密かに自身の努力目標だった二月四日より前に読み終える事が叶い、少し安堵しております。

さて、『赤穂義士傳』「本傳」「銘々傳」を中心にお届けした約四ヶ月間、如何でしたでしょうか?

個人的には、作者・小林鶯里の講釈や映画・ドラマでは描かれる事の少ない、

実にマニアの欲求を満たす細かい史実の記録が、誠に嬉しかったのと、

又、時に七五調の硬い文体には、悩まされながらも、必要部分はまんまにお届けし、

余りに退屈な部分には、要約や他の文献からの引用を当て嵌めて、

読む側がなるべく、ダレ場に退屈しない様にと心掛けた積もりです。


「赤穂義士傳」は、私が物事着いた頃は毎年年末になると、必ず、是がオールスターキャストで、先ずは映画化され、

更には、テレビの時代に成っても、今度は更に、長い連続物として全三十話、四十話、五十話を超える超大作となりました。

しかし、1980年代になると、毎年年末の風物詩だった「忠臣蔵」が、二年に一度、四年、五年に一度と頻度が減り、

遂に、2012年を最後に、長編・連続ドラマとしては制作されなくかり、又、映画も「赤穂義士傳 本傳」スタイルでの制作はなされておりません。


実に三百年以上も語り継がれて来た「忠臣蔵」、「赤穂義士傳」は、もう、講釈以外では滅んで仕舞うのでしょうか?

「忠臣蔵」に、三百年脈々と語り継がれ、日本人の琴線に触れて来たのは、紛れもなく『義』の心です。

兎に角、人は『義』の為なら命も要らぬ!と、言う思い、プライド。是が日本人の美意識に調和していたからこそ、

日本人は「忠臣蔵」を愛して、『義』を尊ぶ民族だったのだと思います。『義』を正面から子供に教えない戦後の日本。

國が教えないので、家族単位の教育にも、『義』は絶えてしまいつつあります。


また、最も『義』を尊ぶ集団、任侠が廃れて仕舞ったのも、「忠臣蔵」『義』の精神が滅びつつ有る原因の一つです。

兎に角、約束は守る。是が私は『義』の本質だと思い、其れを何より一番に考えて命も惜しまず戦い抜く。

万一、約束を破る奴が現れたなら、天に代わり、是を成敗するのが、真に『義』なので御座います。

まぁ、公約を守らない政治家を、任侠が抹殺して呉れる様な緊張感が今でも有れば、

政治家は世襲なんぞしないだろうし、『暴対法』で味噌も糞も一緒に取り締らず、任侠は生き残れたに違いない。


一方、「忠臣蔵」が映画・ドラマにならないもう一方の理由は、オールスターキャストを成しえるプロデューサー、監督が居ないからです。

堀部彌兵衛から大石主税まで、実に、七十六歳から十五歳が一緒に出演できる物語であり、主人公には四十代半ばの大石内蔵助が居て、

その仇役の吉良上野介は、還暦を過ぎた、プライド高い血筋だけが自慢の嫌味な爺なのである。

そして、脇を固める準主役には、堀部安兵衛、片岡源五右衛門、赤埴源蔵、大高源五、岡野金右衛門、小野寺十内、吉田忠左衛門、原惣右衛門などなど、綺羅星の如く、敵味方に存在します。

併し、制作費を払うスポンサー集め、出演して呉れる役に見合う技量の役者を、同時に集めて初めて作品が作れる訳で、

此れは、プロデューサーも制作・配給会社も、なかなか、現代に於いては、厳しいかと想像致します。

鶏か?卵か?では有りますが、『義』を尊ぶ日本人の心と、剛腕で制作実務能力に長けたプロデューサーが同時に現れないと、

二十一世紀に名作として名を残すような、「忠臣蔵」は現れないのでは?と、思ってしまいます。


最後に、咄家/周辺芸人を集めて『忠臣蔵』するならば?


・大石内蔵助柳亭市馬

・吉良上野介柳家権太楼

・浅野内匠頭柳亭市彌

・阿久里/瑤泉院沢村美舟

・堀部彌兵衛桂米丸

・堀部安兵衛立川談春

・小野寺九郎右衛門立川志らく

・アッ!と驚く茶坊主三遊亭白鳥

・戸田局三遊亭歌る多

・南部坂のスパイ腰元桂しん華

・片岡源五右衛門六代玉屋柳勢

・吉田忠左衛門柳家さん喬

・原惣右衛門五街道雲助

・奥田孫太夫柳家小せん

・小野寺十内鈴々舎馬桜

・富森助右衛門五明楼玉の輔

・不破数右衛門三代橘家文蔵

・前原伊助入船亭扇辰

・神崎輿五郎柳家喬太郎

・大高源五立川談笑

・赤埴源蔵柳亭小痴楽

・矢頭右衛門七立川こはる

・大石主税港家小ゆき

・宝井其角桃月庵白酒

・清水一學春風亭昇太

・浅野大學桂宮治

・岡野金右衛門春風亭昇々

・倉橋伝助瀧川鯉斗

・大石陸神田鯉栄

・仙石伯耆守神田松鯉

・脇坂淡路守六代神田伯山

・泉岳寺副司・則地和尚神田春陽