大石内蔵助に、『清書』への血判を認められず、「お軽と生きよ!!」と言われた萱野三平だったが、山﨑村へは帰らず、
伏見奉行の周辺をうろついて、公儀隠密、柳生黒鍬衆の頭領である加倉井林蔵の命を、付け狙って居た。
一方、大石内蔵助は、『清書』自身を加倉井林蔵が狙っている事を知り、山科の屋敷に三村次郎左衛門を住まわせ、松之丞と二人で、是を守れと命じます。
一方、大石内蔵助に手縫いのマタギ頭巾を託し、『清書』への血判を認めて呉れるなぁ!と、願ったお軽では、あったが、
十日過ぎても山﨑に帰らぬ萱野三平を求めて、まずは、山科の内蔵助の屋敷を訪ねて行きます。
そして、此のお軽を止めるのが、父・与市兵衛と、母のおカヤでして、与市兵衛は菅井一郎さん、カヤは浦辺粂子さん。
菅井一郎さんは、無声映画時代から三百作品以上の映画に出演した名脇役で、個人的に印象にあるのは、現白鴎丈が幸四郎時代の『鬼平』で演じた土蜘蛛のお頭役です。
また、本傳『分配金』で紹介した通りで、NHKの64年大河ドラマ『忠臣蔵』では、大野九郎兵衛役もやられております。
また、浦辺粂子さんは、言うまでもなく、私がドラマを見る様になった昭和四十年頃から、婆さん役、お手伝いさん役は、浦辺粂子か菅井きんでした。
このお軽の母親役も、実に味があり、物凄く、存在感が御座います。また、菅井一郎、浦辺粂子と言う老夫婦ぶりが堪りません。
さて萱野三平は、伏見奉行所から出て来る加倉井林蔵に、因縁を付け、斬り掛かるように仕向けて、同士討ち狙いの捨身の作戦を仕掛けますが、加倉井に見破られ、その場は逃げられて仕舞います。
そして、刀による正攻法では倒せない相手と考えた萱野三平は、鉄砲での暗殺を企てるのですが、加倉井林蔵は、伏見の遊廓『一文字屋』に入る所を、三平は狙いますが、
駕籠を呼ばれて、加倉井が店から出て来る際の狙撃が出来ず、ガッカリしていると、意外な人物、あの恋仇!村井國夫さんの大野定九郎が出て来たのです。
萱野三平は、出て来た定九郎に、公儀隠密の加倉井林蔵と会って居たなぁ?!と、直球勝負の質問をぶつけますが、勿論、定九郎は白状しません。
この場は、其れで済みますが、実は、大野定九郎は、『一文字屋』では、掛けで女郎買いをしていて、既に、『一文字屋』の女将、お才には五十両の借財が御座います。
さて、この女郎屋の女将、お才を演じているのは、まだ、少し若い時分の赤木春江さん、この時が四十七歳で、四十七士に年齢が掛かっております。
まぁ、赤木さんは『赤いシリーズ』『金八先生』そして、『渡鬼』のイメージが強いから、あまり時代劇の印象は有りませんが、
意外と、ゲスト出演で、大岡越前や水戸黄門に出ると存在感抜群で、NHKの大河ドラマなどでレギュラーを務めると、光る存在ですよ、
何んだろう調和を崩さないで目立つ役者さんなんですよね。芝居の流れを読んで乗るのが上手いと感じます。
そして、萱野三平が伏見に出没している噂を、勝田新左衛門役の寺田農さんが嗅ぎ付け、三平の居所、伏見の街外れの納屋を突き止めます。
直ぐに、お軽を連れて大石内蔵助が、三平を山﨑へ戻そうと致しますが、三平は聞き入れず、この納屋で二人は暮らし始めます。
一方、大野定九郎の『一文字屋』の五十両の借金は、知らぬ間に加倉井林蔵が、お才から買い上げられていて、
大野定九郎は、この借金の棒引きと、さる旗本への三百石での召抱えを条件に、山科の大石屋敷へ忍び込んで『清書』を奪う手助けをし、まんまと、『清書』を奪い取ります。
そして、定九郎は直ぐにその『清書』を加倉井林蔵には渡さず、先ずは、萱野三平に五十両で『清書』を渡すと持ち掛けますが、
萱野三平に五十両何んて大金はありません。其処で定九郎、『一文字屋』に、お軽を売って三平に五十両作らせ様と企てるのです。
しかも、お軽を売るには、夫の三平ではなく、実の父、与市兵衛でなければ駄目だと、条件を付け、与市兵衛がお軽を売った五十両を道中、与市兵衛を殺して奪うのです。
流石に、「とッつぁん!連れに成ろうかぁ〜」と、呼び止めて殺しはしませんが、山﨑街道で、定九郎が与市兵衛を殺し、五十両!と、拝んで懐中に捩じ込みます。
