大石内蔵助は、江戸表での最大の目的、江戸在住の赤穂浪士との会合を秘密裏に果たし、山科へ一旦帰る予定で居たが、
千坂兵部より、評定所に『赤穂浪士に謀反の懸念あり!』との訴えが上がり、思わぬ足止めを喰ってしまう。
この時の評定役は、大目付若狭守。是を演じるのは、加賀邦男さん。もう、『隠密剣士』の時代からお馴染みの役者さんですね。
さて、ここから銘々傳と言うかぁ、外傳の主役が高田郡兵衛になります。この高田郡兵衛は、四十七士以外では、萱野三平と並ぶくらい講釈や浪曲に成っている人です。
赤穂浪士、江戸急進派では、奥田孫太夫、堀部安兵衛、そして此の高田郡兵衛をして、急進派三羽鴉と呼ぶくらいの人物で、宝蔵院流高田派槍術開祖の高田吉次の孫と見られ、槍の達人として知られております。
『赤城士話』によれば、郡兵衛は高田吉次の嫡流家当主の従弟にあたり、三河吉田藩主・小笠原長重に五人扶持で召し出されて仕えていた時代が御座います。
その後、戸田忠昌の推挙で浅野内匠頭長矩に二百石で召抱えられています。
元禄十四年三月十四日、主君・浅野内匠頭が江戸城本丸御殿松之大廊下で吉良義央に刃傷におよび、
内匠頭は即日切腹。赤穂浅野家は断絶となった。この時、郡兵衛も堀部安兵衛らと共に、浅野江戸屋敷に居て、この報告を聴いております。
同年四月、郡兵衛は堀部安兵衛、奥田孫太夫とともに江戸から赤穂へ赴き、大石内蔵助に篭城を主張、城を枕に討ち死にを!と、迫ります。
赤穂城明渡し後は、郡兵衛は江戸に戻り、堀部らとともに江戸急進派を浅野家中に作って仇討ちを強硬に主張し、内蔵助から軽挙暴発を抑えられている。
併し、元禄十四年極月に入ると突然脱盟。これについて堀部安兵衛の日記はじめ諸書は、郡兵衛の伯父に当たる、
旗本内田元知から橋爪新八という者を通じて養子になるようとの申し出を受けたが、郡兵衛は『他に思う所有りて』といって断っていた。
しかしこれを聞いた内田は郡兵衛の兄・高田弥五兵衛の宅に行き、『他に思う所』とは仇討ちのことではないか?!
養子に来れば口を閉ざすが、来なければ村越伊代守(内田の上司の旗本)に訴え出ると、言い出し、ついに郡兵衛は討ち入り計画を口外しない条件でそれを受け入れたとされている。
このことは、江戸急進派の顔に泥を塗ることになり、同志たちは大変に怒ったと云われる。
元禄十五年極月十五日の朝、大石ら赤穂浪士が吉良屋敷に討ち入って吉良義央を討ち取り、首級を泉岳寺の浅野長矩の墓前に供えた際に、
高田郡兵衛は泉岳寺に祝い酒を持参して現れたが、浪士たちから罵声を受けて追い返されたという不名誉な逸話まである。
なお、『寛政重修諸家譜』によると、内田三郎右衛門正知の家督を継いだのは内田正備(武沢氏からの養子)となっており、郡兵衛ではない。
討ち入り後、赤穂浪士が英雄化するに及んで脱盟した郡兵衛の評価が地に堕ち、世間の悪評に耐えかねて内田の家が追放したと見られる。
高田郡兵衛のその後の消息は不明で、一説には、浪士の切腹後、自害したとも云われる。とまぁ、史実はこんな感じの人物なのだが、このドラマの外傳は、少し違う。
高田郡兵衛には、妹のそのがあり、そのゝ亭主は島彌助と言う人物と言う設定です。
そして、高田郡兵衛には田村高廣さん、妹・そのは真屋順子さん、そして島彌助役には田村亮さん、つまりこのドラマは、田村三兄弟が全員出演していて、
田村亮さんは、田村正和さんより年上の役を、やっておりますし、真屋さんはかなりの姉さん女房で御座います。
さて、吉良上野介が本所松坂町へ移り、江戸表の赤穂浪士は、吉良邸内部の様子を知りたいが、一向にその様子は知れません。
其処で、三州屋九太夫と言う商人が、外出出来ない鬱を晴らす為に、礼儀正しい、作法の心得の在る女官を募集しているという情報を高田郡兵衛が仕入れて来るが、
その採用の条件に、三州出身者に限ると言うものがあり、高田郡兵衛は三州生まれで、妹である『その』と同じ年格好の女性で、近年亡くなった者の家系図を手に入れて、
妹のそのを、三州屋を通して吉良邸に忍び込ませて、吉良の内情を探らせようと致します。さて、この三州屋久太夫を演じるのは、清水元さんです。
清水さんは、どちらかと言うと悪徳商人、越後屋タイプの役どころが多い役者さんですが、この三州屋は、悪どい商人では有りません。
さて、本所松坂町へ移った吉良家には、上杉藩の千坂兵部より、大須賀治部右衛門が派遣され、上野介警護の侍を六、七人雇い入れますが、
千坂兵部は、治部右衛門に『あまり腕の立つ浪人は雇うな!!』と、指示を出します。是は万一、赤穂浪士が討入りしても、
吉良側が長時間抵抗出来なければ、上杉家からの援軍を出さずに済み、公儀からのお咎めを受けなくて済む為の策であった。
そして、潜入したそのゝ行動に不信を覚えた大須賀治部右衛門が、三州屋に対して、そのゝ亭主、島彌助の身辺を調査して欲しいと願い出ます。
