先の映画『任侠清水湊』の続編として、昭和33年の正月映画として公開された作品で、昭和33年公開映画としては第5位の興行成績です。
その『任侠東海道』が、東映チャンネルでプライム会員公開を観ましたので、紹介致します。
◇任侠東海道
【キャスト】
・清水次郎長:片岡千恵蔵
・大政:大友柳太朗
・桶屋ノ鬼吉:中村錦之助 (萬屋錦之介)
・増川ノ仙右衛門:大川橋蔵
・大瀬ノ半五郎:東千代之介
・小政:片岡栄二郎
・法印大五郎:加賀邦男
・大野ノ鶴吉:里見浩太郎
・大和田ノ友造:大河内傳次郎
・寺津ノ間之助:宇佐美諄
・吉良ノ仁吉:市川右太衛門
・お喜久:長谷川裕見子
・お竹:千原しのぶ
・お志摩:花柳小菊
・久井ノ才治郎:伏見扇太郎
・千代吉:植木千恵
・神戸ノ長吉:尾上鯉之助
・丹波屋傳兵衛:進藤英太郎
・角井門之助:山形勲
・神沢ノ小五郎:小沢栄太郎
・勝沼ノ平吉:富田仲次郎
・手島ノ久五郎:清川荘司
・安濃徳次郎:薄田研二
・雲風ノ亀吉:香川良介
・祐天仙之助:阿部九洲男
・熊太郎:徳大寺伸
・福山喜八郎:吉田義夫
・おかね:松浦築枝
・作兵衛:高松錦之助
・宗右衛門:水野浩
・藤吉:上代悠司
・甚吉:団徳麿
・武井ノ安五郎:月形龍之介
また、主人公の次郎長は、片岡千恵蔵なのですが、今回の作品は所謂、講釈、浪曲で語られる『血煙!荒神山』と、
その導入部分には遠州秋葉山権現の花会、御会式博打を仕切るのは、森ノ五郎と謂う親分で、其処には盆茣蓙の所場が、東海道の親分衆に割り振りされている。
主人公は千恵蔵先生ですが、1:2くらいの割合で見せ場、登場頻度は歌右衛門先生の方が多い作品に仕上がっています。
そして、この映画にも、下記の五人の大変に有名な親分衆が登場して、次郎長の敵味方に分かれて、闘う事になるので御座います。
・大和田ノ友蔵 … 遠州見附
・津向ノ文吉 … 甲州鴨狩
・武井安五郎 … 甲州甲府
・雲風ノ亀吉 … 三州三河
・丹羽屋傳兵衛 … 勢州桑名
更に今回の映画のストーリーは、かなり三代目伯山の原作に忠実で、講釈を知っている人にはたまりません。
まず、次郎長(千恵蔵)と二十八人衆が清水湊を跡にして、秋葉山権現の御会式博打に出掛けて、仙右衛門(橋蔵)の叔父、多兵衛を殺した下手人が、
甲州甲府の武井安五郎/吃安(月形龍之介)の子分三人、神沢ノ小五郎(小沢栄太郎)、勝沼ノ平吉(富田仲次郎)、手島ノ久五郎(清川荘司)であると突き止め、吃安に掛け合いに行く。
次郎長一家が、東海道を喧嘩支度で道中していると聴いた遠州見附の大和田ノ友蔵(大河内傳次郎)が仲裁に入り、吃安に三人の引き渡しを要求するが、
吃安は三人とは盃を返して破門にしたから他人だと言い張り、次郎長に三人の行き先は知らないと、嘘を吐きますが、
実際は三人を吃安は自分の縄張り、甲州ではなく、兄弟分の三州三河の雲風ノ亀吉(香川良介)の元へ逃します。
さて、三代目伯山の原作では仙右衛門の父親が神沢ノ小五郎に殺されて、後妻のお美津が間男して裏切り沼津から甲府の吃安の元に逃げるのですが、
この映画では、仙右衛門の叔父・多兵衛が殺されて、その女房、お志摩(花柳小菊)は元神沢ノ小五郎の色だったと言う設定で、
原作では神沢ノ小五郎が、吃安にお美津を三十両で売るという展開ですが、お志摩の方は子供を人質にされ無理矢理、三州三河へと神沢ノ小五郎達に連れ去られてしまいます。
ここで、この映画だけの特殊なキャラクターとして、女乞食のお竹(千原しのぶ)という人物が登場し、この増川屋多兵衛が殺害された事件に偶然出会して、
中村錦之介が今回は演じる桶屋ノ鬼吉に対して、何かと役立つ情報を齎す、女乞食スパイの様な妙な存在を演じます。
この吃安と次郎長の揉め事を、正にその現場を直で目撃するのが、雲風ノ亀吉、丹羽屋傳兵衛(進藤英太郎)、
