ここから、ドラマは本傳と銘々傳が並行して展開し物語が進んで行きます。本傳の方は、大石内蔵助の山科閑居に向けての準備で、

この城明渡し直後は、まだ、内蔵助は一家で赤穂領内の尾崎村に仮住まいして居た。そして、本傳で起きる大きなトピックは、

瑤泉院の用人、落合与左衛門が、江戸表から赤穂へ出向き、所謂、『瑤泉院の化粧料』と呼ばれる嫁入りの持参金を回収に来る噺となる。

結局、此の持参金は、大石内蔵助が、返した直後に再度借受したいと、落合与左衛門に申し出て、『之は仇討ちの軍資金だなぁ?!』と、

落合与左衛門は阿吽の呼吸で、読み取りまして、この六百五十両が、此の後、赤穂浪士の一番の軍資金と成ります。

そして、この落合与左衛門役は、清水将夫さんです。ちょっとした役ですが、貫禄は三船敏郎さんに負けません。

映画のスターだったし、宇野重吉と劇団民藝を立ち上げた人で、亡くなるまで劇団の看板役者でした。流石、オールスター作品だと感じる配役です。


一方、銘々傳の最初は『杉野十平次』の噺と、此の『瑤泉院の化粧料』を絡めた噺からスタートします。

杉野十平次役は、宗方勝巳さんが演じています。宗方さんは時代劇だと必殺シリーズの同心役や水戸黄門の殿様役、現代劇だと刑事役のイメージが強いです。奥様は女優の長内美那子さんです。

杉野十平次は赤穂藩浅野家家臣・杉野平左衛門の四男として赤穂に生まれます。

母は浅野家臣の萩原新左衛門の娘で、母方の萩原家は家中随一の資産家の家系で知られ、萩原家伝来の大砲二門を収城軍の脇坂家に売り払い、

これが家中から批判されて、萩原一家は赤穂から逃亡し、杉野も親族として肩身が狭かったとみえ、このあと萩原家と絶縁しています。

この大砲の話が、このドラマにも登場しますが、史実とはやや異なりまして、二門の大砲を、杉野十平次のその仲間たちが、

脇坂家に売ろうと運んでいる途中、大砲を奪い取って、是を赤穂城に向けて撃とうと致します。併し、寸前に大石内蔵助と大石三平が是を止めに入るのですが、

杉野十平次たちを唆すのが、お蘭と卯助で、お蘭は大石三平を斬り怪我を負わせ、逆にお蘭は大石内蔵助から斬られ手傷を負います。

そして、お蘭は、大石内蔵助の尾崎村の仮住まいの屋敷に運ばれて、手厚い看護を受け、女が芽生え始め、大石内蔵助に女性として、好意を持つ様になり、

其れを大石の内儀、陸は気付きますが、全く顔色一つ変えずに、お蘭を看病してやります。軈て、お蘭は回復し、これ以上此の家に居ると、

内蔵助の事を本当に愛してしまうと感じ、何も言わず、逃げる様に、そこから立ち去ります。




大砲二門の事件の後、大石内蔵助は神崎輿五郎に命じて、『瑤泉院の化粧料』の中から六十両の金子が、庄屋彦左衛門に貸したまま、回収されていないので、その回収を輿五郎へ命じるが、

彦左衛門の方の帳面には、高利奉行の藩の印形が押されていて、支払い済みと成っていた。併し、是は藩お取り潰しのどさくさに、

赤穂藩勘定方与力、三浜五郎兵衛と庄屋彦左衛門が結託しての悪事と露見する。

ここで、神崎輿五郎は、部下の杉野十平次にこの貸付金の回収を手伝わせていたが、彦左衛門の娘・お豊が許嫁(いいなずけ)の十平次は、義父の犯罪とお豊との婚礼の板挟みで悩む事になる。。。

結局、杉野十平次は、お豊を捨てて、仇討ち討入りに必要な六十両の回収の為に、彦左衛門の悪事を暴きますが、

又、露口茂の兎助が彦左衛門側に付いて、鬼丸と言う上杉からの刺客を使い大石内蔵助を殺そうと致します、併し内蔵助に返り討ちとなります。

ただ、この騒動で大石内蔵助は手を負傷し、山科への閑居が遅れて、松之丞、陸、そして幼い妹と弟が先に大坂まで出て、内蔵助との合流を待つ事になります。

さて、この杉野十平次の銘々傳も、なかなか豪華でして、まず、杉野十平次の許嫁、お豊役は磯野洋子さんが演じています。

『和服が似合う女優』と言う、昭和の女優ランキングで常に上位だった磯野さん。時代劇では、お姫様から町娘まで、清楚な役が多い女優さんでした。

また、そのお豊の父で、彦左衛門役には、内田朝雄さん。この人は時代劇では、悪徳商人ばかり演じているイメージで、この役はピッタリです。



さて、本傳側はと観てやれば、赤穂を見張って居た隠密のお蘭と大須賀治部右衛門は、江戸に引き返し、代わりに柳沢吉保は、柳生の黒鍬組からの刺客を、大石内蔵助へと差し向ける。