吉良御用達の出入り業者の三州屋は、二つ返事で治部右衛門の頼みを聴いて、彌助を調べるのですが、
そのが提出した身上書では、彌助は越中浪人なのに、彌助は信州と答えるし、越中に付いて質問しても、江戸が長いからとシドロモドロになり、遂には赤穂浪士とバレてしまう。
其処へ、清水一學から大須賀治部右衛門が、そのさんに疑いを持ち、三州屋九太夫がその亭主の島彌助を尋問すると知り、
高田郡兵衛は、三州屋に掛けて、義理の弟、島彌助の弁護をするのですが、馬脚を表して不手際をしでかした彌助は、
『赤穂浪士の討入りが駄目になる!』と、責任を痛感して、その場で腹を斬り死んでしまいます。
さて、目前で島彌助の自害、切腹を見せられた三州屋九太夫は、高田郡兵衛の説得を受け入れて、そのが赤穂浪士の妹だとは、大須賀治部右衛門には伝えず、
そのは、夫、彌助が自害したと知り悲しみますが、兄の強い要望を受け入れて、吉良邸での隠密活動を続けます。
そして、吉良上野介は、江戸城の廓内、呉服橋に屋敷が在った頃は、米沢の様な田舎へ行くのは厭だ!と、言っていたが、
浅野内匠頭の一周忌を迎えて、『赤穂浪士が吉良邸へ討入る!』との世間の噂が、ヒシヒシと聴こえて来ると、
本所松坂町の新しい屋敷に居ては、いつか必ず赤穂浪士に殺されると思う様になり、上杉家に米沢で匿われるのもやむなし!と、考える様になります。
そこで、早速、実の息子でもある上杉綱憲公に手紙を書き、米沢での隠居生活を懇願します。
この上杉綱憲役は天田俊明さんが演じており、天田さんは『七人の刑事』のイメージが強くて、ホームドラマの良きお父さん役の印象です。
勿論、時代劇も出ていますから、上杉公でも悪くはありませんが、私は、刑事とパパさん役の印象が強い役者さんです。
さて、綱憲公より『上野介の米沢行き』を強く要請されて、千坂兵部が困ります。大石内蔵助は、江戸城の廓内ですら討入る所存だった。
当然、吉良上野介を米沢に移しても、大石は取り止めなどせず、攻め込んで来るに違いない。
そうなると、上野介が取られる取られないに関係なく、幕府には上杉十五万石を改易にする口実を与えかねかい。
其れだけは、何んとしても避けたいと考えた千坂兵部は、お蘭から赤穂側の間者として女中のそのが潜入している事を知ります。
すると、此のそのを利用して、『上野介の米沢行きの詳細ルートと日程』をそのを通じて大石内蔵助にリークするのでした。
上野介を本所松坂町に留めて置きたい。この一点で利害が一致した千坂兵部と大石内蔵助は、そのが吉良家から持ち出した『上野介の米沢行きの工程表』を使い、
吉良上野介に、『お前の米沢行きのアジェンダは、全部お見通しだ!!』と、出発の前日に知らせて見せ、
米沢への道中、赤穂浪士が襲撃するぞ!と、脅されて、吉良上野介は早々に米沢行きを断念してしまいます。
是に対して、そのは夫は自害しても武士の妻だからと貞操を守り、上野介との関係を拒みますが、兄、郡兵衛からどうしても『上野介の米沢行きの工程表』が必要だ!!
と、迫られて、手に入らないなら死ぬとまで言われ、そのは上野介に体を許して『上野介の米沢行きの工程表』を手に入れますが、
その直後に、夫、島彌助の墓の前で自害して果てるのです。その時に、そのが自害に使った短刀は、夫の彌助が切腹した物である。
流石に、討入りの為とは言え、実の妹夫婦を死なせた高田郡兵衛は悩んでいた。そして、大石内蔵助から『利己的で冷たい人間』と言われ、大いに落ち込む郡兵衛。
さて、この高田郡兵衛には、一回り以上年下の『事実婚』とも言うべき伴侶、旗本八百石取りの内田三郎右衛門の娘、美弥が有った。
内田三郎右衛門は、堀雄二さんが演じています。堀さんも『七人の刑事』で係長を演じていたした。
まぁ、堀さんは現代劇より時代劇のイメージで、同心、家老、殿様と、割と地位のある武士を演じる印象です。
一方、美弥役は珠めぐみさん。この人は亡くなるまで老いても美しい女優さんでした。確か、ダウンタウンの浜田雅功さんの妻、菜摘さんの叔母で、菜摘さんは珠めぐみさんの付人から女優デビューしています。
そして、ドラマは例の赤穂浪士の江戸表での密会、三田松本町、前川屋忠太夫の店での会合の公儀の詮議が益々厳しくなり、
赤穂浪士のアリバイを証言した町人や職人のアリバイの矛盾を町方が探索し、其処から会合の場所の特定をしようとします。
そんな中、高田郡兵衛が堀部安兵衛、茅野和助と勝田新左衛門の四人で居酒屋に居た際の証人として、町方が手を出せない事を見越して、内田三郎右衛門の名前を出してしまいます。
この証言がアダとなり、高田郡兵衛は柳沢吉保の派閥に内田三郎右衛門の養子となり加わらないと、赤穂浪士の密会が公儀に知れると言う板挟みに悩む事になります。
そして、遂に『清書』血判者からの第一号の脱落者が高田郡兵衛となり、郡兵衛は、赤穂浪士、旗本諸侯、江戸の庶民から『裏切り者』と、罵られながら内田家への婿入りを選択するのです。
つづく