さて、ドラマは、高田郡兵衛、萱野三平につづく脱落者の銘々傳で、今回の主人公は、大坂の急進派、橋本平左衛門です。

橋本平左衛門 、貞享元年生まれで、元禄十四年の十一月に遊女と心中しているが、

このドラマでは、元禄十五年の五月前後の設定に成っており、赤穂藩では馬廻り役百石取りの藩士である。

橋本茂左衛門の子といわれる。『赤穂藩分限帳』(元禄十三年頃)には馬廻り役百石橋本兵助と記録にある。

「兵助」は平左衛門の幼名だといわれるが、年齢的に父の可能性もある。

主君内匠頭長矩の刃傷後、当初から大石内蔵助に従ったが、赤穂城の開城後に京都で暮らし、大坂は曽根崎新地へ足を踏み入れ、

遊廓『淡路屋』のお初という遊女と馴染みを重ねるようになり、元禄十四年十一月六日の夜に心中した、享年十八歳。

『早見家文書』によれば、同じ岡林の組に属していた早見藤左衛門が駆けつけて、一切の後始末をしたとしている。

橋本平左衛門を演じるのは、大出俊さん。大出さんは、この二十年後の忠臣蔵では、小野寺十内も演じております。

さて、ちょうど三十歳の時に、十八歳の義士の役なのですが、史実では矢頭右衛門七並みに子供な義士ですが、

遊女への溺れ方が、いきなり性に目覚めて、遊廓へド・嵌りしたダケだと、噺が持たない為、橋本平左衛門と言う人物を深掘り致します。

まず、山科会議で大學様の処遇が決まるまで、討入り延期とは成ったが、江戸と同様に、大坂在住の赤穂浪士にも、

直ぐに討入りをすべし!と、大石内蔵助の方針に不満を募らせる者が在り、原惣右衛門を頭に、早見藤左衛門と橋本平左衛門は、その代表であった。

そして、この大坂急進派とも言えるグループは、江戸の急進派と合流すべく、早見と橋本の二人を江戸表に送り意見交換をする事になる。

そんな江戸行きを控えた橋本平左衛門は、大坂の下町で、我が子が大型犬に噛み殺されそうに成り、その犬を丸太で殴り殺した父親が、役人に縄付にされ、番屋へ連れて行かれる場面に遭遇する。

犬に噛まれて居た息子は、泣き叫び!父親を連れて行かないで呉れ!と、懇願するが、役人は『生類憐れみの令』違反だと言って連れて行く。

憤りを感じた橋本平左衛門は、刀を抜いて、この父親を助けてやろうとするが、同志の早見藤左衛門と、この父親の娘、犬に噛まれた息子の姉に止められる。

平左衛門が「お前の父親を助けるのだぞ!」と、娘に言うと、娘は冷静に「有り難迷惑だ!此の場を助けられても、役人は長屋へ捕まえに来る!」と言う。

確かに、此の場を逃れたとしても、再び捕まれば、娘の言う通りで、遠島で済む罪が死罪になる。

早見からも、そう言われて、橋本平左衛門は刀を鞘へ仕舞う。さて、この娘がお初と言って、後に、橋本平左衛門と心中する事になるのだが、このお初を、二木てるみさんが演じている。

