本所松坂町の吉良邸の茶会が、極月十四日と決まり、討入りの決行が同日深夜寅の上刻と四十八人の浪士に伝達された。
その伝達は、討入りの五日前の事、同月九日の事で、其処から赤穂浪士は、決行日を誰にも知られぬ様に、『周囲との別れ』を遂行して行く。
赤穂義士銘々傳には、幾つかの有名な別れが用意されていて、中でも有名なものは、赤垣源蔵の『徳利の別れ』と、
大石内蔵助が、瑤泉院を訪ねる『南部坂 雪の別れ』であるだろう。
『忠臣蔵』、『赤穂義士傳』と言えば、「卍巴と降る雪を 酒の機嫌の千鳥足 皃も赤垣源蔵が 今宵に逼る討入りの せめて兄の顔を見て 一言今生の別れを告げん と、雪の中。 サクサク、サクサク踏み締めて。。。」
このフレーズが、講釈ファンなら誰しもが耳にこびり付いているハズです。
さて、ここで、このドラマは、あんなに第四十六話まで元気だった、市川中車丈が死去により、吉良上野介役が第四十七話からは、実弟・市川小太夫丈に代わると言うハプニングが起こります。
そして、異例の一人口上で、慰霊を前に自己紹介をなさいまして、全く人相が似ていないのならば、上野介のイメージに近い役者にしたら?と、思う展開が待っております。
そして、ドラマのストーリーは、意外にも『最後の脱落者 毛利小平太』の脱落の物語でして、毛利小平太(高橋悦史)は、赤穂の元漁師が営む船宿に潜伏中。
そして、その船宿の漁師は半年前に主人が亡くなり、一人娘のお崎(沢田雅美)が船宿を切り盛りしています。
さて、このお崎役の沢田雅美さん。昭和40年代から50年代は大人気の女優さん。現代で言うと上白石萌音さんみたいなドラマで人気の女優さんでした。
私は、何処に魅力が有るのか理解できない女優さんでしたが、兎に角、ドラマに沢山出ていました。
所謂、ホームドラマと呼ばれる連続ドラマは出捲りで、平成になると、『渡る世間は鬼ばかり』位しか見なくなりました。
上白石萌音さんは、何んとなく似ています。私としては一切魅力不明で、ただ、田舎臭くしょんべん臭いのにドラマに能く登場する女優です。
船宿の娘なんですが、明らかに、前に登場した牧伸二さんの半次と工藤明子さんのお榮が経営していた中萬一家の船宿の使い回しで、
又、沢田雅美さんの船の操り方が、船頭にまだ成れていない『船徳』の徳さん並みに酷くて、その竿で船が進むのか???っと、突っ込みたくなる演技で、
時代劇なのに、科白回し、口調がホームドラマのまんま。其れを高橋悦史が、ガッつり時代劇口調で返すから、凄いバランスに成っていました。
ドラマは、そんな毛利小平太の元恋人・志乃(中村珠緒)が、片岡源五右衛門(江原真二郎)の妹であり、奥田孫太夫(河野秋武)の姪と言う設定で、
現在の志乃の夫である芸州浅野本家に仕えている相羽兵庫(林成年)に、別れの挨拶を、尾張に二人で旅立つからと嘘を付く所から始まります。
さて、志乃役の中村玉緒さん。三十二歳の時ですから、写真の様にかなり若い頃で、役と年齢が一致していて、玉緒さんの時代劇にはまるいい感じの志乃が見られます。
そして、その玉緒さん志乃旦那役、相羽兵庫を演じているのが、長谷川一夫先生のご子息、林成年さんです。
忠臣蔵は、前原伊助役と原惣右衛門役を演じた事がある、時代劇では、時々、目にしていた役者さんですが、基本的に善人顔なんで、今回の様な悪役は珍しいと思います。
そして、片岡源五右衛門と原孫太夫が、相羽兵庫の『何時、討入りするんですか?!』の、露骨な討入り日程を知りたがる言動に、
疑惑を深めて帰ると、実は、相羽兵庫は、吉良上野介から一本釣りの工作を受けていて、間者として、二人が別れを言いに来たら、討入りの日付を聞き出して欲しいと依頼されていたのである。
而も、上野介は柳沢出羽守を通して、相羽兵庫が討入りの日付を聞き出したなら、兵庫を五百石の旗本に取り立てる約束を取り付けて、