こうして奪った五十両で、定九郎は『一文字屋』へお軽の初回、水揚げの旦那に成ろうと出向きますが、
殺したハズの与市兵衛が、瀕死の状態で帰宅。その盗賊の人相から、萱野三平は大野定九郎だなぁ!と、検討を付けて、『一文字屋』へと乗り込み、
大野定九郎の懐中の財布が、与市兵衛の為に、お軽が縫った財布と知れて、簡単に三平に定九郎は斬り殺されて仕舞います。
そして、定九郎の懐中には、財布だけでなく、大石邸から盗んだ、『清書』の巻物が出て来たので、此れを道中出会った勝田新左衛門に渡します。
この辺りから、寺田農さん演じる勝田新左衛門が、不破数右衛門の新克利さんに代わり大活躍になります。
結局、萱野三平とお軽は、雪の京都を彷徨い逃げますが、雪ん中で行き倒れて、心中してしまいます。
ドラマは、お軽・三平の銘々傳から、本傳へと戻りまして、江戸は三田松本町、前川屋忠太夫の店で決定した討入りの期日、
浅野内匠頭長矩の一周忌、三月十四日まであと一月と迫った二月中旬、気の早い近江の近松勘六は、既に身辺整理を済ませて、山科へ向かって居た。
近松勘六、寛文十年近松行生の長男として誕生。異母弟に同じ義士の奥田貞右衛門が居る。
源義高の末流を称し、先祖は近江國、佐々木六角家の典医・近松家を継いだ。
祖父は豊臣秀頼公に仕えて、後に法眼に叙せられる医師となり、阿久里殿のご実家、三次浅野家に仕えた。
その後、浅野内匠頭長直公の懇願により赤穂藩の典医として仕えたともされる。
しかし『誠忠義士伝』では、行重は赤穂浅野氏の譜代家臣であったと書かれ、赤穂の大石神社に先祖代々使用の槍が奉納されている。
この近松勘六を演じているのは、工藤堅太郎さんです。もう、このドラマの1970年代は、超売れっ子の俳優さんで、
ちょっと三枚目の役や、悪役、そしてドラマのキーに成る脇役は、この工藤さんが、時代劇だろうと現代劇だろうと演じていて、
81年に大病されてからは、役者活動は、激減しましたが、時代劇小説の作家として近年は活動されています。
一方、大坂からは、吉田忠左衛門と神崎輿五郎が山科へ、大石内蔵助からの要請を受けて駆け付け居りました。
この吉田忠左衛門役は、吉田忠左衛門の銘々傳で書いた通りで、中村伸郎さん。この撮影の時には、既に還暦を過ぎた六十三歳でした。
中村さんと言えば、田宮二郎の『白い巨塔』の東教授役です。学者、研究者の神経質な様子を上手く演じて呉れる役者でした。
忠左衛門と輿五郎を呼んだ大石内蔵助は、公儀が大學様の浅野家再興への裁定が下る前に、吉良邸討入りは出来ないと言う建前と、
本音は、隠密が策を講じて、暗躍する江戸で、何の考えなく無対策で、討入りを決行しても、吉良上野介の首は取れないから、隠密対策を十分にした上で、討入りたいと言うものだった。
そこで、まず、吉田忠左衛門には、江戸の赤穂浪士に、討入り延期を受け入れさせる説得を依頼し、神崎輿五郎には、その隠密対策の具体的な実行を命じたのである。
すると、吉田忠左衛門は、二つ返事で了承したのに、神崎輿五郎は、何故か?返事を保留して、少し時間が欲しいと言い出す。
また、吉田忠左衛門からは、京・大坂の同志を山科に集めて、江戸同志の説得の前に、上方の同志は、既に延期に同意済みである既成事実が欲しいと条件が出される。
さて、即答出来なかった神崎輿五郎。彼には、自身が赤穂藩士として、勤めたお役目、『横目役』として働いた当時、
『横目役』とは、藩内の不正を取り締まる公安警察、隠密の様な役廻りで、その横目時代に摘発し、切腹させた勘定奉行、山上大膳の妻、佐枝が、
目を患い、盲目(めくら)同然となり、生活に困っているのに同情して、面倒を見ているが、其れを同志には秘密にしていた。
特に疾しい関係では無いが、輿五郎も佐枝も互いに憎くからず思っていて、佐枝は、輿五郎が何時迄も傍に居て欲しいので、目など治らなくても宜いと冴え思って居た。
この盲目の美人後家を演じるのが、「そうなんですよ、川崎さん!」の山本耕一さんの奥様、小林千登勢さんで、この時、三十四歳ですが若く見えます。
