馬石師匠の墨亭さんでの貴重な独演会。実にゆったりと時が流れる会で、墨田区の馬石さんが、東向島の墨亭だから出来る空気感の会です。
1.野晒し
北京五輪のマクラで、ワンセグでライブ配信を楽屋や移動中の電車でも楽しむと仰る馬石師匠。ちょっと意外です。
此の日は、龍玉師匠の代跳で、鈴本でトリを取る馬石師匠で、鈴本はネタ出しで『二番煎じ』だった様です。
アッ、あと龍玉さんが此の芝居では『双蝶々』を、「定吉殺し」からの「雪の子別れ」と二日間やった噺になり、
その「定吉殺し」の日の仲入りが、九代正蔵、通称・こぶ蔵だったそうで、仲入りに何をやったと思いますか?何んと『雛鍔』。
素晴らしい感覚と言うのか、ブラックジョーク!定吉が絞め殺される前に、「こんな物拾ったぁ〜!」と、ご陽気にやったんでしょうね。
馬石師匠は、根多帳で見付けて、大笑いしたと言っておりました。正蔵師匠らしい根多選びですね。
さて、軽く釣りのマクラを振り、隅田川は向島の墨亭さんで、『野晒し』をやると言う。実に、御当地根多の局地で御座いまして、
墨亭の席亭、瀧口さんが、「野晒しMAP」を描いて下さった位に御当地根多を演じた馬石師匠。
小三治師匠亡き跡は、誰が『野晒し』の代名詞になるのか?確か、小三治師匠に『野晒し』を教えたのは、さん喬師匠だと、
さん喬師匠自身から、さん喬・喬太郎親子会の横浜の神奈川県民ホールで、聴いたような気がします。
何だろう、この『野晒し』のサイサイ節は、余りに上手に唄うと、八五郎ではない気がして、私は引いて仕舞います。
だから、文菊さんの『野晒し』は、そんなに八五郎は粋じゃないぞ!と、思って仕舞うし、柳亭市馬、入船亭扇辰、柳家小せんも、唄うが上手過ぎ、
此のサイサイ節は歌唱力は要らない。併し、声は良くないと駄目と言う微妙な歌なのである。まぁ、音痴過ぎるのも聴くに耐えない。
詰まり、そう謂う点では、馬石師匠はなかなか良い、私好みの八五郎的なサイサイ節を唄って呉れて嬉しい。
そう謂うサイサイ節の理想が、柳家小三治には有りました。声が良いが無駄に歌唱力を使わない、小三治のサイサイ節。
柳家三三師匠も、もう少し音痴が解消されると、サイサイ節は理想に近い気が致します。
また、馬石師匠の『野晒し』は、十六、七分で下げまでやらず、八五郎が川面を混ぜ返したり、針が鼻にも引っ掛かりません。
ちょっとびっくりする位に、短く切られていて、もう少しやってよ!とは、思います。せめて、忘れて行った他人の弁当を食べる辺り迄はやって欲しい。
八五郎が、水溜りに尻を漬け、サイサイ節を唄う辺り迄で切られて仕舞います。鼻に針りと、骨うぅ〜と惚気ぐらいはやって欲しい。
2.幾代餅
雲助一門は、白酒師匠に始まり、雲助師匠、そして白浪さんと、コロナ感染者が出たって噺をマクラでやりのの、病は気からとやって『幾代餅』へ。
馬石師匠の『幾代餅』に登場する清蔵が宜いですねぇ。錦絵で恋煩いに掛かりそうなぁ、キャラクターです。
また、過剰に人情噺にせず、雲助師匠の雰囲気、テーストを宜く伝承し、三十五分くらいで終わるのも好感が持てます。