いよいよ、待ちに待った神田愛山先生の『千代田の白浪』の連続読みが始まりました。
1.犬塚富蔵の生立ち
いきなり私が読んだ『千代田城噂白浪』には無い富蔵の生立ちから始まります。
新聞連載の『千代田城噂白浪』では、富蔵は二八そばやとして、牛込ごもん御門先の揚場河岸で初めて登場しますが、
愛山先生の『千代田の白浪』では、下野郡小山に犬塚村と藤井村が二里半隔て在り、犬塚村には多左衛門、藤井村の方が萬右衛門、
互いに八十人ばかりの子分を抱える無宿渡世の長脇差ですが、実に仲が悪い。飯岡助五郎と笹岡ノ繁蔵みたいなモンで御座います。
そして、犬塚ノ多左衛門の方は堅気衆から好かれる宜い親分だが、萬右衛門の方はと見てやれば不人気で嫌われ者。
萬右衛門の方は、隙あらばと多左衛門の命を狙っておりますが、多左衛門が用心しているから、喧嘩/出入りには成りません。
そして或日、雪が振り仕切る中、萬右衛門が自分の誕生日のお祝いに多左衛門を呼んで暗殺を企むという展開になるのですが、
数え歳の此の時代にも、お誕生会なんて?!やっていたんでしょうか?愛山先生の創作なのか?
取り敢えず、宴席で喧嘩が起きて、そのドサクサに萬右衛門は多左衛門を殺そうと企みますが、多左衛門は察知して、
食当たりのフリして、腹が痛いと言い出して、駕籠を断り、テクテク歩いて帰ります。
是も不思議で、この時代の親分は、花会とか寄合は馬で出掛けますよね?なぜ、歩きなのか?
兎に角、この帰りに持病の癪で苦しむ子連れの女を助けるのだが、この子が富蔵なのである。
富蔵の母が、癪で苦しむお松は、江戸田原町?で小間物屋を営む重助の女房、
その重助が商用で、上州は佐野へ旅に出て三月も帰らないので、子連れで夫重助を探しに来たのである。
親切な多左衛門は、このお松と富蔵を自宅に招き入れて、夫の重助の行方を探したが見つからない。
そうしているうちに、多左衛門の子分、鸚鵡ノ勘太がお松に懸想して、反物や富蔵の玩具、菓子を買い与えるが、お松は迷惑に感じる。
そんな中、遂に勘太はお松に夜這いを仕掛けると言い出す。困ったお松は多左衛門に相談すると、その夜は寝間を交換して乗り切る。
そうとは知らず、多左衛門の寝る布団に夜這いを掛ける勘太。愛山先生の実に滑稽な男同士の夜這いが絶品!
勘太が、多左衛門の頬っぺたを舐めたりして、大層笑いを取りました。
結局、此の事件が元で、鸚鵡ノ勘太は犬塚一家には居られなくなり、敵対する藤井一家へ寝返るのである。
そして、この遺恨が次なる事件へと発展するのだが、其れは次回のお話へと繋がります。
なかなか、宜く有る噺ではあるが、侠客の生立ちらしい展開で始まりましたが、鸚鵡ノ勘太が実に滑稽なポンコツで宜いキャラです。実に、此の続きが楽しみです。
2.大久保彦左衛門『将棋のご意見』
将棋のマクラに、羽生善治が長年、29年間守ったA級から陥落した話題や、藤井聡太が王将戦に挑む噺。
更に、二代目神田山陽が将棋番組のゲスト解説を長年やっていた噺などを振ってから、本編の大久保彦左衛門の将棋の噺へ。
この三代将軍家光の将棋道楽を大久保彦左衛門が諫める噺は、能く聴く噺では御座いますが、やはり、愛山先生が演じると、
大久保彦左衛門に貫禄があり、説得力の有る展開になります。やっぱり、演じ手で、噺の味が変わります。