此処でも、お蘭が暗躍し超単細胞の近松勘六と勝田新左衛門を策に陥れて、神崎輿五郎と佐枝の関係に尾鰭を付けて、
山科の大石邸で開催される、討入り延期と隠密対策の会議をブチ壊しにしようとしますが、大石三平と三村次郎左衛門の活躍があり、
神崎輿五郎と佐枝の関係が、嫌らしいものではなく、隠密の陰謀に掛かった二人は、一層、隠密対策の必要性を痛感し、神崎輿五郎に協力的に変貌するのである。
そして、二月十五日、全会一致で山科大石邸に集まった同志が、討入り延期と隠密対策を決議した事を受け、吉田忠左衛門が江戸へ出発。
更に一月後には、神崎輿五郎と近松勘六の二人も、江戸へ向けて、隠密対策に乗り出すのです。
此の時、佐枝が輿五郎を見送りに出て、佐枝の目は、かなり回復していて、輿五郎の顔が朧げにだが、見えたと言う。
因みに、佐枝の目の治療費は、近松勘六が鎧兜を、道具屋へ売り払い作った五十両からである。
『本郷も兼康までは江戸の内』で有名な、兼康祐元が登場する、W銘々傳的なお噺で、『堀部安兵衛 兼康の看板』と『神崎輿五郎の東下り』がミックスされた回です。
先ずは、神崎輿五郎。先の山科会議の結論である隠密対策を遂行する為に、近松勘六と共に江戸を目指す神崎輿五郎、
三島の宿で、馬方の丑五郎と、喧嘩っ早くプライドの高い近松勘六が揉め事となり、勘六は無礼討ちだ!と、丑五郎を斬ろうとします。
実は、此れはお蘭の陰謀で、丑五郎を斬ったら、三島の代官所から役人が出て、神崎輿五郎と近松勘六を牢屋に入れて、半年、一年は留め置くつもりの罠だった。
さて、この丑五郎役は、あの小松方正さん。講談や浪曲の丑五郎は、神崎輿五郎にゴロを巻いて、仮名で詫び証文を書かせますが、
この小松方正さんの丑五郎は、股を潜り犬に成れ!と、命令します。神崎輿五郎は、お蘭の手の内を読んで、丑五郎には逆らわず、股を潜り抜けて、
「偽侍!お役者が化けた偽侍!」との誹りを受けても、輿五郎たちは我慢を通して江戸を目指します。
さて、そんな江戸では、吉田忠左衛門が、堀部安兵衛、茅野和助、竹林唯七、礒貝十郎左衛門たち、江戸急進派の連中に、
吉良邸討入りを、大學様への公儀の処分が確定する迄、延期したいと必死で説得しますが、江戸の浪士だけでも、一周忌までにやると聞き入れて貰えません。
そんな時、茅野和助と竹林唯七が憂さ晴らしに酒を飲む居酒屋には、二十一歳の中野良子さんが演じる『おしの』が居ます。
このおしのは、寺田農さん演じる勝田新左衛門と、恋仲という設定の役どころです。
そんな吉田忠左衛門の説得など、全く聴く耳を持たない堀部安兵衛は、女房が世話になっている兼康祐元と仲良くなり、
兼康が店で売る『歯磨き粉』の看板を書いてやり、兼康は吉良家の用人、松原多仲が兼康の歯の治療のお得意様だから、吉良家の内情を聴き出してやる!と、約束します。
此の兼康祐元役を演じるのは、曾我廼家明蝶さん!この人も、水戸黄門や大岡越前に、たまに出て上方の三枚目を演じて呉れた役者さんです。
この人も、田宮二郎の『白い巨塔』で、主人公・財前の義父役で、個性を爆発させて呉れました。
この『大忠臣蔵』でも、本当に一回の出場ですが、滅茶苦茶存在感の在る役で、兼康を印象付けて呉れました。
さて、此の兼康の吉良邸潜入も、お蘭と大須賀治部右衛門にバレて、神崎輿五郎と堀部安兵衛の内紛に利用されて、
結局、その巻き添えになり、曾我廼家明蝶さん演じる兼康祐元役は、殺されて仕舞います。併し、吉田忠左衛門の機転で、
神崎輿五郎と、堀部安兵衛の決闘は回避されて、兼康の死に怒る堀部安兵衛は、大須賀治部右衛門を殺そうとしますが、
間一髪!お蘭に治部右衛門は救出されて、船を使い、本郷の兼康の庭先から逃げて行きます。
元禄十五年三月十四日、大石内蔵助たちは、赤穂の菩提寺で、そして、堀部安兵衛、神崎輿五郎たちは泉岳寺で、それぞれ浅野内匠頭長矩の一周忌の法要を行います。
この赤穂での一周忌の場面で、間喜兵衛、十次郎の親子が登場します。
喜兵衛役は、野々村潔さん。野々村さんは、仮面ライダーの第一話に緑川博士役で出ております。
また、十次郎役はあの蜷川幸雄さん。ちょっとビックリしますが、蜷川さんが非常に若いです。
つづく