかしい話ですが此の三年はまともな会話すら御座いません。」
大澤「ハイ、そんなに興奮為さらずとも宜しゅう御座います、今日は金左衛門殿へ余計な心配をお掛けしましたね。御用は足り申した由えお引き取り下さい。」
松浦「ハイ、では失礼仕る。」
さぁ、お豊の方の父・松浦金左衛門からの聴き取りで大澤倉之丞は、お豊の方が三年前に別人に生まれ変わった様な変貌を遂げている事を確信致します。
此れはもう、あの小森半之丞が討ち漏らした化猫が今度はお豊の方に取り憑いて、イヤ!恐らく喰い殺して成り済まして居るに違いない。
此れは一刻も早く、櫻の御殿へと討伐の隊を差し向けて、お豊の方に化ている化猫退治を致さねばと、大澤倉之丞は策を練るのですが…。
延宝四年七月六日・七夕前夜、櫻の御殿に伊東荘太郎が勇猛にも化猫退治に討ち入る噺は、いよいよ次回のお楽しみと相成ります。
つづく