二木てるみさんは、子役時代からドラマや映画で活躍された女優で、実年齢は中野良子さんより一つ年上ですが、ドラマの中で見ると三歳くらい年下に見えます。

その位に童顔でキュートな二木さん。時代劇にも、本当に能く出ていましたし、二木てるみと言えば、『ラ・セーヌの星』仮面の剣士・シモーヌ・ロランです。

三歳の時、黒澤明の『七人の侍』がデビュー作と言うのにはビックリ致します。

また、加藤武さん主催の朗読の会にも参加されていて、私も聴きたいと思っていたけど、二木さんがゲストの会には行けなかったです。


さて、そんなお初との出会いの後、橋本平左衛門は、早見藤左衛門と二人、東へ下り、江戸急進派と会合を持ち、意見交換するが、

兎に角、奥田孫太夫や堀部安兵衛よりも、猪突猛進で、直ぐに手を出さず橋本に、江戸の竹林唯七、茅野和助達も、呆れる始末で、

吉良邸の廻りを偵察に行った際には、大須賀治部右衛門たちに喧嘩を売り、騒ぎを起こすに至り、早見藤左衛門は慌てて、橋本平左衛門を大坂へ連れ帰るのだった。

そして、この江戸表での橋本平左衛門の狂犬ぶりが、公儀隠密の朴兵衛の目に止まり、朴兵衛は橋本を利用して、上方の赤穂浪士に内紛を起こさせる計略を思い付くのでした。

そして、この隠密・朴兵衛を演じるのが、チャキチャキの江戸っ子、花沢徳兵衛さん

花沢さんは、神田の生まれで、尋常小学校を中退して職人、指物師を目指して親方に弟子入!

干支が一回りする十二年修行して、二十一歳で花沢美術家具研究所と言う会社を設立しますが、

二年後に一念発起し、なぜか憧れだった画家を目指して、洋画家の斎藤与里先生に弟子入りします。

ところが、絵では全く食えないので、東宝京都の俳優養成所に通い役者になるのです。

そんな花沢徳兵衛さん、いやはや、隠密なんてガラじゃありません。こんな役、やったの初めてじゃないかなぁ?