そして安濃徳次郎、通称安濃徳(薄田研二)と、其の食客で浪人の・角井門之助(山形勲)、福山喜八郎(吉田義夫)で、
角井門之助が、秋葉山権現の御会式博打は三千両からの上がりがあるなら、それと同等以上の規模ならば、荒神山の花会も其れに匹敵する上がりが在るはず。
ならば、神戸ノ長吉(尾上鯉之助)なんぞに、そんな美味しい荒神山の縄張りを渡さず、吃安、丹羽屋、雲風、安濃徳が協力して奪ってしまう算段を始めます。
そして、角井門之助が安濃徳の妹、お喜久(長谷川裕見子)の嫁ぎ先、吉良ノ仁吉(歌右衛門)に次郎長との兄弟分の縁を水に流して呉れと頼まれますが、仁吉は是を拒否します。
一方、多兵衛を殺した三人組を追った次郎長二十八人衆は、大政(大友柳太朗)をリーダーに雲風一家が三人を農家の納屋に匿っているとの情報を得て、
此の農家の納屋に踏み込むのですが、是が雲風ノ亀吉の罠で、農家の納屋に火を付けられて、その付け火の罪を、大政たち二十八人衆に濡衣が着せられて仕舞います。
其の次郎長一家が付け火をしたとの噂を、寺津ノ間之助(宇佐美諄)から聴かされた次郎長はカンカンに激怒して、二十八人衆を破門にすると間之助の家から追い出します。
結局、怒り心頭に発する次郎長に下手に言い訳するより、取り敢えず、吉良ノ仁吉を頼り、親分の頭がクールダウンするのを待つ事にした二十八人は仁吉を頼って行きます。
さて、二十八人の次郎長の子分を吉良ノ仁吉が居候として2階に置いている所に、神戸ノ長吉が現れ、仁吉に荒神山の縄張りを安濃徳に取られたと相談しに来ます。
是を聴いた吉良ノ仁吉は、角井門之助が安濃徳の使いで、次郎長との縁切りを言い出した理由(ワケ)を悟り、女房のお喜久に離縁状、三下り半を突き付け離縁しますが、
お喜久は、原作とは異なり安濃徳の居る伊勢には帰らず、次郎長の居る寺津ノ間之助へ向かい、荒神山の喧嘩のカラクリを一部始終話すので御座います。
さぁ、是を聴いた清水次郎長と寺津ノ間之助は、間之助の子分を連れて荒神山へ助っ人として出張る為に、吉良の湊へ向かいます。
一方、荒神山には安濃徳、雲風、丹羽屋の連中が既に陣を敷いて、角井門之助の指図で松の木の上に鉄砲を持った猟師を三人埋伏して御座います。
吉良の湊を船に乗って出た二十八人衆と吉良ノ仁吉一家、そして神戸ノ長吉は、四日市の湊から荒神山を目指します。
途中、丹羽屋傳兵衛が仁吉達を足止め工作しますが、直ぐに見破られて全く効果なく、両者は荒神山で闘う事になります。
ここも、原作だと気の弱い神戸ノ長吉が、農家の雪隠に隠れて、仁吉の通夜で其れがバレて荒神山の縄張りを取り上げられたりしますが、
この映画の長吉は、ちゃんと荒神山で闘います。そして、結局、原作通りに仁吉は、鉄砲の玉に当たり亡くなるのですが、
手傷を追って逃げた安濃徳を、命だけは助けて呉れと仙右衛門に伝言して、次郎長への遺言と致します。そして、次郎長は原作通り荒神山には間に合わず、吉良の湊で戸板に乗せられた仁吉の亡骸との対面となり、是がラストシーンです。
いやぁ〜、東映の千恵蔵と歌右衛門の共演作品は、此の御大両人がツーショットに成らない決まりがあるから、ラストシーンも死体役は顔に布が掛けられたまんまです。
歌右衛門先生の殺陣が実に素晴らしく、逆に大友柳太朗を大政にしたから、大政の槍の殺陣が短くて殆ど登場しません。
あと里見浩太朗は殺陣だけ頑張っていて、錦之助の殺陣はズバ抜けていますし、今の時代にも通じる殺陣だと思います。
もう、此の作品当たりから、東千代之介より大川橋蔵の方が演技力を試される役処ですね。あと、この映画は刀で斬る効果音が無くて、血のりも吹き出さないのが、又、新鮮です。
あとは、悪役陣が素晴らしい。月形龍之介、山形勲、吉田義夫、そして進藤栄太郎と憎い気持ちを掻き立てる役者が揃っているから善玉が引き立つ仕上がりに成ります。