女房の志乃を囮に使って、毛利小平太からも、討入りの日付を聞き出そうとするのでした。
毛利小平太が、七年前には死んだと聴いていて、其れは小平太が隠密行動の為の方便だったと知る志乃は、
吉良上野介に、出世の打算だけで、赤穂浪士を騙し裏切る夫、兵庫が許せなくなり、なんと!志乃は息子を連れて、毛利小平太と手に手を取り駆落して仕舞うのです。
さて、迎えた極月十四日。前日からの雪は、午前中から降り止まず。相変わらず「卍巴と降り続く雪で御座いまする。」
大石内蔵助(三船敏郎)は、息子の大石主税(長澄修)と、茅野和助(島田順司)を呼び、赤穂浪士・四十七士が「立つ鳥跡を濁さず」
今夜の討入りに参加出来るように、凡ゆる借財を本日の昼までに返済出来る様に払って来いと金子を渡して四十七士を廻らせます。
その際に、各人最後の別れが大切だから、今宵は、集合の子の上刻までは、たっぷりと別れを惜しめと伝えて呉れと言うと、思わず主税が泣き、内蔵助に男ならまだ泣くな!!と、叱られます。
そして、其れ々々の別れが御座いまして、まずは、勝田新左衛門(寺田農)と居酒屋の女中・おしの(中野良子)。
此れは、雪ん中に軒先に二人で立ったまんま過ごしまして、スクリーンショットの雪でボケていますが、風情が御座います。
次に、茅野和助(島田順司)と両替商の金田屋の女将、おたか(園千雅子)の別れは、茅野和助が『鶴屋吉信』で菓子を土産に買います。
雪で鶴屋は店を早仕舞いして閉めていますが、人生最後の菓子だ!と、言われて、折り一つだけ茅野に売ります。
そして、夫婦の真似事がしたいと言うおたかが、膳部を用意して、其れを茅野和助が馳走になり、二人だけの水入らずの最後となります。
さて、三つ目は一番複雑と言うのか、吉良邸の真前で搗き米屋をしている前原伊助(若林豪)は、相変わらず、小雪(北川美佳)と定太郎(中村光輝)の姉弟と一緒に住んでいるが、
未だに、自身が荒木新左衛門であり、二人の父、上坂鉄舟斎を真剣勝負で殺した親の仇だとは名乗っていない。
其処で、もう今日こそはと、定太郎の槍、父・上坂鉄舟斎形見の槍を研ぎに出したのを機会に、二人に仇は私だと打ち明ける前原伊助。
そして、槍で定太郎に突け!と、促しますが、半年も一緒に暮らした定太郎は、前原伊助を槍で突けない。
ならば、腹を斬るから介錯をしろと言うが、勿論、是も無理だと言い、小雪も定太郎も、伊助を許して今夜の討入りに送りだす。
そして、最後の別れは『徳利の別れ』で、お馴染み、赤埴源蔵(フランキー堺)。
是が、『徳利の別れ』とは似ても似つかないストーリーで、『?』となります。
まぁ、別れだけをやっても、詰まらないし、泉岳寺への引き上げの忠僕・市治の呼子の笛が登場しないと。。。締まらないので、変えたと思われます。
講釈や浪曲でお馴染みの『徳利の別れ』は、この写真の様に、源蔵が一人、兄上の羽織に噺掛けますが。。。
このドラマでは、源蔵と源蔵の兄、鹽山伊左衛門、そして伊左衛門の妻・お真木(小山明子)がちゃんと出会う展開で、
また、お真木と源蔵は非常に仲が宜くて、源蔵に嫁の世話まで焼く展開です。
そして、源蔵がどうせ嫁を貰うなら、姉上の様な人を世話して下さいと告げて、鹽山家を立ち去ります。
小山明子さんのお真木は、全く時代劇テーストが有りません。又、フランキー堺さんも、其れに違和感無く合わせて来ますから、忠臣蔵の重厚さゼロで、なかなか笑えます。
こうして、其れ々々の別れを終えて、恐らく、前原伊助は、定太郎の槍を持って討入り、次回は『南部坂の別れ』と、
お蘭(上月晃)の別れみたいな展開が予想されます。後、四話で大団円ですが、恋愛模様が濃くなる物語にして、引っ張る作戦が、余りにあざといと感じます。
つづく