江戸っ子の職人のガラっ八なぁオヤジがお似合いなのに、俳句宗匠の様な隠密だから、尚更、ニンにない役をやっております。

更に、この花沢徳兵衛さんの隠密と連携して、橋本平左衛門を罠に嵌めるのが、大石内蔵助が山科に来てから、ずーっと見張っている、

高松英郎さんの黒鍬衆頭領、加倉井林蔵の手先で、京の伏見奉行所与力、丸木七之介です。この丸木七之介を演じるのは、千波丈太郎さん。

千波さんと言えば、私たち世代は『仮面ライダーV3の敵・デストロンの幹部、ドクトルGです。

そして、千波さんと言えば、時代劇も刑事ドラマも、悪役専門で殆ど、善玉を演じる姿を私は知りません。

そんな悪役ばかりの千波さんですが、忠臣蔵で四十七士の富森助右衛門を演じた事があるようです。

さて、大坂に戻った橋本平左衛門は、偶然、お初と再会しますが、其れは女衒に手を引かれ、遊廓へ売られる道中でした。

そしてお初が「曾根崎新地の『淡路屋』に居るから、遊びに来て!」と、笑って去って行く姿を、橋本平左衛門は見送ります。

江戸表から、早見と橋本が戻り、大坂急進派は、天満橋の茶屋『三八』を、密かな会合の集会所と決めて、此処で連絡を取り合って居ましたが、

曾根崎新地へ、お初に逢いに行く様になった橋本平左衛門は、この三八の会合に、一月もしたら顔を出さなく成って、

早見藤左衛門がおかしい?!と、同志から橋本に付いて探りを入れると、橋本は同志から二両、三両と少なからず全員に借金が有ると分かるのである。

そして遂に早見の所へも、橋本平左衛門は借金に来るが、早見は金を貸さず、赤穂浪士として、本当に討入りする気があるのか?!と、

橋本平左衛門の考えを、問いただすのだが。。。橋本はハッキリした答えを出さず、早見の前から去って仕舞う。

そして、もう、こんな風にお初に恋をした橋本平左衛門の行方は、あの『幡髄院長兵衛』でもお馴染み、白井権八と同じ道を辿ります。

そう!辻斬り強盗を働き、隠密の朴兵衛と京の伏見奉行所与力、丸木七之介に懐柔されて、三八での会合の情報、

七月に大坂急進派が、東下りして、江戸急進派に合流する段取りについては、知らせる事なく、朴兵衛を殺して、お初と橋本平左衛門は心中致します。


さて、ドラマは本傳に戻りまして、江戸急進派は、浅野内匠頭の一周忌から丸三ヶ月が過ぎても、未だに討入りの日取りすら決定出来ない大石内蔵助に対し、

最後通牒とも言える交渉人として、江戸急進派の代表、実質的な頭領である堀部安兵衛を送ります。

そして、堀部安兵衛は、此の交渉が決裂した時は、大石内蔵助と決別し、江戸急進派だけで討入りを宣言する覚悟だった。

そして、堀部安兵衛が江戸表を出発し、京に上ると言う知らせは、隠密から柳沢吉保と、柳生黒鍬衆の頭領、加倉井林蔵に齎される。

柳沢は、この会談を好機に、大石内蔵助と堀部安兵衛を同士討ちに見せ掛けて暗殺せよ!と、加倉井に命じますが、

加倉井林蔵は、あの二人を同時に、一撃で倒して同士討ちに見せられる手練れは、残念ながら柳生には居ない。

其れは、宮本武蔵と佐々木小次郎が協力しても難しいくらいの暗殺になる。あのクラスの武家者を殺すとなると、一人ずつ。

而も、大人数で斬り掛かり、沢山の手傷を負わせて仕留める事に成る。同士討ちには見えないので、

襲ったのが、公儀ではなく、上杉家の仕業に見せ掛けて、暗殺するのが宜かろう?と、加倉井から柳沢へ提案致します。

併し、此の策謀はお蘭に聴かれて仕舞い、お蘭は直ぐに上杉家江戸上屋敷へと馳せ参じ、上杉家江戸家老、千坂兵部に是を伝えます。

千坂兵部は、公儀への不満と怒りを露わにしますが、上杉家から柳生隠密を阻止する部隊は出せないと嘆くと、

なぜか?公儀隠密であるお蘭が『私が引受ましょう!』と手を挙げ、その上杉側の目付として、名張の足、通称・足助と言う忍びを使わします。

さて、堀部安兵衛が京に上る道中、高野聖の二人組が付き纏うのですが、是がWけんじのお二人です。

高野聖のいでたちで「弘法大師の護摩の灰」と偽って押し売りをして歩いた者がいたことから、騙して売る者や押し売りをする者を「護摩の灰」と呼ぶようになった。

それが転じて、押し売りもせず、兎に角、旅人の懐中を狙うスリ、盗っ人を総じて「護摩の灰」と言うように成るのです。

さて、その「護摩の灰」を連れて堀部安兵衛が掛川宿まで来た所で、柳生の刺客に襲われます。

で、ねぇ?!柳生は宿帳に実在する上杉藩士の名前と住所を書いて、堀部安兵衛を襲いますな、忍び『名張の足』が、宿帳から此の部分を切り取って痕跡を消して廻るのが笑えて、