柳生の黒鍬衆の首領は、高松英郎さん演じる加倉井林蔵と言う役で、実に高松さんにピッタリの役どころです、黒鍬衆と言えば、『子連れ狼』などでも有名な隠密軍団で、


そして、放たれた隠密の刺客は、山形勲さん演じる滝立仙という浪人で、その滝の妻役、梅!を津島恵子さんが演じます。

津島さんは、私が時代劇を観るように成ってからは、良妻賢母のイメージの女優の代表でした。山形さんとの夫婦役も間の取り方が絶妙で、素晴らしい。



さて、物語の上では、山科へ大石内蔵助が閑居すると知った加倉井林蔵は、柳沢吉保の命令で、刺客として滝立仙を山科へ潜伏させます。

滝立仙は、黒鍬衆でも抜群の剣術の使い手で、既に、三つの藩の取り潰しを成功させている強者です。

妻の梅、息子の一太郎と三人で山科に住み、釣りを通じて、大石内蔵助と自然と知り合いになった風に、巧みに取り入り、家族ぐるみで親しくなります。

ここで、松之丞役の長澄修さんが滝立仙の倅、一太郎と大変仲良くなり、松之丞は一太郎を実の弟の様に可愛がります。


長澄さんは、十代・二十代前半は時代劇に子役、青年役で能く見た役者さんでしたが、其れ以後、三十過ぎるとパッタリ見なくなりました。

また、妻の梅も、大石内蔵助の妻・陸と親しくなり、京都に住む小野寺十内の妻・丹にも紹介されて、

藩が取り潰しになり、夫は仇討ちをしようとして、公儀の謀反人になるかも知れないのに、和歌などを詠み平和に楽しく暮らす姿に驚きます。

そして、そんな息子や妻の暮らしぶりを見た、滝立仙は、大石内蔵助暗殺を取り止めて、柳生の刺客から足を洗う決意をし、山科から逐電し、姿を消して仕舞ます。


柳生黒鍬衆からの刺客、滝立仙の家族は山科を逐電し、命拾いをした大石内蔵助の元に、赤穂の菩提寺の住職、祐海が訪ねて来る。

祐海和尚は、仇討ちなど考える前に、御舎弟大學様を立てて、公儀に浅野家再興を願い出る事を薦めに来たのでした。

さて、この祐海役は、島田正吾さん。新国劇のスターで御座います。実に重厚な演技が光ります。


実に怪僧と言うイメージにピッタリで、『子連れ狼』でも、確か怪しい僧侶の役を島田さんは演じています。

祐海は、江戸へ向かう途中で、桂昌院縁の知足院の僧正からの口添えで、この再興を願い出るからと、その結論が出るまで仇討ち/討入りを待つ様に内蔵助を説得します。

併し、大石内蔵助は簡単に是を聴き入れず、再興の場合でも、吉良への処分は不可欠だ!と、吉良上野介の切腹を強く要求致します。

祐海も、頑なゝ大石内蔵助の意思を汲んで、浅野大學の浅野家再興と、吉良上野介の切腹を合わせて、桂昌院から老中へ訴え出る事になります。


さて、是を受けて大石内蔵助は、直ぐに飛脚を立てて、江戸表に在住の主な赤穂浪士に、『大學様による浅野家再興の評決が出るまで、仇討ちはならぬ!!』と、お触れを出しますが、

勿論、江戸表の急進派をはじめとする殆どの赤穂浪士から反発を喰らいます。と、そんな中から、銘々傳的な事件が、赤埴源蔵と前原伊助の元に起こります。

この前原伊助役は、まだ三十二歳の若林豪さんです。そして、源蔵は勿論、フランキー堺さん



フランキー堺さんの赤埴源蔵は、正岡達之進と言う浪人隣長屋に住んで、小間物屋の内職仕事を此の正岡から頂戴している。

実は、正岡の娘、加代が吉良邸へ女中奉公に、通いで出ているので、源蔵は正岡に近付いて親しくなり、吉良の情報を得ていた。

この正岡逹之進役は、時代劇でお馴染みの信欽三さん娘の加代は、徳永礼子さんです。徳永さんは、竜雷太、高畑賢吉が教師役だった青春ドラマの生徒役で活躍しました。


私としては、徳永礼子さんと言えば、『細うで繁盛記』の主人公加代の姪の役です。和服美人のイメージで、実に武家の娘らしいと思います。


さて、そんな中、大石内蔵助から『大學様の浅野家再興』の知らせが届き、若林豪の前原伊助は怒り心頭で、江戸滞在中の祐海和尚を訪ねて、

何んて余計な真似をする!幕府への再興願いを取り下げろ!と、刀で迫りますが、祐海に簡単に刀を取り上げられて、喝!を入れられます。

一方、吉良上野介の方は、再吟味だ!仕置きだ!切腹だ!と言う噂を耳にするので、隠居の願いを公儀に提出し、是で再度裁きを受ける憂いは無くなりましたが、

喩え、江戸城の廓内に屋敷は在るとは言え、いつ何時、赤穂浪士が討入るか?と、ビクビクしている毎日です。

そして、現に、片岡源五右衛門、堀部安兵衛、磯貝十郎左衛門らが、屋敷周辺を探索していると、上杉家からは外出を控えよ!と、きつく言われております。

そんな中、大石内蔵助暗殺をしくじった上杉の刺客、鬼丸が吉良邸に現れて、吉良邸を町方奉行所の役人に警護させる妙案があると、

吉良家へ出入りする町人、奉公人に対して『髷斬り魔』の事件を引き起こし、女性ばかりを狙って「赤穂の浪人だ、天誅!」と叫び髷を切って廻ります。

そんな被害者に、正岡達之進の娘、加代も居て、良からぬ噂に嘆く姿を見て、父の達之進、赤埴源蔵、前原伊助の三人は、『髷斬り魔』退治に乗り出します。

そして、見事に若林豪さん演じる前原伊助が、槍を使って鬼丸を突き殺して、『髷斬り魔』は赤穂浪士ではない事を証明するのです。



つづく