何より、堀部安兵衛の襲撃を妨害し、安兵衛を助ける上月晃のお蘭が、異常に派手な上に奇抜な着物なのに、頬冠りしているのが笑えます。

頭隠して尻隠さずの典型と言うかぁ、顔を隠しても、その着物を着て居たら、一発でバレて仕舞います。

堀部安兵衛、襲撃を避けて、何んとか大坂、天満町の長屋に住む、原惣右衛門に逢い、大坂急進派にも仁義を切った上で、

大石内蔵助に、即刻討入りの日時を決めるよう促して、駄目な場合は、江戸と大坂の急進派だけで討入りすると、宣言する事に、原惣右衛門に同意させるのである。

そして、一刻も早く大石内蔵助への談判を山科でと準備をしていると、又、柳生の隠密が二人を襲います。

すると又、絶体絶命の場面になると、派手な着物のお蘭と、「柳生だ!柳生一門の襲撃だ!」と、叫ぶ忍び『名張の足』が現れて、安兵衛と惣右衛門を助けるのです。

そうそう!この『名張の足』、斬り殺された柳生の隠密の懐中から、いちいち偽造した通行手形を抜き取るのも面白いです。

そして最後、柳生の隠密は、伏見撞木町の『笹屋』からの大石内蔵助帰り道を、道中の神社を通り抜ける際を襲いますが、

堀部安兵衛と原惣右衛門、更には、お蘭と名張の足も駆け付けて、結局、暗殺は未遂に終わります。

この一連の柳生隠密の部隊は、京の伏見奉行所与力、丸木七之介が責任者で、その下に、川合伸旺さん演じる遠藤三左衛門と、

田中浩さんが演じる永井徹が居るのですが、遠藤は原惣右衛門の天満の長屋襲撃の失敗の責任を取り切腹しているので、

この最後の襲撃の実行隊長は、田中浩さん演じる永井徹で、ここで柳生の隠密は、大石内蔵助達とお蘭の手で全滅となります。

さて、田中浩さんと言えば、丸大ハムのコマーシャル!「わんぱくでも良い、逞しく育って欲しい!」の科白が忘れられない、

兎に角、100%悪役の役者さんで、時代劇、現代劇を問わず、ヒール中のヒールのイメージです。

ただ、ゴレンジャーの後に始まった戦隊シリーズ、『ジャッカー電撃隊』では、ジョーカー役で善玉のレギュラー出演しています。

この永井役での田中さんの最後は、三船敏郎さんの大石内蔵助に斬られて華々しく散って行きます。

そして、ドラマも史実通り、元禄十五年七月十八日、浅野大學への処置が決まり、大學は本家安芸の浅野家へ永代預かりとなり、浅野家再興の道は絶たれた。

是により、大石内蔵助は討入りを決意し、速やかに、その準備に取り掛かる事を、原惣右衛門と堀部安兵衛に申し渡され、此の事は安兵衛により、江戸の同志達にも伝えられた。


いよいよ、大石内蔵助は討入りを決意し、上方の同士を京都の円山に集めて、討入りの準備に入る事を号令します。

併し、この数日前に、矢頭右衛門七の父、長助が身罷ります。亡くなる際、床の中から、内儀である『お勝』

「右衛門七をお前から奪って済まない。」と、謝る場面が印象的です。また、双子の子役の右衛門七の妹二人も健気で。。。泪を誘います。

そして、右衛門七の母お勝を演じるのは露原千草さん。日本のお母さんの代表の様な女優の一人です。

木下恵介アワーなど、昭和のホームドラマでは、お手伝さんと言えばの一人です。露原千草、浦辺粂子、菅井きんを三羽鴉と呼びたい位です。

この矢頭長助、右衛門七親子が住む長屋の家主・和泉屋源兵衛、お初夫婦を演じているのは、島田洋之介・今喜多代です。

大阪では有名な夫婦漫才の師匠で、B&B、島田一の助、島田紳助は洋之介師匠の弟子で、今いくよ・くるよは、喜多代師匠の弟子に当たります。

本当に、この71年の頃は、バリバリの売れっ子漫才師だったと思います。

さて、矢頭長助が亡くなり、幼い妹二人と母が居る矢頭右衛門七に、再度、大石内蔵助は、討入りに加わらず、母や妹たちを支えて生きる道を選べ!と、言いますが、

父の遺言でもあり、母も仇討ち本懐を望んでいる。其れに、金持ちの松之丞は母、妹、弟を残して仇討ちが出来るのに、

貧乏人の自分は、仇討ちが出来ないんですか?!と、右衛門七に言われて、義盟から今外されるなら、此の場で自害するとまで言われて、内蔵助は右衛門七の参加を許します。

そして、討入り準備を始めた大石内蔵助は、大高源五と二人で、赤穂藩の出入り商人で、米の取引をしていた大坂思案橋筋の天野屋利兵衛に逢い、討入りの際の武器の調達を、天野屋にお願いするのですが、天野屋は簡単に首を縦に振りません。

まず、大高源五役は、御木本伸介さん。この役者さんは、こってりの重厚な役者が多い時代劇にあり、敢えて、あっさりで貴賓のある役者だと思います。

だから、時代劇だと悪役が多いが、コテコテした悪役ではなく、冷徹さが引き立つ悪役で、私は好きな役者さんです。

また、天野屋利兵衛を演じるのは、三代目中村翫右衛門丈。舞台は見た事ありませんが、このドラマでは、大変いい味を出しております。

さて、この天野屋利兵衛は、外傳にも二、三の噺が講釈や浪曲になり、非常に有名ですが、このドラマでは、義商と言われる本来の利兵衛のイメージではなく、

天野屋利兵衛は、算盤ずくの難波のガメツイ型の商人に描かれていて、そんな利兵衛を、三船敏郎の大石内蔵助が、

人間は算盤勘定だけで動かされる生き物では無いと教えて、改心した利兵衛は、突然、隠居すると言い出し、名を『土斎』と改めて、

髷を切り頭を丸めて、生まれ変わったから、討入りの武器の調達を、改めて受けさせて貰いますと、内蔵助に硬い約束を致します。



つづく